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空想と現実の境目  作者: 築山神楽
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第3話 ゆれる心と変わらない現実

自分の心に正直になれないヒロイン。しかし、心が変わろうとしているのは彼女だけではないのです。

「うわーっ。どっ、どうしよう!?」


 保健室を出た私は廊下を駆けていた。

 額に両手をあて、さっき言ってしまったことを頭の中で繰り返していた。


「あんなこと言うつもりなかったのに!」


 自分でも顔が真っ赤になっているのがわかる。心臓がドクンドクンと脈打つのがはっきり聞こえてくる。思考がうまく働かず、頭の中がずっとぐるぐる回っている。いつの間にか自分は教室に入っていて、バッグを掴んで走り出そうとしていた。

 いったん心を落ち着かせようと立ち止り、別のことを考えようとした。しかし頭に浮かんでくるのは彼の事ばかり。私はさらに顔が熱くなるのを感じた。


「はぁ~っ」


 もうあれはコクったって事になっちゃうのかなぁ?いやでも、さすがにそれは………

 でもあれはもう似たようなこと言っちゃった事になるし、でも少し違うような………

 あああああっ、もうどうすれば………………

 どうしようもなくなった私は、急いで家に帰ることにした。

 教室を出て階段を下り、下駄箱で靴を取り換えて外に出る。みんなはこのことを知るはずもないのに、なぜか自分だけ恥ずかしくなってきて、全速力で家に向かって走り出した。

 校庭ではまだ何人かが集まっていたみたいだったけど、そんなものは頭に入らなかった。

 家までの道を最速で駆け抜け、玄関のドアを開けた。


「たっ、ただいまー」


 靴を脱ぎ捨て、急いで階段を駆け上がり、自分の部屋に入って鍵を掛けて、ベッドに思いっきりダイブした。枕に顔をうずめて、声にならないうめき声をあげた。

 私は枕を抱えながら右へ左へと何度も転がった。


「―――――――――――――――――、」


 何度も何度も、ベッドの上を往復。ベッドのきしむ音が鳴り続ける。

 しばらくそうやっているうちに、少しずつ落ち着いてきた。それでも心臓は大きな音を立てて動いている。


「………これからどうしよう………」


 ベッドの上で大の字に広がり、額に腕を乗せ、白い天井を見上げた。

 私がどんな状況にあっても、この天井は何も答えてくれない。いつも真っ白な色で、私を見下ろしているだけなのだ。


「はぁ~っ」


 ため息と同時に目を瞑った。

 あんな恥ずかしい事を言ったのに、覚えているのは自分の言った言葉ぐらいで、他は何も浮かんでこない。


「明日、どうしようかなぁ…………」


 学校に行けば、間違いなく彼はこのことについて聞いてくるだろう。そうすれば、私は多分逃げ出してしまうかもしれない。自分でやったことなのに……………

 彼とは同じクラスかつ同じ班で、これから出会う機会も増えるだろう。なのに、あんなことを言ってしまった以上、どう対応すればいいのか。

 いっそのこと学校休んじゃおっかなぁ、という考えも浮かんだ。でもそんな理由で休むわけにはいかない。

 じゃあどうすればいいのよ……………

 私は自分で出した問いに答えられないでいた。

 悩み続けた。

 今までに体験したことのなかったこの気持ち。対処法なんてわかるわけがない。

 そうして、私の頭は混乱していた。

 悩んで悩んで悩み続けて…………

 いろんなことを考えているうちにどんどん時間が過ぎて行き、気付いたらいつの間にか窓の外が暗くなり始めていた。


「もうこんな時間かぁ……」


 時計を見てベッドから立ち上がると、夕食の準備をするために台所へ向かった。

 親はまだ帰ってきていないようで、一階はしんとしている。

 階段を下り、少し暗い廊下を歩いて台所へ向かった。

 電気をつけて、エプロンを着る。冷蔵庫から何か適当な物を取り出して、調理器具を用意し、簡単な夕飯を作る。


「作るものは……………何でもいいよね」


 調理を開始した。

 それでも、あのことから頭は離れない。

 野菜を切っている間に、彼が横にいて、一緒にご飯作ったりしないかなぁなんて想像してしまい―――――


「痛っ!」


 指を切ってしまった。

 慌てて傷口を舐め、絆創膏をはった。


「もう私ったら……」


 何とか心を落ち着かせ、調理に専念した。

 静かな部屋に、野菜を切るトントンという音が響く。

 気付いたら私は無意識のうちに料理を完成させていて、独り寂しく夕飯を食べていた。

 だけど何を食べたかなんて、全然覚えていない。

 出来るだけ早めに食べ終わると、食器を洗って再びニ階へと上がり、ベッドにダイブした。

 またも枕に顔をうずめてうめき声をあげた。誰もいない家の中に私の声が響いてゆく。

 また時間が過ぎていった。

 私はずっとベッドにいたが、それが続くうちに顔の熱が冷め、体温が下がると同時に、だんだん寂しさが込み上げてきた。


「…………………………」


 ふと顔を上げた。

 夜の誰もいない家。いつものことで慣れているはずなのに、今日はやけにさびしい。別に怖いというわけではない。だけど、熱くなった反動なのか、心の底までが暗く、そして冷たくなっていった。

 静かな部屋の中で、さっきとは違う時間の流れを感じた。秒針の音だけが、時間の流れを感じさせた。


「明日、どうすればいいんだろう…………」


 返事は無かった。

 再び何もない空間に放り出された。

 そして、気付かないうちに眠りの世界へと落ちていった。


――4月。第一金曜日。――

 いつもより足が進まない。

 あんな事件があったのに、みんな気にする気配もなく学校へと向かっている。みんな友達と楽しそうに会話をして、笑っている。

 私だって事件に巻き込まれて、危機一髪な状況にまでなった。けれど、普段通りに登校はできる。

 そのはずなのに。

 何か引っかかるような、そんな気分。

 もやもやが、いつまでも無くならない。

 今、自分がどの辺を歩いているかもわからない。ふと顔を上げれば、歩行者信号が赤に変わったのが何となく見えたような―――――


「うわぁっ!」

「プ―――!」


 派手なクラクションを鳴らし、すぐ目の前を車が通り抜けた。


「こらーっ!しっかり前を見て歩け!」

「すっ、すみません!」


 とっさに頭を下げた。

 その車が行ってしまうと、あたりは気まずい雰囲気に包まれた。


「はぁ~っ」


 もう、めちゃくちゃ。私どうすればいいんだろう…………

 信号が変わるのを待って、ゆっくりと歩き出した。

 校門をくぐるまでそう時間はかからなかったと思う。気付いたら、すでに教室の入り口に立っていた。

 中を見ると、まだ彼は来ていない。思わず安堵の息が出る。

 私は小走りで自分の席に着いた。そしてバッグを横に掛けると、腕の中に顔をうずめて、今自分がどうなっているのかを再確認した。

 どうしてこうなったんだろう……………

 なんで、私は彼のことをそんなに気にするんだろう…………

 私は記憶をたどっていった。


 今からずっと前。

 もう何年も前のこと。

 そのころにあった出来事。

 そう、初めて彼に会った時だ。何があったっけ?そうだ。危機的な状況に追い込まれた私を、彼は助けてくれたんだ。どんなことがあったかは覚えていないけれど、確かに私はあの時も救われていた。

