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閻魔の影

「飛魔王様、そろそろ御時間です。」


石蛭がそう言うと、魔王はチョークを置いた。


「あら、もうそんな時間だったかしら。」


「俺の装置が上手く作動していれば、あと30分でエマリカ王国の結界は崩壊します。」


スチュワートが小さい時計を出して魔王に見せた。


え? 結界が崩壊すんの? あの国を丸ごと覆ってる結界が!?


おいおいマーリン学長! 魔王でも結界壊すのは無理だっつってたのに。


「そろそろスチュワートと石蛭は国境上空に向かいなさい。」


石蛭の表情が強張った。


「待ってください! 飛魔王様、私はここに残ります!! そういう予定でしたでしょう? 」


「貴方に何か有ったら、あたしの身代わりで死んだ(さん)が悲しむわ。」


「飛魔王様に何かあった方が兄の蒜は悲しむと思います。兄は飛魔王様の身代わりとして死ねる事を誇りに思っておりました。間違いなく飛魔王様と共に戦えと、私の兄でしたら言うでしょう。」


「でもねぇ。今気付いたのだけど、この作戦は成功する確率性が低いのよ。」


「何故急にそのような事を仰るのですか? 昨日まで此方の計画はメインで彼方の計画はサブだと仰られていたではありませんか!? 」


魔王は何故か俺を見た。

え、俺がなんなわけ?


「この犬で思い出したのよ。事情が変わったわ。貴方を此方の作戦に置くわけにはいかない。」


石蛭はぎゅっと拳を握った。


「では、何故飛魔王様は確率の低い方にいらっしゃるのですか? 」


「そちら側には行けないのよ。あたしはね。この先どんなに幸福な未来があったとしても、それを幸福とは思えない。過去ってのは魚の小骨の様にずっと引っ掛かって、チクチクと心を痛め続けるのよ。時が経てば経つほどその時点から離れた時間が苦しくなる。」


「ですが!! 」


食い下がる石蛭に魔王はキッと目を向けた。


「本当はこんなやり方、したくはなかったのだけれどねぇ。命令よ、石蛭。スチュワートと共に国境に向かい、彼方の計画を成功に導きなさい! 」


石蛭の体にピシッと緊張が走ったのが端から見ても分かった。


カクカクと石蛭の体が動く。


そうか、石蛭は魔王の吸魔鬼だから、命令を与えられたら逆らえないのか。


本当に逆らえないんだな。初めて見た。


「飛魔王様!? 飛魔王様ああああああ!!! 」


叫ぶ石蛭とスチュワートは鉄の大部屋から出ていった。


「飛魔王じゃなくて魔王だって言っていたのにねぇ。まったく仕方ないわね。」


魔王はドサッとソファに座った。


なあ、蒜って誰だ?


「蒜はね。あたしが最初に倒された時に身代わりとして倒されたのよ。エマリカ王国の魔法兵からの攻撃をあたしがくらう直前に転送魔法ですり替えたのよ。」


うわぁ、魔王最低だな。


「転送されたあたしもビックリよ。まさか部下が勝手に作戦失敗時の緊急プランを立てていたなんてね。ねえ、あんたは元は他の世界の住人なのよね? 」


そうだな。


「なんでこの世界に来たのよ? 」


閻魔のせいだよ。俺は死後その閻魔ってやつに此方の世界に転生させられたんだ。


「閻魔? ああ、エンマーね。あれって空想上の話かと思ったけどいるのね。そんな存在が。」


エンマー?


「こっちの世界で死後の裁判を司る神様よ。物語とかで登場するわ。そいつに此方の世界に送られたってことなのね。」


魔王の表情が暗くなった。


そういえば、さっき俺を見て何を思い出したんだよ?


「あたしが嘗て、吸魔鬼を使って桜に貯めさせた魔力を、過去に戻すための装置、ほら彼処の銀の輪っかに入れようとした瞬間に、ルドマンが現れたのよ。水色のインコと一緒にね。」


インコ? 鳥の?


「鳥のよ。なんでもそのインコがルドマンを桜の元に案内したらしいのよ。その時は隠れ家を入り組んだ洞窟の中にしていたのだけど何故かそのインコは桜の居場所が分かったのよ。」


へぇ、優秀な鳥だな。


「お陰で桜は現れたルドマンに動揺して、あたしを裏切ってルドマンの方に行っちゃったのよ。もしかしたら、そのインコが、あんたと同じ転生させられた人なんじゃないかと思ってね。」


え? 俺と同じ閻魔に転生させられた人?

この世界に転生させられた人って嘗てもいたの?


「この仮説が本当だったら、あたしのやっていることは、どうやったって叶わない。」


なんで?


「もしかしたら、あたしの本当の敵は、エマリカでもシロリアでもない。第三者。運命を操る者だったかもしれない、だなんてね。ま、本当のところはわからないわ。」


まさか。閻魔が過去に戻そうとする魔王の所業を、転生させた動物を送り込んで阻止しているとか?


「その可能性はあんたのお陰で高くなったわ。」


魔王が立ち上がった。


「でもねぇ。やっぱりこの作戦を捨てることはあたしには出来ないのよねぇ。」


チョークの粉を払い、コツコツと歩いて銀の輪っかの側に立った。


その時だった。


ドドドドドドドドドド!!!!


魔王の飛行船に何か巨大なドリルでも食い込んだかの様な爆音が響いた。

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