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空想と現実の境目  作者: 築山神楽
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第4話 雨降りの夕方デート+α

前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまいました。いろいろと忙しいので多めに見てもらえればと思います。それと、誤字や本来数字であるはずの漢数字がまれに混じってます。見つけ次第修正していくのでご了承ください。

――4月。第一土曜日。――

 今日はあいにくの雨となった。

 天気予報では晴れとなっていたはずだが、その結果は大きく外れ、じめじめとした雨が朝から続いている。最近の天気予報はかなり正確なはずだが、今日に限っては珍しく、その予報が外れた。まあ、たまにはこんなこともあるか。

 そして僕は、集合時間の10分前からここに来ているのだが、江須羽が現れる様子は無い。時刻はすでに朝10時を完全に過ぎている。自分で言っていた集合時間なのに、その自分が遅れているのだ。おかげで僕は、ぼとぼと傘に当たる大粒の雨の音をずっと聞く羽目になっている。


「はあ~」


 いつになったら現れるのかわからない人を待ち続けるのは精神的に辛い。江須羽は今日の約束を忘れたりはしないだろうが、もうちょっと早く来てもいいんじゃないかと思う。いや、そうしてほしい。

 それ故に、たくさんの人の流れの中に江須羽はいないかと、さっきからずっと気を配っている。ふと、いたんじゃない?って思っても、髪型が似ていたり、まとっている雰囲気が似ていたりするだけで、肝心の本人ではなかった。そんな空振りが何回も繰り返されている。

 空はどんよりした雲がどこまでも続いている。晴れの日だったら、明るい日差しがここにも降り注ぐんだろうけど、分厚い雲のせいで夕暮れ時ぐらいにまで暗くなっている。こんな天気の日の時間は、やたらゆっくり流れていくように感じる。

 と、その時だった。


「あ!いたいた!おーい!手押!」


 僕は声のした方、駅の階段を見上げた。

 そこには、畳んだ傘を片手に階段を駆け下りてくる江須羽の姿があった。階段の屋根を出ると同時に傘を開き、こちらに駆け寄ってきた。


「はぁはぁ、ご、ごめんね」


 息切れの様子から、ずっと走ってきた事がわかる。


「遅いぞ。今まで何してたんだ?」

「はぁはぁ、ちょっと待って」


 彼女は息切れを続けていたが、それが終わると顔をあげて言った。


「今日の集合場所、牛浜駅って言ったでしょ?」

「うん」

「私も時間通りに来たんだけど、牛浜駅のどことは言ってなかったでしょ?あなたはこっちだと思っていたんだろうけど、私はそれがここから駅の反対側だとずっと思っていて、実際にそっち行っちゃったの。時間になっても来ないなぁ~って待ってて、もしかしたらって気付いて」

「それでか」

「うん、そうなの。ここ、あんまり電車が走ってないくせに駅ビルじゃん?集合場所になりそうな場所なんてたくさんあったから、そんな感じの場所とか、手押がいそうなお店とか捜し回って、最後にここに来たってわけ」

「なんだ、そんなことだったのか」


 僕は、朝寝坊でもして、慌てて来たのかと少し考えてしまった。だけど彼女はちゃんと約束を守っていたのだ。


「ごめんね、私がちゃんと場所を言わなかったから………」


 彼女はすまなそうな顔をした。

 でも、彼女は悪くない。

 彼女はしっかり時間通りに来たんだし、僕がいないからって帰ったりもしなかった。それどころか、自分がしたミスを償おうとこの大きなビルの中を必死で探してくれたのだ。集合時間に来ないとか、彼女が寝坊したなんて浅はかな考えを持った僕の方がよっぽど悪い。


「いや、僕も悪かった。駅のどっち側か昨日聞かなかったからだよ。お前に大変な思いさせちゃってごめんな」

「いいの、元々は私が誘ったことだし、大丈夫。ありがとう、心配してくれて」

「一応お前の彼氏なんだから、それぐらい当然だよ」


 ……………というか、僕から探しに行くべきだったな。こんなんじゃダメだな、僕。

 一方江須羽は照れたように顔を赤くしてはにかんだ。と思ったら、何かを思い出したみたいに、こっちを見た。


「ま、まあそれはいいとして」


 彼女の表情が変わる。


「そんなことよりも、何か聞きたいことがあるんじゃない?」

「ああ」


 僕は彼女の顔を見ながら言った。


「今日デートするって言った理由だ。何故今日なんだ?それも牛浜駅で」

「やっぱりね」


 彼女はわかっていたような顔で続ける。


「それはね、あの事件の続きの事よ」

「事件の続き?」


 僕は首をかしげた。


「牛浜駅が事件と何か関係があるのか?」

「違う。ここはただの集合場所。特にこれといった意味は無いけど、あえて言うなら、今日行きたい場所に近くて、集まるにはちょうどいいって思っただけ」

「行きたい場所?」

「そう。でもここで立ち止まってても時間の無駄だから、歩きながら話すね」

「わかった」


 僕と江須羽は歩き出した。

 賑やかな駅の前。傘をさした人たちが何人もすれ違って行く。


「で?その行きたい場所ってのは?」

「うん、まずその場所から言うんじゃなくて、どうしてこうなったかの理由から言った方がわかりやすいかも。というより、そっちの方が私も説明しやすいし」

「わかった。話す順番は任せるよ」


 彼女は頷いた。


「昨日、家に帰ってから私も自分なりにいろいろ考えてみたの。それで思ったのが、やっぱりあの人は悪くない。最後の爆発はあの人がやったんじゃないってこと」

「その根拠は?」

「何となくだけど…………そう思った。あの人がやったって可能性が大きいんだとしても、勝手に決め付けるのは悪いと思う。それに、説明できない力を使った犯行ってだけで、あの人が犯人って決まったわけじゃない。確かにそうとしか考えられないのかもしれないけど、はっきりとわかっている証拠もないんだからね。魔法陣と窓の犯人はあの人でも、魔法陣の爆発はたぶん違う人だと思う」

「ふうん」


 まあそうだろうな。

 僕は爆発が起きた時の学校の様子を、頭に思い浮かべていく。

 校庭に巨大な魔法陣、その中央に僕と江須羽がいる。そして校門近くにパトカーが止まっていて、業者に人が警察に連れていかれている。その人は僕たちに気付いてこちらを向いた。何もなかったのはここまでだ。この後魔法陣が完成して、大爆発が起きた。

 さて、この時何が起きたのか。

 ここで、業者の人が魔術を発動したとする。校門近くからは、魔法陣は全部見渡せるから超能力または魔術の発動に何の支障もない。もしそこで発動したと考えるのなら、あの人がやったかどうか、以外は何の不備もない。だが、他の人がやった可能性もやはり否定できない。ただ、僕の見た範囲では、不審な動きをしている人は見えなかった。もしかしたら、誰かが別の力を使って透明になっていたり、僕の視界に入っていない場所から魔法陣を見ていたのかもしれない。そうすれば誰にも見つからず学校に忍び込めるが、僕が魔法陣に入るのとあの人が校門近くにくるタイミングは、ずっと見張っていないとわからないだろう。それを完全に予測して待ち構えていたのか、たまたまそうなったから発動したのかはわからない。だけど、魔法陣全体を完全に見ることができる、かつ見つかりにくい場所というのはある程度限られてくるはずだ。

 これを踏まえたうえで、江須羽に聞いた。


「もし、あの人以外の誰かが魔法陣を完成させたとしたら、どうやって完成させたと思う?」

「う~ん」


 彼女は少し考え、


「まずあの状況からして、何かしらの不思議な力を使った事は確実よね。そうしないと、私たちが気付かない一瞬の隙をついて魔法陣を完成させたりできないもんね」

「そうだな」

「だけど、あの時間帯に学校に侵入するのって難しいよね、だってたくさんの生徒の目と防犯しステムをかいくぐるんだから、普通に考えて無理だよね?」

「普通だったらな。だけど、異能の力に普通は通用しない。もしかしたら、透明になる力だって存在するかもしれないし、一度見た人をずっと追跡して、何をどこでしているのかを感知できる力かもしれない。そんなの、アニメにしか出てこないだろうって思うけど、あり得ないとは言い切れないんだよね。僕たちの想像を超えた力で学校に入ってくるのは、そんなに難しくはないはずだ」


 もしかしたら、犯人は魔法陣のそばでずっと待機していたのかもしれない。そもそも透明になる力なんかあったら、誰かに押しつける必要なんてないはずだ。爆発を起こした後で、さっさとその場から離れれば、事件との関わりは何も残らない。


「透明になって学校に入っても誰も気付けない。それで学校内に入っていたとしたら、犯人の手掛かりなんて掴めないんじゃないのか?」

「たしかにね。犯人の情報を掴もうとすれば、どんどん変な方向に行っちゃうのは間違いない。だけど、逆から考えてみたらどう?」

「逆とは?」

「犯人を直接求めようとすると絶対にわからなくなるから、その逆。つまり、犯人以外であるという条件を消していけばいいんじゃないの?」


 一瞬、名案だと思ったが、すぐにそれは無茶な事だと思った。


「と言ってもさ、それらの条件を消していったらどれだけの時間がかかるのさ。はっきり言って、そんなの無限に等しいぞ。どうやって全部を調べるっていうんだ?」


 福生市だけでも人口は軽く9万人を超える。世界の人口から比べたら小さいが、実際に会うだけでもどれだけの時間がかかるかわからない。ましてや、他の市あるいは他の県から来た場合も考えると、それこそ何万人もの人を探さなくてはならない。


