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自己中心的に生きてみる。  作者: 南壬 創名
プロローグ~引きこもりの神様である自分~
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時間と興味があったら、どうぞお読みくださいませ。

自分を中心に物事を考えるのが自己中心的なら、俺は完全に自己中心的な人間なんだろう。俺という人間は、結局自分という主観からは逃れられないのだから。

目を覚ました俺は、いつも思っていることをいつもと同じように考えながら布団の中でまどろんでいる。

ふと、時間を確認すると、起きなければならない時間を過ぎていた。

ゆえに、今日も仕事に行くために、準備を始めた。

35歳、独身、彼女いない暦=年齢の童貞。友達もいないぼっちを絵に書いたような人間、それが俺、琴見ことみ まこと。27歳の時に実家を出て独り暮らしを始めてはや8年。親とは年に数回連絡をとっているが、久しく会っていない。ホームシックになることもなく、実家の食事が懐かしくなることもない。

仕事場では平社員から多少役職は上がったが、給料が少し増えたという認識しかなく、出世欲は全くない。むしろ、下の奴等は好き勝手する上、ミスばかりして尻拭いばかりさせるし、上司は無茶なことばかり言ってくるので、平のほうが全然いいと思っている。

一応処世術として温和な人間を演じて、仕方がないなぁという感じで苦笑しながら対応しているが、本当にうんざりしてくる。

元々俺はコミュニケーション能力が低く、人と接するのが苦手だ。そんな俺でも女の子を好きになったりもするが、告白することができないので、結局何一つ進展することもなく会うこともなくなる。

最近もそういうことがあり、もう誰かを好きになるのも嫌になった。

だからといって、誰にも会わず部屋に引き込もって生きて行けるわけでもなく、自分の心情を押し殺して生活している。

今では、自分の部屋に居るときだけが心休まる時間になった。

歯を磨き、シャワーを浴びて、何百回繰り返したかわからない仕事に行くための準備作業。

今日の仕事の予定を頭の中で組み立てながら、髪を整える。35歳にして前髪が薄くなってきてしまい、まだその辺を諦めきれない俺は、整髪スプレーを使って、うまいこと隠すように四苦八苦する。

時計を見ると、仕事場に向かう時間になっていた。

…ああ、今日も1日が始まるのか。

ため息混じりにそんなことを考えながら、玄関の扉を開ける。

いつもと同じ、『今日』の始まり。

…そのはずだった。

昨日までは。


扉を開けた俺は、言葉もなく、ただ呆然と辺りを見回した。

自分が知っている限りでは、玄関の外はアパートの通路があり、突き当たりに階段があったはずだ。

自分の部屋は3階にあり、通路の向こう側には民間が並んでいて、いつもそれを見下ろしながら自家用車まで歩いていっていた、はずだ。

しかし、目の前に見える景色には通路も民家もない。草1つ生えていない荒野が広がるだけだった。

慌てて後ろを振り返って部屋を見てみる。

…良かった。自分の部屋は存在している。

脳裏によぎったのは、部屋が消えていて、1人何もない所に取り残されて途方に暮れる、とあるライトノベルのワンシーンだった。

あの小説では自分以外の人を捜して歩き回った挙げ句、空腹と疲労でふらついている所に盗賊と出くわしてしまい、あわや殺されそうになっていた時に、偶然通りかかった美少女エルフに助けられ、その後行動を共にするというストーリーだった。

可愛い女の子と一緒に旅をするのはいいが、行くところ行くところトラブルに巻き込まれ、何度も死にかけるというのはいかがなものか?

…思考がそれてしまった。

とにかく、このままここにいてもらちがあかない。少しだけ、辺りを探索してみようか。

と、その前に鞄にしまってあったスマートフォンを見てみる。

…やっぱり圏外か。

アンテナが立っていたら誰かに連絡を取ることもできたのに。

ため息をついて、とりあえず自室に戻る。

仕事用の荷物を置いて、大きめのリュックサックを取り出した。

探索するのはいいけど、もしも部屋に戻ってこれない状況になったら最悪だしな。食料を持っていかないと。

俺は部屋に常備してあったスナック菓子とお茶、清涼飲料水をリュックに詰めた。

…念のために武器になるようなものも持っていったほうがいいか?

