最後のあがき
魔王の飛行船の奥。
カゲロウの団子と化したミーテ達。
カゲロウに魔力を吸われ続けている。
麻痺する毒まで打たれて動けなくされている。
この箱かったい!
抜け出せたら。早く助けたい。
助けたい?
いや、罪悪感を消したいの間違いだろう?
俺自身の為だ。
何で、ミーテは俺を返せって言ったんだ?
フルボッコにしかったとか?
ふと、箱の側の水晶玉が目に入った。
そういえば、魔王はなんでこれを俺の側に置いているんだ?
水晶玉を見つめる。
【トマト、ごめんね。】
文字?
水晶玉に文字が浮かんでは消えていく。
【トマトは私を今までずっと助けてくれていたんだよね。】
もしかして、この水晶玉。ミーテの心を映しているのか?
【私のスカートの端をちぎったのって、目印をつけてくれていたんだよね。エドワード様が、そのお陰で私の居場所が分かったって。】
ああ、魔王の地上の城でそういうことしたな。
なんとなくエドワード王子と兵士達がやって来ていたのが匂いで分かったから、布切れは目印になると思ったんだ。
【トマトは何時でも自分の意思で行動している。対して私は、、、フラグを立てないようにとそればかりかに気を取られ、いざって時は、トマトの判断に頼りっきり。トマトが動いたから自分も動く。トマトが何故そうしたのかを深くも考えずに。あぁ、私って何も変わってない。自分の判断は間違ってたって思い込んで、それでトマトを頼ったくせに、身勝手にも手放して。現世にいた頃の私と何も変わっていない。自信を無くして占いに委ねていた頃と。】
ミーテ、何でお前が後悔してるんだよ!?
全部、俺のせいだろ?
俺が占いでもっと親身になっていたら、こんな世界に来ることもなく。
この世界で不幸になることもなく。
【占いに頼って破産したって思い込んでいたけれど、理由は占いだけじゃなかった。私はもっと自分自身の足下を見ればよかった。そして、周りと自分を切り離さなければよかった。】
占いの詐欺は時として、周りや自分を切り離させる。
占いを悪用する奴は悪い奴だろう。
だが、占いに引っ掛かるのは素直な良い奴が多い。
悪人が儲かり、善人が損をする。
おかしい方程式だ。俺が言うのもなんだが、正しくない。
本来は善人が得をし、悪人が損をする世界、これが正しい。
だから、ミーテは俺よりも幸せになって欲しい。
コツコツコツコツ。
魔王のヒール音が響く。
ミーテの方に歩いていった魔王は、麻痺して動けないミーテの首根っこを持ち上げた。
「待っ、、、て! 」
痺れている筈のジョナサンがガシッとミーテの足首を掴む。
ちっ、と舌打ちをした魔王がジョナサンをヒールの踵で蹴り上げた。
「ぐあっ!! 」
ジョナサンが吹っ飛ぶ。
魔王がミーテを引き摺ってくる。
水晶玉の文字が濃くなった。
【ジョナサン、お父さん、御父様、御母様、エドワード王子、マーリン学長、ミネルバ、イスカ、それに、それにトマト。私はもう、死ぬと思うけど、結構良い人生でした。家族、恋人、友達。全部体験できたから。】
「ワン!! ワン!! ワン!! 」(ミーテ!! 頼む!! ミーテを消さないでくれ!! 魔王! やめろおおおおおおお!!! )
ズルズルズルとミーテが銀の輪っかの装置の所に連れていかれる。
「スバトオノホ!!! 」
エドワード王子の声が聞こえた。
魔王がハッとして振り向く。
エドワード王子の放った炎のビームが魔王に向かった。
が、魔王はひょいっと避けた。
「最後の悪あがきってやつかしら。ショボいものをありがとう。」
魔王が再びミーテを引き摺る。
俺の入れられていた箱は金でできていた。
エドワード王子の放った炎は、金を溶かした。
お陰で俺は箱の外に出れた!!
「ガルルルルルルルッ!! 」
なあ、知っているか?
どんなに愛らしい犬でも、牙は付いてるんだよ!!
だんっとテーブルから跳んだ。
うぉりゃあああああ!!
魔王の首にがぶりっと噛みつく。
「ギャアアアアア!!! 」
魔王の絶叫が聞こえた。
俺の牙は見事に魔王の首に刺さった。
「あああ、痛い!!! 」
魔王がガシッと俺の頭を掴むが、それよりも早く俺は噛み千切った。
魔王は首から血を流して死んでいる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
飛行船が振動し始めた。
カゲロウ達は急に動かなくなり、ぼとぼとと床に落ちていった。
ガラガラガラガラ。
突如天井が砕けた。
砕けた巨大な柱達がミーテの上に降りかかった。
「ぐあっ!! 」
ドシンと落ちた柱で、なんと、ミーテが下敷きになっている!?
