プロローグ
築山神楽です。これが自分の処女作で、かなり前に書いたため拙い文章ですが、楽しんでいただけたらなと思います。
用語解説はあとがきにあります。
今からそう遠くない未来、人類の科学技術は飛躍的に進歩した。
それは徐々にというわけではなく、グラフで表すと飛び跳ねるような成長だ。
日用品から軍事関係のものまであらゆるものが新しくなっていった。昔からみれば、夢のようなものばかりである。
自動車はガソリンを使わずに走るし、旅客機は全く騒音を発生せずに飛ぶ。
映画は立体映像となり、劇場の中を自由に飛び回る。
軍事兵器はそのほとんどが無人化され、戦場で兵士を見ることはほとんどない。
ただ座っているだけでも食事が出てくる。
介護ロボットがおじいちゃん、おばあちゃんの世話をしてくれる。
もう、空想が現実になりつつあった。いや、もうなっているのかもしれない。昔から見れば「あり得ない」の範囲が、今はほとんど「当たり前」で済まされる。
ではなぜそこまで技術が進んだのか。
理由は簡単。
2025年ごろに、世界的に危ぶまれていた日本と中国の関係が最悪の状態となり、日本、アメリカとその同盟国側と、中国、ロシアを中心とする側に分かれ、第三次世界大戦が始まった。
アメリカは日本、韓国に大量の兵器を配備、ロシアも中国や、それに便乗してきた北朝鮮と連携し、日本海側および韓国の周辺に防衛線を築いた。
日本海でにらみ合いが続く中、相手よりも優れたもの開発をしようと、それぞれの技術だけが凄まじい勢いで進歩し、第二次冷戦とも言うべき状態が五年間も続いたのだ。この間、日本は朝鮮戦争以来の特需景気となり、暗くなっていた財政が勢いを取り戻した。
その一年後、とうとうしびれを切らした中国が日本へ最初の一撃を放った瞬間、ついに兵器と兵器のぶつかり合いになった。
最初の攻撃に関して中国は「日本の言いがかりだ。我々は本当に何もやっていない」と主張した。しかし同盟国側はその主張を非難。さらに戦争を激化させていった。
それぞれが極秘に開発した最新鋭の兵器が次々に投入された。それらが戦場を走り、飛び回る様子はまるでSF映画のようだった。だが前から使われるであろうと予測されていた核兵器は、この戦争では使われなかった。なぜなら、弾道ミサイルを発射した瞬間に、人工衛星からのレーザー攻撃で撃ち落とされるからだ。たとえ弾頭が小型化されていたとしても、自国で核を起爆させたくはない。
そしてこの戦争で使われたのは兵器だけではなかった。
最新鋭の技術同士の戦いは、犠牲を出さないという面では優れていた。
しかし経済的なダメージが、お互いの国を締め付けていった。
資源にも限りがあった。両国とも大きな国で資源も豊富にあったが、いざ戦争となると、あっという間に底を尽きる。それに効率的に使う分にはいいが、損害を出さずに戦争はできない。
そこで、両陣営の首脳陣が、相手に勝つために次世代の戦力が必要だと考えた。しかし技術競争などお互いが競り合うだけで、飛びぬけて相手より優れているようなものはなかった。
抜かしたと思えばもうすでに抜かされていたり、せっかく作っても気付いたら性能が負けていたりと、いたちごっこが続いていた。
だから、何か決定的な物が必要だった。
戦況を一発でひっくり返せるような圧倒的な何かが。
それぞれの国が散々考えた末に、不確定だがある可能性を導き出した。
果たして、それは一体―――――――――――――
『こちら護衛艦やましろ、現在敵と交戦中!』
『くそっ!すごい台風だ!これが人工的につくられたものだなんて信じられねえぜ!』
『米海軍の空母からです。暴風の影響で戦闘機が発進できないとのことです!』
――日本海、能登半島320キロ沖合―――
風速70メートルという猛烈な暴風、前が見えなくなるほどの凄まじい量の雨、5メートルはあろうかという大波。そんな中を、海上自衛隊の護衛艦5隻とアメリカ海軍第十二艦隊が進む。
