Mission6「魂を持つ機械」
浅禍 圭、コードネーム「K」を与えられた彼が姿を消して数週間の時が経っていた。ノーファル・デーモンは2名の脱落により、キラー、エラー、クルードの3名となっていた。クルードは、2名の脱落にとても心を痛めており、彼女は精神的に不安定となっていた。軍人とはいえ、彼女はこの部隊に入ってからそんなに長くはない。戦闘経験もそれほど多くはないにもかかわらず、彼女は凄まじい功績を残し、「白い悪鬼」と呼ばれるほどの存在になった。だがその度に彼女は精神を病むことが多少あった。今回はそれがとても重い。発狂するまではいかないが、やはり何処か動きが鈍く、到底戦力にはなり得ない。よって、実質、戦えるのはキラーとエラーの2名である。そして今、キラーとエラーはKの捜索も兼ねた周辺の調査を行っているところだった。
「エラー、すまないな、本来なら俺1人で調査をするはずだったんだが…」
「1人で調査は緊急時に対処出来ない、だから構わない。いくら幾千連勝の鬼と呼ばれた貴方でも無理は禁物だ」
「…あぁ、そうだな…」
「…クルードが気になるか?」
「あぁ、彼女はあの2人と関わることが多かったからな。その分、彼女もくるものがあるんだろう。だが、今の俺達は悲しんでいる余裕はない、今の彼女を連れ出しても死に急がせるだけだ。…出来れば彼女の力になってやりたいが…」
「心の問題は彼女自身でしか癒せない、我々に出来ることは何もない。下手に刺激するよりはいい」
「…今日はやけに喋るんだな、エラー」
「貴方も我慢するのは止めておいた方がいい、完全に割り切ることなど出来ないだろう?」
「…」
話をしている内に、2名は目的地に到着。すぐさま辺りの調査を始めた。アグリーについては今でもよく分かっていないことが多く、情報不足であることが否めない。アグリーによって数は減り、調査と討伐が順調に進まないのだ。現状で残っているチームは、ノーファル・デーモンと2チームのみである。その他は拠点を守るために人員を割いており、チームに分けることが出来ないのだ。だというのに敵の数は未知数、絶望と言っても過言ではないと言えるだろう。現状を打破する策も今も確立されていない。防戦一方というジリ貧とも言えるこの戦い、アグリー達が一斉にかかってくれば終わりを迎えるだろう。軍人ではない者を戦いに参加させてこれなのだ、希望を見出せという方が無茶である。キラーは調査を行いながらずっと考えていることがあった。Kが何故、連れて行かれたのかである。今までアグリーが意図的に人間を仲間にするという行動は聞いたことがない。では、捕食の為にわざわざKだけを連れ去ったのか、否、他に理由があるとしか思えない。だが、その考えも現在ある情報では中々まとまりはしない。
「…何故、彼なんだ…」
その時、一軒の無残に破壊された家を見つけた。家の中には、生活用品や子どもが遊んでいたであろう壊れた人形があった。心が軋み、痛いと叫ぶ。守れるはずだった命が人員を不足という理由で守れなかった、自然と手に力が入り、眉間にシワが寄る。
「こんな戦い、早く終わらせなければ…」
そう呟いた時、銃声が響き渡った。銃声がした方に目をやると、エラーがどこから出てきたのか分からないアグリー達に襲われていたのだ。
「ビショップとナイト…一体何処から…」
大剣を手に、エラーのもとへ走り出した。一振りで数十を切り飛ばし、エラーの背後に回る。
「エラー、無事か!?」
「無事、とは言い難い。動きが早いアグリー達だ、すぐに囲まれてしまう」
「俺がなるべく注意を引く、援護頼めるか?」
「弾はまだ有り余っている、任せておけ」
「分かった、張り付かれないように気をつけてくれ」
