Mission8「醜い帝王」
仲間だった者を殺し、辿り着いた先にあった物は、始まりの場所だった。
「セントラル…バース」
すべての始まりの地。今では知りうる者さえ少なく、位の高い者しか知らされていない歴史から消え去った場所。それがキラーの眼前で堂々と聳え立つ、おぞましい姿を纏って。
「そう、人類が飛躍的に成長を遂げた生誕の地であり、この場所こそが私達の始まりの地でもある」
声の主はセントラルバースの影から姿を見せた。奴がアグリーの王か?だが、キングにしては人と変わらないサイズだ。奴は俺の考えを察したのか苦笑し、話し始めた。
「キング級にしては小さい、そう思っているんだろう?残念ながら私はキング級ではない、エンペラーとでも言えばいいかな?まぁ、君らが決めつけた名など興味すらありはしないがね」
化物と話す気などさらさらない。グロムロケットランチャーを全弾、奴に撃ち込んでやった。だが、帝王を名乗る程はある、傷一つ付いていない、それどころか避けようという姿勢すら見せなかった。
「人と話す時にロケットランチャーを撃ち込むなんて君は常識知らずなんだね、変わらないな君も。学習力がないというか、何というか…久々に会ったんだ、雑談ぐらいしようという気は持ち合わせていないのかい?デノス・エクリファー」
「…俺は貴様なんぞ知らん、馴れ馴れしいぞ化物風情が」
「心外だな、これでも昔は未来について語り合った仲じゃないか、本当に君は愚かな人だ」
愚かな人、俺はこの言葉に聞き覚えがあった。昔、たまたま居合わせた俺に人類がどう進化してゆけば幸せになれるかを問い、愚かだと罵った男。10年前に忽然と姿を消し、行方知らずとなった研究者。
「佐間倉…?」
奴は少し間を置いた後、微笑しながら頷いた。
「あぁ、そうそう。しばらくその名で呼ばれてなかったから少し反応が遅れてしまったよ。今となっては名前なんて無いにも等しいけれど」
「佐間倉、お前は10年前に死んだはずだ、何故生きている?どうしてお前がアグリーに…」
「行方不明=死亡という扱いは好ましくないな、気分を害される。しかし、あれからもう10年が経ったのか、早いものだな。ということは今の君は60代かな?ははっ、羨ましい限りだよ歳をとれるというのは」
「はぐらかすな、佐間倉。何故お前が化物になっている?お前もKのように化物されたのか?」
「化物にされた…か。そうだね、私も化物にされた、君達、人間にね。覚えているかな?10年前、私が君に問いを投げかけたことを。人類がどう進化してゆけば幸せになれるのか、私はね、その研究の為に此処、セントラルバースに配属された。勿論、力の限りを尽くしてやった。そして完成した、人類が未来に向けて大きな一歩を踏み出せるきっかけとなりえる物を。それがインタンジブルウィルス、まだ試験段階ではあったがね。私はとても嬉しかったよ、正直舞い上がっていたし子どものようにはしゃいだよ、あんなことが起きるまではね」
さきほどまでの飄々(ひょうひょう)とした雰囲気から一転、深い怒りの籠った声色で話し始めた。
「君らの上司がインタンジブルウィルスを強奪して行ったんだよ。まだ試験段階であるにもかかわらずね。それをどうしたと思う?」
「まさか…」
「そうだ、奴等はあろうことかこのセントラルバースをインタンジブルウィルスを試験対象としてウィルスをばら撒いたのさ。その結果がこのザマだ。セントラルバースを中心とした半径100kmのすべての人間を化物へと変貌させた。不幸中の幸い、私は投下地点に近かったせいか意識を保ったまま化物となった。見た目も人に近しいのはそのためだよ。不思議に思わなかったかい?君らがアグリーと呼ぶ化物が人の言葉を介していることに。君らの上司が君らに何の処理をさせていたのか」
その時、クイーンがMに言っていたことが脳裏をよぎった。
「(怖クない、怖くないよ…)」
「そんな…まさか、じゃあ、あのクイーンは…」
「あの子はまだ幼かった、幼かったがゆえにウィルスによる肉体の変貌に耐えられず、精神が不安定となってしまった。あの子だけじゃない、君らが殺してきた化物の中に一体どれだけの子どもが居たと思う?」
佐間倉は嘘を吐かない、そういう奴だ。ならば、奴の言うことはすべて事実。俺達が化物だと思っていた者は…元人間。
「でも、私は思う。想像していたものとは、かけ離れてはいるが、ウィルスは人類を進化させた。これなら例え宇宙空間に投げ出されようと生きれるだろう」
「お前達が俺達を襲っていたのは…」
「誰が電撃が効くと教えた?誰が爆薬ではなく空気を使って殺せと命じた?誰が核を使って攻撃してきた?…先に攻撃してきたのは君らだ。私達は状況を把握する前に何万という同胞がゴミのように処理された。何故人間を襲う、何の目的があって襲うのか。知れたことを、その原因を作ったのは君らだ。ならば私達は新たな人類として蹂躙される前に君らを滅ぼさねばならない、当然だろう?私達は生きているのだから」
「…例え、例えそうだとしても、俺達がその元凶だとしても、俺達も生きているッ!」
「生きるためにはどちらかを滅ぼさねばならない、なら雑談もこれでおしまいだ。生き残った者にこそ生きてゆく権利が与えられる。共存など許されない、そのチャンスは既に奈落の底へと消え失せた。さぁ、未来を掴む為の戦争をしよう!」
Mission8「醜い帝王」終