カルーナ風仮面舞踏会
仮面舞踏会当日
サロンの奥の舞台には楽団が呼ばれ、楽器の調節を始めている。
シャンデリアには蝋燭が灯され、明々と輝いていた。
まるで真昼の様に明るい。
ピンクや紫、白等の小さな花を枝一杯に咲かせたカルーナと呼ばれる花がそこかしこに飾られている。
大きな窓からは、空が茜色を失っていくのが見える。
俺は何故か舞台の近くに置かれた台座の上に座らされている。
ジオルドには吠えず動くな、と言われた。
暇なので楽団の方を向いて、コントラバスの弦の調節をしている男の頭髪を眺めていた。10円ハゲが見える。なかなかお目にかかることができないほどの見事な10円ハゲだ。それも2つ。
そんなどうでもいいことをしていると、仮面舞踏会の始まりの時間となった。
会場に次から次へとドレスやタキシードを着た方々が入ってくる。
仮面舞踏会な為か、招待客の読み上げが無い。
皆一様に顔の上半分だけを覆うマスクを着けている。
マスクが結構ゴージャスだ。
女性のマスクは緑や赤、黄色に青などカラフルなものだ。ラメの様にキラキラしたマスクもある。
遠くから見ていると、色とりどりの蝶が飛んでいるように見える。
男性のマスクは白だけだ。
ジオルドが出て来て、開始の挨拶を手短に済ましす。オーケストラの演奏が緩やかに始まった。
ミーテは今、同い年位の青年にダンスを申し込まれて躍りに行った。
俺は台座に座ったままだ。不幸なことに舞台の近くな為、オーケストラの演奏が一番聴こえて、とんでもなく煩い!
生演奏ってこんなに大きい音だったのか。
前足で耳を覆ってはいるが、音は強弱をつけながら入っていく。
動いていいかな?
でもジオルドに動くなと言われたしなぁ。
あ、そういえばエリザベスは何処に?
周りを見渡すと、2階席にエリザベスを見つけた。オペラグラスで此方を眺めている。
その時、燕尾服を着た招待客の一人が2階に座っているエリザベスの方を見上げた。そのままじっと見つめている。
音楽が一段落した。5分位かな。
両耳を防いでいた前足を下ろす。
あー、疲れた。主に耳が。
ミーテが此方にやって来た。
ミーテ! お帰り~。
「はぁ、はぁ。」
ミーテの息が荒い。ダンスって結構体力使うのかな?
ジオルドがミーテの方に歩いてきて囁いた。
「ミーテ、次はあの方と踊ってきなさい。」
あの方って、ああ。
さっきからエリザベスを見ているあの男か。
「ローランス伯爵ですね。わかりました。」
仮面着けてるけどよく分かったな。
休憩無しだけど大丈夫か?
ミーテはその男性の近くに行き、目線を送る。
男性はそれに気づいた。
成る程、男性からは普通にダンスを申し込めるが、女性からの場合は視線で気付かせるのか。
それにしても、ジオルド。ミーテをエリザベスの盾に使うのはどうかと思うぞ?
その後もミーテはジオルドに言われた人と次から次へと踊っていく。
因みにジオルドに言われた人は、エリザベスの方を1度でも見た人々だ。
6曲目のダンスが終ったところで、ミーテはようやくジオルドから休憩のお許しを貰った。
ふらふらと会場の端に置かれているソファに座る。ぜーぜーと肩で息をしていた。
横から緑の仮面をした栗毛色の髪の少女がやって来た。多分ミネルバだろう。
ミーテはその子を向くと笑いかけた。
給仕のメリッサがグラスを乗せたお盆を持っていく。
二人はグラスを受け取り、座って楽しそうにお喋りを始めた。
俺もそっちへ行きたいなー。オーケストラよりも一番離れたその席に。
隣にいるジオルドの方をじとーっと見上げる。
ジオルドは会場に目を光らせていた。
俺の視線には全く気づかない。
俺は今度はミーテの方を向く。お喋りに夢中だ。
俺の視線に気付くどころでは無さそうだ。
誰か、俺をこの台座から、この騒音の中から救い出してくれよ~。
願い虚しく、オーケストラ生演奏のワルツは7曲目に突入した。
ガチャリッ
会場の玄関向きの扉が開けられた。
どうやら遅れてやって来た招待客の様だ。
白い仮面を被った美しい青年が入ってきた。