波は超がつくほどうねり、船を何メートルも上下させる。体が浮く感覚が何度も繰り返され、酔う船員が続出している。普通だったらこの台風の中で沖に出るのは正気の沙汰ではない。そもそも、特殊な形状で15メートルの波と風速80メートル/秒に耐えられる設計の最新鋭イージス艦でなければ、まともに浮いても居られないだろう。
しかし、そんな中でも彼らは船に乗って戦わなくてはならなかった。
自国を守るために。
「敵ミサイル飛来!方位3-4-1、距離およそ90マイル!き、来やがった………!」
ヘッドホンを頭に付けた船務士の見るCICのディスプレイに、多数のミサイルが表示される。それと同時に何人もの船務士がヘッドホンを通じて情報をやり取りする。
「シースパロー3、発射準備!急げっ!」
砲雷長の指示を聞いた船員がディスプレイを震える指で操作し、ミサイルの発射口が開かれる。
「目標補足、シースパロー3発射準備!」
レーダーに映るミサイルがロックオンされ、砲雷科の船員がFireと書かれた発射スイッチに指を触れた。
「シースパロー発射!」
「発射用意。撃てぇっ!」
ミサイルの発射管が火を噴いたと思うと、多大な轟音と大量の粉塵をまき散らしながらミサイルが発射され、周りの艦からも何本もの煙が空に向かって伸びていった。しかしその煙すらも暴風に流され一瞬で消えてしまう。
「シースパロー発射よし。目標迎撃9秒前。………………5、4、3……」
発射されたミサイルが敵のミサイルに向かっていく様子が、ディスプレイに生中継される。
「2………………全弾命中!ミサイルの迎撃成功」
「よしっ!」
その時、体がふわりと浮くような感覚とともに、艦全体が不自然に下がった。
「前方に大波!何かにつかまれーっ!」
見ると巨大な波がすぐそこまで迫っていて、大量の水がまるで飲み込むかのように艦隊を襲う。
そして凄まじい轟音とともに、大量の海水が艦を襲った。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
波に吞まれながらも艦が何とかバランスを取り、再び前進を始めた。
「みんな大丈夫か!?」
「くそっ!ロシアめ、こんな台風までつくりやがって、俺たちを本気で苦しめるつもりだな!」
この台風は元々自然に生まれたものではない。どこからともなく発生し、それと同時にロシアと中国が作戦を開始した。明らかに人為的なものだ。
「ソナーに複数の感あり、左舷前方に魚雷を確認!距離、近い!」
対潜ソナーを見ていた船務士が叫んだ。
その魚雷はステルス能力を持っているらしく、接近されるまで気付けず、すぐそこまで迫っていたようだ。そもそもこの荒れた波の中で魚雷をまともに発見できるわけがない。
「回避不能!魚雷10発、来るぞっ!」
その瞬間「ドゴン!」というお腹の底に響くような重低音とともに、すぐ左を並走していた米駆逐艦の周りに水しぶきが上がった。
直後に無線が入る。
『―――こ、こちらUSSプロキオン、被弾!これより離艦する!もう駄目だ!うわぁぁぁっ!―――――――――』
その叫びを最後に、大爆発とともにアメリカの最新鋭の戦闘艦が真っ二つに折れ、荒れる海へと沈んでいった。
「くそっ!救助ができないぞ!どうすればいい!?」
「敵ミサイル第5波、来ます!」
再びディスプレイにミサイルが表示される。
「ミサイルで迎撃不能!、光学近接防空火器自動対空モードにて発射!」
レーザーを搭載した砲塔が焦ったようにミサイルの飛んでくる方向を向くと、立て続けに光線を空に向かって放った。しかし、海面、もとい波の間すれすれをマッハ10という速度で飛ぶミサイルは、艦隊に向かって息をつく暇もなく真っ直ぐ突っ込んできた。
「ま、まずいっ!」
そして迎撃が間に合わず、何本かのミサイルがレーザーをかいくぐりついに目前まで迫った。
体感的にスローモーションになった世界で、ミサイルが艦橋に突っ込んでくる様子がはっきりと見えた。自分に向かって突っ込んでくるミサイルほど恐ろしいものはない。現代兵器の脅威が、目前に迫ってからようやく…………。
「衝撃に備えろ!」
その直後、レーザーがミサイルを焼き切り、艦橋の目の前で大爆発が起こった。
