犯人はお前で、フラグはそこで
今、俺はミーテに持ち上げられてオルゴールに鼻を近づけさせられている。
古い木の臭いが鼻孔いっぱいに広がっている。
この臭いの中から、犯人を見つけなくてはならない。
神経を集中させていく。
この臭いは違う。これも多分違う。
この感覚、山でのトリュフ狩りを思い出すな。
あ、これかな? この臭い。
これは、さっき、どっかで、、、あ!
俺は手足をジタバタさせた。
ミーテは素早く俺を下ろす。
俺はトコトコとギャラリー部屋を出た。後ろの4人も俺の後に続く。
臭いを辿ると先程のサロンに出た。そのまま片付けが終わりそうな楽団に駆け寄る。
そして俺は、ダブル10円ハゲの男の足元に来ると
「わおーん。」(コイツコイツ)
トリュフ狩りの時の様に、見付けたという合図を送った。
「捕まえろ! 」
ジオルドが素早く命じ、サロンで待機していた衛兵達が一斉に男に飛び掛かった。
「な、何なんですか!? 私が何をしたって言うのですか! 」
ダブル10円ハゲの男は真っ青になって叫んだ。
「服を調べろ。」
ジオルドの命により衛兵達が身体検査を行う。しかし、服からも男の鞄からも宝石が出てこない。
ジオルドがミーテに耳打ちした。聴覚も良い俺は当然聞こえる。
「ミーテ、トマトの嗅覚は本当に鋭いよね? 」
お、俺の鼻を疑うのか?
「はい。トマトの鼻は本物です。間違える事は無いと思います。」
ミーテ、信じてくれてありがとう!
二人の様子を伺っていたダブル10円ハゲは俺を見て、今度は赤い顔となって怒りだした。
「まさか、その犬が私の所に来たから、私が犯人だと? 私よりもそんな犬っころを信じるのですか! 魔動物だからって優遇され過ぎでしょう!? 」
そんな犬っころとはなんだ、失礼な。まあ、確かに犬っころではあるが、、、。
スッとエドワード王子がダブル10円ハゲの横を通りすぎ、まだ片付けていないコントラバスに手を置いた。
コンコンッと叩く。
「ちょっと! 何するんですか!? 傷が付いたら音が狂うでしょう。」
慌てふためく男の反応をチラリと見ると、左手の薬指をコントラバスに向けた。
「皆さん、少し下がってください。」
エドワード王子の命で、皆コントラバスから離れた。
王子は素早く呪文を唱える。
「リキゼカ!」
次の瞬間、スパッとコントラバスが縦に真っ二つに切れた。
ビーーン!
切れた弦が空を切る。
真っ二つにぱっくり割けたコントラバスの中からカランコロンと音がして、宝石が出てきた。
おおー、出てきちゃったよ!? マジか!?
でもさ、、、弦を切って、手を穴から突っ込んだら、取れたんじゃないだろうか?
わざわざ、真っ二つに切らなくても良くない?
「トマト君は本当に優秀ですね。あなた何ぞよりも、余程信用が置ける。」
出てきた宝石をジオルドが拾い、鋭い目付きとなった。
「連れていけ! 」
男は脱力し、衛兵に引き摺られて行った。
「此度は真に有り難う御座います。」
「私は何もしていません。ミーテ嬢の魔動物がとても優秀だっただけです。そういえば、貴女も今年からエマリカ学園に入られるのですよね。その時は私の魔動物も紹介しましょう。」
お! それは楽しみだな。俺以外の魔動物か。どんなだろう?
「見に余る光栄で御座います。」
ミーテはお辞儀した。
「貴女の仮面の下も、その時までの楽しみとさせて頂きましょう。」
ミーテはこうべをたれた。
この時のミーテの表情は下から見上げていた俺にしか分からなかっただろう。
鬼気迫る顔だった。