キャッチ アンド フラーイ
いくらでもヒントはあった。
気づかない振りをしていただけだ。
一番始めの違和感は、ミーテが俺に名前を付けた時。
ミーテが歌った「どれにしようかな」の童歌が俺の知っているやつと違ったことだ。この童歌は都道府県で其々異なる。
それにビニールハウスっぽい畑、投網なんて釣り方、腕時計。
どれも白黒写真やドレスが当たり前の【過去に囚われたHeavenlyMaiden】の世界観とはかけ離れている。現世の知識でもない限り、14歳の少女が思い付くのは困難だ。
更に決定的だったのは、今思えば魔道具作りの授業中。ミーテが掘られている梵字の意味が文殊であると見抜いていた事だ。あれは、思い付きで分かるものじゃない。
イスカとミネルバの部屋でスパゲッティーを食べた時、ミーテはスプーンを出していた。あれも、ミーテが現世で日本生まれだったからだろう。スプーンを大人でも共に使うのは日本位なのだ。
他にもまだまだ有っただろう。
そして、何故俺がミーテに幸せになって欲しかったのか。
今分かった。
ミーテがあの茶髪の女だったと潜在的に知っていた俺は、彼女に対して罪悪感を抱いていたのだ。
恋愛でも、拾ってくれた感謝の気持ちでもない。
いや、多少それもあるだろうが、何よりも大きく占めていたのは罪悪感。
そう、罪悪感だ。
この罪悪感を消すために、俺はミーテに幸せになって欲しかった。
ミーテがこっちの世界で幸せになれば、あっちの世界で俺が彼女にやってきた数々の悪事の償いが出来るのでは、と考えていた。
「ワオーーーン!」(うわぁぁぁぁぁぁ!)
走って、走って、走り続ける。空は未だ闇だ。
振り返った自分がこんなにも侘しいことを考えていたとは思わなかった。
本当の自分の心なんて知りたくなかった。
無我夢中で走っていた俺の足に、突き出ていた石がぶつかった。
「キャインッ! 」(痛い!)
そのまま転び、ズザァッと地面を滑る。
痛い。そして、寒い。
暗い夜空、自分の影さえ見えない。
「あっら~? 見ーつけたー。」
ぐいっといきなり俺の首輪が持ち上げられた。
この声は!!
一番会いたくない奴に会ってしまった。
そう、魔王だった。
いやいや、てめぇ、何でここにいるんだよ!
俺を持ち上げた魔王は俺の首輪を眺めた。
「これは面倒ねぇ。」
そういうと、魔王は持っていた扇を振った。
いきなり、スパッと切れた。
俺の首輪だけがボトッと地面に落ちる。
俺は魔王に今度は首根っこを持たれた為、地面に落ちる事が出来なかった。
うわぁぁぁぁぁぁ嫌だああああ。
ジタバタジタバタと背筋も使って海老のごとくビチビチ跳ねてみるが、びくともしない。
魔王は後ろを振り返った。
「スチュワート、いえ、ゲーンダー。あたしを裏切る気があるなら、無理についてこなくても良いわ。 」
スチュワートは一瞬虚を突かれたように目を見開いたが、静かに首を振った。
「俺はあの時から、俺の持つ全てを貴方に賭けました。いや、今も賭けています。」
「そう。」
「飛魔王様、早く参りましょう。」
もう一人の男の声が頭の上から聞こえた。
「分かったわ。」
魔王は俺を掴んだまま上昇し始めた。
わぁーー!!
誰か、誰か助け、、、。
吠えようとして、ふと思う。
いや、俺がいない方が、いいよな?
俺は抵抗を止めて、魔王達と共に空へと連れていかれた。