「ワン! 」(ミーテ! )
慌てて駆け寄る。
ミーテは出ようともがくが、まだ体の麻痺が取れないらしく、柱はびくともしない。
俺も前足で押して、後ろ足で踏ん張ってみるが、焼け石に水。可愛いだけだった。
畜生! う、嘘だろ!? 魔王倒せたのにこれって無いだろ!?
「トマト、逃げて良いんだよ? 」
煩い。良い分けないだろ!
「ワン! 」(絶対助ける! )
「トマト、、、。」
あー! くそっ! どうしたら。
俺は辺りを見回した。
艦内は瓦礫の山と化していた。
魔王が死んだから飛行船が崩れているのか?
何か、使えるもん無いのか?
だが、瓦礫の山で見つけられるのは先程俺が殺した魔王の死体ぐらいだ。
魔王の、死体。
成人男性の大きさの。
俺は魔王の死体の所に走った。
そして、目を見開いたままの魔王と目を合わせてみる。
俺の視界の右端の文字が示した。
蓄魔50%
1ラッキードック(可能)
2透明化
死体にラッキードックかましたら、どうなるんだろう?
毎回10倍ずつ増えているこの時間制限。最初は6百秒、次は6千秒、その次は6万秒。なら、次は、恐らく6十万秒。166時間。
迷っている時間は無い。
俺はラッキードックの文字を見つめた。
カチッ。
「ヒュー、ヒュー、ヒュー。」
呼吸が上手く出来ない。
魔王の体となった俺はミーテの上にのっている柱に手をかけた。
「ふぐぅっ!! 」
柱が持ち上がっていく。
「うぉりゃあ!! 」
柱の下からミーテが這い出てきた。
「レオナ! レオナ! 」
ミーテは素早く潰れていた自身の足に回復魔法をかけた。
ミーテのきれいな足が戻っていく。
カゲロウにさっきまで魔力を吸い取られていた筈なのに。
さすが莫大な魔力を持つミーテだ。
「ゴホッ、ゴホッ。」
ドバドバと血が口から出る。
「ト、トマト!? 」
ミーテはどうやら、俺が今魔王の中に居るってことを分かっているようだ。
「レオナ! レオナ! 」
ミーテが俺、もとい、魔王の首に回復魔法をかけるが、魔王の体は死んでいる状態なので回復魔法は殆ど効いていない。
「ゲホッ! 」
ああ、また血が出てきた。
死んでいる筈の体を無理矢理動かしている。
恐らく長くは持たないだろうな。
「ミ、ミーテ。」
「トマト、トマトよね!? 」
俺はミーテの肩を掴んだ。
「ミーテ、俺は、トマトで、お前を騙した、詐欺師だ。これが、正しい。本来は、俺みたいのが死んで、君が、生き残るのが。」
「トマト、何言ってるのよ。」
ミーテの声が震えていた。
何でかな、俺は魔王の体を介して涙が溢れてきた。
「ミーテ、この、世界で、幸せになって。」
ゴホッ、ゴホッ。
苦しい。
「待って、ねぇ、ト、マト! 」
最後に一言、君に言わせてくれ。
「ご。」
後の言葉は音には成らなかったけど、口の動きでミーテには届いたと思う。
ごめんな。
ガラガラガラガラ。
飛行船が崩壊していく。
薄れ行く意識の中で、ジョナサンの声が聞こえた。
「ミーテ! ミーテどこだ! 」
瓦礫を掻き分けていく音が聞こえた。
ガコンッ。
「いた! ミーテ! 」
ああ、ジョナサン。お前は必ずミーテを見つけてくれると思ってたよ。
幸せにな。
ガラガラガラガラゴゴゴゴゴゴゴゴガラガラガラガラ。
俺の体の下が割れていく。
やがて、俺の体は空に放り出された。
空の風圧を受けつつ落下していると、視界に茶色い毛玉が見えた。
朝日が顔を出してきた。
茶色い毛玉、トイプードルが朝日にあたって鮮明に見えてきた。
ああ、これ、俺だ。俺ってこんなに小さくて、頼り無さそうで、可愛かったんだな。
トイプードルの右目は相変わらず緑色。
視界が見えなくなった。
多分次位で完結です。