iの邂逅
こんにちは、2話目もあれば3話目もありました、遊月奈喩多です!
ブログはたまに、Twitterはちょくちょく更新しているので、気になった方は来てみてくださいね! 小説とはまったく関係ない呟きがほとんどですけどね(笑)
今回は、全体の中では「間章」という位置づけになるお話です。なのでちょっと短めですという言い訳じみたことを書いてしまいます……!
というわけで、毎回恒例の(にしたい)、
「前回までの、『iによるiへのiの物語』!」(イメージCVは大川さんで)
主人公の「ぼく」が妹の皧ちゃんを溺愛していますが、皧ちゃんの方もまた、「ぼく」に依存した生活を送っています。それは「ぼく」の方針の結果とも言えますね。どうやら、皧ちゃんは夢に悩まされているようで……というのが前回のお話でした!
わかりにくいですね。知っています。
ということで(?)、本編スタートです!
蒼白い月明かりが差し込む、暗い部屋の中。皧が泣いている。つるつるぷにぷにの、まさに天使と形容するしかない柔らかな頬がトロトロに溶けてしまうのではないかと心配になるほど熱い涙が伝っている。
泣かないで、皧。僕はそう言えただろうか。
何てことだろう、これは間違いなく夢だ。
僕と皧の特別な部屋――なんて言っている屋根裏部屋。そこで皧は泣いていた。
大きな瞳からは絶えず涙を流し続け、時々苦しげにしゃくり上げている。それなのに、僕がそんな皧に何もしてやれない。体が全く動かない。僕はただ、泣いている皧を見上げていることしかできない。
そのうえ、屋根裏部屋で倒れているらしいこの僕には、皧の思っていることらしきものが、まるで自分で感じているみたいに伝わってくる。そんなの、いくら僕でも現実じゃできっこない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
だから僕には、皧が何もできずただ困惑していることが痛いくらいにわかってしまった。
皧が困っている。泣いている。僕を呼んでいる! それなのに僕の体は全く動かない。あぁ、くそ! いくら動けと命じても僕の体は微塵も動かない……! これが夢じゃなかったら、何だって言うんだっ!
何もできない僕の前で、皧はずっと泣いて、泣いて、泣くことにも疲れきった。後はただ呆然としていた。狭い窓の外に広がる夜闇を見ても、部屋の中を覗く月明かりを見上げても、皧が求める「奇跡」なんて起こりっこなかった。
だれか、たすけて……っ!
そんな幼く無垢な祈りに、誰も答えない。
そう、僕も。
時間が何も語らないままに過ぎていき、月が場所を変え、部屋の中に夜の濃密な闇が訪れた頃、皧は呼吸もままならなくなって、何もかもを捨てるようにその場に座り込んだ。
『お兄ちゃん……』
うわ言のように呟くことしかできず、皧はただ座っていた。
僕たちはこのまま朽ちていくのかも知れない。でも、それも悪くないのかも知れない。そうすれば今度こそ、僕らは二人だけになれるのだか――――
ピンポン♪
階下から場違いなインターホンの音。
死んだように動かなかった皧は、突然の音にそれこそ弾かれたように飛び起きて、パタパタと玄関に向かって行く。
待って、皧。ピンポンには出ちゃ駄目だ……そう思ったのを最後に、とうとう僕の意識は肉体を離れて、まるで皧の中に宿りでもしたみたいに、皧の行く先へ駆けて行った。
西の夜空に真っ白な孤月が浮かぶだけの静かな世界。
慌てて玄関のドアを開けた皧の目の前には、ひとりの人物が立っている。
つばの広い山高帽に黒い背広姿。その帽子も深く被っていて顔はよく見えない。月の光を受けてもただただ黒にしか見えないその人物は、電子音じみた低い声で――だからこいつは男なのだろう――「お困りですか?」と皧に尋ねた。
僕の言いつけは必ず守ってくれる皧のことだ、普段ならきっとそんな風体でいきなりそんなことを訊いてくるような怪しいやつなんて相手にしないで、すぐ家に戻っただろう。
だけど、今は「普段」ではない。
1人ではどうしようもできない問題にぶつかってしまった。途方に暮れた皧にとってこの男は、言うならば最後の希望とでも言えたのかも知れない。
『どうしよう、お兄ちゃんが!』
だからだろう、人見知りが強いはずの皧が初対面の男に泣き乱しながら縋りつく。あぁ、そういうのは僕だけにしてほしかったな、もちろんそんなことを言える立場にないし、僕の声なんて皧には届かないんだけど。
皧に連れられて屋根裏部屋に来た男は僕を見下ろす。もちろん皧に意識が付随している僕も。
あぁ、これは……。もう誰が見ても明らかな状態だった。
男は皧を振り返って、『お嬢さんが困っておいでなのは、こちらのお兄様のことでよろしいのですね?』と、わかりきっているだろうことをわざわざ電子音じみた声で尋ねている。
皧は泣き叫ぶように男に答えた。
『おねがいします! お兄ちゃんをいきかえらせて……!!』