「やっぱりそれは無理なんじゃないのか?」


 すると彼女は首を振った。


「そうじゃないよ。さすがにそんな大がかりなことはやってられない。というか、本当に無理よそんなの」

「じゃあどうするっていうんだ?」

「あくまでも、私たちができる範囲での事しか調べないつもり。もしその範囲外に答えがあったとしても、どうしようもないよ。多分警察もそのあたりは調べてくれてるはずだから」


 警察の捜査が今どんな状況にあるか、僕にはわからない。事件からまだ2日しかたっていないし、そんなにすぐには捜査は始まらないと思う。あの人は警察に事情聴取されているとしても、犯人が別の誰かだったらあの人は知らない。魔法陣の爆発に関しては何も答えられないだろう。


「なら、僕たちは何を調べるっていうんだ?それに僕たちが探せる範囲がどこまでなのかもわからないのに」

「たしかにね。だけど、まずは身近なところから調べるべきだと思うの」

「まあ、それが一番やりやすいしな」


 彼女は頷いた。


「だけど身近なところだったら、まず学校の近くとかからがいいんじゃないのか?」

「そうなんだけど、多分見つからない可能性が大きいわ。だって学校の近くで何かするなんて、見つかりに行くようなものでしょ?」

「まあ、たしかに」


 せっかく透明になるような力があったとしても、ばれてしまっては意味がない。でも学校の近くで答えが見つからないとすれば、どうやって探すっていうんだ?


「じゃあ、今向かってる場所は何なんだ?」

「それを答える前に、ここで一つ問題。魔法陣はあくまで囮であったはずなのに、どうして発動させる必要があったの?」

「それは、真犯人があの人に罪を押しつけるために、だろ?」


 僕は、彼女がこの回答に対して頷くと思った。しかし、それとはまったく違った質問が飛び出してきた。


「なら、どうしてあなたを狙って発動させたの?他の誰かがやったとしても、あなたを狙う必要なんてないよね?」

「えっ……………?」


 僕が狙われていた?

 そんなまさか。


「僕が?狙われていたのか?」

「そうならない?これは犯人に限らず、あの人がやったんだとしても当てはまると思うけど?」

「だ、だけど、犯人は無差別に発動させたかっただけなのかもしれないぞ?犯人がずっと見張ってたとするなら、そういう可能性だってあり得るんじゃないか?」

「そうかもしれないけど、あまりにもタイミングが不自然だと思うのよね。だってそうじゃない?仮に無差別でやるとしても、手押が魔法陣に入った時点で発動させればいいんだし、わざわざあの人に罪を押しつけるなんてことする必要なんてないよね」


 確かにそうだ。

 なんでそのタイミングを狙う必要があった。誰かが来たタイミングでいいなら、僕と江須羽が魔法陣の中にいて、あの人がこっちを見たタイミングなんて合わせる必要なんてないんだ。


「それにもし無差別にやるとしたら、窓ガラスとは全くの関わりがないと思うの。あの人に命令した誰かは見つからないんだから、わざわざ魔法陣を発動させずにそのままどこかに行っちゃえばいい話なのに、わざわざあのタイミングで発動した。それにはきっと何か意味があるんだわ」

「そ、そうだな」


 僕は動揺を隠せなかった。


「窓ガラスが割れることから事件の計画が立てられていたって可能性もあるけど、そこまで未来の動きを予測できる人なんていないと思う。だから、事件に便乗して発動させたって言えない?」


 これがもし、本当の話だったとしたら。


「つまり、もとから僕を狙っていた事になるのか。タイミングを見て、それで事件を利用した」

「そういうこと」


 なるほど。と、思いたいところだが。


「……………僕が狙われていたっていうのは、本当なのか?」

「私の考えはそうなったわ。ちょっと失礼になっちゃうかもだけど、最後の爆発が元の事件と関係ないのならそうならない?」

「否定はできないな」


 まさか、僕が狙われていたなんて想像もできなかった。だとしたら、それは誰によるものなんだ?

「しかし、僕が何かしたのか?最近まで他人と接触することが少なかった僕が、何かしたって言うのか?そんな恨みを買われるようなことを」

「可能性はゼロじゃないわ。忘れてるだけで中1や中2の時に何かしたのかもしれないし、無意識のうちにそれがあったのかもしれない。それに、ただそこにいるだけで存在が気にくわないって人もいるだろうし、手押が何もしてなくてもそう思っちゃう人はいるんじゃないかな?」

「めちゃくちゃだな…………」

「手押に恨みを持っているのが先輩って可能性もあるわ。流畠が考えてたみたいにね。だけど、先輩をみんな探し出すのはさすがに無理よ。だって住所を調べても、卒業後に引っ越してる事もあるんだろうし、300人以上の人にそれぞれ会いに行くなんてやってられない。可能性としては捨てきれないけど、今はさっきも言った通り身近なことから探すほうがいいと思うの。その過程で有力な情報を得ることができるかもしれないしね」


 気付いたら、僕と江須羽は駅かなり離れたところまで来ていた。ある程度まで離れると、高いビルがだんだん少なくなってきて、背の低い家が並ぶ住宅街に変わってくる。複雑に入り組んだ細い道を、江須羽は迷うような仕草も無く歩いてゆく。

 僕もその後について行った。この辺は来たことがないから、初めてみる福生の姿に少し驚いた。


「で、ここからが今日の本題。卒業生はダメでも、同級生なら会うことはできるでしょ?」

「うん、会えるね。だけど、誰から会うって言うんだ?目撃証言とかは聞けるかもしれないけど、最初は誰と会うんだ?」

「それもいろいろ考えたの。やっぱり事件当日にいたクラスメイトから聞くべきなのかもってね。でも学校に来ている人は月曜日に会える。そこから話を聞くことはできるし、その中に犯人がいたとしても探すのは遅く無いはずよ」

「ちょっと待ってくれ」

「ん?」


 彼女が振り向いた。


「学校内に犯人がいるってのか?そんなのありかよ」


 それを聞いた彼女は、真剣な顔で答えた。


「異能の力に、あり得ないは付きものでしょ?」

「………………………………」


 僕は何も言い返せなかった。


「まあ、そういうこと。だから、出来ることからやっていくしかないのよ」

「な、なら、早くそいつを追いかけた方がいいんじゃないのか?」

「もしそうなら私もそうしたいけど、まだ確定したわけじゃないし、何とも言えないわ。でも月曜日に休んでいたり、手押の前で不審な動きをする生徒がいたら、あいてる時間に聞いてみた方がいいわね」

「うん…………………」


 僕の動きがこの後に何か影響するとするなら、ここは江須羽の動きに合わせていた方がいいのだろうか。僕が行動したことで、犯人確保に一歩近づけるかもしれないが、それでもっと大きな事件に発展する可能性も否めない。そうすれば、僕だけでなく江須羽、もっといえば学校の生徒全員を危険な目に合わせることになるかもしれない。


「じゃあ、クラスにいるという件はそんなに急がなくてもいいか。先走ってやった結果が、犯人の思惑通りに進んじゃうかもしれないからな」

「うん、それがいいよ」


 まあ、そもそも犯人をはっきりと特定できない状況で、探そうってのも無理があるが………


「それで話を戻すと、学校に来る生徒はいつでも聞ける。だけど、不登校だった場合とかは学校では会えないよね?」

「うん」

「それに、たとえ休んでいたとしても、学校のことをある程度知ってるかもしれない。もしそうなら、学校のどこにいれば見つからないとかどこからが校庭を見やすいとかも知ってるんじゃない?って思ったの。もちろん、その人が犯人だって限らないけど、いつも学校に通っていたのに突然不登校になったりしたらさすがに怪しまれる。だったら最初から学校にいない方がいいからね。手押に恨みを持ったり何か反撃したりする原因が昔にあるなら、そのころから休んでいてチャンスをうかがってたのかもしれない」


 僕は何となく頷いた。

 江須羽の話は筋が通って無くもないが、結局のところ犯人を探したいのかそれ以外の要因を消していきたいのかがはっきりしていないような気がする。まあ、答えに辿りつくための条件が限られていないから、どうしようもないと言えばそうなるんだろうけど。


「これはあくまでも私の勝手な考えだけどね。こんな単純な事で事件を起こしたりなんてことはたぶんないと思うんだけど」

「でも、不登校の生徒を訪ねてみるってのはいい着眼点だと思うぞ?普段顔を出さないから裏で何かやってるとか考えれそうだし。だけど、犯人は何かしらの能力を持ってる可能性が高いんだよな?」

「うん、だってそうじゃないと説明ができないもん。まあ、私たちの想像を超えた方法でやったって可能性もあるけどね」


 推理小説の伏線では、普通では考えられないような巧妙な手段を使ってくることが多い。しかも、それぞれが全く違っているため、どんなに先読みしようとしても、考えた結果が伏線とは全く違っていたというのはよくある。それこそ、超能力みたいな不思議な力を使ったとしか思えないような方法もたくさんある。この事件において、もしそんなのが使われたのだとしたら、普通の考え方ではだめだ。常識を超えたひらめきと、たくさんの証拠からじっくり判断しないと犯人にたどり着くまでに長い時間がかかってしまう。あ、でも証拠集めは今やってるんだっけ?なら残るは…………………………………推理だけか。


