Last Mission9「未来への幕引き」
戦いは佐間倉が優勢であった。人と大差のない大きさだというのに移動速度、攻撃力は凄まじいものだった。重力場をその場に発生させて圧し潰すグラビティアル・パニッシャーを受けて、その玩具は何だと言わんばかりに平然と立っていた。
「勝つんだろう?人類の為に、未来の為に。なら傷の一つでもつけてみたらどうだ?その為に君はここまで私の同胞を殺しながらやってきたのだろう!」
怒号にも似た叫び声を上げながら俺に急接近してくる。大剣で振り払うも当たらず、機体の右腕を力にものをいわせて無理矢理引きちぎってゆく。だが、こちらもただでやるわけにはいかない。左腕に取り付けてあったデッドパルスを佐間倉に巻きつけ、高圧電流を流す。
「グッ…!…ガッ…ハ…!その程度で…終わると…?舐めるなよ人間風情がァァ!」
体に巻き付けられたアンカーを無理矢理引きちぎり、俺から距離を取る。佐間倉の体からは白い煙が立ち上る。弱っている今の内に追撃を加えようと脚を踏み出すと、急に体勢が崩れ、膝を折る。機体の左脚がいつの間にか破壊されていた。さっき離脱する際に左脚に攻撃していたのだろう、なんて速度だ。
「それではもう戦えないな、降りてきたらどうだ?まさかHA用の装備を持ってきていないなんて言わないだろう?」
確かに奴の言う通り、もうMAじゃ戦えない。俺は機体から降り、機体のバックパックの中に入れてあったHA用のグロムソードを取り出し、奴の前に立つ。
「私は既に満身創痍、そして君も精神的疲労がピークに達している。いいハンデだと思わないか?」
「ハンデだと?無尽蔵の体力を持った化物が対等とは抜かす。死んでもお前だけは殺す」
「死んだら私は殺せないさ」
先に動いたのは佐間倉。HAのお陰で速度にはついていける。だが、力では押し負けてしまうのは確実。敵の攻撃は躱し、自分の攻撃は当てる、厳しいことをやらせる。避けれそうな攻撃はギリギリで躱す。無理そうな攻撃はグロムソードで受け流す。だが、受け流す際の衝撃だけで腕ごと持って行かれそうになる、なんて馬鹿力なんだ。やはり、こいつに勝つにはこれしか…
「守りを固めるだけで勝てると思っているのか!?デノス!」
「しまっーーー!」
回避が遅れ、左の横腹を抉られる。激しい痛みと出血に吐き気を催すが、歯を食いしばり耐え、グロムソードを佐間倉の腹に突き立てる。そして、そのまま押し動かし、MAの脚に貼り付ける。それと同時にグロムソードのスイッチを入れ、起動させる。
「グッ…!デノス、貼り付けた程度で私が止められるとでも?」
「思ってないさ、だから今、起動させた」
「起動…?ーーーッ!その剣にラグナロクを付けたのか!?愚かな…君まで吹き飛ぶぞ!」
「俺は言ったぞ佐間倉、死んでも殺すと」
それと同時にラグナロクが起動。辺り一面を跡形もなく消しとばした。爆発範囲は狭いがその分、威力を圧縮した電撃爆薬、ラグナロクは大気を振動させ、爆風だけで10m先の建物さえも吹き飛ばす。数分後、ラグナロクにより発生した大気の振動と嵐に似た爆風は徐々に収まりつつあった。
「ーーーガハッ…どう…なった…?」
デノスは生きていた。あの爆発を耐え切ったわけではない。その理由をデノスは知っていた。ラグナロクの起動と同時にデノスの意識は遠のいてゆく。その際に佐間倉が告げた。
「君は私に勝った、おめでとう」
佐間倉はデノスを掴み明後日の方向へと投げた。そのため、デノスは爆発には巻き込まれずラグナロクの爆風によって吹き飛ばされただけで済んだのだ。だが、気を失っていたデノスは受け身を取ることが出来ず、左腕が折れていた。
「勝った、のか?」
多量の血を流しすぎたのもあり、まともな思考が出来ない、視界が眩み、吐き気を催す。既に痛覚は薄く、死が近付いていることを悟った。
「早く、帰らなければ…クルードが、待ってる」
体の至る所が痛み、うまく動かない。体がふらつき、まともに歩くことすらままならない。だが、待たせている人がいる、という感情がデノスを突き動かす。痛みに耐え、HAの補助を受けながらデウスダイスへと走る。そして、彼は知る。
「ーーーそんな…クルードッッッ!!」
至る所にアグリーの亡骸。破壊され、火を噴き出すデウスダイス。デノスはクルードを探すために燃え盛るデウスダイスの中へと入ってゆく。そして、見つけてしまう。
「あぁ…そんな、そんな…クルード…」
顔の潰れた死体、その手にはクルードがよく身につけていたペンダントが握られていた。
最早、この世界に人類は居ないのだろう、居るのは新たな人類であるアグリーのみ。佐間倉との勝負には勝利を勝ち取ったが、人類としての戦いには佐間倉が勝ち取った。
「俺は…一体何のために…ーーーッッ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
一つの文明がここに永遠の終わりを告げる。
Last Mission9「未来への幕引き」完