爆炎が、視界全体をオレンジ色に染めた。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
艦が大きく揺れ、艦全体から金属独特の嫌なきしみ音を響かせた。それと同時に艦橋の窓が衝撃で割れ、何人かの船員が投げ飛ばされるように床に倒れた。
「みんな無事か!?」
「ダメージコントロール!」
「左舷前方SPYレーダーと衛星通信ドームが破壊されました!」
くそっ!と艦長が拳を叩きつけた。
「おい!迎撃衛星はどうなっている!?」
「はい!台風の雲でレーザーが届かないようです。使い物になりません!」
「何だと!ロシアはそこまで計算に入れていたのか!?」
大雨が船体に吹き付け、波が大きくうねる中で戦闘は続く。
「敵艦隊捕捉!23式艦対艦誘導弾、発射準備!」
「やられっぱなしもいいところだ。よし、日本の技術力を見せてやれ!」
発射!と砲雷長が叫んだ。
「23式艦対艦誘導弾、撃てぇっ!」
日本が開発した、世界に誇る最新鋭の対艦ミサイルが発射された。
「23式発射。目標着弾までおよそ7秒」
暴風の中をミサイルの大群が音速を遥かに超える速度で突き進む。
「5………4………3………2……ミサイル弾着―――今!」
遥か遠く、荒れる波の向こうで爆発が起こった。
「30発中12発命中!敵艦3隻、大破!」
「次の攻撃に備えよ!」
対潜ソナーに反応があった。
「敵水中戦闘艇来ます!数は15!」
ロシアの水中で高速移動できるように設計された小型の潜水艇が、60ノット(時速約100キロ)という速度で迫る。まさに水中の戦闘機のように、編隊を組んで向かってくる。
「対水中戦闘、用意!」
その時、水中戦闘艇から何かが発射された。
「敵、魚雷発射、距離およそ40!」
「魚雷迎撃用意」
船務士がディスプレイで目標を入力する。
「了解。敵の魚雷を捕捉!」
「迎撃用アスロック3発射!」
垂直発射式の魚雷が次々に発射され、目標へと向かう。
「ブースター分離。着水を確認」
しばらくして遠くで水しぶきが上がった。
「アスロック、全弾命中!」
「続いて、mk72魚雷、発射!」
波が荒れる海に投下された魚雷は、70ノットという速さで真っ直ぐきれいに進んでゆく。しばらくして水中レーダーに映っていた敵の水中戦闘艇の反応が消え、《destroyed》と表示される。
「mk72、全弾命中!」
「よし、このまま日本を守るぞ!」
ここで無線が入った。
『こちらアメリカ海軍第十二艦隊だ、海上自衛隊応答願う』
艦長が無線機を取り、応答する。
「こちら海上自衛隊護衛艦のやましろ、どうぞ」
『我々はこれより前進し、敵の掃討に当たる。貴艦らは我々の援護をしてほしい』
「了解した。我々は後方で待機する」
第十二艦隊が前進をはじめた。巨大な空母と、その周りにいる何隻ものイージス艦が艦隊を組んで進んでゆく。
その時、再び船務士が声を上げた。
「敵戦闘機隊来ます!数は20!そんな…………やつら、この風の中を飛んでいますよ!」
「何だって!?」
風速70メートルの中で飛行機を飛ばそうものなら、普通は木の葉のように飛ばされ、瞬く間に墜落するだろう。しかしロシアの最新技術によってつくられた戦闘機は、そんななかでも悠々と飛んでいられるのだ。
「迎撃開始!レーザーで主翼を切断してやれ!」
だが放たれた光の速さの攻撃は、ロシアの最新鋭戦闘機の翼を切り落とした。制御を失った戦闘機が何機も海に落ちてゆく。
「…………7機撃墜しました。残りは反転してゆきます」
船務士が言ったのを最後に、敵からの攻撃が無くなり、艦橋には船体に吹き付ける風雨と大波の音が残った。
―――しばしの沈黙。
「……………………我々が勝ったのか?」
「撃ち方やめ!海に落ちたパイロットと撃沈された駆逐艦の乗組員を可能な限り救出せよ。警戒態勢は現状態を維持!」
と、その直後。
前方500メートルほど先の海面が、下から突き上げられたかのようにいきなり持ち上がった。その場にいたアメリカの艦が何隻か飲み込まれ、宙を舞った。海水が横一列に伸びてゆき、前方の視界を完全に塞いだ。山のようになったそれはまるで、行く手を阻む壁のようにそびえ立っている。