クローゼットの中を探したら、とんかちを見つけた。

これで何とかなるかな?…ああ、あとタオルでも持っていこう。

さらにタオルを数枚詰め込んだら、リュックがパンパンになってしまった。

…結構重い。

少し中身を抜こうか?いや、何かあった時のために持てるだけ持っていったほうがいいだろう。

準備を終えた俺は、さっきまで見た景色が実はただの見間違いであったらなぁと思いながら玄関の扉を開ける。

しかし、視界に入ってきたのは、同じく見たことのない荒野だった。

…やっぱり同じか。夢とか幻だったら良かったのにな。

少し落胆したが、気を引き締め直して荒野の中を歩き出した。



荒野の探索は2時間ほどで終わってしまった。

というのも、どうやらここはそんなに大きな空間ではないらしい。

歩き回った結果、ここは自室を中心に半径100メートルほどになっていて、それ以上先には進めず、透明な壁のようなものにぶつかってしまった。と、いっても鉄とか石みたいに硬い物質じゃなく、かといって柔らかいわけでなく、不思議な感覚のする何かが遮っている感じだ。この感覚は今まで味わったことのないもので、上手い例えが浮かばない。あえて言えば、磁石の同じ極同士を近づけて反発させている時の感覚に似ているかもしれない。

ファンタジー的に考えると、これが結界とかいうやつなのだろうか?

目で見た限りでは、結界?から先もずっと荒野が広がっているように見えるけど…。

そういえば、テレビゲームの中だとフィールド上に限りがあって、見えてはいるのにそれ以上進めないとかあったな。それと似たようなものなのかも知れない。

自室の前まで戻ってきた俺は、現時点までで得た情報を頭の中で整理した。

一つ、半径百メートル程の小さな空間に部屋ごと閉じ込められた。原因は不明。

一つ、なぜか部屋の中は電気、水道は使用可能。使えないのなら朝起きてすぐに分かるはずだし。現在も使用できるのは確認済み。

一つ、電話は繋がらない。

一つ、空は雲一つない青空で、風は全く吹いていない。

一つ、食べ物に関しては部屋に貯めていたものがあるので、食事制限をある程度すれば、一ヶ月は食いつなげそうだ。

…こんなところか。正直現状を脱する為のヒントになるような情報は皆無だが、一ヶ月の猶予はある。その間にこの空間から脱出する方法を見つけなければ。

俺はふと、脱出する方法を見つけることが出来ず、ガリガリに痩せ細って、のたれ死んでいる自分を想像して身震いした。

…そんな死に方は嫌だな。何とかしないと。

このままだと、一ヶ月もある、じゃなく一ヶ月しかない、になってしまう。ヤバい。

俺は自室の中に戻り、リュックに詰めたものを整理しながら頭をフル回転させる。しかし、このような非現実的な状況に対応できる知識などあるわけもなく、何も思い付かない。

…どこかで音がした。

この音はスマートフォンの着信音か?誰かから電話でもかかってきたんだろうか?

いや、まて。さっき見たときは、圏外だったぞ!?電話が鳴るはずがないじゃないか!

慌ててズボンのポケットに入れてあったスマートフォンを取り出す。

着信音は今も鳴り続けている。

画面を見てみると、名前の所は非通知になっている。

怪しい。

しかし、状況を打開する方法などない俺にとっては、何かのきっかけが欲しい。

ちなみに圏外のままである。

俺は警戒心をマックスにして通話ボタンをタッチした。

「…もしもし?」

『もしもし?俺だよ、オレオレ♪』

「……」

俺の声に応対してきたのは、男とも女ともつかない中性的な声の持ち主だった。しかもかなり軽い性格のように思える。

しかも、『俺だよ、オレオレ』って…。昔懐かしオレオレ詐欺かよ!

