Mission3「クイーンアグリー」
緊急の出撃だった。まさか俺達に出撃命令が下されるなんて思ってもみなかった。たった数体のポーンを他の隊の奴が駆除しに出撃して十数分、「クイーンが出現した、助けてくれ」という通信の後、連絡が取れなくなった為、俺達が行くことになった。ただでさえルーク、ビショップ辺りのアグリーは2体でも手こずるというのに、クイーンが相手だ。今まで以上に気を引き締めなければならない。目的の場所に到着し、その光景が視界に入った時、自分の目を疑った。確か、ギガース級のMAが10級出撃したはずだ。何故ここには、そのパーツだけが転がっているのか。パーツの数も、ギガース級10機には遠く及ばない。クイーンに吸収されたに違いないことは明白だった。だが、俺達の眼前で体をゆっくりと揺らしながら微笑む、少女の姿をしたこいつは何だ?これがクイーン?まるで人じゃないか、他とは明らかに異質。クイーンの情報が余りにも乏しかったとはいえ、人型になるなんて想像できるか?いや、異質な存在であるこいつらだからこそ、人型になるのはいずれは辿り着く運命だったのかもしれない。だが、人型はまずい、知能を付けている可能性が充分にあり得る。下手な行動は取れない、俺達は、クイーンを前に武器を構えたまま身動き一つ取れなかった。クイーンは体を揺らすのを止め、こちらをじっと見つめている。
「・・・ダれ?ナカマ?ごハン?」
やはり知能を持っている、本当にまずいことになった。こいつの他にも知能を持った化物が存在しうるという可能性の証明が俺達の前で行われてしまった。今まで、ただ攻撃してくるだけだった奴等が統率して攻撃を仕掛けるようになってしまう。
「俺の合図と同時に一斉に仕掛けろ」
キラーがそう言った時だった。クイーンが頭を抱え、怯え始めたのは。
「コワイ、コワい、バケもの、くル、コッチニくる、イヤ、いや、嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クイーンが叫ぶと同時に背中から物量を無視した巨大な二本の手が俺達に向かってくる。
「散開しろ!回避を優先し、攻撃を仕掛けろ!」
キラーの指示が出る数秒前から俺達は散開していた。大きさからは考えられない程の速度で薙ぎ払われる二本の手を掻い潜りながらクイーン目掛けて銃を撃つ。しかし、クイーンの周りに分厚い膜が張られ、攻撃が意味を成さない。一応ダメージは通っているようだが、すぐに再生してしまう。こちらが圧倒的不利なのは一目瞭然、だが、撤退することは出来ない、こいつは今ここで消しておかなければ脅威になる。何としてでも処理しなければならない。
「この化物がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
Mが電気を帯びた大剣を振り上げながらクイーンへと走って行く。
「M!奴に近寄るな!」
キラーの抑止は遅く、Mの攻撃でクイーンごと分厚い膜を切断した。ーーーが、
「やった!ーーーえ?なに、これ?」
Mの機体にクイーンから伸びる小さな白い手が張り付いていた。そして、機体全身に一気に広がり、中まで侵食を始めた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「クソッ!!全員、Mごと撃ち抜け!」
クイーンから伸びていた二本の巨大な手がMの機体を包み込むようにして庇った。
「怖クない、怖くないよ・・・」
クイーンは怯える子どもを落ち着かせるようにそう呟くと、動かなくなった。機体を包んでいた巨大な手の中から真っ白な機体が姿を現した。それは、Mがもう人ではなくなったことを意味していた。皆が一斉に銃を向けると同時にMが叫ぶ。
「どうして・・・どうしてなの・・・?どうして分かってくれないのぉぉぉ!?」
白くなった機体から細い手が何本も伸び、Kの機体を掴む。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!離せぇぇ!死ぬなら1人で死ね!俺を巻き込むな!!」
Kがグロムショートナイフを取ろうとするが、無数の小さな手が押さえつける。皆が発砲し、引き剥がそうとするが、無数の小さな手が庇い、攻撃が届かない。
「どうして・・・心配なのに・・・何で分かってくれないの?ねぇ?何で?どうして?ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇえぇぇぇえ!!」
Mission3「クイーンアグリー」終