生まれて愛を知って、、、②
「旦那様!」
あぁ、やっぱり。旦那様と呼ぶってことは、この男は執事なんだ。
執事の後方に旦那様と呼ばれた男が立っている。
三十路の緑がかった金髪の男だ。
薬指を突き出している。その指先から煙がたっていた。まるで撃った後の銃口のように。
緑地に金の獅子の刺繍が入った燕尾服を着こなし、整った顔立ちをしており、こちらを、、、翡翠色の瞳でゴミを見るような目で見ていた。
「トーマス、私の留守中に庭で野犬をのさばらせていたとは。そんなに犬好きだったかな?」
「い、いいえ!決してそういう訳では!申し訳ございません!わ、私の監督が行き渡らず。」
その時メイドの一人が
「違います!坊っちゃんが餌を。」
「チェルシー‼」
慌ててトーマスが遮った。
「ま、大方ルイスが囲ってたのだろうとは思っていた。夜中にこっそり庭に出ていたのも知っている。ただ可愛いからと餌をやり、この庭掃除用具入れを巣としてあげていたのだろう。あの子は後々の事をやはり考えていなかったな。トーマス!」
「はい、旦那様。」
「ルイスをここに連れてこい。ついでに大きめの木箱を持ってきてくれ。」
「か、かしこまりました。」
トーマスは走って屋敷の中に駆け込み、ルイスとおぼしき少年を連れてきた。
父親と同じ緑がかった金髪に翡翠色の瞳、違うのはルイスは巻き毛であること。
ルイスはひどく怯えた表情をしていた。
「ルイス、私の言いたいことが解るかな?」
「は、、、はい、お父様、あの、勝手に犬を飼ってごめんなさい!」
「なら、これらを捨ててきなさい。」
そう言って焼き殺した母犬と子犬の俺達を指差した。
「あ、あの、、、子犬達はまだ立ち上がれないし、、、立ち上がれるようになるまで。」
「先程トーマスはこの犬に噛みつかれそうになったのだよ。」
「そ、、、それは、、、。」
「ルイス、私を失望させてくれるな。母上は犬が苦手だと知っているだろう。、、、お前はやはり兄のチャールズの足元にも及ばないな。」
「、、、」
「トーマス、木の箱にそれらを入れろ。」
「はい。」
俺達は死んだ母犬と共にトーマスによって木の箱に入れられた。まだ立ち上がることもできない俺達には、抵抗なんてできなかった。
「ルイス、この箱を川に捨ててこい。お前自身の手で。」
「、、、はい。」
ルイスは箱を持ち上げる。
「トーマス、見届けてこい。」
「かしこまりました。」
俺達の入った箱はトーマス、ルイスと共に馬車にのせられ屋敷を出た。