 すごく嬉しかった。いきなり現れて、私を助けようとしてきたから最初はびっくりしたけど、私とまるで友達のように接してくれた。泣くことしかできなかった私を、腕を掴んで引っ張って行ってくれた。

 そうして、たくさんの事件をくぐりぬけてきた。

 彼とはずっと一緒にいたかった。いつまでも仲良く、助けあえる存在になりたかった。

 だけど、そのまま彼はどこかに行ってしまった。

 どこを探しても、いなかった。

 さすがに子供が人を探せる力は限定的。でも私は力の限り探した。

 会いたかったのに、ずっと会えなかった。

 彼にもう一度会いたい。会ってお礼をしたい。そして恩返しをしたい。いつまでも、彼のそばにいたい。

 その時から、私の気持ちはこうだったんだと思う。今までは自分では気付かなかったまま曖昧な形になっていて、はっきりとわかるものではなかった。だけど、昨日の一件があってから、その気持ちがはっきりした。

 そのせいで昨日、あんなにテンパってしまったのかもしれない。

 心臓が、いつもより早く動いていた。

 思考がうまく働かなかった。

 言葉に出せない感情が、私の中で渦巻いていた。

 気持ちは伝えないと、いつまでも自分の中に閉じこもってしまう。でも、うまく体が動かない。この先伝えるチャンスが二度とないかもしれないのに、心の渦から抜け出せない私がいる。

 どうしよう。

 ほんとにどうしよう。

 私は再び迷った。

 そうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎて行く。こういうときの時間は、やたらと早く過ぎて行くように感じてしまう。


「………何でこういう時に限って時間が遅くならないのよ~」


 早くしないと彼が登校してしまう。

 それからでは手遅れかもしれない。

 またテンパってしまって、伝えるべき言葉を伝えられないかもしれない。

 そうなったら、私はどうなっちゃうのかな?

 一生後悔し続けることになるのかな?


「…………そんなの…………いや。……………絶対にいや!」


 後悔なんてしたくない。自分のせいで、自分が傷つくなんてしたくない。

 なら出来ることはひとつしかない。

 私は覚悟を決めた。

 言うことを聞かない体を無理やり動かした。

 私は顔をあげて周りを見回し、彼がいないことを確認すると、立ち上がって、ゆっくりと深呼吸をした。


「スゥ――――――――――――ハァ――――――――――――」


 ゆっくり息を吸って、吐いて。それを三回繰り返した。

 それだけで、もやもやしていた気持が晴れていくような気がした。

 見えなかった先がようやく見えたような、そんな感じ。


「よしっ」


 今日こそは、彼にこの気持ちを伝えよう。あの時から続いていた、この気持ちを。

 そして、それを受け止めてもらいたい。本当の気持ちを、彼に届けたい。

 仮に失敗したっていい。彼が私の気持ちを真剣に受け止め、答えてくれたのなら。どちらにしたって、伝えなければ意味がない。

 だから、彼に言うと決めた。

 私は窓の外を見ながら、彼が登校してくるのを待った。

 たくさんの生徒がこちらに向かってくる。

 一人ひとりの顔を確認していく。

 その中に、彼の姿はまだ見えない。

 

――1月。第一金曜日。学校の校門付近にて。――


「フワァ~ッ」


 朝から大きなあくびが出た。昨日の夜が全然眠れなかったせいで、かなりの寝不足気味だ。


「全く………恵のやつときたら………人がぐっすり寝てんのに無理やり入ってくんなっての」


 恵による寝不足は毎日のことだが、昨日のは特にひどかったような気がする。まあ、あの事件のせいでの精神的なのもあるんだと思うが。


「夜中に僕の布団に入ってきて何がしたいんだか………全く」


 恵は僕の布団に入るなり体を絡ませ、腕を背中にまわして抱きついてくる。さらに顔を近づけて、唇をくっつけようとしてくるのだ。

 恵にとっては楽しいのかもしれんが、僕にとっては迷惑極まりない。おかげでよく寝不足に悩まされる。


「はぁ~っ」


 僕は大きくため息をついた。

 今日恵は、学校に早く行くと言って、先に家を出た。理由はともあれ、独りで静かに登校できるのは嬉しい。たぶん恵は気を使うようなやつじゃないからな。

 今だけは変な視線も向けられる心配もない。今日はのんびりしながら行こう。

 春の暖かな空気の中を、朗らかな気持ちで歩いていた。こんなゆっくりできるのは何日ぶりだろうか。これからもこんな日々が続いてほしいもんだ。

 学校の校舎が見えてくると、頭の中に昨日の出来事が浮かんだ。


「そういえば昨日のことだったんだよな?記憶があいまいでよく覚えていないが………」


 あんなことがあったのにも関わらず、学校は普通に授業をやるらしい。ふつうは休校になったり、警察の調査が入ったりするもんだと思う。

 校庭を見ると、地面が焦げた跡が残っている。かなり広い範囲にまでそれが広がっていて、爆発の規模を物語っていた。


「やばいな…………」


 僕はあの時のことをあんまり覚えていない。だから改めて校庭を見てびっくりした。

 校門をくぐって近づくと、その大きさがさらにはっきりわかった。足元一帯が、ほとんど真っ黒になっている。

 あんな爆発から江須羽を守れたのかと思うと、それこそ奇跡なんじゃないかと思うぐらいに。

 まあ、彼女は無事だったんだし、今さら言ったところで何かが変わるとは思えない。それに、奇跡なんて所詮結果論の一部にすぎない。最初から奇跡が起こるとわかっていたのなら、それは奇跡とは呼べないだろう。

 僕は校舎を見上げた。

 教室の窓に朝日があたり、まぶしく輝いている。ふと暖かい風が吹いたかと思うと、桜の花びらが視界をピンク色に染めた。

 昨日の事件がまるで無かったかのような、そんな感じにさせる風景だった。

 そして教室の窓には、こちらを見ている人物がいた。


「?………誰だ…………?」


 その人物は、窓際でこちらをずっと見下ろしている。

 下からでは、日光の反射でよく見えない。だが、誰かがいることは確かだ。


「…………見えないな」


 手をかざしてもまぶしさは変わらなかった。結局どうやっても見るのは難しいようだ。


「…………まあ誰でもいっか。教室に行けばわかることだし」


 昨日の事件はかなり適当に片づけられてしまったような気がする。まだ現実感が全然わかないが、あんなあっさり終わってしまっていいのかと、そんなふうにも感じる。

 僕は昇降口をくぐって校舎に入って行った。

 これから、大変なことが起こったりしてほしくないな。普段通り、変わらない生活を送っていきたい。そう願った。

 だけど、この事件は僕が思っていたほど小さいものではなかった。

 それは、果てしなく続いている全てのつながりの始まりに過ぎなかった。


 教室に入った。

 やはりいつもの雰囲気と変わらない。若干違うような気がするが、あの事件の後だ。仕方ないだろう。あのうるさい連中は今日も平常運転で、教室の中を駆け回っている。

 正直ほっとした。あんなことがあった後だけに、みんなが気を使って変な雰囲気がずっと続くと、こっちとしても居づらい。

 僕は自分の席に座って、小説を読み始めた。


「あれ?そういえば窓のところにいたやつは誰なんだ?」


 ふと窓の方を向いた。

 何人かの集団が、窓の近くに集まっている。みんな笑顔で、楽しそうに会話している。しかし、さっきのように窓を眺めていたであろう人物は見当たらなかった。そこにいる皆は会話に夢中で、窓の外を見ていた、という雰囲気はなかった。