そう。
この夢の中で、僕はもう死んでいる。
腰くらいの高さのタンスの角に、ドラマみたいな血がベットリ付いていて、そのすぐ下で、ドラマみたいに倒れている僕がいる。ここでその僕を見ている僕は、さながら幽霊のようなものなのだ。
だから僕の声は皧に届かないし、僕自身も皧には何もできない。逆に、そうでもなければそもそも僕が皧の泣き顔を見て何もできないなんて説明のつきようもないことだったけど。
理由なんていらない。ただ、そうであれば説明できる。
そして、僕らは初めて男の表情を見ることになる。なんていっても、ニヤリと歪んだ口許だけだけど。
『それが、あなたの幸せなんですね?』
その声には――電子音みたいに感情が籠もっていないはずなのに――どこか不吉な響きがあった。それは、皧も感じていることだった。目の前の男に対する恐怖は、正直並大抵のものではなかった。それでも、藁にも縋る思いということなのだろう。不安な気持ちを抑えつけるような大声で『はい!』と皧は答えた。
黒い男はその答えに満足そうに頷いた後、皧に『それでは、お嬢さんのお願いは私が叶えましょう』と優しげに応じた。
しかしその後、こう付け加えた。
『しかし、既に亡くなられているお兄様を生き返らせるとなると、お嬢さんにも頑張ってもらわなくてはなりません。できますか?』
『はい、できます!』
皧の答えに迷いはなく、男の笑みもまた深くなった。
部屋の照明が、少しだけ暗くなったような気がした。
『ご立派です。では、どうぞお使い下さい……』
そう言って、男は皧にそれを手渡した。
それからの皧は、男に言われた通りに努力を続けた。男が渡した物を使えば、「死んだ僕」を生き返らせることができる。だが、それ以外にも必要なものがあり、その用意は皧自身に委ねられていた。問題はその用意の難しさであり、皧は誰の助けも求められないまま、たった一人で頑張っていた。
季節が変わり、桜の花びらは泥に還った。その間、皧はずっと僕を生き返らせる為の努力を続けていた。寒くても、暑くても、雨が降っていても、嫌いな雷が鳴っている日でも。朝起きてから、夜寝るときまで。
しかし、その日、皧は部屋の中で泣き崩れていた。
もう僕が死んだというのに、僕が生前(といっても夢の中の話だけど)決めた部屋で過ごしている皧の律儀で素直なところは、やっぱりとてもかわいい。たとえ食事が数日に1度になってしまって、見る影もないくらいに痩せこけてしまっても、その姿は世界で1番かわいく見えた。
もし動けるならば、そのあまり上手に洗えず少し皮脂と汗の混ざったような臭いのする髪を撫でてあげたくなったし、服選びも苦手でまだ冬服を着続けて汗まみれになっているその体を思う存分抱きしめてあげたくなったけど、蒸し暑い雨の降りしきる夜、時折部屋まで聞こえてくる雷鳴さえも気に留めることなく泣き続ける皧を目の前にしても、やっぱり僕が動けるようになるなんて奇跡は起こりっこなかった。
まるで生きているみたいに、現実みたいに、胸が軋む。
それともこれは、皧が負っている痛みなのだろうか。
体感にして数ヶ月、皧と一心同体の存在だった僕にはわかる。皧が感じている悲しみも、苦しみも、虚しさも、絶望も、無力感も、孤独感も、焦りも、虚無感も。その全てが、僕の痛みのように伝わってくる。
覚めない悪夢の中で、皧は誰にも聞こえない泣き声を上げている。
『ごめんね……ごめんね……!! わたし、お兄ちゃんを……を、見つけて、あげ、られなかっ、た……!』
涙まみれになったぐしゃぐしゃになった皧の顔を、僕は何もできずに見つめている。苦しげにしゃくりあげる皧の手が、すぐ近くにあった物に伸びる。
『ごめんね、お兄ちゃん。……お兄ちゃんなら、見つけてくれるよね? わたしのこと、ぜったい見つけてね』
弱々しくそう言って、皧は――――。
これは、悪夢だ。あまりにタチが悪い。
あまりに長くてタチの悪い夢はこうして終わり、そして、ぼくは目を覚ました。
外を見ると、朝日がむやみに眩しい、爽やかな陽気だ。
「嫌な夢だった……」
皧が最近変な夢を見ているのは知っていたけど、まさかぼくまで見ることになるなんて。しかも、ぼくが皧を遺して死ぬなんて、最悪だ。
だけど、ぼくは皧を独りぼっちになんかしない。ずっと、ずっと一緒だ。
さぁ。
今日も皧を起こしに行く。そうして、ぼくの1日は始まる。
階段を下りて、皧が寝ている部屋の鍵を開ける。
「皧、おはよう」
こんにちは、雨上がりの空が好きな遊月です!
何だか、最初から晴れている空よりも明るく見えませんか? 雲間から光が差し込む瞬間がたまらなかったりして……。
そういえば、この作品の投稿をブログで通知してなかったことに思い至りました。近々更新します。
次はまた他の話と同じくらいの分量になると思います。次回の清瀬兄妹の活躍(?)にご期待ください!
ではではっ!




