23話 エマリカ学園、マーリン学長
頭痛い。
石ぶつけられたところが、まじで痛い。
俺は目を開けた。
空は夜で半月が見えた。
体を起こす。
よっこらせっと。
ここどこだ?
隣にミーテがうつ伏せで倒れている。
「ワン! ワン! 」(大丈夫か?ミーテ! )
ミーテの顔に耳をそばだてる。
一応息はしているようだ。
俺はミーテの脇腹を頭で押し上げ、なんとか横向けにさせた。こっちの方が呼吸はしやすい。
キョロキョロと周りを見渡すと噴水、整えられた花壇、凝った造りのベンチが見えた。
そして、煉瓦で作られた物凄くデカいゴシック建築の建物に四方を囲まれていた。
ぐるッと見渡すと、俺達の前方と後方の建物が五階建て、右左が六階建ての建物だろう。4隅に、長方形の先に4つのトゲが付いた塔があり、全ての建物を繋げていた。
その4つの塔の内、1つの塔の上方の窓に灯りがついた。窓がガチャリと開けられ、中から真っ白な長い髭をもつお爺さんが顔を出した。
こちらに目が行くと、なんと、窓から足を出した。
は!? 危ないぞ爺さん!? なにやってんだ!?
「よっこらせっと。」
そんな掛け声と共にお爺さんは、窓から飛んだ!
そして、透明なエレベーターにでも乗ってるかのようにスーッと下降してくる。
スゲー!!!魔法だ、魔法だ!!!!!
俺達の前までくると、じっと俺達を見詰めた。
そして薬指を此方に向ける。
すると俺とミーテの体が浮き上がった。
うわわわわわわ!
そのまま俺達は透明なエレベーターに乗って塔の上の窓まで向かった。
窓は以外と大きく、俺とミーテとお爺さんはするりと入ることができた。
ただ、床と窓の距離はニメートル以上ある。
お爺さんは魔法でゆっくりと俺とミーテをソファに置いた。
部屋を見渡すと、目の前に大きな机、左右にソファがあり、俺達はその一方のソファにいる。
大きな机から離れたところに書斎スペースとして重厚感のある焦げ茶色の机が見えた。
、、、もしかして、校長室か?
ミーテがムクリと起きた。
「ここは、、、学園長室? 」
校長室じゃなくて学園長室か、違いわかんねー。
「いかにも。そしてわしがエマリカ学園長のマーリン・ノルベルトじゃ。皆からはマーリン学長と呼ばれとる。お主もそう呼ぶと良い。」
まじか! 遂に来てしまったエマリカ学園! 何てことだ。魔法、魔王、ミーテ、エマリカ! ここはやはり【過去に囚われたHeavenlyMaiden】の世界!!!
「マーリン学長。私はミーテと言います。私の父はルドマン・ヘッセン。此方に転送魔法で参りました。急な訪問で申し訳ありません。父が魔王に襲われています!救援を!」
ミーテの顔は蒼白だ。
「魔王!?復活しおったのか!?場所は!?」
ミーテは詳らかに全てを話した。
マーリン学長は書斎机に向かい素早く手紙をしたためた。
その手紙を持って立ち上がり、
「二人ともちょっとここで待っとれ。」
と言ってふわりと体を中に浮かせて窓から何処かへ飛んでく。
暫くすると戻ってきて再び窓から入った。
床に着地すると、マーリン学長は重いため息をついた。
「救援は向かわせたが、なにぶん他国での事件じゃから間に合うかどうかはわからぬ。」
「そうですか。」
ミーテは項垂れた。
だがパッと顔を上げて、
「では、私を転送魔法で送り返してくれませんか?」
と聞いた。
無茶なお願いだな、ミーテ。恐らく冷静さを失って取り乱しているんだろう。
マーリン学長は再び深いため息をついた。
「無理じゃ。転送魔法には未だに問題が多すぎる。それに魔王に会ったとしてもそなたの実力程度では返り討ちにあうじゃろう。お父上の元に駆けつけたい気持ちは解るがそなたをここに向かわせた父ルドマンの意志を汲み取るのも大切じゃぞ。」
結構ズバズバ言うけど正論だな爺さん。ミーテが危険を犯さないように諭そうとしてるんだろう。
ミーテは無言で頷いた。
「そなた、お母上のことはどれ程知っておるのじゃ? 」
「母の名前がさくらとだけ。六歳の頃に母は亡くなりましたので。」
「左様か。では、話した方が良さそうじゃ。魔王が復活した今、そなたは自分の身の危険をよく知らねばなるまい。そなたのお母上の名前は縁桜。あの魔王の妹なのじゃ。」