ダメだ。第一印象からして全く信用ならない。何か有益な情報を持っているとは思えない。

俺は無言のまま通話終了の部分をタッチしようと--

『ち、ちょっと待った!冗談、冗談だから切ろうとしないでくれよ!』

何やら慌てた声が聞こえる。

「…何かご用でしょうか、オレオレ詐欺の人?」

『いや、詐欺じゃねーし!警戒心丸出しのお前を和ませようとした俺の優しい気づかいだし!』

「いや、そんなんで和むような人間は何処にもいないと思いますが?」

俺はひんやりした冷気を含んでいるような声で突っ込んだ。

『まぁまぁ、ちょっと待ってくれよ。あんた、困っているんだろ?…一人でそんなところ放り込まれてさ♪』

「!」

俺は驚愕のあまり、声が出なかった。

何で俺の状況を知ってるんだ、コイツ。

『困っているんだろ?』だけなら詐欺としてよくあるパターンだ。『困っている』ことなら誰だって多かれ少なかれあるだろうから。

だが、『1人でそんなところ放り込まれてさ』とかなり限定したセリフはあてすっぽでは言い出せない。

ニヤリと擬態語が聞こえてきそうなドヤ声は、こちらの状況を完全に把握しているからかもしれない。

俺は自分を落ち着かせようと軽く深呼吸をして、冷静な声で電話の相手に問う。

「あなたは誰ですか?」

『誰だと思う?♪』

「…切りますよ?」

何かウザイ、コイツ。

『俺はあんたをこの空間に連れてきた張本人だよ。…どうだ?話を聞く気になっただろ?』

「…なんだって!?」

コイツがか!?

俺は冷静さを失い、声を荒げた。

「お前は一体何なんだ!何のつもりなんだよ!?」

『まぁ落ち着けって。全部話すからさ』

声の主はそう言って一呼吸開けた。

『俺はあんた達人間に神なんて呼ばれているうちの一柱。無貎の神、這い寄る混沌と言えば分かるか?』

今までの軽薄な声質とはまるで違う、魂すら震わせる様な深みのある声。俺は畏れを抱き、身を震わせた。

「ニャ…」

『にゃ?猫の鳴き声の真似か?』

あ、声が元に戻った。

「違いますよ!ニャルラトホテプとかいう神なのかって聞こうとしただけです!」

畏れから解放された俺は慌てて訂正する。

『おー、よく知ってるな。それだよ、ニャルラトホテプとかナイアーラトテップとか呼ばれているやつだ』

「マジですか…(汗)」

俺は思わずうめき声を上げた。

ニャルラトホテプと言えば、ゲームの中では人間に取り憑いて精神を乗っ取り、混乱と狂乱を招いて世界を滅ぼそうとかするラスボスキャラじゃないか!

「あのー、俺みたいな凡人に何のご用なのでしょうか…?」

思わず素で、ですます口調になる俺。

『まー、端的に言えば、リアルシミュレーションゲームってやつをやってもらおうと、あんたを選んだわけだよ』

「…リアル人生ゲームなら三十五年ほどやってますが、それとは違うんですか?」

『ああ、全然違う。あー、その前にあんた、元の世界に戻りたいとか思っているか?』

「戻りたいというか、正確に言えば急に居なくなると色々人に迷惑をかけるというか、心配かけたりするのはあまり好ましくないので、戻らないととは思っていますが…」

『その心配はいらねぇぜ?』

「いらない…?」

俺はニャルラトホテプの言っている意味が分からず聞き返した。

『ああ。あんたをここに移転させる時に、元の世界であんたが存在したすべてを消したからな』

「な!」

俺は絶句した。

存在を消した!?

存在を消したって、生まれて来なかったことにしたっていうのか?

俺の脳裏に、三十五年間の思い出が走馬灯のように流れていった。

あれが、すべてなかったことになるのか!?

俺はニャルラトホテプに向かってこう言い放った。

「まぁ、いいか」

『いいのかよ!』

物凄い勢いで突っ込まれた。

『ふつー、『何てことにしてくれたんだ!』とか、『元に戻せ!』だとか怒るもんじゃないのかよ!』

「だって、俺が生まれなかった事になってるのなら、責任も何もあったもんではないし、誰にも迷惑かけていないのなら、特に未練もないですし…」

『……』

もしかして、呆れられているのだろうか。

急に無言になったニャルラトホテプに、そんなことを思った。

『…クックック…、アーハッハッハ!あんた、やっぱおもしれーな!クックック、ダメだ、とまんねー!』

「?」

何が面白いのか分からないが、いきなり大爆笑し始めたニャルラトホテプは、三分くらいずっと笑っていた。

『あー、こんな笑ったのは久しぶりだぜ』

「笑いのツボが良くわからないのですが…」

『いやさぁ、今まであんたと同じように連れてきたやつはたくさんいたけど、あんたみたいな反応をしたやつは初めてだ』

「別に普通だと思うんですけど」

『いやいや、普通はさ、今すぐ元の世界に戻せって怒るか、元の世界に嫌気がさしていて、ここにこれて良かったって喜ぶかのどっちかなんだよ。けどあんたは、責任があるからっつって戻らないととかいうわりに、その責任が無くなると全く元の世界に興味がなくなっているじゃねぇか?『まぁ、いいか』なんて言わないぜ、普通は』

「そんなもんなんですかね?」

『ああ。ちなみに、あんたは今どんな心境なんだ?スゲー興味あるね』

「心境ねぇ…」

俺は首をかしげた。

「あえて言えば、そう言えば食料はどうするんだろうかって感じですかね?」

『この世界にもあんまり興味がなさそうだな…』

少しずれた発言だっただろうか?