エラーの退路を作る為にアグリーの群れに突っ込み、蹴散らす。それでもまだアグリー達は指で数えられぬ程に残っていた。
「反動がでかいからあまり使いたくはなかったんだがな…」
背中にジョイントしてあったキラー専用のグロムギガントキャノンをアグリーの群れに構え少しのチャージの後、発射した。弾丸の着地時に電磁の爆発が発生し、何百ものアグリーを消し飛ばす。地面に突き刺していた大剣を背にすることでなんとか反動に耐えていた。それでもかなりの距離を吹き飛ばされ、体勢を立て直すのに少しの時間を有した。
「クソッ、もう少しどうにかならなかったのかこれは!」
愚痴を零しながらも大剣を引き抜き、アグリーの群れに再び突撃する。グロムギガントキャノンのお陰でかなり数が減っていた。
「さっきよりは減ったとは感じるがまだこんなにいるのか…奴等の拠点の近くということか?」
「キラー!後ろだ!」
エラーの叫び声を聞き、振り返ると、ルークが拳を振り払おうとしていた。振り下ろされる前に切断しようとしたが、数匹のビショップとナイトが大剣や機体に群がり、ルークを切らせまいと引っ張っていたせいで回避行動を取ることさえ出来なかった。キラーを庇い、エラーがルークの振り払う攻撃を受けた。ギガース級が簡単に吹き飛ばされ、いくつもの建物を破壊しながら転がっていった。
「エラー!ーーーチィッ!」
キラーは大剣を捨て、グロムショートナイフを取り出すと、ルークの目と思わしき部分を切り裂いた。ルークは顔を押さえ、雄叫びを上げながら暴れ始めた。その隙にキラーはエラーのもとへと走る。
「エラー!ーーーッ!」
エラーの機体は酷く損壊しており、コクピット内部が見えていた。しかし、コクピット内には誰も乗っておらず、血さえついていない。
「誰も…居ない?」
驚きが隠せないキラーにエラーが声をかける。
「ーーーすま、ない。私は、人ではない。騙していてすまなかった」
「…だから姿を見せようとしなかったのか」
「そうだ。私は人工AIを搭載した試験用の機体だ。…本当に、すまない、貴方達を欺くつもりはなかったのだ」
「そんなことはいい、今は帰還することだけを考えよう。お前は俺達の大事な仲間なんだ、ここで死なせるわけにはいかない」
「…ありがとう。だが、私はもう動くことはできない。脚部の駆動部分が破壊され、立つことすら出来ない。だから貴方だけで逃げるんだ」
「さっきも言ったぞ、ここで死なせるわけにはいかないと」
「だが、ギガース級の私を引きずりながら逃げるのは無理だ、そうだろう?注意は私が引く、だからその内に逃げてほしい。貴方が言ったように、私にとっても貴方は大切な仲間なのだ、どうか生きてほしい。機械の私は何度だって作れる、だが、貴方の命は作れはしない、ここで終わらせないでくれ」
「エラー…いや、君の本当の名を聞かせてほしい」
「私に名前はない、エラーというコードネームが私の名だ。これが名無しの鬼たるゆえんだ。だからこの名を忘れないでくれ。…さぁ、行くんだ、奴らが来るぞ」
考える時間は残されていない、エラーに背を向け、その去り際に告げた。
「…また会おう、エラー」
キラーの背中を見送った後、エラーは1人呟いた。
「…さようなら、キラー」
エラーは大きな駆動音を出し、アグリー達をおびき寄せる。
「私は人になりたかった、だが、今は人でなくて良かったと思うよ。死ぬ恐怖がないから…。人間を舐めるなよ、化物共が」
エラーは自爆装置を起動させ、数百のアグリーと共に跡形もなく消えた。その爆音はキラーのもとにまで響いた。
「エラー、君は立派な人間だったよ。君のためにも俺達は勝利を必ず掴む。約束する」
心でエラーと約束を誓い、速度を上げてデウスダイスへと帰還を急ぐ。帰還した後のキラーの姿は、復讐を誓う鬼のようであった。
Mission6「魂を持つ機械」終