 もしかしたら、その中にいるのかもしれない。だけど、そこまで本気になって探す必要は無いよな。

 教室を見回しても、そんな感じの人物はいない。僕は探すのを諦めて、読書に集中しようとしたその時だった。


「手押!ちょっと来なさい!」


 いきなり誰かに右腕を掴まれた。


「えっ?ちょっ、なんだ?」


 状況が全く理解できない中で、僕は誰かさんに引っ張られ、教室を出た。そのまま廊下をどんどん進んでゆく。


「ちょっと待てって、離せ」


 しかしその人物は僕の言葉を無視し、速足で人気のないところに向かっている。

 しばらくして、教室から大分離れたところで止まった。


「なんだよ、いきなり」


 するとその人物が振り返った。

 長い髪、整った顔。誰もが可愛いと評価するであろうその人物は………


「江須羽かよ………なんでこんなまねを……」

「いいから、私の話を聞いて!」


 江須羽は大声で叫ぶと、なんだか落ち着かない様子で僕の前に立った。胸のあたりで両手をあわせ、何か言いたそうな顔をしている。


「…………江須羽?」


 彼女の顔が何となく赤くなっているような気がする。どうしたんだろう。大丈夫かな?熱でもあるんじゃないか?もしそうだとしたらそれは大変だ。

 いやでも、ここは室内だし、気温は暖かいし、風邪をひく原因なんてあったか?

 でもひかないとも限らないよな。ましてや昨日のあれがあったばかりだ。不安で体調を崩してもおかしくは無いだろう。それに前から寒そうだったしな。なら保健室に行けばいいのに。まさかだとは思うが、連れてってほしいとか?なわけないよな。行きたきゃ自分で行けばいい話だし、いちいち連れていくまでもない。

 まあ、連れて行ってほしいならそうしてやるが。

 さて、本当に江須羽はどうしたんだろうか。


「熱でもあんのか?」


 少し心配になった僕は、彼女の額に手を当てようとした。すると彼女は、さらに真っ赤になった。


「ふぇっ?ちょっ、ちょっと何して………」

「いや、だって熱があるんじゃ……」


 すると彼女は僕の手をはねのけ、


「違う!そうじゃないの!」


 そして真っ赤な顔でうつむいてしまった。

 何かを言いいたそうな感じでもじもじしていたので少し待ったが、何も言ってこない。


「なあ、どうしたんだよ。変なところがあるなら早く言えよ。そうしないと僕だってわから…」

「違うの!本当に!」


 そういって彼女は少しためらった表情を見せたかと思いきや、真っ赤な顔をしながら小さな声で言った。


「…………なの」

「へ?」


 あまりにも小声だったため、よく聞き取れなかった。


「どうした?なんて言ったんだ?」


 すると彼女はまた小声で、


「…………きなの!」

「え?」


 なんだ?また聞こえんかったぞ?

 一方彼女は何か恥ずかしそうにうつむいている。いったい何を言ったというんだ?

 曖昧なまま終わらせるのもいやなので、もう一度聞いた。


「なんて言ったんだ?よく聞こえなかった」


 そう言った後、彼女は小さく震えたかと思うと、真っ赤な顔をあげて叫んだ。


「好きなのっ!私はあなたのことが好きだったの!ずっと前から好きでした!」


 一瞬、何を言っているのかを理解できなかった。

 しかし、頭の中で反芻させていくうちに、その意味がはっきりわかってきた。


「…………?え?そ、それってつまり…………」


 僕が尋ねると、彼女ははっきりとした目で僕を見つめ、


「だ、だから」

 勢いよく頭を下げ、長い髪が大きく揺れた。

「その、私と付き合ってくださいっ!」

「えっと……………」


 僕は返事に困った。


「そんなにいきなり言われてもなぁ……」


 というより、うまく返事ができない。

 今までに告白されるなんて体験は一度も無かったから、どう対応すればいいんだかが全く分からない。告白の現場を目撃したこともないし、そもそもされるなんて思っていなかったから、何をどうすればいいかなんてわかるはずがない。

 どうしよう。どう答えればいいんだろう。

 ここでコクられることが多い人は人なんかは、うまい切り返しを思いつくんだろう。しかし、僕はそのような人間ではない。特に人付き合いですらうまくできない僕にとっては致命的で、江須羽の言葉に対応できなくて右往左往している状態だ。

 僕は彼女を見た。

 精一杯の勇気を出したのがわかるくらい、恥ずかしそうにしている。今にも湯気が出そうなくらいの真っ赤な顔で、僕の答えを待っている。


「ねえ?」


 江須羽が聞いてきた。


「ん?」


 僕は焦りを隠して返事をした。


「その………付き合ってくれるの……………?」

「………………」


 言葉が出なかった。

 本気の想いは、ここまで人を揺さぶるものなのか。

 気持ちは言葉にしないと伝わらないとよく聞くが、こりゃ威力抜群だな。

 ふいに僕はその想いに答えようと口をあけた瞬間、またしても止まってしまった。

 なんて返せばいいのだろうか。

 これはあくまで僕の意見だが、付き合う、ということは、お互い大事に思える存在でないといけない。たくさんの時間を共有し、絆を深められるようでないといけない。しかし、僕にはそれができる保障など無い。むしろ、出来ないことの方が多いんじゃないかと思う。

 だけど、断れば彼女は悲しむだろう。精一杯勇気を出したにも関わらず、振られてしまったら、かわいそうだ。できればそんなことはしたくない。

 早く返事しないと、江須羽にとって迷惑だろうし、せっかく好きになった気持ちを消してしまいたくもない。

 だからといって、いい加減な返事はしたくない。彼女は勇気を振り絞って告白したんだろうから、それにふさわしい返事をしないと、男として失格だ。

 だけど、どう返したもんか……………

 このまま付き合ってしまうという手もある。でも付き合うって、何をするんだ?手をつないだりとか、一緒にどこかに出かけたりとか?それだけなのか?