「それで、最初に尋ねる人物ね。クラスメイトかつ不登校の人物が一人、まだ私も会ったことない生徒がいるのよ。今日来てもらったのは、その人に会うためってわけ」

「そんなやついたっけ?」

「それがいたのよ。同じクラスになったのは中2の時だったから、中1の時の事はわからないんだけど、そのころから1回も学校に来てないの。先生に聞いたら、一応、中1の頃には何回か来ていたらしいんだけど、そのクラスの担任の先生は別の学校に行っちゃったからよくわかんないんだって。私も気になって、中2の頃に先生に住所を聞いて訪ねてみたことがあるの。だけど、インターホンを押しても返事がなくて、声かけても誰も居ないみたいにしんとしてる。もしかして引っ越したのかなって思って、次の日先生に聞いてみたんだけど、住所は変わってないから引っ越したりはしてないらしいの。今はどうかわからないけど、もう一度行ってみようと思ってね」


 そう言って彼女は一本道の途中で足を止めて、左を向いた。


「それで、ここがその生徒の家。不登校なのにこんな家に住んでるなんて、私も初めて来た時はびっくりしたわよ」


 どんな家なんだ?いい家に住んでるのか、あるいはぼろぼろの家に住んでるのか。

 僕も立ち止って左を向いた。

 その瞬間、この言葉しか出てこなかった。


「うそだろ!」


 それは僕の想像をはるかに超えていた。

 もう、家と呼べるレベルなのかもわからない。

 これを一言で表すとするなら、こうなる。


「……………………でかい。もはや豪邸じゃないか!」


 石の壁が左右にずっと続いていて、鉄格子状の大きな門がある。そしてそこから見える住宅街の真ん中に突然姿を現したその建物は、西洋風の作りの3階建てで、圧倒的な大きさを持つ巨大な豪邸だった。全体的なイメージはフランスのヴェルサイユ宮殿に近い。こちら側に面した部分でさえも、軽く幅50メートルを上回っていて、なぜ今まで気付かなかったのだと思うくらい壮大だ。土地の広さは、入り口近くだけでも普通の民家の土地よりも遥かに広く、駐車スペースはおろか、これまた巨大なシャッターがあって、その中がかなり広いであろうということが雰囲気だけでもうかがえる。建物の奥に広がる庭もかなり大きく、入り口からでは建物の全容が全く把握できない。玄関も両開きの大きな木の扉で、そこに行くまでの道のりには、芸術品と言わんばかりの小道が続いている。

 よっぽどの金持ちでも、こんな家には住まないだろうと思うぐらい、大きくて、立派な豪邸だった。そのため僕はその場で言葉を失い、かなりの時間そこで立ち尽くしていた。


「ほんと大きいよねこの家。住んでる人に一度でもいいから会って……………………って手押?」


 江須羽は僕の肩をポンポンと軽くたたいた。


「……………………おっと、すまん。この豪邸が凄すぎてつい圧倒されてたよ」

「やっぱりね。私も始めてみた時は同じようになってたと思うよ。だって凄すぎるもん。こんな家に住んでるなんてさ」


 僕は頷くしかなかった。


「だけど今の目的は違うでしょ?見とれてたらそれで終わっちゃうよ」

「そうだった。早く尋ねないとだな。でもどこにインターホンがあるんだ?」

「あそこ」


 江須羽は指でその場所を示した。僕はその延長線上を視線でたどって行き…………


「玄関のところじゃん」


 僕は内心、「うわぁ~」的な状態になった。

 雰囲気が雰囲気だけに、この家には踏み込みにくい何かを感じる。お屋敷とかに入るときに、入りにくいという雰囲気を感じたことは無いだろうか。何となく、そこから世界が変わっているというか、別の空間にように感じるとか。自分みたいな人間が、こんなところに来てしまっていいのだろうか、と。たとえこの家に人がいないのだとしても、インターホンを押しづらい空気が僕をこの場から動かそうとしない。

 だけど江須羽はそんな物お構いなしに門を開け、入り口の小さな道を歩いていく。1回来たことがあるから、もう慣れてしまったのだろうか。とにかく、僕も慌てて江須羽の後を追った。気持ち的にかなりきついが、ここの入りにくいというのをできるだけ考えないでおこう。

 玄関の扉の前にしても石段が二段ほどあり、大理石でできた段が扉を中心にして半円状に広がっている。その二段目はかなり広く作られていて、まるで高級ホテルの入り口じゃないか、と思わせるほどに豪華な造りになっている。


「うわぁ……すげぇ………」


 ようやく扉の前に辿りつくと、江須羽がインターホンを押した。

 昔からあるような「ピーンポーン」という音が機械から小さく聞こえた。家の中ではいったいどのような音が鳴っているのだろうか、と想像が膨らむ。

 沈黙が長く続いた。その間に聞こえてくるのは、降り続けている大粒の雨の音だけだ。

 しかし、いつまでたっても反応がなかった。


「…………………………いないのかな?」


 そういってもう1回押した。


『ピーンポーン』


 …………………………。


 やはり反応がない。

 僕は扉を軽く叩きながら言った。


「すみませーん!誰かいませんか?」


 再び待ってはみたものの、やはり反応がなかった。


「…………………どうする?」


 僕は彼女に聞いた。


「いない……………のなら仕方ないわね。本当は今日会うつもりだったんだけど、これじゃあ会えないし……」

「居留守の可能性は?」

「それもあるけど、本人が出てくれなきゃどうしようもないじゃない。無理やり入るわけにもいかないんだからさ」

「そうか…………………」


 やはり、不登校の生徒はそう簡単に反応してくれないよな。まあ、人と関わる事が苦手な人たちに強引を押しつけるつもりはない。ただ今回の件もそうだが、出来る限り反応してほしいというだけだ。もちろん、僕が来ることをわかった上で、あえて隠れているのかもしれないが。

 でも、反応がないから仕方ないか…………………………………

 僕は体を反転させ、その場から離れようとしたその時だった。


「……………………どちら様ですか?」


 インターホンのスピーカーから声がした。

 一瞬だったが、女子生徒だということが分かった。

 返事があった!やっぱりいたんだ!

 すると江須羽が、


「えっと、あなたと中学で同じクラスの江須羽と手押です。ちょっとお尋ねしたいことがあるのでよろしいでしょうか?」


 反応を待った。

 さて、いいと言ってくれるのだろうか。ここで拒否されたら、手掛かりの一つを失うことになるぞ…………………

 と思いつつも、返答を待ったが。


 …………………………………。


 また返事が無くなった。


「……………またか」


 今度こそ無視されたか?僕の名前を言ったから警戒して会うのをやめたのか?なんかまずくないか?

 僕は小さな声で江須羽に言った。


 (あのさ、名前言わない方がよかったんじゃないのか?こいつがもし犯人だったりしたら警戒されるんじゃ………)

 (だけどさ、言わなきゃ言わないでなんか失礼じゃない?それにこの子が犯人って決まったわけじゃないし、一応誰が来たのかは伝えておかないと)

 (そうだけどさ…………)


 僕はどうなってしまうのかと心配していると、


「…………………………どうぞ入ってください。ドアは開けましたから」


 その音声ははっきりと聞こえた。


「あ、はい!」


 とりあえず返事はして、と。

 これで、第一関門クリアか……………………

 防犯のために、わざと声を濁したりする機械もあるのだが、それを使っているようには思えなかった。だとすれば、さっきの沈黙は僕を警戒していたわけではないということなんじゃないか?可能性としては無いわけではない。しかし、わざと家の中におびき寄せていることも考えられる。

 僕は江須羽の方を見て言った。


「どうする?」

「どうするって言っても、入っていいって言われたんだからここで帰るわけにはいかないじゃん。とりあえず話だけは聞いてみない?」

「でもさ、これは罠かもしれないんだぞ?こんな大きい家なんだから、中にどんな細工がしてあるかわからないじゃないか」

「大丈夫、手押ならそんなことがあっても助かるって。今は話を聞くことが優先」

「なんじゃいそりゃ。僕の事そんなに軽く考えてるのか?」

「そうじゃない………………けど。大丈夫。心配はいらないよ。そんなことばっかり考えてたら本当にそうなっちゃうよ?」


 そう言いながらも彼女は扉を開け、豪邸の中に入って行った。


「おじゃまします」


 僕もその後に続いて扉を抜けた。


 

 中の広さは見ての通りだった。

 圧巻。それ以外には無いだろう。

 最初に見たのは、大きな玄関。

 もう大体は予想できていたものの、実際に見るのとはわけが違う。言ってしまえば、一流ホテルの入り口が、そのまま玄関に置き換わっているかのようだ。人が横に何人並べば、この玄関を封鎖できるか試してみたい。そこの飾り付けも実に華やかで、右手には一人では持ち上げられないくらい重そうなつぼに入っているきれいな花。左手には、底面の面積だけなら、学校のプールを半分にしたくらいの大きさがある巨大な水槽。その中を泳いでいるのは、見たこともない色鮮やかな魚たちである。天井も普通よりも二倍ほど高い位置にある。そのせいで、中がさらに大きく見えるのかもしれない。

 そして長く続く廊下。

 遠くの方は明りがあまりともってないせいかもしれないが、かなり遠くまで伸びている。外から見た感じではあまりわからなかったが、実際に見てみると建物の大きさを実感できる。その道の途中にはいくつものドアがあり、さらに廊下自体も交差点のように何回も交わっている。これではまるで迷路ではないか。


「す、………凄すぎる」


 見た目は海外の建物だが、中は日本の家と同じように靴を脱いで上がるようになっているようだ。僕と江須羽は靴を脱いで、どう見ても安くはないであろうカーペットの上に足を乗せた。これもまた、廊下に沿ってどこまでも続いている。


