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iの結末

こんにちは、2日空いてしまいましたが、遊月奈喩多は生きています!

早速……

前回までの『iによるiへのiの物語』!

明かされる清瀬家の過去(穢と皧の苗字は清瀬ですよ、一応1話で皧ちゃんが名乗っています)! 兄妹が迷い込んだ、始まりのお話でした。他人を犠牲にして自分たちの日常を守ろうとする清瀬兄妹の、明日はどっちだ……!

懐かしいマンガを入れてみました。

それでは、本編スタートです!

 その病院があるのは、都心部の――不夜城に喩えられるような――賑わった場所ではない。故に、深夜になれば音そのものが死んだように錯覚するほどの静寂が訪れたとしても不思議ではない。雲のヴェール越しに届く月光がカーテンで拡散し、明度が著しく落ちた曖昧なものに変わってその病室の中に差し込んでいる。それ以外の照明はなく、あとに広がるのはただの夜闇であった。

 その病室には、藍田 沙弥が眠っている。眠っているといっても、それは交通事故によって頭部を強打し、昏睡状態にあるといった方がより正確な表現であるだろう。彼女の体には延命を目的とした器具が取り付けられ、その命を漫然と保っている。

 彼女の生存は、単に彼女の知人によって、そして彼女からある事件を解決する糸口を見出そうとする者たちによって望まれていた。

 

 藍田 沙弥が休日に外出して自宅に戻らなかったのは、約1年半前のことだった。

 沙弥の恋人を名乗る男が彼女の不在に気付き、連絡も付かないことから警察に捜索願を出したのである。また、当時近隣の地域で似たような状況で外出した少女が消息を絶つという事例が多発しており、それらと関連付けて連続失踪事件として捜査されていた。

しかし、懸命の捜索にも関わらず沙弥の消息はその後1年以上にわたって掴めないままで、次第にその生存は絶望視されるようになっていった。

 その沙弥が発見されたのは、ある夕方のことだった。

 沙弥の自宅があった地域の交番に勤める駐在が、管轄内で歩いている沙弥の姿を目撃したのである。声をかけた駐在を振り切るように走り出した沙弥の姿を、駐在はすぐに見失ったと証言しており、その後付近の国道に飛び出した沙弥は大型トラックに撥ねられ、病院に搬送された。沙弥は不運にも頭部を強打しており、搬送する救急車の中で意識を失って以降、回復の兆候は見られない。

 藍田 沙弥は、自らの中に孤独を抱え、それ故に自ら進んで孤独になっていく少女だった。

 彼女は周囲から虐げられていたわけではない。沙弥を気にかける者は多かったし、周囲から温かい感情を向けられて育ってきたにもかかわらず、彼女自身にそれを受け入れられる容量がなかった。それが生来の性格からのものであるのか、また幼少期にあった何らかの体験によるものであるのか、そもそも周囲に対して心を閉ざしていた彼女から聞いた者はいないし、もう沙弥が存在しなくなった以上、それを知る術もまた存在しない。

 確実に言えるのは、彼女はそういった感情を周囲に対して抱き続け、心の底では拒絶しながら育ったということである。そしてその感情は自身にも向けられ、行方不明になる直前には自傷を繰り返すほどにまでなっていた。それは単純に刃物などの道具を使って傷を付けるという行為だけに留まらず、見も知らぬ他人の手に自身の全てを委ね、体の内外を汚されるように振舞うという種類のものをも含んだ。

 家族にも友人にも知られることのないようにそういった自傷を繰り返した沙弥はやがて体を壊し、彼女が望んだような「用途」でさえも沙弥を相手にする者はいなくなってしまった。それを引き金となって、彼女の望みは「どこかに消えてしまいたい」というものへと変わっていった。

 そして、あらゆる手段でそれを叶えてくれるものを探した……といっても、彼女には自ら命を絶つ勇気もなく、何もしないままで漫然と日々を送っていた。果ては、願いを叶える都市伝説などという現実離れした――沙弥自身も半信半疑の――オカルトじみたものにまで頼ることもあった。

 その後沙弥は、ある出会いによってその望みを叶えることになる。

 彼女は、自分という存在の消失に成功することができた。肉体は残っていようと、もうその中には沙弥は存在しない。それを実現する奇跡に、彼女は遭遇することができたのである。


「感動的なお話ですねぇ」

 暗い病室の中、清潔感のあるベッドで眠ったままの沙弥。

 いつからか、月明かりの届かない闇の中から、乾いた拍手と共にその姿を見つめる者がいた。

「自分を消したかった藍田 沙弥さん。亡くしたお嬢様を生き返らせたかった清瀬 穢さん。亡くしたお兄様にもう1度会い、繋ぎ止めたかった清瀬 皧さん。これがあなた方の幸せなのですね?」

 1m前後であると思われる身長、喪服と見まがうほどに黒いスーツに、目深に被られた不自然なほどにつばの広い山高帽。そして機械の合成音を思わせる声をしているその人物は、沙弥のベッドに歩み寄る。

 目深に被られた帽子の下になったその人物の顔を窺い知ることはできない。しかし、その口元には、目の前で眠る沙弥たちの幸福を確信したような、満足げな笑みの形が刻まれており、唯一それだけがこの人物に表情を与えていた。