 そういえば、今までこんなこと考えたこと無かったな。コクられたいとか、そんな風に思ったことないし、考えてもみなかった。

 これだから恋愛経験がないと……………

 まあここでとやかくいっても仕方がない。今は江須羽の本気の想いに応えないと。

 僕は心を決め、ゆっくりと口を開いた。


「…………もしも」


 江須羽が顔をあげた。


「もしも、お前に大変なことがあって、僕が助けられそうにない時、お前はどうする?」


 彼女の顔に「?」が浮かんだ。


「僕はお前を大切にしたい。付き合う以上、出来るだけお前を守ってやるつもりだ。だけど、もしもそれができなかったらどうする?それでもいいのか?」


 彼女は少し考えるような仕草をした後、はっきりとした顔でこっちを見た。


「そんなことないよ」

「どうして?」


 今度は僕が「?」になった。


「そんなのは絶対ない。ありえないもん。だって手押は昨日だって私を助けてくれた。あんな絶体絶命な状況でも助けてくれたじゃん」

「そうだけど………………」


 僕は若干身を乗り出し、


「あれは咄嗟の判断と言うか、あの状況じゃ助けるのが普通だろ?それにあれはただ魔法陣の外に出るだけじゃ爆発に巻き込まれてるよ。僕は最低限できることをしただけだ」

「でも、助けようという意識はあったんだから、私を助けてくれたことには変わりない」

「でも………………」

「それだけじゃない」


 彼女はこちらに一歩踏み出し、


「ずっと前にも私を助けてくれたことがあったでしょ。あのときだって、もう無理だと思ったのに、助け出してくれたじゃん。なのにどうしてそんなこと言うの?」


 あれ?

 ずっと前?

 僕何したっけ?


「えっと……………前に助けたことなんてあったっけ?」

「え?覚えてない?五年前のこと」

「あれ?」


 僕は腕を組んだ。

 僕の記憶には、そんな出来事に関するものはない。そもそも、中学校に入学する前の記憶があいまいで、何があったかなんてよく覚えていないのだ。


「……………そんなことは覚えてないな」


 すると彼女は驚いたように手を口にあて、


「ええっ?うそ?覚えてないの?」

「う、うん。ごめん」

「どうして?あんな大事件があったっていうのに……………」


 大事件?

 一体そのころに何があったっていうんだ?


「そんなことがあったのか…………」


 僕はもう一度昔の記憶を辿って行った。

 しかし、やはりそこまで残っていなかった。思いだそうとしても、何も浮かんでこない。


「ごめん……思い出せない」

「そんな…………」


 そう言うと、彼女はどことなく悲しい表情を浮かべた。


「本当にごめん」

「……………いいの、手押が悪いわけなんかじゃないし」


 僕は申し訳ない気持ちになった。


「…………だけど、いいよ」

「………何が?」


 彼女が顔をあげた。


「だから………その」

 どうしようか迷った挙句、僕は彼女の肩に両手を乗せた。


「………僕はこの先、お前を守ってやれるかははっきり言えない。危ない時にすぐに駆けつけてやれないかもしれない」

「うん」


 江須羽が頷いた。


「でも、僕は出来る限りのことをしたい。絶対は無理でも、出来ることならなんでもしてやる。これからは僕と時間を過ごす事が多くなるだろう。それでお前のの時間が削れてしまうかもしれない。だけど、その時間は出来る限り楽しくて、大切なものにしたい」

「うん。わかってる」

「だから、僕はお前を大切にしたい。いいや、大切にする。どんな時も絶対にお前を守ってやる。5年前に何があったのかはわからないけど、その時みたいに、どんな状況だって必ずお前のもとに行ってやるよ」

「わかった。約束ね。だけど、ずっと助けられる側にいるわけにはいかない。私だって、手押がどうしようもない状況になった時には、私が助けてあげるよ」

「よし、約束な」


 彼女が微笑む。


「それともう一つ…………」


 僕は一息おいて、


「僕の事を一生好きでいてくれるか?」


 間を開けず、江須羽が力強く頷いた。

 もう、さっきまでのようなもじもじはどこかへ消えてしまっている。そこには、恥ずかしさというものがなく、しっかりと自分の意思を伝えられている彼女の姿があった。


「うん、約束する。私だってずっとずっと好きでいるよ、これからもね」


 それを聞いた僕は、心の中で安心した。こいつは決して揺らぐことのないものを持っている。どんなことがあっても、僕を好きでいてくれるんだと。そう確信できた。

 どんなことがあってもはさすがに無理かもしれない。どうしても別れなければならない状況がこれからあるかもしれない。でも、僕が思う限りはずっと一緒にいてくれるんだろう。そうでなければ、あんな頷き方はしない。軽い気持ちだったら「いいよ」の一言だけで済ますだろうし、「好きです」だけで終わってしまう。

 僕は、そんな軽い気持ちのやつなんかとは付き合いたくない。恋愛というものに関しての知識が皆無であるだけに、世の中の人がどのような気持ちで付き合っているのかは知らない。中には軽い気持ちの人もいるだろう。だけど僕は、そんな気持では嫌だ。大切な時間を共有するのであれば、お互いのことを真剣に思える関係がいい。彼女はそれができる人だと僕は思う。まだお互いの事はよく知らないが、これからの時間でゆっくりと絆を深めていけばいいだろう。

 それが僕なりの「恋愛」というものだ。

 軽い気持ちなど、意味がない。


「それと、これは私からのお願い」

「何?」


 再び彼女の顔を見た。


「これからは、マイナスの事を言わないでほしいな」

「マイナスの事?僕はそんなこと言ったつもりは無いんだけど?」


 彼女は首を振った。


「言ってるよ。さっきみたいに『無理かもしれない』とかね。一緒にいるのに、そんなことばかり言われると私まで嫌な気分になっちゃう。いっつも暗い雰囲気なのは止めてほしいの。だから、もっと明るくしてほしいな。そっちの方が私だって楽しく出来るし、付き合っている意味があると思うの。ダメかな?」


 その言葉からも、彼女の真剣な雰囲気が伝わってきた。


「そうか………………わかった」


 僕は小さくうなずいた。


「これからはそういうことを言わないようにするよ」


 彼女も頷き、


「せっかく付き合うことになったんだから、そんな嫌な気分になりたくないな。だから、明るく、楽しくしよう?」


 そういって彼女は僕に抱きついて来て、


「私はあなたの彼女なんだから、絶対に悲しませたりしないでほしいな」


 僕は少し視線を落として、


「うん、わかった。もう悲しませなんてしないさ。ごめんよ。さっきは変なこと言っちゃって」

「ううん、いいの私はただ、好きな人との時間を大切にしたいだけ。それに、5年前のあなたとはだいぶ雰囲気が違っていたような気がしたから、何か変だって私か勝手に思ってた。5年も会ってなければ、性格だって変ってるかもしれないのにね。あ、でもあの頃のこと覚えてないんだっけ…………?」

「ごめんな…………」


 遠くからざわつく声が聞こえる中、しばらくその状態が続いた。何とも言えないような時間が、ゆっくりと過ぎていく。

 密着している彼女の体から、心臓の脈打つ音かわかる。ほんのりとした体温が、体の柔らかさと合わさってこちらに伝わってくる。

 とても不思議な気分だった。

 なんと言うか、言葉に出せない暖かさに包まれたような、心の中が満たされていくような、そんな感じ。今までに体感したことのないこの感覚は一体何だ?