「ええっと…………………」


 僕は頬を掻きながら、


「僕たちみたいな人間がこんなところに来ていいのかねぇ」


 と言いつつも江須羽の方を見ると、彼女も彼女で驚いた顔のまま止まっている。


「おーい、江須羽?」


 ところが彼女は反応が無く、放心状態のままで何も変わっていない。


「まあいい。そんなことよりも…………」


 僕は廊下の先、そして横に広がる空間を見回してから、


「あいつの部屋は、どこなんだ?」


 見た限り、廊下にあるドアだけでも軽く10はある。その先にまだあるのだろうし、そもそもこの建物は3階建だ。探すだけでもかなり時間がかかる。


「別に一つずつ探していっても構わないんだけど…………」


 ここで今日の本来の目的をもう一度確認しようとした時、忘れてはいけない項目を思い出した。僕は足元を入念に見回した。

 今日会う人が誰なのかを考えた時、最初に思いつく事は一つしかない。


「迷路構造故の、トラップの仕掛けやすさか。気をつけないと」


 と言っても、どこにそんなトラップがあるかなんてわかったもんじゃない。もしかしたら、江須羽の言うとおり「何とかなるかもしれない」に任せることしかできないのかもしれない。


「はぁ~。かなり厄介なことになったな」


 だけど、そんなことを言ったところで何が起きるとも限らない。とりあえず、当の本人だけでも居場所を突き止めないと。

 僕は江須羽の肩をポンポンと叩いて現実に引き戻すと、少し慎重な足取りで歩きだした。


「とりあえず、1階を全部見て回るか。ただし、何があるかわからないから慎重にな」

「うん、わかった」


 広さ故なのか、建物の中はやたらひっそりしている。僕たちの足音以外には、遠くから聞こえる雨の音だけがごうごうと響いていて、湿った空気と相まって、何だか不気味な空気を生み出している。壁には一定の間隔で明りが並んでいるが、寿命が近いらしく、時々点滅したり、あまり明るくないものがある。

 そんな雰囲気に怖くなったのか、江須羽が僕に隠れるようにして腕に抱きつく。


「大丈夫か?」

「うん、ちょっとね」

「何かあったら遠慮せずに言えよ。今は安全を第一に考えた方がいいからな」


 僕はどんどん奥へと足を進めた。

 途中には似たような扉がいくつもあり、自分が今どの辺を歩いているのかもわからなくなってくる。僕は玄関からどのようなルートを通ったかと、どこかにあるかもしれない罠の両方に頭を使わされた。

 いちばん外側にあるのであろう廊下には窓がいくつも付いていて、広い庭がよく見渡せる。それぞれの窓も、西洋風の凝った作りでできている。

 さらに驚いたのは、家の中央付近には広間があり、そこの天井が吹き抜けになっていることだ。そもそもこの家の一階分の高さが普通の家より高くなっているため、このような構造を実現できたのだろう。

 とりあえず1階を一通り見て回ってから、玄関に戻った。


「やっぱり広いな。気をつけないと本当に迷子になっちゃいそうだ」

「じゃあ、はぐれた時の集合場所はこの玄関にしておかない?そうすれば、はぐれちゃっても大丈夫でしょ?」

「ならそうしよう。さて、1階は見たから次は2階か」


 玄関付近に大きな階段があった。らせん状ではなく直線にできているのだが、これまた幅が広い。

 階段を登りきった後にも、1階と同じような廊下が続いている。


「さっきとやることが変わらないな……………。せめて雰囲気だけでも変えてほしかったよ」


 2階も同じように回った。途中一階といくつか違うところはあったが、迷路みたいになっていることには変わりない。結局何も見つけられずに階段のところに再び帰ってきて、そのまま3階に続く階段を上がった。


「1階にも2階にも居ないってことは、3階だな。、隠れてないで顔ぐらい見せてほしいもんだよ。広すぎて探すのが大変じゃないか」

「うん、そうだけど…………………」


 僕の文句とは逆に、江須羽は何か考え込むような仕草を見せた。


「どうした?」

「あのさ、なんか変だと思わない?」

「何が?途中に罠が無かった事とか、わざわざ三階にいるってこととか?」


 彼女は首を振った。


「違う。私が言いたいのは、インターホンを押したのに、誰も見つけられなかった。誰にも会わなかったってことよ。この家の人はどこに行ったって言うの?誰か来るなら、普通は玄関で出迎えてくれてもいいはずだよね?」

「ああ、確かにな」


 僕のイメージが間違ってなければ、豪邸にはメイドさんなんかがいて、お出迎えも豪華なものだと思う。家の中もきれいにしてあって、尋ねたい本人のところまで案内もしてくれるんじゃないだろうか。

 一方不登校の生徒は常に家にいるため、昼間尋ねたら仕事で親がいないんだと思う。だから本人以外いなくても不思議ではない。だが今日は休日だ。よっぽどの事が無ければ、普通は家にいるはずだ。なのに会わないのはどうして……………………?


「普通だったら、親が家にいるもんなんだよな。いないってことは…………………休みの日もずっと仕事してるんじゃないのか?こんなでっかい家を持ってるくらいだ。スケジュールが秒刻みの、超一流の大企業の社長さんとか、泊り込みでどこか遠くに出張しているとか。そのせいで、家に帰る時間がほとんどとれないんじゃないのか?」

「そうかもしれないんだけど、なんか違うような気がするんだよね……………」


 すると彼女は顔を元の表情に戻して、


「まあ、こんなことを考えていてもどうしようもないんだけどね。そのうち気になることがはっきりわかったら、本人に聞いてみよう」

「そうだな」


 話しているうちに3階についた。

 僕は思わずため息が出た。


「何でこんなに探さなきゃいけないのかなぁ……………」

「仕方ないでしょ?でっかい家なんだから」


 そういって僕たちは歩き出した。

 ところが、3階は今までの階層とは打って変って違う作りになっていた。まず大通りのような廊下が2本あり、交差点のようになっている構造は変わらないものの、奥までが簡単に見渡せるようになっている。それぞれの道の幅も広く、またドアとドアの間隔も広くなってる。この階だけは、スペースを超贅沢に使っているようだ。

 全体的にいえば迷路のような構造ではなく、それぞれが大きくなっているので、迷うことは無いだろう。


「どうやらさっきとは違うみたいだな。なんかすっきりした感じと言うか、わかりやすい構造をしているんだな」

「これなら探しやすいかもね。ただ………………」

「ただ?」

「もしこれが罠で、今までに何もなかった。人すらも居なかったとしたら、ある可能性が浮かんでくるかもしれない」

「ある可能性?」

「うん、このまま会えれば、それでいいんだけどね」


 何なんだ?それは一体。

 僕はそれについて聞こうとしたが、彼女は歩き出したので、仕方なく付いて行った。

 しばらく歩いて行くと、2本の廊下の間に吹き抜けがあった。その周りを取り囲むように廊下があり、それ自体も横にずっと伸びている。吹き抜けをのぞいてみると、一階までかなりの高さがあった。それもそのはず、この建物の一階分は普通の家よりも高い。ショッピングモールの一階分ぐらいだとイメージすればいいだろうか。よって、そもそもの大きさも普通の3階建よりも大きくなっているのだ。

 そんな高さに驚きつつ、奥を目指す。

 そして、一番奥の通りに出た。

 と言っても、やはりがない。窓に近づいて外を見てみると、降りしきる雨粒がガラスを濡らしていて向こう側がよく見えない。


「どこにいるんだろう…………………」


 と、つぶやいたその時。


「ねえ、あそこ……………」


 彼女が廊下の一番奥を指差した。


「どうした?」


 僕は視線を辿っていく。

 同じような扉が壁にそって奥まで続いている。雨の音以外には、何も聞こえない廊下。人の気配は全く感じることができず、ここにはいないんじゃないかと思ったのだが、注意を払ってよーく見てみると、一番奥の扉が若干開いていて、そこから部屋のものと思われる光が伸びている。

 僕と江須羽はいったん顔を見合わせてから、同時に頷いた。そして、ゆっくりとその扉に近づいて行った。


(ここで間違いないよな……………?)

(うん、だって他にいそうな場所なんて無かったでしょ?)


 ドアの前に立って、隙間から中を覗いてみた。しかし特に何かが見えたわけでもないので、恐る恐るドアを開けてみた。ドアは意外なほどに滑らかに、音を立てずに開いた。

 中は廊下よりもわずかに明るく、床には本やら服やらがいろいろ散らばっていて、片づけていない様子が見てわかる。なのに埃が舞っている様子は無い。空調設備が完璧なのか、この雨だというのに気温が適切に保たれており、湿ったような嫌な空気でもない。いったいどんなシステムが導入されているんだか。

 そして、部屋の真ん中あたりに置いてある大きなソファに座る人影があった。

 ソファは向こうを向いていたので顔はわからなかったが、お嬢様がするような凛とした姿勢で座っている。


 あいつが………………………!


 するとその人物は僕たちに気付いたのか、立ち上がってこっちを見た。暗さのせいか、顔はよく見えない。


「あ、来たみたいですね。どうぞ、中に入って」


 そう言ってその人物は部屋の奥に入って行った。

 声は透き通るようにきれいなのだが、何とな声色が暗い感じがした。歓迎は…………しているようだが、孤独の世界にずっといたような、寂しさも混じっているような。

 部屋の真ん中あたり、ソファとテーブルが置いてあるところ辺りにまで来たら、部屋が明るくなった。奥で部屋の明かりを調節したのだろう。部屋の端にある別のあけっぱなしのドアから声がした。


「どうぞお座りください。今お茶を出します」


 僕と江須羽はとりあえず、どう考えても安物ではない大きなソファに腰掛けた。


「よいしょっと。おわっ!」


 その瞬間、体が驚くほどソファにかなり深く沈みこみ、ふんわりとした生地が足から肩までを包み込んだ。

 なんだこれ?すっごい座り心地がいいぞ!

