ようやく落ち着いてきた環境
俺が日記をジオルドに渡した次の日。
昼食後、ミーテの部屋がノックされた。
ミーテが開けてみると、
「エリザベス様!? 」
エリザベスが神妙な顔で立っていた。
手にオレンジ色の箱に緑のリボンがついたプレゼントを持っている。
「ミーテさん。今、よろしいかしら? 」
「は、はい。」
二人はソファに座り互いに向かい合った。
そして、エリザベスからの謝罪と勘違いの経緯を聞いた。
「貴女には辛い思いをさせてしまったわね。本当にごめんなさい。」
「そうだったんですね。そういうことでしたら、仕方ないですよね。わかりました。特に気にしてませんので大丈夫ですよ。」
絶対嘘だ! 夢遊病に成る程のストレスだったよな!?
「よ、よかったですわ。」
エリザベスはホッと胸を撫で下ろした。
取りあえず一件落着かな。
「それと、これをあなたに。」
エリザベスはプレゼントをミーテに差し出した。
「開けてみて。」
促されるままにミーテがプレゼントを開けると、中には、な、南京錠!?
それはとても高価そうな凝った作りの南京錠だった。女神がハープを持った金色の南京錠。
エリザベスは俺を見た。
「その、確か、トマトだったかしら。ドア開けを覚えてしまったのでしょう? 大変そうだったから、その、よかったら使って。」
エリザベスは照れ顔だ。
悪気は無いのだろう。
「ありがとうございます! 早速使わせていただきます! 」
なんか、複雑だな。
ここに来てから1か月近く経った。
今は2月。
俺が日記をジオルドにあげた次の日から、エリザベスとジオルドの仲は良好になっている。
「エリザベス、ほっぺにさっきのペリグーソースが付いてるよ。取ってあげよう。」
「昨日も同じような事をおっしゃりましたわ。その手にはのりませんわよ。」
「ふふ、やっぱりばれたか。」
だがジオルドはエリザベスの頬にそっと手を触れる。
「やっぱり私のエリザベスはかわいいな。」
「な!? ちょっとあなた! ミーテが見てますわよ。」
そして、ところ構わずイチャイチャしている。
エリザベスの冷たい態度は無くなり、今ではミーテとすっかり仲良くなった。
ミーテはエリザベスの事を「お母様」と呼んでいる。因みにジオルドの事はおじ様から「お父様」に変わった。変えたのはミーテ自身だ。
いずれ人前に出る際に、おじ様呼びでは不自然になるからだそうだ。
ミーテの夢遊病も、無くなって、、、ない。
夢遊病は続いているが、毎日から3日に1度に減った。そして、扉から出ることは無くなった。
なぜなら、エリザベスのくれた南京錠のお陰で、ミーテが部屋から出られなくなったからだ。最近はベッドの上だけの範囲内に留まっている。
それと、俺は自由に屋敷を歩き回っても良いことになった。エリザベスが許可してくれたらしい。
2月始め、夕食時。
俺はミーテについていき、食堂に向かった。
最近では俺も一緒に食堂でご飯を食べる。勿論床で魔動物用の餌さを食べるのだが、皆の話を聞くことが出来るのはありがたい事だ。
少しでもこの世界の知識を増やせる。
デザートのブラマンジェを食べ終えたところで、ジオルドがミーテに言った。
「ミーテ、君はこの1か月である程度マスター出来たはずだ。そこで、ブルタレス伯爵の開く明後日のお茶会に君も連れていかそうと思うのだが、どうかな? 」
おいおい、本当に大丈夫なのか?
たった1か月位しか経ってないぞ?
確かにスパルタ式でミーテは貴族のあらゆる教養を身につけた。ついでに夢遊病も身につけたがな。
「あの、私はまだ完璧とは言い難いです。なので。」
「大丈夫、大丈夫。お茶会だから正式なパーティーではないし、気楽に参加出来るものさ。いずれ正式なパーティーに出席する日が来るから、予行演習みたいなものとして行っといた方が良いと思うよ。それにエリザベスもついてるから安心だよ? 」
なあ、イエスしか答えを受け付けないつもりか?
「いずれパーティーに、、、。そうですね。経験は何よりも大切ですし。是非行かせてください! 」
「よかった、よかった。あ、トマトも連れて行っていいからね? 」
「そうなんですか!? 」
すると、エリザベスが微笑んだ。
「ふふふ。魔動物はとても希少ですのよ。だから魔動物を連れて歩く事は一種のステイタスでもありますわ。」
まじか! 俺がステイタスの象徴!? わーい。
「そうなのですね。とても嬉しいです。」
ミーテはとても嬉しそうだ。
お茶会は明後日だったな。
俺は、、、特にすること無いな。