 だがその答えは考えなくてもすぐに出た。


「これが恋ってやつか……………」


 恋の経験がないからはっきりとは言えないものの、そう実感できた。これも江須羽がいなかったら感じることもできなかったこと。ずっと一人ぼっちだった僕はこういう事には接点がなかった。故に、人の優しさというものを知らずに生きてきた僕は、これがないだけで一体どれだけの損をしていたのだろうか。覚えている限りでもかなりあるような気がする。

 そんな風に今までを生きてきたのかと、少し後悔した。


「私はね」


 僕を抱きしめたまま彼女が言った。


「私は、あなたの優しさが好きになったの。ベタだと言われればそうかもしれないけど、私の想いは変わんない。5年前のあの出来事から、私はそう感じていた。あの時にあなたが私のもとに来てくれたことからね。でも、さっきまでそれを確信できなかった。自分じゃわからない気持ちにどう反応すればいいかわからなかったの」

「そうなんだ……」

「忘れていたんじゃなくて、わからなかった。私もまだ体験したことのない不思議な感覚になって、日常もまともに生活できないくらい、心が揺れていた気がする。そう考えると、昨日のあの爆発は私に気付かせるきっかけを与えてくれたのかもしれない。あなたには辛かったのかもしれないけど、私はとても幸せだったよ。助けてくれることが、凄く嬉しかった。最近の手押は何となく、自分から誰かを助けたりしないような雰囲気だったから…………」

「うん………」


 やっぱりそうだったか。

 ちょっとひどい事をしちゃったかもな………

 自分の事以外、価値なんて無いと思っていた。だから、江須羽の気持ちにも気付けなかったのだろうか。

 多分そうだ。他人に興味がない時点で、気持がわかるわけがない。

 僕は彼女に視点を落とした。

 暖かなぬくもりが、今も服越しに伝わってくる。でも僕のせいで、つらい思いをしていたと考えると悔しさが込み上げてくる。でもそれは自分に対する勝手な都合にすぎない。今悔やんだところで、過去は変えられないのだから。

 改めて自分に対して怒りが湧いた。

 なんで気付いてあげられなかったんだよ!

 だが、声は誰にも届かない。

 心の叫びは、自分の中で飛び交うだけだ。

 なら、これからどうすればいい。

 今までに辛い思いをさせてしまった人に、どういった気持で向き合えばいいのか。

 おそらく正解は出ない。

 それは、僕が知らないだけなのかもしれないし、元々答えなんて無いのかもしれない。経験のない僕にとってはさらに厳しい事で、人間の心が無限の可能性を秘めているだけに、コンピューターのような単純な手段選びでは、なんの意味もないのだろう。きっと、言葉にできないようなすばらしいことをしてあげるべきなのだと思う。

 だが、それは一体何だ?

 言葉にできない事なんて実行可能なのか?そもそも動詞で表せないことをするのには無理がある。自分で言っといて矛盾しているが、おそらくそれぐらいしかない。

 しかし、いつかはできる日が来ないといけない。

 今まで僕がしてきた事を、完全に塗り替えるような、素晴らしい何かが。


「……………」


 答えは、すぐには出るはず無かった。

 しかしそれは、これから考えていけばいいのかもしれない。

 ゆっくりゆっくり時間をかけて、彼女と一緒に思い出をつくっていくうちに、僕が見つけられなかった何かが見つかるかもしれない。たくさんの時間の中で、新たな気持ちになれるかもしれない。

 僕と江須羽の関係はまだ始まったばかり。これからの時間の中で考えていっても、遅くは無いと思う。むしろそっちの方がいいかも知れない。中途半端な考えでそれをしたところで、意味があると思えない。じっくり考えて、最高のタイミングを見つけてからでいいだろう。

 それは今すぐ訪れるか、それとも最後の瞬間になるまでわからない。


「…………これからずっと、お前のことを大事にするよ。約束だ」


 これでいいんだ。僕は僕なりの恋愛をすればいいんだ。

 周りの人と違っていていいんだ。無理に常識の範囲に収めようとして、逆に彼女を悲しませてしまっては何の意味もない。自分が正しいと思ったことをやるだけなんだ。

 僕は彼女の背中に手を回そうとした。しかし、その前に彼女は僕から離れ、くるっとまわり、こっちを向いて立ち止った。


「わかった、約束ね。私のことを大事にして、守ってほしいな。それと……」


 その時、彼女は例えようのない最高の笑顔を見せた。


「これからよろしくね。ずっとずっと、あなたの事が好きだから」


 それは、僕の中では一番心が温かくなった瞬間でもあった。

 

――同日、放課後の帰る途中で――

 一日が終わった。

 なんだかんだ言って、今日も普段と変わらない日常を送った。

 まだ始まったばかりの中3生活は慣れているとは言えない。友達もそんなにできていないし、勉強だって難しくなるだろう。さらには最高学年に用意されているイベントの数々。例えば修学旅行や体育祭、高校受験、思い出すだけでもどんどん出てくるそれらは、僕にとってどんなものになるのかはわからない。何かの拍子に、大変なことになってしまうのかもしれない。

 だが、今僕の隣には愛すべき人がいる。大切にするべき人がいる。そのことが、何もなかったであろう僕の人生を少し変えた。

 今までは何の目標も立てずにひたすら日常を繰り返してきた。周りの事に関心を持たなかったがために、目指すべきものも、自分が何をしたいのかもわからなかった。今思えば、そんな日常こそ価値がなかったんじゃないかとまで感じる。

 僕はずっと一人ぼっちだった。どんな状況でもそうだった。近くに誰かがいたって、それは一緒に言えるとは言えない。お互い話したり、笑ったりする事がそうなんだと思う。

 でも今は違う。

 どんなに離れていたって、ずっと一緒と言える存在ができた。ともに助け合い、同じ時間を共有できる存在ができた。

 これは人生でも大きな分岐点だったのかもしれない。以前の僕のままでは、価値のない日常が繰り返されるだけで、そこには何の意味もない世界が広がっているだけなのだろう。そう考えると、江須羽には感謝すべきかもしれない。

 僕は隣を歩いている彼女の顔を見た。

 夕陽に照らされ、元々美しかった顔がより一層きれいに見える。まるで絵にでもなりそうなぐらい心を奪われる光景だ。

 そして、その表情は全てが満ち足りたような頬笑みだった。


「その…………ありがとな」

「ん?」


 彼女がこちらを向いた。


「どうしたの?」

「僕のことを好きになってくれて、それと僕の人生を変えてくれて」


 すると彼女は少し照れたように顔を赤くして、


「そんなんじゃないって。私は何もしてないよ。ただ、自分の想いを言っただけ。そんなあなたの人生なんて変えてないって」

「いや、変えてくれたさ。今までの僕は何に対しても価値なんて持てなかったんだ。だけどお前のおかげで何かが変わったような気がするよ。こう、何というか、生きる意味をはっきりと確信できたというか、これからの楽しみが出来たというか」

「ふーん、そうなんだ」

「だから、お前には感謝しているんだ。多分これからもずっと。自分以外の事に興味を持てたんだって。こういうことに気付けるようになったのも、前の自分とは違った考えを持てるようになったからなのかな?」

「そうかもね。そう思うと、あの爆発は運命だったのかもね」

「たしかになぁ…………」


 僕と江須羽が再び出会うきっかけになったのも、それぞれの気持ちがはっきりするようになったのも、全てこの学校のあの事件から始まっている。もし科学で証明できない時空間のつながりがあったとすれば、現空間のこの座標で交わっているのかもしれない。世界中の人々の出会いも、似たような過程を通して結ばれているのだろうか。


