Mission5「生ける獣」
Kは1人の兵士に連れられ自分が入れられる牢へと向かっていた。Kは生気のない声で兵士に質問した。
「…なぁ、俺はこの後どうなると思う?」
「そんなこと、あんたが一番良く分かってるだろ。拷問のような実験を受けた後、速やかに処分される。あんたは特別だから苦しまずに終わらせてくれるってさ」
牢の前に着き、兵士が牢の扉を開けると、Kは自ら牢の中へ入っていった。
「…あんたのことだからもう少し抵抗するのかと思ってたよ」
「…抵抗してどうなる?その先に待ってるのは銃との感動的な再会だけだろう?俺は少しでも長く、生きたいんだよ…」
「…なるほど、まぁ、なんというか、あんたらしいよ」
兵士は牢に背を向け歩き出した。少し歩いた後、足を止め、背を向けたまま話し出した。
「あんたはこの組織の中でもかなり上の方にいる兵士だ。だからあんたがこんなあっさりと終わっちまうなんて思ってもみなかった。あんた程の実力者を失うのはとても辛い…時間が来たらまた来る、それまで…いや、なんでもない、悪かった」
兵士はそう言い残すと部屋から出て行った。牢で1人座り込み、Kは独り言を呟いた。
「…なんでこんなことに…だから嫌だったんだ、誰かと組むのは…こんなところで終わるわけにはいかないのに…俺は…」
すると、頭の中で声が聞こえた。
「そんなに生きたいか?人間」
「ははっ、遂に頭までおかしくなったか…幻聴が聞こえ始めた…次はどうなる?身体があいつらみたいに変形するのか?」
「いや、死ぬ。中途半端な侵入しか許していない君では耐えられない」
「…幻聴じゃないのか」
「あぁ、幻聴ではない。いわゆるテレパシーというやつさ。半分ではあるが我々に近い存在となり、理性を保っているからこそなせる技だよ」
Kは驚いた。何度か言葉を話す化物を見たことはあったが、こうも理性を持って話しかけてくる化物など見たことがなかったからだ。
「君はそう長くない、いや、どちらにせよ君はそう遠からず処分される身、そうだろう?」
「…あぁそうだ。俺は身体の至るところを弄られた後に殺される。こんな終わり方…認められるかよ…」
「何故そこまでして生に執着する?」
「…死を見てきたからだ。家族、友達、そして戦場で、俺はいろんな死に様を見てきた。あいつら死ぬ間際に言うんだよ"死にたくない、助けて"って。こういうのが一番シンプルでくるもんがある、共に死んでくれって誘われてるかのように。少しでも気が緩むとそのまま連れて行かれそうな感じがするんだよ…確かこういうのを道連れって言うんだったか?だから俺は生きることに執着する、誰よりも、何よりも、俺は生を渇望する」
「…なら人間を辞めればいい」
「は?なんだと?」
「君は"生きる"ことに執着している。ならば、それは人でなくとも可能なはずだ」
「馬鹿を言うな、化物になったらそれこそ本末転倒だろうが。化物になって理性を保てるはずがーーー」
「私の身体の一部を取り込めばいい。私は君達が化物と呼ぶ者の中でも一番適応率が高い存在だ。私の身体の一部を取り込めば、君は理性を保ったまま化物になることができる」
「…本当か?」
「あぁ、嘘は言わない。だが、君は我々と対峙する存在だ。我々を嫌悪していてもおかしくない。人を辞めてまで化物になる必要が君にはない…選ぶのは君だ」
「さっきも言ったはずだ、俺は生を渇望すると」
「なら、今一度聞こう。君はこのまま近づきつつある死を受け入れるか?それともーーー」
兵士がキラーの元へと走って来て、叫ぶ。
「た、大変です!浅禍 圭が脱走しました!」
キラーと銃を所持した兵士達がKの居た牢へと走る。牢屋に着くと、壁に大穴が空きいていた。
「Kの追跡は!?」
「分かりません、監視カメラの映像では何者かが突然現れ、壁に穴を開けて浅禍 圭を連れ、何処かへと去ったということしか…」
「警戒していた者達に感づかれることなく牢まで近づき、一瞬のうちにKを連れ去った…一体何のために?」
「一応、他の者達に捜索をさせます」
「止めておけ、一瞬のうちにここまで出来る奴だ、下手に深入りしない方がいい」
「りょ、了解です」
「(K…)」
キラーは拳を強く握りしめ、大穴の空いた壁を静かに見つめていた。
Mission5「生ける獣」終