カゲロウの告げる別れ
荷馬車は家に向かって飛んでいた。
俺は荷馬車の後ろの縁からミーテと一緒に濃紺の夜の景色を見ていた。
雪は今やんでいる。
その時、後ろから羽音がした。
ぎょっとして振り返ると暗くてよく見えないが荷馬車の中に何か虫がいる。
「ワン!ワンワン!」(なんか虫がいるぞ!)
ミーテもミーテの父親も異変に気付いた。
ミーテの父親は右手で手綱をそして左手の薬指から、
「セモトヨリカア!」
と唱え、バチっという音と共に白い光の玉を出した。
光にうつしだされた荷馬車の中には、昼間見たあの透明なカゲロウもどきが十数匹入っていた。
ぎゃーっ!気持ち悪い! 離陸の時はいなかったのに‼
「ムードノウノホイガムマウヌイトヒ! 」
ミーテの父親の薬指を中心に赤い炎のドームが広がっていく。
熱っ、、、くない?
だが目の前のカゲロウもどき達は炎のドームに当たると燃え上がり、煤になった。
今、炎のドームは荷馬車とトンキーを球体状に囲んでいる。
「お父さん、今のはなんだったの? 」
「、、、ミーテ、今から言うことをよく聞いて! ミーテは魔王に狙われている。多分あのカゲロウは魔王の手下だ。だから今から逃げる準備をする。いいね? 」
よくねぇよ。説明不足過ぎんだろ?
「私が魔力を持ってるから? 」
「!?。何で知ってるんだ? 」
「お、お母さんからこっそり聞いたの。」
「そうか。」
炎の球体に包まれた荷馬車は山の上の家に着いた。
「イダクカイガムギヤジツヒスラプ! 」
ミーテの父親は家についてすぐに炎のドームを広げ、家を小屋ごとすっぽり覆った。
家の中に入るとマキマキ先輩が驚いた表情で此方を見上げている。
「ワン。」(I was surprised! びっくりしたよ!! いきなり炎が迫ってきたから。何かあったのかい? )
ミーテの父親は二階に素早く上り、でっかい紙と注射器と緑色の小石を持ってきた。
そして小屋の床に持ってきたでっかい紙を広げる。
なんかよく分からない記号がごちゃごちゃ書いてあるんだけど。もしかして、魔法陣?
ミーテの父親は注射器を自分の腕に刺し中身を血管に注入する。
それはなんだ、と聞きたいところだが緊張感の漂うなかでは静かにすべきだと思った。
ミーテは魔法陣を暫く見つめ、ハッとしたように目を見開いた。
「お父さんこれ、転送魔法陣じゃない? 」
ミーテの父親の表情が驚愕の表情に変わった。
「ミーテ、なぜわかった。」
「、、、ご免なさい、実は私魔法について図書館から本を借りて学んでたの。」
ミーテの父親は悲しそうな顔をした。
「もしかして魔法を、、、使った? 」
「本当にご免なさい! 私、お父さんの力になりたくて、一緒に魔王と戦いたくて。」
ミーテの父親は深いため息をついた。
「まぁ、今回は私も不用心だった。昼間にあのカゲロウを見たとき気づいていれば。解析のためにあれをエマリカ学園に送ったが。」
魔王、、、エマリカ学園、、、まさか!!
「ミーテ、今まで黙っててすまなかった。ミーテの中の膨大な魔力は普通の魔力じゃないんだ。人間の命の魔力を溜め込んだもので魔王がお母さんの中に蓄えさせていたものを引き継いだ形となっているんだ。魔王はその特別な魔力をかぎ分ける事ができる。」
つまり、その魔力を使うと魔王に見つかるってことか!?
「そ、そんな。」
ミーテはがっくりと膝をついた。
知らなかったから無理もないが。
「ミーテ、魔法陣の上に乗って。」
「嫌です! 転送魔法は術者が魔方陣の外から魔法をかける、魔方陣の中は転送されるけど術者は残ることになる。お父さん、私、火、木、土、水、風、それに毒消しや回復の魔法も一通りこなせます。だから一緒に魔王を。」
ミーテの父親はミーテを魔法陣の方に突き飛ばした。
そしてミーテの足下にいた俺はミーテの足に引っ掛かって共に魔方陣の中へ。
うぎゃー。
ミーテの父親は素早く右手の薬指をかざし
「ウソンテ!」
と唱え、左手に持っていた緑色の小石を何故か俺に向かって投げた。
石は俺の頭を直撃。
痛い!何しやがるてめー!
魔法陣は稲妻の様にビカッと光る。
俺とミーテは魔法陣に吸い込まれた。