「運命、か……………」


 僕は空を見上げた。

 西の空にはあの日と変わらない夕焼けが見える。所どころに浮かんでいる雲にオレンジ色の光があたり、幻想的な光景を生み出している。


「相変わらずきれいだよな………」

「そうだね。今なんか、曇りの日でも人工的に見れちゃうもんね」


 光の操作技術の応用で、大気によって曲がる角度を逆算して作り出せてしまう。最近は、本物と偽物を区別するのが難しくなってきているほどだ。


「そうなんだよなぁ……。でも下手に作りだすよりは、やっぱり自然のままがいいと思うんだ」


 彼女は、共感したように頷き、


「うん、私もそう思う。作ったものと、自然にできたものじゃ、何というか、価値が違う……?って感じがするなぁ」

「うん」


 そしてふと立ち止った。

 するとそれに気付いた彼女が反応し、


「あれ?どうしたの?」

「いや、何となく」

「?」


 彼女は首をかしげた。


「自然にできるものを、人工的に再現できるなんてなぁ…………………」


 自然と人工。

 この二つは対極的でありながら、意外と近い存在だったりする。

 自然が科学を生み出し、科学が自然を証明する。

 昔から、自然の力を利用したものはたくさんあった。むしろ、今につながる技術は全て自然を解明することで成り立ってきたものがほとんどである。

 自然の体系というのは素晴らしく、自分自身のサイクルでその形を保とうとする。もし人間がいなくなったら、自然はもとの姿に戻るといわれているくらいだ。

 その無駄のない設計が人間の技術に活かされ、今日までの歴史を作り上げているといっても過言ではない。

 それらの科学によって、謎に包まれていた自然現象の数々を証明してきた。そして昔は利用するだけのものが、今は工夫して使えるようにまでなっているが、


「出会いってのも、やっぱり自然に起こるものなのかな?」

「そうかもね。運命ってのは、人の手によって生み出されるものじゃないと思うよ。偶然に偶然が重なって、その結果が出会い、なんだと思う。私たちも、みんなも………」

「へえ、面白い事言うね」


 すると彼女は慌てたように、


「あわわ、えっと、い、今のは私の勝手な意見だから、その………」

「いいや、恥ずかしがること無いって。僕もそんな感じに思ったさ」


 そう言って彼女の肩に手を乗せ、


「無限の可能性があるこの世界で、たった一つの点でで二つの世界が交差する。それは限りなく小さく、しかし大きな意味がある。論理的に言ったらもっと面倒くさくなるんだろうけど」


 僕は少し遠く、オレンジ色に染まる空を見て、


「ネットの世界なんかじゃ、出会い系とかいって、人工的に出会いを作っちゃってるんだよね。そんなものに運命なんて関係無いような気がするんだけど………。でもそれを通じて出会いを求めている人もいる。やり方は一つとは限らないんだな」

「うん。でも、私はちょっと違うと思うんだ」

「ん?」

「たとえそれが人工的に作られた出会いだとしても、それに辿りつくまでが運命なんじゃないかな?出会い系を知ったこと、仲介の人の紹介、それと実際に会って、仲良くなれたこと。それだって、いくつもの偶然が重なった結果でしょ?」

「まあ、確かにな」


 そう考えるなら、今こうして二人並んでいること自体も偶然となる。無限通りの可能性を秘めるこの世界では、僕たちは限りなく小さな存在なのだ。


「あの事件も運命なのか…………」


 校庭にはいまだに焦げ跡が残っている。普通早く消したりするものだと思う。面倒くさくてやってないだけなのか、何か意味が合って消していないのかはわからない。

 校庭を見ているだけで、昨日の光景が頭の中に浮かんでくる。


「しかし………………魔術ってあんな爆発が起こるもんなのかねぇ」

「わかんないよそんなこと。でも実際に巻き込まれたでしょ?」

「まあそうなんだけどね」


 僕は少し苦笑いをしながら、


「今まで魔術や超能力なんて力は体験した事なんてなったし、ましてや存在するなんて思ってもいなかったから」


 と、ここで引っかかることがあった。


「……………………………………ん?あれ?」

「どうしたの?」

「あの推理、なんか足りない部分がないか?」


 彼女の方を見て、


「僕は昨日推理を立てて、犯人が業者さんだってつきとめたじゃん。本人もそうだと言っていたけど、あれって本当だったのかな?」

「え?」


 彼女は首をかしげた。


「でも、そう考えるしかないんじゃ……………」


 僕は首を振って、


「そうなんだけど、よく考えてみろよ。どう考えたって説明できない部分はいくつかあっただろ?」

「そうかもしれないけど、犯人は業者さんだったでしょ?あの人自身も言っていたんだし、事件は解決したんじゃないの?」


 少し考えてから、


「でも、別の可能性だって十分あり得たんじゃないか?むしろそっちの方が確率的に大きかったかもしれないし。それを昨日見逃していたことに今さら気付いたかもしれない」


 僕は教室の窓と校庭の焦げ跡、そして桜の木を交互に見た。


「やっぱりな。単純な思考じゃ足りなかったか。周りの事に気を配れれば気付けたんじゃないのか?くそっ!」

「ねえ?何が足りなかったの?」


 彼女が服を引っ張った。


「昨日、僕は推理の穴を埋めるために超能力と魔術を手段として出しただろ?」

「うん」

「だけど、犯人が能力を使ったなんて証拠は全くないだろ?」


 彼女の顔に「?」が浮かんだ。


「え?でもあれは超能力を使ったんじゃないの?あの人も自分が使ったんだって言ってたんだし………」


 僕は首を振って、


「いいや、必ずそうとは限らないんだ。まず、証明できない手段を証拠として使うには足りない部分が多すぎたんだ」


 彼女の顔に再び「?」が浮かんだ。


「どういうこと?」

「能力を使わないとあの事件は成立しないのかもしれない。だけど、それは犯行の手段が明確にわかっていないとそう言えないんだよ」


 若干わかっていないような感じを見せながらも、彼女は続けた。


「じゃあ、どうなってるの?事件は超能力が使われてなかったってことなの?」

「そもそも超能力とか魔術が存在したかはあまり証明されていないんだ。科学的な証拠は何もないからね。実際に第三次世界大戦で使われたって聞くけど、あれだって時代に見合わない曖昧な情報しか残っていないんだよ」

「つまり?」

「事件捜査に超能力が使われたって話はたまに聞くけど、あれだって科学的な根拠を得られてない。能力を使った結果として事件が解決できたとしてもそれは結果論でしかないし、超能力が使われたって事になるけど、その過程は証明できない。特に今回なんかは犯人側の能力の使用だ。犯人は推測できても、その過程を証明できなかったら何の意味もないんだ。存在を仮定できても、存在するという証明はできないんだよ!」


 彼女は驚いた様子で、


「じゃあ、犯人は業者さんじゃないってこと?」

「そうかもしれない。状況的に業者さんだって推測して、そうだって言ってたけど、実際はそう仕組んだ別の犯人がいて、業者さんはそいつの命令に従ってただけかもしれない。過程が証明できないから、いくらでも嘘を重ねていくことができるんだよ」