「なっ、なんだ!?」
そしてその頂上に人影が見えた。その人物からなのか、突然無線機から声が発せられた。
『――あ~っ、あ~っ、日本とアメリカの皆さん、聞こえますか~?』
皆が唖然とする中、艦長が無線機を取った。
「………誰だお前は?」
『俺様はロシアの超能力者だ。悪いがこの先は進ませねえぜ?』
艦内がどよめく。
「……超能力……だって………?」
“異能の力”
世界中で研究されているが、いまだに証明ができていない力。
フィクションやアニメでしか出てこないような不思議な力。
それらを利用することで、各国の首脳陣はこの戦争を打開しようと踏み込んだ。
だがそんな力を持った人間が普通にいるわけがなかった。透視能力者などの例が多数確認されているが、はっきりとはしてないため、本格的に利用することは困難だった。
そこで両陣営ともそれらの研究に必死になった。
この戦争は異能の力によって止められる。なら相手よりもいち早くそれらを見つけ出すべきだ。そう考えた科学者たちはそれぞれの国で極秘に研究したが、科学的に生み出すのは不可能に近かった。
不思議な力を持った人を募集したりもしたが、嘘っぱちの能力ばっかりで芳しい成果があげれなかった。しかし裏ではこうした力を持った人たちが集まって極秘に結社をつくっていった。
『一応言っとくが、見ての通り俺様は水を操れる力を持っているんだ。海の上なら俺様は無敵さ』
水の山の上にいる人影が自慢げにポーズをとった。
それを見ていた船員が言った。
「聞いたことあるぞ!ロシアは本格的に超能力開発をしているって。まさかあいつもそういうやつなのか?」
この時無線は切っていたはずだが、なぜか返事が返ってきた。
『いいや、違うな。俺様はそんなつまらない事をされてこの力を手に入れたわけじゃないぞ。正真正銘、本物の超能力者だ』
両大国が研究を進める中、ロシアが超能力の法則性について研究が完了したと情報が流れた。以前より超能力学校をつくるなど研究が進められていたが、ついにその秘密を解き明かすことができたのだ。
実際には少しでも有利になろうとロシアが流した情報で、半分本当で半分嘘だったのだが、アメリカはこれに焦りを見せた。
1961年、人類初の有人ロケット打ち上げにおいて負けて以来、アポロ計画ぐらいでしか技術の面で大きな成果を挙げられなかったアメリカは、またしても競争に負けたのだった。
「………お前は何がしたい?」
理解が追いつかない状況だが、艦長が言葉を返す。
『俺様はお前たちをここで食い止めるだけだ。先へ進むのなら俺様を倒すことだな』
「我々は無駄な戦いをしたくない。お前がここにいるのなら引き返すつもりだが……………」
『それじゃつまんないんだな。ここでいっちょ勝負をしないか?』
気軽に返事をしてくる相手に戸惑いながらも、艦長は的確な言葉を返す。
「我々の任務は日本の防衛だ。攻撃はしないつもりだが、お前が脅威となれば戦う必要がある」
しばしの沈黙のあと、返事が来た。
『………………………………………わかった。なら俺様はここでお前たちを倒すことにするぞ』
「何だと?」
『何もしないんじゃあつまんないからな。ちょっとばかし俺様を楽しませてくれよ』
「おいっ!それはどういうことだ!?答えろ!」
しかし返事は無く、海水の壁が徐々に動き始めた。
「まずい!全艦全速後退!」
グオォォォォォォォォォン!
機関の出力最大で、艦隊が後ろに下がり始める。
しかし。
『おおっと、逃がさねえぜ?』
海水の壁が巨大な波となって追いかける。40ノット以上の速度で航行できる艦でも、押し寄せる波の速度にはかなわない。500メートルの距離をあっという間に詰められた。
『あばよ、この俺様に出会ったことがツいてなかったな。まあせいぜい、助かるように神にでも祈れよ。しっかし、最新鋭の兵器がこうも役に立たないとはねぇ』
巨大な波はもう頭の上まで覆いかぶさっていた。
「もう駄目か…………」
誰もが波に飲み込まれ、海の底に沈むと思った瞬間。
バシュッ!
