魔王シロリア王国ナウ
それはエマリカ王国の隣国、シロリア王国のとある科学者の寝室。
月の無い深夜。
スッ
音もなくその科学者の寝室に忍び込んだ魔王は、ベットでイビキをかいているダニール・ダーシュコワの側に立った。
そしてしゃがみこみ、ダニールの耳元に顔を寄せ、こしょこしょと何かを囁く。
囁き終わるとその場から離れ、部屋を出て針金を鍵穴に挿し、入る前と同じ様に鍵をかけた。
ダニールという科学者はシロリア王国の王専属科学者の一人である。
だが、最近はこれといった発見が無く、王専属科学者の地位が脅かされていた。
シロリアでの王専属科学者は高収入の給料と税金免状権、奴隷所有権、多妻多夫権等あらゆる特権を持つことができる。
また、王専属科学者専用の一戸建ての家が無料で与えられる。
しかしその一方で国の中枢を知ることとなる為、王専属科学者の権利を剥奪されることはイコール死刑と同じ意味を持つ。
王専属科学者の人数は国で定められており、しかもダニールは年長者。今年で63歳。
国としては年寄りで大した成果を出さなくなってきたダニールよりも、若くて成果を出している者に王専属科学者の地位をあげたいと思っている。
その事に一番危機感を抱いているのは他ならない、ダニール自身だった。
魔王としてはこれからの作戦にとって、ダニールはもっとも適した人材だ。
囁き終わり、ダニールの部屋から出た魔王はこっそりと自室へと戻った。
ダニールには研究員の助手がいる。
魔王は今その1人として働いていた。
かつては何十人も研究員の助手を抱えていたダニールではあったが、王専属科学者の地位が揺らぎつつある今では魔王も入れて3人しかいない。
その為、魔王は今トーマスという戸籍で簡単に雇われている。
「はぁ、これ毎晩やらなくちゃならないのよねぇ。」
ゆっくりと自分のベットに座る。
王専属科学者専用の一軒家の屋根裏部屋。今の魔王はそこに住んでいる。
因みに家には専用の研究室も併設されている。
魔王がわざわざ鼾をかき始めるタイミングを見計らい部屋に忍び込む、という面倒くさい事をするのにも訳がある。
鼾が出る時とは浅い眠りの時。ここで囁けば自ずと言ったことを脳が覚えるだろう。
「はぁ、夜寝ないとお肌が荒れるのよねぇ。これで早めに閃いてくれたらいいんだけど。」
計画の進行と自分のお肌が気になる魔王であった。