「そんな…………」


 彼女は口に両手をあてた。


「だからあの事件は完全に解決できていない。僕の推理が完全に正しければそれでいいんだが、もしそれが間違っていたら大変なことになるかもしれない」

「でもあ業者さんは最後に反省していたじゃん。あの人は嘘をついていないと思うよ?」

「じゃあ最後の爆発は?あれはなぜ起きた?」

「それは…………」

「もし本当に反省していたのなら、爆発は起こさないはずだし、犯人の正体もばらすはずだ。でもそれをしなかった。まあ実際僕が恨みを買っただけなのかもしれないけど、犯人が自分であったのが本当なら、爆発を起こしたのと矛盾が生じる。なぜなら正しい事をするって言ってたしね。つまりは別の人物が起こした事になる。だけど、もし別の真犯人がいて、そいつのことを隠していたのなら筋は通る。つまり、あの人が全て本当のことを言っていたのなら、どう考えても嘘をついていたという結果にしかならないんだよ!」

「じゃあ、あの事件は…………」

「そう」


 一息おいて、


「昨日起きた事件。その全ての要素から考えた場合、何も事件は解決できていなかった事になる。そもそも、超能力や魔術みたいな不確定なものが入りこんでいる事件を解決するのには、初めから無理があったんだ!」

「………!」

「それだけじゃない。業者さんは何者かに脅されてやっていたとしたら、何も悪くないのに罪を押しつけてしまった事になる。ガラスを割るためだけにそこまで深くやったとは考えにくいけど、もしそうだったらこれは僕の責任だ。まさかこんなことになるとは……………」


 僕は拳を強く握った。


「そんなこと言ったってさ」


 彼女が心配そうな顔でこっちを見て、


「今さらどうこうできる問題じゃないよ!確かに昨日は手押が勝手に話を進めちゃったのもあるけど……」

「なら!」

「でも、こんなことでいちいち考えてる必要は無いよ。もう過ぎたことなんだし、そんなこと言ってったらきりがないよ。私たちにできることは限られているんだよ?なのにどうしてそんなに無理をしようとするの?おかしいじゃん!」

「だけどさ……………」

「そこまでして深く考える事は無いと思うよ。業者さんを間違えて悪人だって決め付けちゃったのもそうだけどさ、今はどうしようもないよ。それにあの人は自分から言ったんだから、手押は悪くないと思う。もし他に犯人がいたとしても、きっと警察の人に話してるって」

「そんな………………そんなにうまくいくかよ……………………」


 すると彼女は呆れたような顔でため息をつき、


「さっき約束したでしょ?マイナスの事は言わないって、なのにどうして今そんなことばっかり言ってるの?さっきまでの話はどこへ行ったの?」

「…………………」


 僕は何も言えなかった。


「責任があるとか無いとかじゃなくて、次にどうするかを考えたらどう?責任があるって感じるのなら、それなりの行動をすればいいじゃん。私もできる限りのことするから、そんなに話を変な方向にどんどん進めるのは止めて!」


 彼女の顔は本気だった。

 なのに僕は、自分ではどうしようもないという自覚がなかなかできなかった。


「………………これでいいのかよ」


 自分の中では、いろんなことが渦巻いている。事件の真相という先の見えない何かが、僕を混乱させている。以前の僕だったら、どうでもいいの一言で済ませているだろう。だけど今は違う。周りが見えるようになったからこそ、いろんなことに対しての不安も浮かんでくる。


「お互い助け合うんでしょ?ならそれでいいじゃん。何かあったら私も協力するから、そんなに深く考えなくても手押ならきっと大丈夫だよ」

「うん…………」


 僕は彼女の方を向いた。

 心の底から僕を心配してくれているというのがわかるくらい、悲しそうな顔をしている。こいつは本当に僕の事が好きなんだ、と改めて実感した。しかし僕はそれに気付けず、勝手に突っ走っていた。さっき約束したことを完全に無視して、自分勝手な思い込みをしていただけなのだろう。そのことに気付くと、僕の熱は少しずつ冷めていき、次第に自分に対する怒りへと変わっていった。

 ………………どうして気付いてあげられなかったんだよ。これじゃあ今までと一緒じゃないか!周りの事に気付いたふりをして、実際は自分の事しか考えられていないんじゃないかよ!

 そんな考えだけが、自分の中を回っている。それこそ、自分勝手な考えだということにも気付けずに。

 すると彼女が顔を近づけてきて、


「ねえ?」

「?」

「今さ、自分は変わってないって思ってない?周りの事をわかってるつもりで、実際はそうじゃなかったんだって、思ってない?」

「…………」


 口が動かなかった。

 ダメだな僕。完全に彼女に見抜かれてるな…………

 そう思った僕は若干下を向いて、


「うん。思っちゃってるよ。相変わらず自分勝手だなーってさ。やっぱり、僕って何にも変わってないのかもね」


 こんなことを言ってしまう自分に笑うこともできなかった。

 しかし、


「そんなことない!」


 彼女は叫んだ。


「手押は絶対に前とは違う!変われてるよ!だってわかるもん!」

「どこが?僕の何が変わったっていうんだ?」


 僕はどこも変わっていない。なのに彼女はどうしてそんなことが言えるんだ?


「今の状態じゃわからない。そんなマイナスの気持ちになっちゃってる間は誰だってそうだよ。私だってそうなっちゃうかもしれない。でも明るい時のあなたは絶対に今までとは違う。自分では気付きにくいかもしれないけど、私はそうなってると思う」

「うん…………」


 僕は曖昧な返事をした。


「だから私はさっき、普段は明るくしてほしいって言ったの。マイナスな気持ちじゃなければあなたはとってもいい人なんだから。それにね、私もあなたのおかげで前の自分から変われたんだよ?」

「お前も?僕が何を変えたんだって言うんだ?」

「それはね」


 彼女は一息おいて、


「さっき言ったかもしれないけど、私は自分の気持ちに確信が持てなかったの。わかってるつもりでいたけど、実際は何にもわかっていなくて、だから、自分で行動するっていう気持ちがなかったし、告白だって、もしかしたらできていなかったかもしれない。それくらい私はダメな人だったの」

「そうなのか?いつもお前はクラスにも馴染んでて、友達もいっぱいいて、今言った感じじゃなかったぞ?自分の行動に自信が持てて無いなんてはずがないと思うんだが」


 彼女は全然、といった感じで首を振って、


「違うの。それは本当の私じゃない。本当の私は他人に流されるだけの人間だもの。馴染んでいるように見えても、周りに合わせているだけで、私から行動することなんてできなかった。周りの顔色をうかがって行動していたんじゃ、確かに馴染んでいるようにも見えるかもね」


 そういって彼女は少し下を向いた。


「そうか………そうだったのか……………」


 僕は彼女の知らなかった事実に驚きながらも、お互いの過去に心を暗くさせた。


「だけどね」


 彼女は雰囲気を明るくさせて言った。


「あなたがいてくれたから私は変われた。言っちゃえば偶然だったのかもしれないけど、この出会いのおかげで私は変われたの。いいや、5年前の出来事からそのきっかけはあったんだと思う。全ては運命のいたずらだったとしても、私はあなたに救われた。付いていくことしかできなかった私を引っ張って行ってくれたのはあなたなんだから」