 この病室に、黒衣の人物の声を聞く者はもういない。この人物が呼びかけた名前を持つ者の意識は、もはやどこにもない。

 ふと、ベッドに横たわる沙弥の顔が、楽しげな、嬉々とした微笑の形に、軋むように変わっていく。その瞬間に「彼ら」の「日常」がどのように彩られ、どのような場面を迎えているのか、それは「彼ら」の外側にいる者には永遠にわからない。

 しかし、黒衣の人物はその姿に満足したように踵を返した。

「お役に立てたようで、私も嬉しく思っております。それでは皆様、お幸せに」

 最後に一際深い笑みを口元に刻み付けて、黒衣の人物は病室に現れたときと同じく、月明かりの届かない部屋の隅に溶けるように消えた。

 あとに残されたのは、生き物の気配すら感じられない、夜の静寂のみだった。



 藍田 沙弥が交通事故で病院に搬送されてから数日後。

 近所の住民たちの証言から、行方不明となっていた期間、沙弥が出入りしていたと思われる住居が特定されたことを受けて、警官隊が突入した。

 数年にわたって続いていた連続失踪事件。

 その失踪者の1人であると目されていた沙弥が出入りしていた場所。そこには失踪事件の手がかりがあるものと、捜査関係者や世間から期待と興味を注がれていた、清瀬という古ぼけた表札のある家への突入は、しかしその結果を詳細に公表されることはなかった。

 初めのうちはそのことに不満を露にする者も散見されたが、そのうちまた世間を騒がせる事件が現れていくにつれて、この事件は遺族以外の大衆にとってはたちまち過去のものへと変わっていった。

 

突入した捜査員たちが家屋の中で見つけたのは、彼らの想定を超える凄惨な事象の痕跡であった。

 玄関から入った彼らが最初に感じたのは、異臭だった。

 そしてその原因はすぐに発見されることになる。玄関脇、家具に隠されるようにあった納戸の中に押し込められた数人分の死体であった。意図的に切り取られたと思われる欠損が目立つその死体は、後に行われた鑑定の結果、全てが捜索願の出されていた失踪者のものであることが確認された。

 1番真新しい死体は、台所から入ることのできる地下室から見つかった。地下室といっても、それは監禁部屋と形容すべきものであり、開閉は外から鍵を使うことでしかできないようになっていた。その中で見つかったのは、数週間前に行方不明になったばかりの女性だった。

 眠っているような表情で死んでいた彼女の死因は、急性心不全であると思われる。誘拐・監禁による過度なストレスが彼女を追い詰めたのではないかと専門家は分析している。

 そして、その地下室に至る台所が、納戸に押し込められた数人の死体が損壊された現場であると思われる。床から1番多くの血痕が発見され、置かれていた調理器具からも血液が検出されたからである。地下室で見つかった女性の胃袋から人間の肉片が見つかったことから、事件の異常性は捜査員の中で際立ち、この事件を引き起こした人物の特定が急がれる理由である。

 家屋の2階からも、異様な死体が発見された。

 階段を上がって突き当たりにある、『あいのおへや』という古びたプレートが架けられたドアを開けた先には、キャラクターのぬいぐるみやファンシーグッズに囲まれるように横たえられた頭部のない少女の死体が発見された。

 生前の少女を写したものなのか、おびただしい数の写真が壁に貼られたその部屋の隅には、少女のものと見られる頭蓋骨が沈む淀んだ水槽があり、発見した捜査員は思わず嘔吐した。

 しかし、同様の死体と水槽は、2階にあったもう1つの部屋からも発見されている。

 その部屋には20代前半と見られる男性の死体があり、多くの指紋が見つかったことからその部屋はこの男性のものであることがわかっているが、部屋には、いくつもの監視カメラ映像を受信するモニターが設置されており、この死体の男性は、部屋から家の中を監視していたと思われている。

 異常ともとれるその行動から、この家屋では連続誘拐殺人以外にも何かしらの犯罪が行われていた可能性も視野に入れた調査が検討されることとなった。

 しかし捜査が進むうちに、この男性が1年ほど前に死亡していたこと、また男性の部屋を中心に、家屋の至るところから、死体の損壊にも使われていた調理器具からも、多数の血液指紋が検出されたことから、この事件を引き起こした――少なくとも、発見されるまでの1年間、監禁殺人を主導していた――のは藍田 沙弥ではないかという見方が湧き始めた。

 その可能性が浮上して以降、それ以前から唯一の生存者として意識の快復が待たれていたものの、沙弥は連続誘拐・監禁殺人の重要参考人として目されるようになった。

 確定した情報ではないため、マスコミ関係を始めとして周囲への好評は一切なされなかったが、刑事たちが頻繁に沙弥の病室を訪ねている姿が目撃されるにつれて、一部の間では根拠に対して説得力のある憶測が囁かれることもあった。

 いずれにしても、事件の解決には沙弥の回復が必要不可欠というのが、関係者や事件に興味を持つ者に共通する考え方になり始めた。


 事件の発覚から数年が経っても尚、沙弥の意識を回復させる、そして事件を解決する目処は立っていない。


こんにちは、最近電子コミックを読み始めた遊月奈喩多です!

8月に入りました。つまりは夏ですね。

夏と言えば、私は毎年どこかしらの山に登っていたのですが、今年はちょっと予定が立てられなさそうで……。都合をつけるのが少し大変だったので。だから今年はまったりと過ごしたいなぁ……と。この間栃木県の霧降高原にも行きましたし!

……という、関係のない話を混ぜまして。

今回は清瀬兄妹が登場しませんでしたが、次回はむしろ清瀬兄妹しか登場しません! お楽しみに!?

ではではっ!

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