エリザベスの日記帳
エリザベスの部屋はミーテの部屋の2倍程の広さだった。
壁はオレンジ色で、ソファやベッド等の家具のカバーもオレンジ系統。窓の縁取り、書き物用の机、床の絨毯等は白系統だ。
エリザベスの部屋に入った俺は取りあえず、窓際の白い猫足の机についてる椅子に座った。
「ふう、、、。」
体が重い。犬の時の方が体はまだ軽かった。
何よりエリザベスの胸やお尻が重い。既に肩が凝ってきている。
何て動きにくい体だ。
今、視界の右端の数字は583を過ぎた。
そういえば、エリザベスは何故にミーテを嫌うのか。
愛人の子だと思ってるからか?
それともミーテの父親が元婚約者だとばれたか?
にしても6年間も夫と一夜を共にしていないというのは妙だ。
メイドの会話通りならエリザベスが拒否してるっぽいよな。
ジオルドの事がそんなに嫌いなのか?
てか、ジオルドは6年間もそれを良しとしていながら離婚もせず、愛人も作らず、わざわざ養子を迎えている。
養子を迎えたのは世間体を気にしたからか?
エリザベスがミーテを嫌う理由はジオルドが嫌いだからジオルドのやる事成す事気にくわないから、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって感じかな?
でも本当に嫌いなら、顔も見たくないよな。
「う~ん。分からん!」
俺は取りあえず両腕を上にぐ~っと伸ばして肩をほぐそうとした。
チャリンッ
「ん?」
胸元で何か金属製の感触がする。
見ると首に紐がある。
「ネックレス?」
ネグリジェの中からそれを引っ張り出してみる。
鍵が出てきた。
多分、無くさないように紐で首にかけているのだろう。
何の鍵だ?
目の前の机を見ると、端に鍵穴つきの引き出しがある。
鍵を入れて回してみる。
カチャリ
あ、開いた。
引き出しの中には三冊の本が入っている。
取り出してパラパラと捲ると、それらは全てエリザベスの日記帳だった。
一番新しい日記帳を開いてみる。
パラパラパラパラ。
あ、ミーテが家に来た日だ。
12月25日
ジオルド様はなぜ私に何の相談もせず、いきなり養子を迎えなさったの?
今まで本当に鬱陶しい程、私のご機嫌をとろうとなさっていましたのに。
12月26日
今日は廊下で使用人達の話を立ち聞きしてしまいましたわ。
まさか、あの養子がジオルド様の愛人の子かもしれないなんて!
なら、この6年間ジオルド様がそれはそれは鬱陶しい程に私のご機嫌をとろうとなさっていたのは、まさか、愛人の存在を隠すため?
心の中では私の事をばかになさっていたの?
「何でそうなるんだ! 」
思わず誰もいないこの部屋で、俺は一人ツッコミを入れてしまった。
パラパラパラパラと日記を捲っていく。
わー。その後は殆どジオルドとミーテへの恨みが書かれてる。
パラパラパラパラ
あ、昨日のページか。
1月15日
私が悪かったのかしら。あっさりとジオルド様に心を許すなんてそんな軽々しい真似は出来ない、と頑なになったのがいけなかったのかしら。本当はジオルド様の気遣いはとても嬉しかったのに。
そう言えば、昔ルドマン様から「どうしても好きな人ができた。婚約を解消したい。」と言われてしまったわね。
あの後、魔王討伐に向かわれて失踪なさったけど、きっとその人のところに行ったのかしら。
きっとあの方も私のこういう頑なな所がお嫌いになったから、別の方を愛するようになったのかしら。
このページを見た俺は額に冷や汗が浮かんだ。
うわー。どうしよう。結構深刻だし、ミーテが無関係とも言い切れなくなってきたぞ。
それにしても頑なで6年間。ツンデレもここまで行くと最早デレをトレジャーしないと見つからんだろう。
「まずいなぁ~。どうしよう~。」
このままだと更に険悪になりそうだし。
「、、、」
視界の右端の数字は112まで減っていた。
てか、ジオルド本人に言ったら良くないか?
俺はエリザベスの重い体を立たせた。
日記帳を持って部屋を出る。
暗い廊下に出るとジオルドの部屋を探した。
確かミーテの部屋の向かい側だったかな?
二つの扉がある。
確かこっちが書庫で、階段に近いこの部屋がジオルドの部屋だったよな?
じゃあ、起こすか。
いや待てよ。今夜中だし起こすのはちょっとな、、、。
そうだ!
日記帳をドアの下から突っ込もう!
ガツッ
あ、日記帳分厚くて入らない。駄目か。
う~ん。
ドアと床の隙間は紙一枚なんとか入るくらいしかない。
致し方ない。
ビリッ、ビリッ。
俺は日記帳のうち12月26日と1月15日のページを破り、ドアの下から差し込んだ。
よかった、通ったぞ。
さてと。
視界の数字は30まで減っている。
俺はエリザベスの部屋に戻り、日記帳を元に戻して鍵を閉め、その部屋のベッドに寝っ転がった。
視界の数字はあと僅かだ。
3、2、1。
カチッ。
「ぐっ?」
なんか口を閉ざされている。
ミーテが俺の口を手で押さえ込んでいる。
「しーー! トマト! 静かにして! 」
トイプードルに戻った俺は、状況を飲み込むのに少し時間を要した。
えと、取りあえずじっとした方がいいかな?
俺が大人しくなったのを見て、ミーテは手を離した。
「もう! 勝手に部屋を出たり吠えたりしちゃ駄目でしょ。」
「、、、」
鍵を開けたのはミーテだがな。記憶は無いのだろう。
そして、俺になったエリザベスは吠えまくってたらしい。まあ、行きなりだったからビックリしたんだろう。悪いことしたな。
「さてと。じゃあ寝るよ、トマト。」
ミーテは俺をソファの上にのせて、ブランケットを優しく掛けた。
寝るか。
俺はブランケットの中で丸くなって眠った。