連れていかれたそこは魔王の飛行船だった
魔王に首根っこを捕まれた俺の体は、どんどん高度を上げていく。
そもそもこいつら、何処へ行くんだ?
風は強くなり、周りの大気の気温が下がっていく。
吹きすさぶ風の中、真下を見てみると、真っ暗だった。うん、なんも見えねー。
だが、段々高度が上がってくると、ポツポツと灯りが見えてきた。
灯りが並んでいる。恐らく、エマリカ王国の都市部のガス灯だろうか。
エマリカはあっちで、じゃあ、お隣さんは?
キョロキョロ見渡してみる。他に灯りは無い。
もしかして、シロリア王国の方はガス灯の夜の点灯はしてないのかもな。
高度は更に上昇し、空気が薄くなっていく。
やがて視界に靄がかかり湿り気を感じてきた。
これ多分、雲じゃん!!
雲の上まで昇って、飛んでんのか!?
あれ?なんか空中にオレンジ色の光がみえる!?
なんだろう。
ま、まさかUFO!?
魔王がグンッとスピードを上げてその光に近づく。
近づいて分かった。
開いた窓だ。
なんだ、窓か、、、。
いやなんで窓が浮いてるの?
魔王、そのお供とスチュワートと一緒にそこへ飛び込んだ。
なんじゃこりゃああああ!!
入って先ず驚いたのは、中が広いことだ。おかしいな。外からは灯りが1つだけしか見えなかったけど。
もしかして外側の色を空と同化させているんじゃないだろうか?
壁の色は紫地に金色の線が幾つも入っている。
魔王は俺を掴んだまま歩き出した。
後ろからお供とスチュワートが静かに着いてくる。
暫くすると、吹き抜けの場所に出た。
天井に取り付けられた大きな丸窓からは満点の星空が見える。
下を欄干から見下ろすと、幾つものランプの灯りに照らされた畑が見えた。
畑には稲や小麦とおぼしき物や、野菜の菜っぱらしき物、また数本の木が生えていた。ある一本の木には、蜜柑の様なオレンジ色の果実が見え、もう一本には林檎がなっている。
更に別のは赤い紅葉の木だった。もしかして楓かも知れんが。
幻想的で美しい空間だと思った。
不思議な場所だなぁ。流石UFO!!
艦内は異様に静かだった。
何人かの匂いは残っているのに、物音がしない。
変だな。
魔王は人間2人分の高さの大きな鉄の扉の前に立った。
薬指を扉の端に埋め込まれた緑色の宝石、多分エメラルドに当てる。
扉はゴゴゴゴゴッと音を立ててゆっくりと開いた。
開いた先は殺風景な部屋が広がっていた。
鉄色の壁に床。
奥に鉄製のテーブルとソファーが置かれている。そして、テーブルの横に、地上で先程見た銀色の輪っかが配置されていた。
「飛魔魔王様此方をお使いください。」
いつの間にかお供のやつが金色の四角い格子のついた箱を手に持ってきていた。
「ありがとう、石蛭。」
魔王はそれを受けとり、ひょいっと俺を箱に入れてガチャリと鍵を掛けた。
あ、やべぇ。捕まっちまった。
魔王は俺の入った金の箱を持って歩き、奥のテーブルに置いた。
更にお供の石蛭が、これまたいつの間に手に持っている水晶玉を台に乗せて、俺の隣に置いた。
「さてと。」
魔王は黒いソファーに座ってテーブルの俺を眺めた。
俺も魔王を見つめ返した。
魔王、俺の人間だった頃の俺と同じ顔で、何故かオカマ。そう、オカマな魔王。
オカマ魔王。オカ魔王。なんか、笑え。
魔王の額に皺が寄った。
「お黙り、犬っころ。それ以上馬鹿にするとその巻き毛をむしるわよ。」
具体的な脅し止めてーー!
すみません。調子こきました。
心が読めるって本当に厄介だな。
そういえば、ちょっと訊きたいのだけど。
「何かしら?」
ここは宇宙船?
「宇宙船?何よそれ。ここはあたしの今の根城の飛行船よ。」
へぇー。どうやって飛んでるの?
「魔力を行き渡らせているのよ。壁全部魔道具だから。金を利用して上手く魔力を行き渡らせて飛行と変色の魔法を発動させてるのよ。」
成る程。普通の俺の知ってる飛行船とは大違いだな。
「あんたのいた世界ってどんなところなの?」
俺の世界?
先ずそもそも魔法がない。
「へぇー。それは不便ね。」
そうでもないぞ。スマホとか車とか電球とか、カラー写真とかがあって便利だ。
正直この世界の魔法の方が不便だと、たまに感じるよ。
「あら、そう。」
そういえば、魔王は昔ヒガリの王子だったんだよな?
「まあね、、、」
魔王は足を組んだ。
ソファーにぐたっと背中を預ける。そして、天井に目を向けた。
遠い目を、してるな。
なぁ、昔何があったんだ?
俺は本や人から聞いた話でしか魔王の事を知らない。
魔王が顔を上げておれの隣の水晶玉の方を見た。
なんで魔王になんかなろうと思ったんだ?
「あんたに話して何になるよ。」
再び天井を見つめて、魔王は目を閉じた。
「まぁ、でもいいわ。時間潰しに教えてあげる。」
目を閉じたまま、魔王は自らの事をポツポツと語り出した。