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過去に囚われた魔王

「その後見つけられた魔道具研究者名簿のリストに載っていたあたしや桜含め15人はエマリカ王立研究所に連れていかれたわ。リストにのっていない人たちはシロリア王国に連れていかれた。ヒガリの国土は2分割されて、、、って、ちょっと。ちゃんと聞いているかしらぁ? 」


ガタッ

魔王が俺の入った箱を揺さぶった。


うわっ!

びくった~。聞いてるって。

何だよ。少しウトウトしてただけだって。


「はぁ、せっかくこのあたしが話してあげているってのに、聞いてないなんて。」


いや、だから聞いてるって。その後エマリカ王立研究所で暫く只働きの魔道具研究させられるんだろ?


そんで、研究所ぶっ壊して逃げたんだっけ?


「あら、結構知っているじゃないの。誰に聞いたのかしら? 」


マーリン学長。


「うっ。あの男に聞いたの? 」

魔王が顔をしかめた。


なんだ? マーリン学長と何かあったのか?


「いっつもこっちを凝視してくるのよ。本当に気持ち悪かったわ。」


マ、マーリン学長、何してんだよ。


「丁度その時、だったわね。回復魔法が実は一部時を遡っているのを発見したのは。」


一部時を遡っている?

変な言い方だな。


「人に限らず細胞を治せる回数ってのは魔力に依存するの。動物の元々持つ魔力に限りがあるから、細胞を直せる回数にも限りがあるのよ。」


ふーん。そうなんだ。


「でも回復魔法は傷の部分だけを治せるでしょう? 昔、実験でマウスの右耳をカットして回復魔法を掛けるを729回繰り返した学者がいてね。何で729回で終わったのかというとマウスの寿命が尽きたから。」


はぁ。そうですか。それが?


「色々試して、あたしはある仮説を立てたのよ。『回復魔法の一部が時間に逆行している』とね。」


????


ぽかーんとしてしまった俺を見て、魔王は片眉を少し下げた。


「もう少し分かり易く言うわ。石蛭、黒板持ってきて頂戴。」


石蛭は、はい! っと元気よく返事をして走っていき、10秒足らずで黒板と黒板立てとチョーク一式を持って走ってきた。


はぁ、はぁと息を切らしているが魔王の「ありがとう。」の一言でぱあっと顔を綻ばせた。


まるで、忠犬だな。


魔王が立ち上がり、チョークを手に持ってカッ、カッと書き始める。


おいーー。なんか、授業始まっちゃったよ。


「先ずは大前提として、外界から取り込む魔力と違って、もって生まれた元々の魔力は外と出し入れは本来不可能。」


魔王が人形のジンジャークッキーみたいな絵を書き、頭部分にAと書いた。


「仮にこのAさんの元々持つ魔力を7とするわね。」


Aさんの横に7の文字が書かれた。


その横に新たな人形ジンジャークッキーが描かれ、Bと頭に書かれた。この人の横には6と書かれる。Bさんには更に蓄魔75%と書かれた。


蓄魔って確か、魔力草とかから貰う魔力だよな。

人が元々持つ魔力とは別物として考えるんだっけ。


「BさんがAさんに回復魔法を掛けると傷口の細胞は分裂して傷口を治すのだけれど、この前と後とでのAさんの持つ魔力は7のまま。Bさんの持つ魔力も6のまま。ただし、Bさんの蓄魔は55%位に減る。」


Bさん横の75%に二重線が引かれ、その下に55%と書かれた。


「細胞を治せる回数が決まっている筈なのに、体の一部分だけ治したら、その部分が早く老化すると思うのよ。それに、元々持つ魔力が減らないとおかしい。だけど、回復魔法を連発しても寿命には影響が無い。一部腐るなんてこともない。」


、、、あれ?

そう、か。何となく、もやっとする部分があるってことは分かってきたぞ。


「より細かく分析した結果、分かったことは、回復魔法が3段階に別れているってことよ。」


魔王は再びBさんの横の55%を消して75%に書き直した。そして上に1段階目と書く。


「Bさんが、Aさんに回復魔法を掛けると、先ずBさんの蓄魔が70%まで減って、Aさんの魔力が5に減るのよ。」


2段階目と書いて、魔王はA、B2つのジンジャークッキーの下に新たにA、Bのジンジャークッキーを書いた。

Aさんのジンジャークッキー横の数字を5、Bさん横の蓄魔を70%と描いていく。


「そして、更にBさんの蓄魔が65%まで減るとAさんの魔力は7に戻るのよ。」


3段階目と書かれ、更なるジンジャークッキーA、Bが下に描かれた。

Aの横は7。Bの蓄魔は65%。

合計6体のジンジャークッキー。


確かに。2段階目と3段階目の間。考え方によっちゃ、時間が巻き戻っている。


「あたしは先ず2つの箱を用意して、マウス一匹を右の箱に入れてから、左の箱に移動させたの。そして、回復魔法の2段階目と3段階目の間に発動される瞬間の魔法を、空になった右の箱に当てたのよ。」


ま、まさか。


「そうしたら、左にいた筈のマウスが消えて、右に戻ったのよ。」


なんてことだ。マジか!!


「右の箱に戻ったマウスをそのまま観察しても特に変わったことは起こらなかったわ。」


つまり、時間が過去に戻ったのか。箱の中というか、マウスの時間というか?


「そして、何度も試行錯誤をこっそり隠れて繰り返した結果、対にある方程式にたどり着いたわ。」


幾つもの数式が書かれていった。


魔王のチョークが段々早くなっていく。


そしてチョークは、ある式に辿り着いた。


60人=1年


20×60=1200人


書かれた文字に俺はゾッとした。


「動物では代用不可なのよねぇ。つまり、人間1200人分の魔力を使って回復魔法の2~3段階部分を行い、ヒガリの元あった場所に当てれば、20年前のヒガリ王国が復活するのよ!! これで御父様、御母様、洗濯で一緒だったマダム達、(さん)、城の皆、町の皆、それに桜だって、皆元通りに戻るのよ!! 」


そう高らかに宣言した魔王の目はキラキラと輝いていた。


視線は希望に満ち溢れ、熱を持っている。


誰だって過去に戻れると具体的に知ってしまったら、もう未来を見ることは無くなるのかもしれない。


魔王の目は完全に過去だけを見据えているようだった。


魔王の熱意と対照的に俺の背筋が冷えていく。


今の魔王の言う通りに、20年前まで戻ると言うのは、ミーテが生まれる前まで戻ると言う事だ。


つまり、ミーテが、、、消えてしまう。


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