閃光のようなものが突き抜け、すぐそこまで迫っていた波を全てはじき飛ばした。
「……なっ…………!?』」
ロシアの超能力者は一瞬の出来事について行けず空中に投げ出されたが、すぐに水を操ると体勢を立て直して叫んた。
『チッ!誰だ!俺様の邪魔をしたのは!』
『ハーイ!日本の皆サン、コンニチハ!』
無線機に若い女性と思わせる陽気な声が入った。
『ワタシ、イギリスの魔法使いデース!コイツの相手はマカセテちょうだい!』
船員は皆、何が起きているのかさっぱりわからない様子で固まっている。ふと空を見上げると、不思議な格好をした女性が箒に跨って飛んでいた。
まるで西洋の魔女。
「アナタの好き勝手にはさせないからネ!ロシアの超能力者サン!」
彼は驚いたような顔をしていたが、鼻で笑うと言った。
「テメェこそ調子乗ってんじゃねぇぞこの魔法使いが!」
直後に力と力のぶつかり合いがあった。一瞬という間に何発もの攻撃が放たれ、それによって生み出された衝撃波が周りを飛んでいるミサイルを吹き飛ばした。
攻撃がやんだ。
凄まじい戦闘を繰り広げておきながらも、彼らは笑っていた。
「アナタ中々やるジャナイ」
「テメェこそな、だが次で終わりだ!」
再びぶつかり合いがあった。水、光が二人の周りを飛び回り、お互い相手を狙って放たれる。しかし、戦いの中でも彼らはやはり余裕の笑みを浮かべていた。
ロシアの情報が流れた後、アメリカは急いで研究を進めたものの、やはり大きな成果が挙げられず、超能力研究を断念せざるを得なくなった。
そこでもう一つの可能性に賭けた。
“魔術”
それは古来より存在する科学を超えた力。
こちらも科学的には証明ができない力だが、もうこの手しか残っていなかった。
古くから伝わる伝説や神話などをもとに人類の歴史を振り返り、世界中の宗教や存在する魔術結社などを探りに探って、あらゆる事象を研究し、魔術がどのようなものかを徹底的に研究した。
古代ギリシャより伝わる占術や呪術。同盟国であるイギリスの魔術結社、『黄金の夜明け団』やその後継団体などといったものから。
こちらもロシアの超能力研究と同じように可能性に賭けたものだったが、科学的に証明ができない以上仕方がなかった。
「台風を味方につけているからッテ、ずいぶんと余裕みたいネェ?」
「ハッ!そんな理由は簡単だ!ロシアがなぜ、この台風をつくったか知ってるか?」
彼は腰に手を当てながら言った。
「ええ、モチロン!艦隊行動の妨害と迎撃衛星の攻撃を防ぐためデショ?」
彼女も箒に跨りながら勝者の顔をしている。
「違うな!お前の言ったことも間違ってはいないが、本来はそんなためじゃなくて……」
彼は片手を空に向けた。
「この台風そのものを一つの魔法陣に組み換え、大規模魔術を発動するためだ!」
「……………………!?」
彼がそう叫んだ途端に雲が光り出したと思うと、台風の形に合わせ魔法陣が展開されてゆく。
「日本には天津彦根神って言う台風の神様がいるらしいな。そいつは台風のときに風水害を防いだりするらしいが、こいつはその逆。つまり大災害を引き起こす神だ。最近話題になっている異常気象もこいつの仕業だと言われているぐらいのやつだ。それをロシアは人工的に作り出し、その力を使わせてもらうって寸法さ」
台風の直径は大きいもので800キロメートルを超える。それだけ大きな魔法陣で発動される魔術は相当なものになるだろう。
「なあ知ってるか?台風のエネルギーって凄いんだってな。広島に落とされた原爆の2000倍ぐらいあるらしいぞ。これを魔術として発動したらどうなるかなぁ?多分お前たちは跡形もなく吹き飛ばされるんじゃないか?」
風と雨がさらに強まり、波が高くなっていった。
実はロシアにおいても、アメリカと同じように魔術が研究されていたのだ。異能の力の代表例なら研究されていても何ら不思議はない。アメリカが気付かない間に、研究は大分進んでいたということだ。
そして、いよいよ大規模魔術が発動される。
「これで終わりだ!お前ら全員、地獄へ落ちろ!」
彼は吹き荒れる風の中で笑い声をあげた。
と、次の瞬間、ガラスの割れるような音とともに魔法陣と台風がバラバラに砕けた。
雨と風が完全に消え、青空が広がった。まるで戦いなど無かったのかのように思えるほどに。
そして彼女は言った。
「魔法使い相手に魔法陣つくるトカ面白い事するワネェ。打ち消しの魔法なんて、魔力を逆流させてエネルギーを相殺させるダケの簡単なものナノニ」
彼女はウィンクしながら、人差し指を軽く振る仕草をした。
「ソモソモ魔術と魔法は根本的に違うのヨ。知ってたカシラ?」
しかし彼は表情を変えずに笑っていた。
「俺様に言うな。これをやった魔術師に言ってくれ」
「そうネ、いつか言っとくワ」
そんなことを言いながらも、顔は全くそうする気も無いようで。
「それよりも大丈夫?台風という壁が無くなっちゃったカラ…………」
「何だって言うんだ?」
そういって、何気なしに空を見上げた瞬間。
……………………………ズバッ!
