Mission1「化物(アグリー)」
「ーーーこちらM。K聞こえる?」
いつもの耳障りな声が無線を通して聞こえてくる。
「聞こえている」
「そっちの状況はどう?大体想像はつくけど」
「・・・何も変わらない、相変わらず気色の悪い場所だ」
念の為に機体に乗ってきて正解だった。いくら専用の鎧を身に付けるとは言え、鎧のままでは歩きたいと思わない場所だ。ここでは着込んでいても裸同然。そんな状態で歩くなんて殺してくれと言っているようなものだ。・・・たまに脈打つ謎の触手が苛立たしい。さっさと終わらせて切り上げたい所だが・・・
「生体反応、近いな」
電撃弾が込められたショットガンを構えながら生体反応のある場所へと踏み込んでいく。もう既に何年も前に廃棄された工場とは言え、奴等の汚染地域には変わりない。もしかしたらこの生体反応は囮なのかも知れないという事を頭の片隅に置きながら慎重に近付く。
「ビンゴ、だな。あのサイズはビショップ辺りか?」
気持ちの悪い外見の化物が何かを貪っている。何を喰っているのかは考えるだけ無駄だろう。静かに、冷静に、標準を合わせ引き金を引く。ーーー全弾命中、したはずだったが、化物は弾丸を受けてもなお、さも当然のように生きている。すぐさまこちらに向けて気色の悪い雄叫びを上げて、飼い主が投げたボールを持ってくる犬のような勢いで走り寄ってくる。
「アレを食らって生きてるなんて頑丈な奴だ」
このまま逃げても奴の方が速い、すぐに追いつかれてBADENDだ。近付かれるなら、近接戦に持ち込めばいい。攻撃をかわし、すれ違いざまに奴の体に電撃を纏ったショートナイフを横っ腹に突き刺し、振り抜いた。奴はペンキのように真っ白な血を噴き出しながらその場に倒れ、苦しそうにもがきながら動かなくなった。
「・・・こちらK、ビショップ系統のアグリーと遭遇。処理は完了、サンプルは必要か?」
「大丈夫!?何処か怪我してない!?」
・・・いつものことだが、姦しい声に毎度嫌気が差す。
「少し装甲を抉られた。今すぐ帰還する」
「そう、良かった。ビショップ系統のサンプルはそう多くないから採取しておいてくれる?それと、アグリーとの戦闘は極力避けるようにしなさいよ?早く帰って来てね」
やはりいつ聞いてもこの女の声にはなれない。煩くてやかましい、それに鬱陶しい。何かあるたびに俺に突っかかってくる。家族でもないくせに・・・
「とっとと帰らないとまた何か言われそうだ。だから嫌なんだ、誰かとチームになるのは」
ーーー今から何十年か前の話。突如現れた白い体の化物達は人間を襲い、破壊の限りを尽くした。一番人口が多いとされていた場所は更地に変わり、抵抗していた人間のほとんどが化物に致命傷を与えることもできずに蹂躙された。奴等の皮膚は弾丸を通さず、すぐ再生してしまう為、成す術がなかったのだ。だが、奴等は無敵ではない。約1ヶ月ほどで約8割の人口が失われた頃、「奴等には電撃が効く」という情報が流れ込んできた。嘘か真か分からない情報に藁にもすがる気持ちで従い電撃を帯びた兵装を用意し、生き残った人々は攻撃を開始した。「電撃が効く」という情報は真実だった。それを機に、圧倒まではいかずとも、拮抗状態まで立て直すことに成功した。それから電撃系の武器、化物に対抗するための専用の鎧、機体を作り上げ、今に至る。学校に通うよりも先に化物との戦い方を学び、18歳になる頃には兵士として機体に乗り、戦場へ赴く。「K」と呼ばれた彼もその内の一人であった。
軍事とか重火器系には、あまり詳しく無いので所々に間違いがあると思いますが、そこは大目に見ていただければと。プロローグ的な意味も込めて短めに作りました。興味を持っていただけたなら、次回をゆっくりとお待ちください。