お茶会を越えたらすぐさま来襲カルーナ風
家に帰ったミーテは夕食時、新しい友達ができたことをジオルドとエリザベスに報告した。
「今日のお茶会は本当に良い経験となりました。とても素敵なお友達ができたのです。」
「ああ、ブルタレス伯爵家のミネルバ嬢のことかな? 」
「はい! それで、お父様。ミネルバ様にお手紙を書いても宜しいでしょうか? 」
「勿論、構わないさ。後でルークにレターセットを届けさせよう。」
「有難う御座います。」
「そうそう。次はパーティーに出てもらおうと思っているのだけれど、一週間後に。」
「い、一週間後!? 」
驚いたのはエリザベスだ。
「いくらなんでも、早いのではなくて? 今日やっと1人お友達ができたばかりでしょう? 幾つかお茶会に参加させて、知り合いを増やしてからの方が。」
「大丈夫、大丈夫。パーティーと言っても開くのはここだし、カルーナ風仮面舞踏会だから。」
パーティーって仮面舞踏会!?
この屋敷で!? 初耳だぞ! てか、カルーナ風ってなんだ?
ミーテは小首をかしげた。
「お父様。カルーナ風とは? 」
「この国での仮面舞踏会は3種類あってね。カルーナ風は上品な方さ。真ん中がランタナ風、そして一番下品な方がチューベローズ風。まあ、チューベローズ風は私達には一生縁の無いものだがね。」
「あなた。何故、仮面舞踏会でなければならないのかしら? せめて普通のパーティーでも良いのではなくて? 」
「仮面舞踏会だからこそ、ある程度の失敗は見逃してもらえる。それに、場所がここだからいざという時は私がフォローにまわることができる。大丈夫。」
本当に?
「一応、招待状は私の知り合い位にしか出していないから。」
招待状出しちゃったから断るな、みたいに聞こえるのは俺だけか?
ミーテがおずおずとジオルドを見た。
「あの、仮面を被っていらっしゃる方々をどうやって見分ければよいのでしょうか? 」
ミーテの中では最早断るという選択肢は消えている。
「招待客と特徴を書いた紙をルークに作成してもらったから、これを一週間で覚えれば大丈夫さ。後でレターセットと一緒に届けさせるから、頑張ってね。」
頑張ってね、じゃねぇよ!?
「あ、ミネルバ嬢も呼んであるから。」
なんか、どんどん外堀から埋められていく気がする。
「有難う御座います。頑張ります。」
エリザベスが心配そうに此方を見ている。
「本当に大丈夫? ミーテさん。」
「大丈夫です。頑張ります。」
ミーテは笑顔で答えた。
ひきつってるがな。
「いざという時は私が助けに参りますわ。」
エリザベスはミーテを見て力強く言った。
「エリザベス、それはいけないな。君は仮面舞踏会には出てはいけない。」
「な、何故ですの? 妻である私が出席しないなんてあり得ませんわ。」
「いや、その。仮面舞踏会には出席してもらうけど、できれば2階の観覧席でじっとしといて欲しい。」
「何故? 」
「それは、その。なんとなく。」
「なんとなくとは何ですの? 」
「君が、美しいから。」
「なっ、、、。」
ん? どういう事?
それからというものミーテは寝る間も惜しんで、貰ったリストを暗唱するまで覚え込んでいった。
ついでにミネルバへの手紙も出していた。
ミーテ、がんばれー。
俺は応援を心の中でするしかなかった。
仮面舞踏会前夜
遂に明日に迫った仮面舞踏会。
勿論俺も出る。
明日は本番なので、ジオルドがミーテのお稽古事を全てお休みにしてくれた。
寝る前にミーテはベッドの鍵付きサイドテーブルを開けた。
中からそっと、あるものを取り出す。
それは、ジョナサンから貰った腕時計だった。
「待っててね、ジョナサン。絶対に帰ってくるから。」
ミーテは小さな声でそう呟いた。