大気圏外からのレーザー攻撃が降り注いだ。人間はおろか戦艦でも耐えられないほどの出力が一点に集中し、莫大な閃光によって周りの景色が完全に光に埋もれた。
しばらくして攻撃がやんだ。
だが彼は何ともない、といった感じで立っていた。
「言ったろう?海の上じゃあ俺様は無敵だって。水を使って光を屈折させてエネルギーを分散させればいいだけの話だ。あれでも同盟国軍自慢の攻撃か?全く、呆れるよ」
「イイエ、同盟国軍の自慢はここにいるワ。主に個人的にダケドネ」
彼女は胸を張った。そこにはやはり余裕の笑みがある。
「ハッ!面白ェ!なら決着をつけてやるよ!」
「望むところネ!」
そう言った途端、一瞬で二人がぶつかった。攻撃が飛ぶ度に海面が揺れ、船を大きくゆすった。
そして戦いはまだ続いている。兵器同士の戦いが。
「台風の消滅を確認した。戦闘機隊、発進せよ!」
艦隊を指揮する提督が叫んだ。
「迎撃衛星、敵を捕捉しました」
人工衛星のコントロール施設で、攻撃担当の戦闘員が言った。
「艦隊を組みなおせ!総攻撃の準備をしろ!」
日本の基地で、モニターを見ていた指揮官が叫んだ。
「我々は日本を絶対に守る!ここで負けるわけにはいかない!」
護衛艦やましろの、艦長が叫んだ。
想像を超えた力、それらが戦火を交える時。
それがこの第三次世界大戦。
つまりこの戦争は、科学では説明できないたくさんの異能の力による戦いでもあった。
人類の想像をはるかに超えた科学。
論理的に説明できない力、超能力。
科学と対になる超常的な力、魔術。
そして魔術すらも越えた力、魔法。
四つの勢力が交り合う戦いは、ある一つの勢力によって止められた。
《新しい時代の創造》
そう呼ばれるこの科学結社は、存在こそ表に出なかったものの、大戦中にアメリカやロシアでも追いつけない技術を使って月面へと進出し、そこに地球攻撃用巨大電磁投射砲と核ミサイル発射施設を造った。全長5000メートル、砲直径120メートルというあまりにも巨大なレールガンモジュールは、大国同士の戦いであっても威圧を与えるのには十分だった。
彼らはそれを盾に、世界に向け宣言した。
「我々は現在月から、地球で起きている醜い争いを眺めています。本当に醜い争いです。自分たちが勝つために同じ地球の仲間を犠牲にして、つらい思いをして、自分たちの勝利を喜ぶ。勝てれば確かに嬉しいことかもしれません。同時に、自分たちの正しさも証明する事が出来ます。ですが、果たしてそれが喜びと言えるのでしょうか。勝った方も負けた方もたくさんの犠牲が出ているのにも関わらず、勝ったことだけを掲げる。果たしてそれが正しい行いと言えるのでしょうか。それは絶対に違います。世の中、技術の進歩は止められません。しかしその力を人の命を奪うために使うのは間違っています。技術は社会をよりよくするためにあるのであり、決して兵器などに使うべきではないのです。勝ったからと言って、必ずしもそれが正しい行為とは言えません。間違った考えを持って勝ってしまえば、間違った世界が出来上がってしまいます。それに、戦争という行為自体、間違った行為なのではないでしょうか。私たちは今、月面に巨大なを持っています。これが放たれれば、地上の争いは無くなるでしょう。ですがそれは、たくさんの尊い命を奪うことになります。同時にあなたたちの未来も、一瞬で消し去ることができます。本当ならこんなものは作りたくありませんでした。しかし、この争いを止めるためには必要な物です。ちょっとやそっとの抑止力では、世界規模の戦争など止められないからです。だからあなたたちがもし、この醜い争いを止めるのならば、私たちはこれを使わないと約束します。たくさんの命を、この手で消してしまうことも防げます。どうか、我々の言葉を信じて、この戦争を終わらせてはくれないでしょうか。そして、人類の明日のためにも、その素晴らしい技術を活かすべきだと思います」
