ルドマン視点、囚われの身
ルドマン視点
「飛魔王様、ルドマンごとき、私が連れて参りましたものを。」
「貴方では殺してしまいかねない。手加減には技術がいるのよ。ならあたしが一番適任。それに一番大事な事を人任せには出来ないわ。さて、そろそろ起きる頃ね。」
コツッ、コツッ、コツッ
ヒールの音が近づいてくる。
私はうっすらと目を開けた。
黒いブーツが見える。
「お目覚め? 」
魔王の声が聞こえた。
私は顔を上げ、周りを見渡す。
床は市松模様だが壁と天井は真っ黒に塗られている。
そして私は金の鳥籠の様な牢に入れられていた。
手足は鎖で縛られ、両手の薬指にはきつめに作られた紫色の封印の指輪が嵌められている。
牢の前には外套を脱いで手に持ち、アイシャドウを落とした魔王が、片手を腰に当てて立っていた。
上はふんだんにフリルのついた孔雀緑のブラウス、下は黒いタイトなスラックスを穿いている。
魔王の黒い目は、此方を冷ややかに見下ろしていた。
「正直に言うとねぇ、あんたの首を直ぐにでも噛み砕きたいところよ。あんたさえいなければ、あたしの桜が裏切ることはなかった。」
「桜にだって別の道を選ぶ権利はあるはずだ。それに君の物じゃない。」
ガンッ
魔王は牢を蹴った。
「ルドマン、あんたは神経を逆撫でするのが上手ねぇ。そのお上手な口でよくも桜を誑し込んでくれたものよ。」
魔王はくるりと此方に背を向けて部屋の隅に控えている男を呼んだ。
「石蛭、あとは宜しく。食事は一日3回。食べる事を拒否するようなら栄養剤でも注射しときなさい。」
「畏まりました、飛魔王様。この後はどちらへ? 」
「研究室に向かうわ。」
「畏まりました。」
魔王は外套を石蛭に渡し、石蛭から白衣を貰って部屋を出ていった。
鎖は細いが何故かとても重く、身動き1つ出来ない。
何故魔王は私を殺さないのか?
まさか、私を餌にミーテを誘き寄せるためか!?
ならば、、、舌を噛みきって死ぬしかない。
「グッ!? 」
舌を噛みきろうと力を入れたが、何かに阻まれて舌を噛みきれない。
「愚か者めが。無駄でございますよ。」
いつのまにか持ってきた椅子に座った石蛭が此方を向いて淡々と言った。
黒髪にピンク色の瞳の若い男だった。魔王と同じく黒い二重回しの外套を着ている。ただし、こちらは銀色のすすきの刺繍が入っている。
「奥歯に魔道具を埋め込みました。舌を噛み切る事が出来ないように作動します。つまり、魔王様は貴様の浅い考えなんぞお見通しだって事です。全くルドマン殿は愚かな方ですね。」
やれやれと石蛭は肩をすくめた。
何て事だ。ミーテ、、、すまない。
私は自分の無力さを思い知るしかなかった。