 体がとても癒されるというか、いつまで座っていても疲れないぐらい、ふんわりとしている。こんなソファは今まで座ったことは無いし、見たこともない。いっそのこと、自分の家に置いておきたいくらいだ。

 隣を見ると、江須羽もとても気持ちよさそうな顔でゆったりしている。

 …………………まあ、今はそんなこと置いといて。

 奥の部屋から、かちゃかちゃと食器どうしが当たるような音がして、それからトポトポとお湯を注ぐような音がした。しばらく待っていると、トレ―の上に湯気の出ている三つのティーカップを乗せてこっちの部屋に戻ってきた。

 可愛い子だった。少しウェーブ状の茶色がかった髪が肩のあたりまで伸びていて、育ちの良さと言うか、雰囲気がこの家に合うような気がする。体も江須羽なんかより大人びた風格で、まさにお嬢様と言った感じにも見えるのだが、どこか沈んだ雰囲気を伴っていて、服もそこまで豪華なものではないためか、可愛さが台無しになっている。


「どうぞ、大したものではありませんが」


 テーブルにそれぞれカップが置かれ、そいつも向かいのソファにゆっくりと腰掛けた。

 そのカップと中身についてはもはや説明はいらないだろう。


「…………………いただきます」


 手にとって、一口飲んでみた。程よい温かさと何とも言えない香ばしいにおいが、雨で冷えた体を芯から温めてくれる。じんわりと広がる温かみにしばらく体を任せ、話を切り出すタイミングを待った。

 雨の音がごうごうと響く中、お互いに沈黙が続いた。


「………………………………」


 僕は江須羽を横目見て、今かな?と思いつつも話を切り出した。


「………………いきなり押しかけてすまない。今日はちょっと話がしたくて来たんだ」


 江須羽もそちらに顔を向ける。


「まず名前を聞かせてほしい」


 彼女は頷いた。


「私は麻技亜未来(まぎあみく)。あなたたちは………………」

「僕は手押有希、こっちは江須羽由美だ」

「そう……」


 そう言って紅茶を啜った。


「…………………………実は、今日ここに来た理由はキミの事についてなんだけど………」


 江須羽も僕の話し始めと同時に姿勢をただし、真剣な顔で麻技亜の顔を見る。


「聞いちゃダメかな?」


 再びの沈黙の後、ため息をついてから麻技亜は話しだした。


「……………聞きたいことはわかってます。どうして学校に来ないか、ですよね?」


 僕は頷いた。


「まあそういうことだ。でも何でわかったんだ?」


 彼女は再びため息をついて、


「今までにいろんな人が家に来ました。同じ学年の生徒や、先生とか。でもみんな同じことしか聞いてきませんでした。だから今回もかなって。実際そうだったんですけどね」


 すると江須羽が彼女の方に身を乗り出しながら言った。


「どうして来ないの?何か大きな理由でもあるの?」

「いいえ。そんな大きな理由とかではなくてただ行きたくないだけです。これは本当に個人的な理由なので、それほど大変なことではありませんよ」

「そっか………」


 彼女は頷いた。

 やっぱりこれないのにはそれなりの理由があるってことなのか………

 次に僕が言った。


「その理由ってのはなんなんだ?できれば教えてくれないか?」

「はい。できればそうしてあげたいのですが、それについてはちょっと言えません。少し言いにくいっていいますか、その…………」

「別に言いにくければそれでいいさ。強制するつもりはないから」

「はい…………ごめんなさい」


 今度は江須羽が言った。


「じゃあさ、また行ってみたいとか思わない?1年の頃は来てたでしょ?もう一度、学校のみんなに会いたいとか、ない?」


 麻技亜は首を横に振った。


「今はちょっと………。会いたいって気持ちは無いわけではないんですけど、私としてはあんまり行きたくないんです」

「なら1回でもいいから、学校に来てみない?嫌だったら、すぐに帰るようにしたりとか」


 再び首を振った。


「ごめんなさい。あなたの誘いは嬉しいのですが、今はそんな気じゃないんです」

「そうなんだ……………」


 江須羽は若干肩を落とした。


「やっぱりその理由が大きいんだね………」

「はい、まあそれほど大きな理由じゃないんです。本当にこれは個人的な気持ちが入っているだけで、行こうと思えば明後日からでも行けます。昔は行ってて楽しかったです。学校が嫌いってわけじゃないので、完全に行く気が無いってわけじゃないんですが、でも今の私はとても行けるような状態じゃないので……」


 それを聞いた江須羽は何か言おうとして、そのまま引いてしまった。

 行きたくない人を無理に連れていくのはさすがに無茶があるよな………………

 再びお互いの間に沈黙が生まれる。

 僕は麻技亜の顔を見た。

 さっきと変わらない、どこか悲しみを含んだ表情をしている。江須羽の言葉は届いているんだろうけど、彼女の中にある何かがそれを拒んでいるかのようだ。彼女の言う、個人的な理由がそうであると考えられるが、一体どうしたっていうんだ?それに、まだこいつが犯人じゃないっていう確信もないし。

 とりあえず、今は彼女にできるだけいろんなことを話してもらうようにすることがベストか。


「あのさ」


 僕が言うと、麻技亜がこっちを向いた。


「その………やっぱり学校に行きたくないって理由をできる範囲で教えてくれないか?もちろん無理にとは言わない。話したくなかったらそれでいいから、ちょっとでも教えてほしいんだ。僕も何か力になれればと思ってさ」


 僕の言葉に、麻技亜は若干の頬笑みを浮かべながら言う。


「ありがとうございます。そこまで私の事を考えてくださって。ですが、やっぱり理由は言えません。優しい気持ちはとてもよくわかりますが、あなたたちとは今日会ったばかりで、同じ学校の生徒だとしても、私としても今は言いにくいところがあるので……………」


 さすがにダメか……………。


「そっか。ごめん。なんか失礼しちゃったね」

「あ、いいえ。別に失礼などではありませんよ。あなたたちの気持ちはよくわかりますし、私が勝手に嫌なことだって決め付けてるだけなかもしれません。むしろこうやって、同級生からの言葉に対しても嫌だと答えることしかできない私の方が失礼ですよ…………」

「いや、それならプライベートな領域に入りこもうとした僕の方が失礼だよ。いきなり家に押しかけて、会ったのはこれで初めてなのにいろいろ聞き出そうとしちゃってさ」


 麻技亜は首を横に振った。


「違います。あなたたちは悪くありません。私の事を考えてくれてる人に失礼な態度をとっている私こそがそうです。ごめんなさい、反対することしかできなくて…………」


 麻技亜は本当に申し訳なさそうな顔をした。本当は彼女は悪くないはずなのに。

 今日僕たちは初対面で話をしたが、今までいろんな人が訪ねて来たんだろう。その度に、こんな暗い気持ちになってしまうのはかわいそうだ。しかし、彼女がなぜそこまで断るのかはまだ分からない。これがわからないと話は解決しないが、これが原因で話しづらくなっているとなるとどうにもできない。まずは彼女の心をほぐすところから始めるべきなんだろうが、さてどうしたもんか………………

 と考えていると、江須羽が麻技亜に言った。


「あなたは、いつも家にいるの?たまには散歩したりとかしない?」

「あまりしませんね。買い物なんかで、ちょっと外に行くくらいです。後はそんなに出たりはしない、かな?」

「ふうん」


 江須羽は何か考えこんだ顔をしてから、


「じゃあ、誰かと一緒に出かけたりはしない?ここに来た人とか、私たち以外の同級生とか」

「それは一度もありません。学校にずっと行ってないので、何となく顔を合わせづらいのもあって…………」

「たしかにね。だけど、友達も会いたいって思ってるんじゃないの?」

「それは私もわかってます。しかし、私の中じゃどうしてもその気になれないんです。会いに来てくれたみんなは悪くないのに、私が断っちゃったから更に……………」


 それを聞いて、江須羽は肩をすくめた。


「まあ、結果から言えば全部私のせいなんです。勝手に行きたくないって思ってることも、その理由を作っちゃったのも。だからあなたたちには迷惑はかけたくないんです。今日こうやって来てくれたことは嬉しいけど、私の身勝手な行動に付き合わなくてもいいんですよ?もともと何のつながりも無かったのに……………」


 麻技亜は再び下を向いてしまった。

 確かに彼女と僕たちは何のつながりもない。一応、同級生という枠組み内では一緒の空間にいる事になるが、直接話したこともないし、存在すら知らなかったくらいだ。普通だったらそこまで関わったりはしないだろう。だけど今日来た理由はもっと別にある。事件の犯人を捜すという名目だ。だが彼女からはそれに関わっていると思わせる言動がない。それにせっかく来たんだから、どうして学校に行きたくないのかを聞いてもいいじゃないか。


「そうだけどさ」


 僕の言葉に麻技亜が顔を上げる。


「知り合っていたとか、前に借りが合ったとかの話じゃなくて、今日は何でお前が学校に来ないかを聞きに来たんだ。それで、何か理由があって行きたくないって思っているんだったら、悩みを聞いたりとか解決してやりたいとか、思ったりしたらダメか?」

