王子仮面舞踏会に襲来
まるで1つの芸術品の様に浮世離れした美貌を持つ青年が、仮面舞踏会の会場に姿を現した。
微かにピンクがかったブロンドヘアーは緩くウェーブがかっており、白いマスクから覗く瞳はまるで快晴の空を思わせるほどに青い。
遠目からでも、マスクで顔の上半分を覆っていても美しい顔立ちだと分かる。
すらりとした立ち姿や、歩き方1つとっても品が溢れている。
その青年の周りだけがまるで黄金のオーラに満ち溢れているかの様だ。
誰だろう?
何処かで見たことあるような。
気のせいかな?
執事のルークが此方に走ってきた。
「旦那様、実は。」
ルークはジオルドの耳元で囁いた。
犬は聴覚も良い。お陰で囁きはよく聞こえる。
「明らかにハーフォード侯爵では無い方がハーフォード侯爵の招待状を持って来られたのですが、いかがいたしましょう? 会場にはお通ししてしまったのですが。」
あの青年だよな。
通しちゃったのか。
ジオルドは青年を見た。
そして、目を丸くする。
「なぜ、あの方がこんな所に!? いや、まさかそんな馬鹿な。」
手を頭にやり思案し始める。
「ルーク、取り合えずあの方に失礼の無いように。現状維持だ。」
「かしこまりました。」
「あと、そうだな。ギャラリーの鍵を用意しておいてくれ。」
「かしこまりました。」
ルークは一礼し去っていった。
青年は会場を見渡し、此方に真っ直ぐに向かってくる。
周りの貴族達も青年を見つけるとざわめきだした。
ひそひそ話が聞こえてくる。
「ああ、何て麗しい方なのでしょう。」
「素敵ですわ。」
「あの方は、もしかして?」
「そんな馬鹿な。」
「いやいや、あり得なくもないぞ。魔動物がいるからな。ご覧になりに来られたとしても不思議では無いだろう。」
「でも、わざわざお越しにならなくても、呼びつければ良いのではなくて? 」
「ヘッセン伯爵はまだ宮殿への出入りが許されていないから手続きだけでも1年程かかるからだろう。早くご覧になりたかったのかもしれん。」
「でも、本当に王子かしら? 」
「間違いない。私は1度だけお会いしたことがある。あの気品溢れる姿はまさしくエドワード王子以外に考えられない。」
ふーん、エドワード王子か。
エドワード王子。
ええええええええええ!
嘘おおおおおおお!
エドワード王子って攻略対象の一人じゃないか!
こっちくるけど!?
スタスタと此方に歩いてくる。
俺とジオルドの前で止まった。
「ジオルド伯爵、本日はお招きありがとう。私は今日はハーフォード侯爵ということで。」
エドワード王子の声は耳に心地よいテノール声だ。
ジオルドの額から冷や汗が出ている。
「左様でございますか。かしこまりました。本日はどうぞ楽しんでいってください。」
「ところで、ジオルド伯爵、この犬が魔動物ですか。」
「左様でございます。」
エドワード王子は俺の前に顔を近付けた。
眩しい! イケメンのオーラが眩しい!
何と見事な顔立ちだろう。左右に均等な顔は、まるで神に作られた精巧な人形の様だ。同性でも惚れ惚れするだろう。
何よりもこの吸い込まれそうなスカイブルーの瞳が美しい。
見ていられない。
俺は目をパチパチと瞬いた。
「目がオッドアイなのですか。可愛い魔動物ですね。触っても? 」
「勿論どうぞ。」
ナデコナデコナデコと、撫でられながらミーテの方を向くと、此方を見て目を丸くして固まっていた。