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透明なカゲロウ

ミーテの父親がジョナサンと話し込んでいると、

ミーテが帰って来た。風を切って物凄いスピードでダッシュしてドドドドと此方に向かってくる。そして俺たちの手前でキュッと止まった。


アクセス踏んでいきなりブレーキを踏んだ感じだ。


「ただいま。ジョナサン兄さん! 」


ジョナサン兄さんって呼んでるんだな。

短距離走並みに走って来たところをみると、余程ジョナサンと会えて嬉しいらしい。


走って来たせいなのか、それとも好きな人を目の前にしたからなのか、ミーテの顔が赤い。


「ミーテ。相変わらず元気そうだね。」


ジョナサンは微笑んだ。

なんだよニコニコしやがって。こいつ爽やかな笑顔しやがる。


「ミーテ、後の買い出しは私がやっておくから、ジョナサンと遊んできなさい。17時には門に集合だよ。」


ミーテのお父さん公認ですかい!? うら若き男女交際、認めちゃうんですか? もっとこう舅による婿いびりとかしろよ~。あ、でもまだ告白とかしてないんだった。


「トマトも行くよ。」


そう言ってミーテの父親は俺を持ち上げた。


嫌だー!俺、ミーテとジョナサンの方に行きたいー。二人を見張らせてくれよ~。気になるだろう!


俺は足をジタバタさせて抵抗したが、問答無用でミーテの父親に連れていかれた。

外でトンキーが苛立たしげに右の前足を上げたり下ろしたりしている。


「ブルルル。」(遅っせーなー、待ちくたびれたぜ。)


「さて、行こうか。」


俺はミーテの父親に荷馬車に乗せられた。


くっそー。メチャメチャ気になる。

そこで、俺は荷馬車から飛び出した。しかし、ミーテとジョナサンは既にどこかに行ってしまった。

仕方がないのでミーテの父親の足下に向かう。


「トマトは歩きたいんだね。」


違うけどな。


ミーテの父親と歩くことにした。

荷馬車はがらがらと町の市場に入っていく。

道は以外と広く、荷馬車が二台通れる程だ。荷馬車をスーパーでいうところのショッピングカート代わりに使うのだろう。


ふと、ミーテの父親は店と店の間の空間でシートを敷いてその上で物を売っている少年の前で止まった。

よく見たら虫籠が沢山並んでいる。中にはあらゆる蛹が枝や葉と一緒に入っていた。


「いらっしゃい、こっちは今は蛹だけど春に皆蝶になるんだ。とっても綺麗だよ。それでそこら辺の虫籠の中は、かぶと虫の幼虫が埋まってるよ。」


へえ、珍しい。虫を売ってるのか。


ミーテの父親はある一点を凝視している。


「これは、どこで捕れたんだい?」


ある一つの虫籠を指した。その虫籠だけは動いている虫が、、、と、透明な虫?


「ご免なさい。捕れる場所は言えないんだ。」


「今まで見たことが無いけど。」


「実はこの冬僕も始めて見たんだ。驚いたよ。冬に虫が飛んでるのも珍しいのに、さらに透明だから。形からしてカゲロウの一種かと思ったけど、これ捕って一週間以上経ってるのにぜんぜんぴんぴんしてるんだ。カゲロウのように口が退化してるから餌とか食べないのにだぜ?」


なにそれ、気持ち悪い。


その時、カゲロウの首が此方を見た。

ミーテの父親をじっと見つめている。


いや、虫が人を見ることはあるだろうけど、なんだろう。このカゲロウもどき恐い。


ミーテの父親はその虫籠を購入して荷馬車に乗せた。


何で買うの? それ気持ち悪いよ。


ミーテの父親は険しい顔をしている。


その後も市場で塩や砂糖などの調味料や干し肉、小麦粉、カボチャツリーの飾り等を買っていく。

買い物が終わるとミーテの父親は郵便局と書かれた看板の建物に入っていった。虫籠も持って。


あんな虫誰にあげるんだ?


俺とトンキーは外で待つように言われた。

郵便局からミーテの父親が出た位でちょうど辺りは暗くなっていた。

門に向かうとミーテとジョナサンがいた。ジョナサンは白いマフラーをしており、ミーテの腕には何かが巻かれている。よく見ると真鍮で作られた丸い形の物体に革の紐が付いている。


「ミーテ、その腕にしているものは?」


ミーテは丸いやつの蓋を開けた。中には時計があった。


「これは、腕に着ける時計なの。ジョナサンが作ってくれたんだ。」


あれ? ジョナサン兄さんじゃなくて、ジョナサンに呼び方変わってる!?


「始めて見たよ。懐中時計よりもこれは使いやすそうだね。凄い発明じゃないかジョナサン。」


腕時計ってこの世界ではまだ無かったのか。

蓋付きの腕時計って感じだな。


「いえ、発案はミーテがしてくれたんです。」


ミーテ凄いじゃん!


「私は案を出しただけだから。」


ミーテは照れくさそうに答えた。


「そうなんだね。でもジョナサン、君も凄いと私は思うよ。この腕時計の紐を通す所の金具とか、時計の大きさを小さく作るところとか、既存の部品では作れないよね? 」


「はい、これ用に部品は新たに作りました。」


「相当な技術がいるだろう。君は君のお父さんの様に立派な時計職人になれるはずだ。」


「ありがとうございます。でもまだまだ父の背は遠く、日々学ぶことでいっぱいです。立派な時計職人になれるようにこれからも頑張っていこうと思います。」


時計店の息子さんなんだ。

好きな子へのプレゼントに手作りの腕時計をあげるってやつか。凄いな。労力半端無いだろうし、失敗もあっただろう。


あれ? よく見たら目の下にうっすらと隈が。

そうか!

オークション会場は舞台以外薄暗かったから気づかなかったけど、この腕時計完成させるために寝てないなこいつ。

なのに苦労を面に出さないとは。中身もまあまあ良いんだろう。


ジョナサン、、、お前は良い男だ。認めてやるよ。ありがたく思え!

告白はもうしたのかな。


「それにしても、こんなに高価な物をもらって申し訳ないな。」


「いえ、ミーテからはマフラーを貰いましたから。」


ミーテの父親はほっとしたように、

「そうか。」

と言った。


辺りはどんどん暗くなりガス灯の灯りが目立ってきた。綺麗だなぁ。

そこかしこで夕食の匂いが漂ってくる。


ぐ~~~~。

俺の腹の虫が鳴った。

ミーテがフフッ、と笑った。


「トマト、お腹すいちゃったんだね。」


「私達はそろそろ帰るとしよう。」


俺達は荷馬車に乗った。ミーテの父親はまた、魔法を使い、荷馬車を浮かせた。


「ミーテ、また来年だね。」


「ええ。ジョナサンまた来年! 」


ミーテは荷馬車の後ろから乗り出してジョナサンに手を振っている。

落ちるぞ~。

ジョナサンも俺達が見えなくなるまで手を振り返していた。


一年に一度しか会えないのか。七夕の織姫と彦星みたいだな。


荷馬車は空を駈けて山に向かった。

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