「ダメではありません。そう思ってくれてるのはとっても嬉しいです。でもごめんなさい。今は無理なので………」

「そうか………………」


 さすがに、無理を強いて学校に行かせるわけにはいかない。彼女の心境がとても複雑なものだってのはよくわかるが、彼女もそれのせいで辛いのだろう。そもそも今日は犯人探しが目的だ。麻技亜がその可能性が低いと思えたなら、他を辺りに行くほうがよいだろう。

 だけど、どうしてもこのまま放っておけない。

 辛い人がいたのなら、助けたいって思う気持ちがそうさせているのかもしれない。でも、今はできる範囲の事、当初の目的どおりに話を進めるべきだ。


「ひとつ聞きたいことがある」

「何ですか?」

「最近学校で何があったかとか知ってるか?」


 麻技亜は首を横に振った。


「いえ、知りませんね。学校は買い物で前をたまに通り過ぎるぐらいですから」

「ふうん、わかった」


 麻技亜が「?」といったかんじに首を傾ける。


「何かあったんですか?」

「いや、特に無いよ。ただ、学校に行きたい思いで近くまで行ってるのかなぁって思っただけだ」

「そう…………………」


 これが本当なら、彼女は犯人ではない可能性が大きい。隠してるだけなのかもしれないが、今のところはそうでないと考えられるな。だとすれば今日するべきことは終わったということだ。


「もういいんじゃない?」


 僕の考えていたことを察したのか、江須羽がこっちを見ながら言った。


「そうだな」


 僕はソファから立ち上がった。


「じゃあそろそろさせてもらうよ。今日はごめんな。いきなり押しかけちゃって」

「いいえ、大丈夫です。私としても話してくれる人がいて楽しかったです。いつも私は一人で家にいるからずっと退屈で仕方が無かったので」

「ならよかった」


 僕と江須羽は部屋を出た。麻技亜も一緒について来て、玄関のところまで見送りに来てくれた。

 靴を履いて、玄関の扉を開けようとする前に、江須羽は麻技亜の方を振り返った。


「そうだ!」


 麻技亜が首を傾ける。


「どうしたんですか?」

「明日、一緒にお出かけしない?」

「え?」


 一瞬、驚いた顔をして、しかしまた表情はもとに戻ってしまって。


「お誘いは嬉しいのですが、私外出は苦手なんですよね………………」


 引き気味な麻技亜に対し、江須羽は優しく語りかけるように言う。


「大丈夫。ちょっとその辺をお散歩するだけだから。それに、心配する必要はないよ。外に出たって、危険なことはないんだし」

「ですが…………………」


 麻技亜は言葉を濁す。それを見た江須羽は若干、悲しそうな顔をして、


「本当に、ダメ?」

「……………………」


 また訪れる沈黙。だがそう長くは無かった。


「……………………いいですよ」


 ゆっくりとだが、麻技亜はそう言った。


「ほんと?」

「はい」

「ほんとにほんと?」


 江須羽は念を押すが、帰ってくる答えは変わらなかった。


「いいですよ。一緒にお出かけしましょう」


 さっきとは打って変わって、江須羽が目を輝かせる。


「ありがとう。そういってくれて嬉しいな」


 そう言いながら両手で麻技亜の両手を握る。


「じゃあ、明日また来るね。時間は何時がいい?」

「そうですね…………………」


 顎に人差し指を当て、考えるような仕草をした後、

「じゃあ、朝の10時ごろでいいですか?」


「わかった。じゃあそのころになったらまた来るね」

「はい。あの、何か準備しておいたほうがいいものはありますか?」

「いや、特にはないと思うけど、まああえて言うなら財布とケータイぐらいかなぁ」

 僕は江須羽のほうを見た。彼女も同意見のようで、僕を見て頷いた。

「わかりました。ではまた明日、よろしくお願いしますね」

「おう、明日な」

「またね~」


 扉を開けると、じめっとした空気が建物の内部に流れ込んできた。そのまま外に出て、丁寧に扉を閉めてから僕たちは歩き出した。

 しばらく無言のまま歩いていて、先に切り出したのは江須羽のほうだった。


「ねぇ?」

「うん?」


 僕はなんとなく聞いてくることを予想しつつも、返事をした。


「どうした?まあ言いたいことは大体わかるけど」

「まあね、でも確認はとっておいたほうがいいと思って。さっきちょっと話してみてあんまりそんな感じはしなかったど、あの子が犯人だと思う?」

「うーん、どうだろ」


 僕は少し考えてから、


「確かに犯人っぽい雰囲気はなかったよな。あえて隠してるだけなのかもしれないけど。どっちにしろ、今日だけの会話じゃ判断はできないよ。もし犯人だったとして、今日見逃した理由も、もっと麻技亜の考えてることを知るにも、明日になってみないとわからないと思う。」

「そうだよね。私としてもあの子のことあまり疑いたくはないし、明日に何も起こらなければそれでいいし」

「だな」


 お互いの意見に納得し、2人の間には沈黙が訪れる。ふと意識をよそにそらせば、降りしきる雨がアスファルトの地面を叩く音があたり一面から聞こえてくる。

 そんな感じの雰囲気で僕たちは住宅街を抜け、どちらが言い出したわけでもないのに、自然に牛浜駅へと足を運んでいた。

 僕は灰色に塗られた空を見上げながら言った。


「明日は晴れるといいな」

「せっかくのお出かけだしね。あの子のためにも少しでもいい天気になってほしいね」

「それで、麻技亜が少しでも明るくなってくれたらいいよな。一人で悩んでるより、話したほうがよっぽど楽になると思うんだけど……………」

「たしかにそうかもしれないけど、その抱えてる悩みを話すこと自体があの子にとって辛い事なのかもしれないよ?話したくても話せない。そんな状態が続いていたから、あんなふうに暗い雰囲気になっちゃったのかもしれないし」

「たしかにな」


 人間の心というものはとても脆い。皮膚と違って物理的な障壁はないから、傷つけようと思えばいくらでも傷つけられる。一部の人は、そういった攻撃に耐える訓練を受けてたりするかもしれないが、一般人にはまずいないだろう。自分では止められない環境の中で、じわじわと苦しみを味わっていったらどうなってしまうのか。


「……………」


 彼女の体験してきたことはそんな辛いことだったのかもしれない。もしかしたら、僕たちがさっき尋ねた時に話すチャンスがあったのかもしれない。だけど、彼女自身がそれを封じた。そもそも悩みが無かったのならいいが、あんな雰囲気では、何も問題ないと言われてはいそうですかと言う方が難しい。


「もしそうだったとしたら、本人は相当辛かったんだろうな……………」

「わからないよ、私たちにはあの子の考えてることは。けど、力になってあげることぐらいはしてもいいと思う。頭では拒んでいても、心のどこかでは助けを求めてるかもしれない」

「もしそうだとして、無事回復できればいいんだがな。だけどまだ、犯人ではないって考えも捨てることはできない。さっきも言ったとおり、明日散歩がてら、じっくり話し合ってみるのも悪くない。ただ、明日がダメだったとして、その次もさらにその次もダメとなると、少し考えなくちゃいけなくなる」


 あの家で何があったのか。僕の考えでは、両親はどこかに出かけっぱなしでいつも家にいないのだと思っていたが、実際は違うのかもしれない。何か重大な事件が起きて家族が離れ離れになってしまったのかもしれない。


「うーん…………」


 考えられる状況はたくさんあるが、実際確認してみないとわからない。推測を頼りに進んだ結果、彼女をさらに悲しい目に合わせてしまう可能性だってある。

僕の悩んでいる顔を覗き込んで江須羽が言った。


「まあ、今悩んでもしょうがないんだけどね。ただ私もできる限りのことはしてあげたいって思う」

「そうだな。でもある程度は目処を立てといたほうがいいと思うんだ。それに、麻技亜がもし犯人だった場合のことも」

「あの子自身が犯人じゃなくても、その身近にいる人が犯人って可能性もあるからね。そこまで探るのはちょっと大変だけど、これも本人次第なのよね……………」


 できれば彼女が犯人であってほしくない。だけど、もしそうだった場合はどうなるのか。

 散歩の途中でまた攻撃されるか、あるいは明日の待ち合わせのときか。いずれにせよ、明日になってみないとわからないことだが、現行犯逮捕できるのか。それに、彼女自身が犯人でなくても、別の危険性があるかもしれない。

 可能性としては否定できない話がある。例えば、


「犯人が僕に恨みを持っていると仮定した場合なんだが、もしかしたら明日の散歩中に攻撃してくるかもしれないな」

「たしかに」


 江須羽は何かに気づいたような顔をしてこちらを振り向いた。


「ってことは、それがもし本当に起きたら……………」

「ああ、そうだよ」


 僕は息を呑んだ。


「彼女には全く関係のないこの事件に、僕たちのせいで巻き込んでしまうことになる。運がよければやり過ごすことも可能だろうけど…………」


 再び、あの爆発の光景が頭に浮かんだ。


「犯人がトラップ状の攻撃をしてきた場合、今度こそ防げないかもしれない。やけど程度で済んだらそれでいいが、運が悪ければ最悪の事態になることだってありえる」


 2人の額に汗が流れる。

 犯人が何を考えているのか。麻技亜本人が今どんな思いをしているのか。そして、明日何が起きるのか。今の僕たちには全く予想ができない。いや、したとしてもそのとおりにはうまくいかないかもしれない。逃げ道を確実に用意したって、それで安心してしまったらもしもの場合に対処できない。


