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ミーテ視点 思い込みの解決

ミーテ視点


4月。

入学式を終え、始めての登校日。

入学式といえば現世での私の国では満開の桜が見れたが、ここでは本物の桜に一度もお目に掛かったことがない。

そういえば、私のこの世界での母の名前は桜というが、桜が咲いている場所があるのだろうか。あるなら見てみたいな。

そんな事を考えつつも黒板の文字を写していると、

「ギャィン!」

というトマトの悲痛な鳴き声が手提げの中から聞こえた。

ぎょっして蓋を開けると痛そうにしているトマトが見え、一匹の蜜蜂が出ていった。

慌てて保健室に運び、私は静かに授業に戻った。

周りの視線がチラチラと私に向けられている。

嫌な予感がした。

目立つ行動は控えるつもりだったが、こうなっては仕方がない。

そもそも魔動物のトマトを学園に連れてくるべきではなかったのかもしれないが、私はどうしてもトマトと離れたくはなかった。


【過去に囚われた Heavenly Maiden】のゲームでのバットエンドもハッピーエンドも回避する為に、私はあの仮面舞踏会の日から考え続けた。

この世界で私の知らないジョナサンとのエンドにたどり着くにはどうしたら良いのか。

そして、導き出した答え。それはトマトとなるべく一緒に行動することだ。

まだ私の考えは仮説に過ぎないが、一人で進むよりも明らかにゲームとは違う展開を出現させるきっかけとなっている。

仮面舞踏会に王子が現れた原因はトマトを見に来たからだ。それに、さっきの保健室でのミハエル先生とのフラグを平和的に回避出来たのもトマトのお陰だ。

そもそもゲームには魔法が薬指から出るという設定はあっても、魔動物という概念は登場しない。

トマトはもしかして、この世界での道標なのかもしれない。仮説だけど。

カーン、カーン。

2時間目の授業が終わり、この学園の食堂に行こうと思ってミネルバに声をかけた。

あの騒動を起こした後に話しかけるのはミネルバにとって迷惑じゃないか、と思っていたがミネルバは快くオーケーしてくれた。

二人で食堂に行こうとしたら、

「ねぇ。」

と呼び止められた。

振り替えると、赤毛の快活そうな女子生徒が立っている。

「私も貴女達と一緒にお昼を食べても良い?」

驚いた。まさか不快に思うどころか話しかけてくる人がいるなんて。

「ええ、もちろんよ。一緒に食べましょう。私はミーテ・ヘッセン。」

隣のミネルバも微笑んだ。

「私はミネルバ・ブルタレス。貴女の名前は?」

「私はイスカ・リオテューダー。イスカって呼んで。」


食堂に向かう前に私達は保健室に寄った。

「ミハエル先生、いらっしゃいますか?」

保健室を恐る恐る覗くと。

スー、スー、と寝息が聞こえてきた。

入ってみると、ソファの上にトマトがスヤスヤと眠っている。

ミネルバが小声で言った。

「眠っているのね。かわいい。」

イスカはトマトを眺め、同じく小声でつぶやいた。

「この子がトマトって言うのね。普通のトイプードルに見えるけど。」

私も小声で話す。

「実はね、この子の右目は緑色なのよ。左は黒目なのだけれど。」

「そうなんだ。やっぱり魔動物は他の動物とは少し違うのね。」

私はなるべく音を立てないように鞄から犬用の容器と魔動物用ビスケットを取り出し、ソファの足下に置いた。

「お腹が空いたら食べてね。」

そして、そっと保健室から出た。


食堂に着くと、私は嫌でも周りから視線を感じることとなった。

チラッ、チラッ。

ウェイターに案内されたテーブルに3人で座る。

「ね、ねぇ。ミネルバ。私、もしかして不味いことをしでかしてしまったのかしら?」

ミネルバはキョトンとした顔をした。

「何の事かしら?」

「え、だって、私の分際で魔動物を学園に持ち込んじゃったし。皆の目に入れちゃったし。」

「全然問題ないよ。ミーテ。」

イスカはあっけらかんと言った。

「むしろ周りからは好印象よ。」

「へ?」

「魔動物を見せびらかすのは品が無いって言われるけど、鞄に入れて隠してたっていうのはむしろ謙虚って言われると思うよ。それに魔動物をとても大切にしているっていうのは普通に良いことだと思う。」

「そ、そうなんだ。じゃあ何で周りから視線が。」

「ああ、それはね。多分皆ミーテと仲良くなりたいと思っているからだと思うよ。ただ、きっかけがないと話しかけづらいんじゃないかな?」

その時、座っていた私の後ろから声が掛けられた。

「ごきげんよう、ミーテさん。」

振り向くと、くるんくるんのカールが目に飛び込んできた。

!?

それはエドワード王子の婚約者のベレニケ・フェレニケ・アレキア・サンドラ公爵令嬢であった。後ろにはその取り巻きが3人程並んでいる。

私は慌てて椅子から立ち上がり礼の姿勢をとった。

「は、始めまして。ベレニケ公爵令嬢様。私はミーテ・ヘッセンと申します。」

「存じていますわ。ふふ、エドワード様から貴女の事を色々と聞いていますのよ。そう堅くならないで下さいな。どうぞ、ベレニケと呼んで。」

「わ、分かりました。ベレニケ様。」

さすがにこの身分の差で呼び捨てはヤバイ。だから様だけは外さない事にした。

ベレニケ公爵令嬢は優雅に微笑んだ。

「先程は魔動物を助けるために窓から飛び降りて保健室に向かった様ですけど、危ないからお止めになった方がよろしくってよ。でも魔動物を大切になさるのは良いことだわ。私の魔動物は少しばかり大きいから中庭に置いていますのよ。ここにつれてこられないのは残念だわ。折角私の魔動物にお友達が増えると思いましたのに。そうだわ。この昼食が終わったら後で貴女の魔動物も連れて、中庭の東のベンチにいらっしゃい。私の魔動物も見せてさしあげましょう。」

「身に余る光栄でございます。是非とも行かせていただきます。」

私は深々と礼をした。

その時。

バターーンッ!

何かが倒れる音が聞こえた。

音の方を見ると、なんと、ミハエル先生が床にうつ伏せに倒れている。

苦しそうに胸を押さえていた。

ミハエル先生の側には3人の女性の先生が泣きながら何事かを呟いている。

そして、ミハエル先生を3人で担ぎ上げると食堂を出ていった。

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