結果、この組織が仲裁に入るというかたちで戦争は終わった。国どうしのいざこざは少し残ったものの、武器によって人の命が奪われることはなかった。
また、月面の電磁投射砲は平和という決意を示すために彼ら自身の手で破壊された。
そして終戦から何十年か経った今、人類の技術は進歩し続けている。しかし人々の生活は大戦前とあまり変わっていない。
なぜなら人が科学技術について行けなくなったからだ。
また大戦で使われたと言われた異能の力も、いつの間にか姿を消し、ただ語り伝えられるだけの存在になっていた。
「いってきまーす」
朝の8時ごろになると、家の前の道を同じ服を着た人たちが同じ方向へと歩いてゆく。
誰もいない家にあいさつをして、妹と一緒に中学校へ向かう。
自分の家は通っている中学校から歩いて5分ほどの場所にある。大した距離も歩かず学校へ着き、自分の席に座り、持ってきた小説を読み始める。
本当、日常って何も変わらないな~。
そんな毎日を繰り返していたが、ある日突然、想像もしないであろうことに、自分は引き込まれていった。
時代背景を書いたつもりが、思いっきりミリタリーに傾いてしまった感があります。ただ本編はここからさらに数十年先なので世界観が変わってると思います(多分)
用語解説
弾道ミサイル:道を描いて飛ぶ対地ミサイルのこと。弾道弾とも呼ばれる。弾道ミサイルは最初の数分間に加速し、その後慣性によって、いわゆる弾道飛行と呼ばれている軌道を通過し、目標に到達する。
護衛艦:海上自衛隊が保有する自衛艦
能登半島:北陸地方の中央付近から日本海へ北に向けて突き出した半島。ほぼ全域が石川県に属する。
イージス艦:イージスシステムを搭載した艦艇の総称。高度なシステムにより、高い戦闘力を持つ。
方位:を0° = 360°として時計回りに、東を90°、南を180°、西を270°とする表し方。方位3-4-1は341°となる。
CIC:戦闘指揮所。(Combat Information Center)現代の軍艦における戦闘情報中枢のことである。レーダーやソナー、通信などや、自艦の状態に関する情報が集約される部署であり、指揮・発令もここから行う。
シースパロー:空対空ミサイルであるスパローを元に開発された個艦防衛用の艦対空ミサイル。旧西側諸国で開発されたものを、日本がさらに発展させた。
砲雷長: 大砲、ミサイル、魚雷、機関砲の他、射撃管制レーダー、ソナー、探照灯、錨、短艇、クレーンの操作を指揮する護衛艦内の階級。
ソナー:水中を伝播する音波を用いて、水上船舶や潜水艦、水中や海底の物体を捜索、探知、測距する装置。
ステルス:センサーなどに対する低被探知性。
光学近接防空火器:艦船を目標とするミサイルや航空機を至近距離で迎撃する艦載兵器。以前までは機関砲が搭載されていたが、レーザー砲に置き換わっているため「光学」が付いている。
艦橋:軍艦の上甲板上の檣楼内など高所に設けられた指揮所。
ダメージコントロール:火災・衝突・座礁あるいは爆発等が発生した艦船において、水密・気密を保ち、予備浮力と復原力を維持し、可燃物を除去・火災を鎮火させ、ガス煙を排除、非常用の各装置を準備、被害の拡大を食い止め、負傷者を処置し、さらに故障を復旧・所要の動力等を供給すること。
SPYレーダー:多数目標の同時捜索探知、追尾、評定、および発射されたミサイルの追尾・指令誘導の役目を一手に担う。イージス艦の目となる存在。
23式艦対艦誘導弾:2023年製の海上自衛隊が使用する艦対艦ミサイル。
アスロック:アメリカ合衆国が開発した艦載用対潜ミサイル。飛翔用ロケットで目標近くまで飛行し、ロケットを切り離して着水、その後魚雷が目標へと向かう。アスロック3は、日本がさらに性能を発展させたもの。
アメリカ海軍第12艦隊:第三次世界大戦のために作られた艦隊。主な任務は太平洋で活動する第七艦隊の支援だが、その他にも色々な任務がある。