「……………ちょっとまずいことになっちゃったんじゃない?」

「ああ、そうだな……」


 江須羽は険しい顔で今来た道を振り返った。


「それに今更約束を断るなんてできないよね…………?」

「だろうな。本気で頼み込めばできるかもしれないが、彼女の期待を裏切りたくはないもんな」

「うん……………………」


 足取りが徐々に重くなる。

 江須羽の言葉を最後に、再び沈黙が訪れる。

 僕はその間、自分の中で考えた。

 麻技亜に対してどう接すればよいのか。事件の犯人が取るであろう行動は何なのか。そして、彼女の家では一体何が起きたのか。

 彼女が心を閉ざしている理由と、両親がいない理由は何か関係があるのか。考えるだけでいろいろなケースが出てくるが、一番確信を持てるものがやはり有力だろう。

 子供があんなふうになってしまう理由は、過去に何らかの悲しい出来事や辛い出来事があったからだと思う。友人の死とか、両親の虐待とか。親がいるかどうかは語られなかったが、ああやって生活ができている以上、どこかに住んでいて、彼女に仕送りでもしているのだろうか。そうなると、虐待の可能性は低くなるな。

 中1のときに友達がいたことはわかった。だがもし友人が死んだのであれば、学年、もしくは学校で問題になるはずだ。別の中学に進んだ小学校からの友達という可能性もあるが、僕がいる学校ではそのような話は聞いていない。あるいは、親戚の中に慕っていた人がいて、その人に何かあったとか。家族関係が関わってくるのであれば、家に両親がいない理由につながるかもしれない。

 ………………とこんな感じに自分の勝手な意見を作ってみたが、どれも確信を得られるようなものがない。あくまで可能性だけの話であって、本当はもっと複雑な事情があるのかもしれない。明日詳しい話を聞いてみるのも手だが、家の事情に土足で踏み込んでしまっていいのかとためらいが生じる。あくまで彼女から話してくれるまで、こちらからは深く入り込まないほうが、問題の解決につながると思う。

 ふと隣を見れば、江須羽もまた、何か考え事をしているように見えた。時々目を瞑ったり、小さく首を振ったり。今回の本来の目的は犯人探しであるが、いろいろな情報が不足したまま事件が起こる可能性があるために、彼女なりにいろいろ考えているのだろう。

 気づけば僕たちは牛浜駅周辺の繁華街へと足を踏み込んでいた。江須羽の今日の目的は一応済ませたはずだから、このあとどうするのか僕は知らない。


「江須羽?ここまで戻ってきたけど、これからどうする?」

「そうね。用事はもう済んだし、ここで解散してもいいんだけど…………」


 そう言いながら、あたりを見回した。


「これだけじゃちょっと物足りないでしょ?だからやることを本線に戻そうと思うの」

「本線?」


 僕が首をかしげると、江須羽はこちらに振り向いた。


「デートの続き。本来はあの子の家を訪ねたりしないでそうする予定だったんだけどね」

「え?デートの内容って麻技亜の家を訪ねることじゃなかったの?」

「違うよ」


 彼女は首を振って、


「本当はデートのほうを先に考えてたんだけど、昨日手押が犯人が誰かわからなくなったって言ったからこっちに切り替えたの。まあ私としても、デートは何をするものなのかわかんなかったからそれでいいんだけど」

「そうなのか……」


 僕はてっきり、絵須羽が犯人探しの予定を作ったんだと思っていた。しかし実際は、僕のわがままというか、勝手な思い込みに付き合ってくれたのだ。


「ごめん、僕の都合を押し付けちゃって」

「別に大丈夫だよ。下手に時間つぶすよりは、一緒に何かしたほうがいいかなって思っただけ。ただこれがデートって言えるかどうか私にはわからないから、この後にそれっぽいことすればいいんじゃない?手押のしたいことと、私のしたいこと。お互いにひとつずつあるでしょ?」

「そうだけど……僕の用事に無理にあわせなくたってよかったのに。本来はデートの予定だったんだから、そっちのほうを先にしても構わなかったんだけど」

「うん、そうなんだけど私としてはやることが曖昧になってるデートよりは手押の予定のほうがはっきりしていたから先にしたの。予定が決まってないのに私のほうを先にって言われても、どうしたらいいかわかんない。優先してくれる気持ちは嬉しいけど、ちょっとあの時は無理があったかな」


 江須羽は申し訳なさそうな顔をして、


「どっちかって言えば、デートの予定をいきなり入れた私の方が勝手だったよ。予定も聞かず、しかも明日の午前中にって。今思えば、私ももう少し落ち着いて予定を立てるべきだったのかも。だから私からも謝らないと。ごめんね」

「いや、いいって。そんなに気にすることじゃないし」


 僕は基本暇だ。いきなり予定を入れられようが、直前で行動しようが、特に準備が必要なければ対応はできる。だが彼女は僕を気遣ってくれた。相手のことを考えて予定を立てるのは当然のことなんだろうけど、今までそんなことを考えてくれる人間との付き合いが少なかった故に、ちょっぴり嬉しかった。

「わかった。じゃあこの後は江須羽のしたいことをするってことで」


 江須羽も笑顔でうなずいた。


「決まりね。といっても、何しようかな……」


 人差し指を頬に当て、「うーん」と考える仕草はとても可愛いと思うが、どうやら本人は真剣に考えてるようなので何も言わないでおく。仮にここで何か言ったところで、僕が決めることではないし、彼女のしたいことができなくなっては困る。


「やりたいことも特に決まってないし……………」


 そう言いながら再び周りを見渡す。


「ん?あんなところにあったんだ。そうだ。そこに行こう!」 

「決まったのか?」

「うん」


 彼女は嬉々とした顔で、近くにあるビルの根元を指差した。


「喫茶店。初デートとしては悪くないんじゃない?」

「いいと思うぞ?何から初めていいのかわかんないのなら、まずはテンプレから始めてみようってことだな」

「そういうこと。天気は悪いけど、そこなら関係なくいられるし、時間も自由に決められるってのもあるしね」


 僕は空を再び見上げ、


「と言っても、これだけ曇ってると今何時ごろってのもわかんなくなりそうだな

 曇りの日は、夕方に近づくにつれ雲のせいで晴れの日よりも暗くなるのが早い。今も若干暗いせいで、時計を見てないのもあって本当にいつごろなのかわからない。


「よかった、明日は晴れだって」


 道行く人の会話から、ふとそんな声が聞こえた。改めて周りを見渡してみると、比較的大きなビルの壁面に明日の天気が地域ごとに表示されていた。


《福生市周辺では今夜中に天気は回復し、明日明後日はすがすがしい天気になるでしょう。一部晴れのち曇りの地域がありますが、お出かけには問題ないでしょう》


 彼女は僕に背を向け、


「さ、いこっか」


 と言って歩き出した。


「おう」


 返事をして、僕もついて行く。

 喫茶店『Schnauzer』(シュナウザー)。名前の由来は、ドイツ原産の犬の名前と思われる。上が派手なビルであるだけに、外見こそあまり目立たないが、入り口は凝ったつくりの木製のドアで、中に入ってみると外の町の景色とは裏腹にレトロな雰囲気をかもし出すカフェだった。壁はレンガや木で、店の中を照らす明かりはオレンジ色と言ったらいいのだろうか。程よい明るさに保たれた照明は、心を落ち着かせてくれそうだ。

 ドアを開けたときの「カランコローン」という音が鳴って、カウンターにいるオーナーさんがこちらを見た。


「はい、いらっしゃい」


 オーナーさんは60歳ぐらいの初老の男性で、いかにもこの店を長くやっているであろう雰囲気をかもし出している。お客さんを暖かく迎える笑顔がまたなんともいえない。


「2名様でよろしいですか?」

「はい」

「かしこまりました。カウンター席とテーブル席がございますので、お好きなほうにお座りください」


 休みの日の午後でありながら、店内はそこまで混んではいなかった。やはりこの雨ではそこまで外出はしないのだろうか。そんなことを考えながら、僕たちは窓側の角にある席に座った。

 しばらくメニューを眺めていると、オーナーさんがやってきた。


「ご注文はお決まりですか?」


 江須羽ははじめから決まっていたかのように答えた。


「私はホットミルクティーとティラミスで。手押は?」

「そうだな…………」


 僕は特に決まってもなかったので、適当に各ページを見回してから、


「じゃあアイスコーヒー、砂糖は少なめで」

「かしこまりました。では少々お待ちください」


 オーナーさんは軽く会釈をして、カウンターに戻っていった。


「ふう」


 メニューの冊子を閉じて机の横に置き、背もたれに寄りかかった。


(さて、とりあえず入ったはいいが、どうしようか…………)


 喫茶店に寄ったのはまぎれもなく江須羽の要望だが、僕としてはまだ話したいことはたくさんあった。


(もしかしたら江須羽も話したいことがあるかもしれないし、ここで僕のほうから切り出すのはちょっとまずいのだろうか……………)