 彼女はどこか嬉しそうに話している。

 それを見て自分もどこか、心が晴れてきたような…………………そんな気がした。


「あなたは私を変えた。なら自分だって変われてるはずだよ。さっき言ってたじゃん。僕の人生は変わったんだって」

「でもあれはお前がいたから、お前の告白が僕の気持ちを変えたんだ。自分で変えたんじゃないよ」

「私はそうは思わない。私は自分の気持ちを伝えただけ。その前にもいろいろな事があったりしたけど、変われたのはあなた自身でだと思う。あなた自身が、私の気持ちに気付いてくれたからなんじゃないの?」


 一瞬、言葉に詰まった。


 彼女の言葉は、あながち間違っていないのかもしれない。だけど僕は変われてない。変われたと思っていて、変われてなかっただけなのだ。


「僕は………………」


 なんて言おうか決められず、ためらいがちな言葉しか出なかった。


「……………そんな風には、思えないな」


 そんな言葉が出てしまう自分に少し後悔も残った。

 すると彼女は再びため息をついた。


「はぁ…………。あのさ、一つ聞くけど」

「なんだ?」


 僕は顔をあげた。


「そうやって、変われてるか変われてないかって、何のために言ってるの?ただの独り言?それとも私に相談?独り言だったら、私と話す必要は無いよね?」

「それは…………その…………」


 いきなり話を変えられたことについて行けず、言葉を選ぶのに少し時間がかかった。


「多分、独り言をただ呟いてるだけかもな。単なる自己満足かもしれない。何のためって聞かれたら…………自分のため………でもないな。何だろう、わからない。もしかしたらお前に相談したいだけなのかもな」


 言い終わりと同時にため息が出た。

 しかしそれを聞いた彼女は、僕の思っていたのとは逆に、さっきよりも表情を明るくした。


「それでいいんだよ。あなたの心はあなたじゃないとわからない。私には完璧に読む事は出来ないし、共感できないかもしれない。今だって、辛そうにしていることぐらいしかわかってあげられない。だけどね。あなたがそうして、いろんなことを考えられるようになったのって、やっぱり変われたおかげなんだと思うよ?」

「……………………」

「そうやって他人に関わりを持とうとしていること自体、前とだいぶ違うと思うよ?だからさ、もっと雰囲気を変えて、私と接してほしい。私が言えたことじゃないかもしれないけど、そうしてくれた方が私は嬉しい。ダメかな?」


 彼女の言葉は僕の心に響いた。

 それが正しいか正しくないかの問題ではない。彼女が僕を本気で思ってくれていることが身にしみた瞬間であった。さっきから気付いてはいたものの、自分の事が精一杯になっていたがために実感できなかった。わかってあげられなかったのだ。

 その言葉を聞いた瞬間、僕の口は完全に止まった。もうマイナスの事が出なくなってしまった。

 だけどそれでいいんだと思う。このまま空気を引きずっていってもいい事は何もないだろう。さっきまではダメとわかっていながらも、勝手に話を進めてしまった。自分勝手というものがそれを勢いづけていただけなのだ。


「ごめんよ」


 僕は素直に謝った。


「勝手に突っ走っちゃってほんとにごめん。もうこんなことなしにするから。江須羽にもう嫌な思いをさせたりしないから」

「いいよ」


 彼女は微笑んだ。


「やっと戻ってくれたね。私はあなたの笑顔が見られる事が何よりも嬉しいの。そんな悲しい顔ばっかり見せるのはもうなしにしてね?」


 彼女は僕の方に寄ってきて、


「いつまでも楽しい思い出を作っていきたい。ただそれだけでいいと思うの。私だって、昨日手押と同じようにマイナスな気持ちになっちゃってたよ?だけど、それを止めてくれたのはあなただったでしょ?」

「え?僕何かしたっけ?」

「覚えてないの?」

「す、すまん、あの後なんだかんだ言っていろんなことがあってよく覚えてないんだよ」


 特に夜中の恵とか。


「えぇ?うそぉ!だってあの時私思いっきり泣い………………」


 と、そこで彼女の言葉が途切れた。それと同時に顔がだんだん赤くなっていく。


「どうした?」

「……………………何でもない」

「ん?よくわからんが、何か言いたくない事でもあったか?」


 彼女は真っ赤な顔で首を振りながらながら言った。


「な、なんでもない。べ、別に覚えてないならそれでいいから!」

「ふうん……………」


 何があったのかちょっと思い出したくなったりもしたが、ここはあえてそうしないでおく。


「まあ、お前がそう言うんなら無理に思い出さなくてもいっか」


 そう言って、僕は少し苦笑いをした。


「だけど、これでお互い様、か」

「そうだね。なんだかんだ言って、お互いに同じような事してたんだね」


 彼女も同じく苦笑いをした。


「でも、手押がいつもの手押に戻ってくれてよかった。もうこんなことは本当になしにしてよ?」

「うん、わかった。今度こそ、本当に」

「よろしい」


彼女は頷いた後、くるりと回るような動作をした。


「さあて、これからどうするかを考えないとだね」


 僕は頷いた。


「そうだな。でも何から始めるべきなんだろう」


 まず周辺からの聞き取り調査からかな?夕方不審な動きをしている人がいませんでしたか、とかこの辺で悪さをしている人がいませんでしたか、とか。学校の先生にも聞く選択肢もあるか。あの日に学校で起こったどんな小さなことでも聞けたらいいんだけど。あ、それと警察所に行って、業者の人についても聞きたい。でもあの人はどこにいるんだかはわかんないんだよな。

 なら、今やれることは少ないかな。


「やっぱり……………先生にもう少しいろんなことを聞いてみるべきかもな」

「何を?」

「あれだよ。あの日何があったのかとか、もっと詳しく」

「うん……………それもそうなんだけど」

「どうした?」


 彼女の反応がいまいちだった。


「私としては、ちょっと違うかな。もっと別な事からしたいって思ったんだけど」

「それは?」


 僕は首をかしげた。


「最初に何をするっていうんだ?」


 彼女は人差し指を立てながら言う。


「えっとね、日時は明日の午前10時、場所は牛浜駅前に集合。持ち物は特になし」


 え?

 何でいきなり牛浜駅に集合なんだ?

 周辺からの聞き取り調査ならわかるが、何でそこなんだ?学校から一番近くて、大きい駅ではあるが、わざわざ学校から離れた牛浜駅にする必要は無いんじゃないのか?

 もしかして、こいつはそこに重大な秘密が隠れていることを知っているっていうのか?事件解決のためにわざと僕をそこへ誘導しているのか?まさか。

 そう思った僕は慎重に聞いた。


「そこに行って、一体何があるんだ?」

「まだわからない?」

「全く」


 彼女は若干顔を赤くしながら、


「そんな難しい事じゃないって、まあ、そういう私も初めてなんだけどさ」


 何だ?そんな重要な事をやるっていうのか?

 聞き取り調査なんて学生はめったにするもんじゃない。当然ながら初めてではあるものの、それとは何か違うものを意味しているようでもあった。


「それで?結局何をするんだよ」

「だから」


 その後に発せられた言葉は、僕の想像していた答えとは全く違うものだった。


「デートよ。明日、デートに行きましょう」

ここは事件というより、二人の心の状態をメインに書いたつもりです。気が合う人って、意外に似ている性格だったりするんですかね?(適当)さて、デートはどうなる。

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