 一方の江須羽は、何か考え事をしてるような顔で、雨の降るそとの景色を眺めていた。


「何か気になるのか?」

「うん」


 僕が尋ねると、視線はそのままでつぶやいた。


「麻技亜ちゃんって、本当になんであんなふうになっちゃったんだろうなって。もしかしたら中1の頃からあんな感じだったのかもしれないけど」

「ああ」


 どうやら江須羽のほうも、あいつのことを考えていたみたいだ。


「でも、学校に行かないどころか、外にも出なくなっちゃうなんて……」

「よほど辛いことがあったんだろう。学校が楽しかったって言ってるのなら、あの様子が昔もだったとは考えにくいよな…………ほんと、どうしたんだろうな」


 2人は同時に悩んだ。

 といっても、そんなにすぐに答えが浮かんでくるわけでもない。あの家の様子から、どんなことが起こっていたのかを少しずつ考えていく。


「あの家に親がいなかったのと、麻技亜の原因には何か関係があるのかな………?それとも、もっと別の原因なのか」

「親がいるかいないかは関係ないとしても、あんな大きな豪邸にたった一人しかいなかったのもおかしいわよね……………あの中にはざっと40近く扉があったし、もう何人か居てもいいと思う」


 正確には大小含めて43もドアがあった。もしかしたらその中の2つか3つは同じ部屋に通じるドアなのかもしれないが、どちらにしろ、1人で暮らすにはあまりにも広すぎる。


「そもそもどうしてあんな豪邸を建てようと思ったんだろう。麻技亜の両親……とは断定できないが、よっぽどの金持ちだったとしてもあそこまで大きくする必要はないんじゃないかと思うんだ。まあ、本気で建てたかったのかもしれないし、金持ちの考えてることは一般人の常識を超えてるからわかんないんだけどさ」


ここで、オーナーさんが注文した品を持ってきてくれた。


「こちら、ミルクティーとティラミスとコーヒーになります。また何かご注文であればお声かけください。では」


 そう言って、軽く会釈をして戻っていった。


「うーん」


 江須羽は少し考えた後、


「すぐに考え付く答えとしては、あの子の両親が居なくなったのと同時に、ほかの人も出ていっちゃったとかかな。でも、そんな単純……理由は複雑かも知れないけど、それがよっぽどショックだったってことになるよね?」

「まあそうなるな。だとすれば何だ?両親の離婚?それとも自己破産で夜逃げ?」

「確かにそれで両親が居なくなっちゃったらショックよね……………でもあの子の生活はそれほど苦しそうなものでもなかったような気がする。もし本当にお金がないのならあんな豪邸に住んでるより土地と建物を売って普通の建物に住めばいいもの。でも中1の頃に学校に行かなくなって、そこから引っ越してないとなると、両親の破産とは考えにくいんじゃない?」

「なるほどな、だとすれば両親の離婚か?感じ方は人それぞれなんだろうけど、麻技亜にとっちゃショックだったってことだよな。まあ、気持ちはわからなくもない。でも、その離婚の原因が何かによっては、麻技亜の気持ちも変わると思うんだ」

「そうだね。言い方悪いけど、あの子が両親を嫌っているかいないかでも結構変わるんじゃないかな。でも気になるのが、どうして両方あの家から居なくなっちゃったってことよね。子供を置いてまで離婚したいって思ういきさつにはどんな事があったんだろう…………」

「さあな。それにここで仮説を立てたところで、本当のことは本人しか知らないんだ。ある程度考えておくのも確かに悪くないが、立ち直ってもらうためにはまず本人の口から聞いたほうがいいと思うんだ。勝手な思い込みで先走っちゃうのはまずいからな」

「わかってる。だけど私としては早く何とかしてあげたいって気持ちが大きくて………」


 江須羽は自身の胸に手を当て、


「5年前のあの事件で、私も一人ぼっちになっちゃって本当に寂しかった。でもそのとき手押が助けてくれたのは本当に嬉しかった。本当の一人って、自分じゃどうしようもないことばっかりで、何もできなくなっちゃうんだよね。だからあの子も、私とは違う形で一人ぼっちなんじゃないかな?」


「だとすれば麻技亜の場合、自分の意思でああなってしまった可能性があるってことか?」

「わかんない。だけど自然な流れで一人ぼっちになっちゃったら、私はあの子みたいにはならないかなって思ったの。理由を話したがらないなんて、自分で何かしない限りは理由が話せると思うの。もしかしたら、あの子の周りの自然にできた環境が、徐々に心にダメージを与え続けたのかもしれないけど」

「うん」


 5年前に起こった事件についても気になるが、今の話題は麻技亜の対応を考えることなので放置しておく。

 両親が居なくなってしまったと仮定した上での話し合いだったが、偶然どこかに出かけてしまっていた可能性も考えられる。ただそうなると、心閉ざす理由がなくなってしまうような気がする。そうなると、もっと別の原因があるってことになる。それは僕たちからでは到底たどり着けないような何かかもしれない。


「一人ぼっちか……………」


 大きな豪邸にたった1人、特に出かけることもせずただ日々を送っていく生活。そんな彼女の心は一体どうなってしまっているのか。


(ずっと一人の生活を続けるのは確かに辛いことかもしれないが、逆に慣れちゃいそうな気もするな。それに両親が居るのであれば理由は何になる?そこまでダメージを受ける理由があるのか?)


 と、ここで江須羽があの家で言っていたことを思い出す。


「なあ、あの時言ってた『ある可能性』って………何だ?何かわかってるような口ぶりだったけど」

「うん、なんとなくだけど、私の考えとしてあくまで可能性ってだけ。その時は軽く考えていたんだけど…………」


 そこで江須羽は何かに気がついたような顔をした。


「どうした?」

「あの子の言っていたことと、今話したこと。そこからあんなふうになっちゃった理由を繋げて考えてみると、もしかしたらだけどこう考えられるかもしれない。これは言っていいことなのかわからないけど………」

「なんだ?そんなにやばいことなのか?」

「うん、でも私じゃ言う勇気がないの………」

「小声でも仕草でもいいから教えてほしい。ただ本当に無理にとは言わないよ」


 江須羽は躊躇ったような様子を見せたが、決心したようにこちらを向き、


「じゃあ間接的に言うね。わかりづらいかもしれないけど、察して?」

「わかった」


 彼女は頷き、真剣な顔で言った。


「話したことでいくつかの推測の中で、一人ぼっちになっちゃった理由があの子自身にあること、それと両親が居なくなっちゃったこと。この2つから導きだされる答えを、両親の離婚と考えたことは悪くないと思う。でもここで引っかかるのが、あの子が何をきっかけに閉じこもっちゃったってことでしょ?これってつまり、あの子が何かを起こしてしまったから、両親が離婚したってことになるよね?」

「まあそうだな。ただ両親がいるって可能性もあるわけだが」

「あの子は両親がいるとも、離婚したとも言ってない。けどあの豪邸の中には誰も居ない。ここで考えを変えてみたの。自分でやったことでありながら、両親が居なくなる理由。遠くに行っているだけならまだ会うことはできる。だけど、もしかしたら二度と会えなくなってしまってるのかもしれないって思ったの。あの子が両親を嫌っているかどうかはわからないけど、あの子自身が両親に二度と会えなくなってしまうことを起こしてしまったんじゃないか………って」

「それってつまり………」

「うん。本当に両親を嫌っていたなら一時的な衝動。それは両親側に問題があるかもしれないけど、ほんのはずみでやってしまった可能性もある。もしそんなことしたら、私なら立ち直れなくなっちゃう。もしかしたら両親のことが大好きだったかもしれない。そんなだったら余計に心を閉ざしちゃっても不思議じゃないと思ったの。本当にこれは推測の話だけど」


 そう言い終ると、絵須羽は顔を逸らしてしまった。



「ふーむ…………」

 一瞬、ありえないと思ったが、可能性としては低くないだろう。ただその場合、今後の対応に気をつけねばならなくなる。なぜそう言う経緯に至ったのか、その後の両親の体はどうしたのか、何かあったとき僕たちにも同じような行動をとってくるのか。見た目ではすごく大人しそうだが、この予測が本当なら警戒するしかない。それに、それが一般世間にばれた場合彼女はどうなるのか。ニュースに取り上げられたりすれば、好奇の目で見られることになる。さらにはそれに見あう償いをしなければならない。これが本当のことであってはほしくないが、もしそれが本当だったら、彼女は再び一人ぼっちになってしまうのだろうか。


「…………………」


 やめようやめよう。そんなことばかり考えていてはどうにもならない。僕たちが麻技亜にするべきことは、あの状態をどうにかして抜けてもらうことだ。余計なことを考えてしまえばその分だけ彼女を疑いの目で見るしかなくなってしまう。


「麻技亜が何をしたのかわからないけど、今はそんなことどうでもいいんじゃないか?」

「そうだけど………あの子の気持ちわかってあげられないし、ある程度は考えておくのも悪くないんじゃないの?」

「そうなんだけど、変な先入観を持つよりは普段の接し方で行くほうがいいんじゃないかって。これ以上麻技亜を傷つけるわけにはいかないしな」


 僕の意見に納得したのか、江須羽は頷いた。


「わかった。じゃあそうするね」


 僕としてもいろいろ考えておきたいことはある。だがここはあえて我慢だ。それよりも今は話すことがまだまだある。


「さて、その話はもう終わりで、明日どこに行くか決めよう」

「そうだね。この近くでどこか楽しいところを回るようにしようよ。あの子の無理をしない範囲で」


 そうして、僕たちはいろんな意見を出し合って考えた。話している間は時間を忘れて、夢中で会話をしていた気がする。数時間が一瞬で過ぎてしまい、もともと曇りなのもあって、気づけば外がだいぶ暗くなっていた。人の少なくなった牛浜駅前でさよならをして、僕は恵を待たせないように、早足で自宅へと戻った。

原案では前章(話)とこの章(話)をあわせて3章としていたのですが、あまりにも長すぎたので分割しました。さあ、果たしてお出かけの結果はどうなるのか。

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