ニャルラトホテプの声には呆れが滲んでいた。

『あー、大分話がずれちまったな。つまりあんたは前の世界には特に戻りたいとは思っていないんだな?』

「ええ、そうですね」

『それじゃ、あんたにやってもらいたいことを含めた、状況っていうの?をこれから話す。結構時間がかかるけど、まー時間ならたっぷりあるからいいよな?』

「ええ、構いません」

『それじゃ、まず、俺達のことからだ』

「俺達?」

『お前らがいうところの『神』のことだ。本来俺達のことを指す種族名なんてものはない。が、呼び名があったほうが分かりやすいだろうから、便宜上『神』と名乗ることにしている』

「それじゃ、『神』がないのなら『邪神』も『魔』もないということですか?」

『ああ、『神』も『邪神』も『魔』も、すべて同じ存在だ。人間が勝手に好みに合わせて区分分けしているだけだ』

「へー、そうなんですか」

知らなかったな。

『で、俺達『神』は世界、お前達風にいうなら宇宙が生まれたときに生まれた。ま、全部の『神』ではないけどな』

「…ずいぶんと壮大な話ですね」

宇宙の始まりからずっと存在しているなどというのは、たかが三十五年しか生きていない自分にとっては、想像を絶する長さだ。

確か百三十七億年だったか?宇宙の始まりって。

『俺達には使命があった。誰が決めたのか知らねーけど、存在したと自覚した瞬間から、しなければならないことが分かっていた』

「使命?」

『お前達生物は種の保存を最上の目的として生きてんだろ?本能って言ってもいいのかもな』

「『神』々が持つ本能ってことですか?」

『ああ。んで、それが『世界の創造』、それも『究極の世界の創造』なんだ』

「究極の世界の創造、ねぇ…」

ヤバい。話が大きすぎて、現実のものとは思えない。まるでゲームの世界設定でも聞かされている気分だ。いや、というか、そういうつもりで話を聞くようにしないと、話についていけない。

『それで、だ。元々は俺達が世界を作っては失敗して壊し、作っては失敗して壊しを繰り返していたんだけどよ、それじゃあんまし意味がないってことに気付いちまったんだよな』

ニャルラトホテプはため息をついた。

「意味がないって、普通は実験と失敗を繰り返して成功に近づいていくんじゃないですか?」

『人間ならな』

「?」

ニャルラトホテプの言葉には少し寂しさが滲んでいた。

『『神』っていうのはな、人間と違って初めから完成された存在だ。だから成長することがないんだよ』

「…?成長なんてしなくても、失敗した原因から次の世界の創造の仕方を変更すればいいんじゃないですか?」

俺はニャルラトホテプの言葉の意味が分からず首をかしげた。

『それができないのが『神』なのさ。俺達は万能じゃない。人間と違って、司っているものがある。俺なら『混沌と狂乱』という風にな。だからその本質からは決して逃れることはできない。世界を作ろうとすると、同じような世界を作って、同じような原因で壊しちまう』

「でも、意味がないって気づいたのは、一つの成長なのでは?」

『気づいても、同じことしかできないのが俺達だって話さ。特に秩序を司っている奴等なんかはな。ただ、混沌側の俺達は、いつまでも同じことを繰り返すのに飽きちまってな。それで、創造物のお前らにやらせてみっか、となった訳だ』

「なるほどねぇ…」

俺は頷いてから、今の話を脳内で噛み砕いた。

「あー、つまり、自分達の代わりに代理人を立てて、世界創造シミュレーションをやらせよう、ということですね?」

『そーゆーこと。ようやく話がつながったな』

安堵した声を出すニャルラトホテプ。

『いやー、お前らにやらせるとスゲー面白いんだぜ?不完全で、強欲で、自己中心的で、矛盾だらけで、ちぐはぐな世界ばかり作るのに、全部繋げ合わせると、上手いことまとまりのある一つになっちまう。お前らの心を具現化してるみてーだ。何も司っていないからこそ、秩序も混沌も、善も悪も、色んなものをごちゃ混ぜにして、一つの形になる。だからこそ絡みがい、からかいがいがあるってもんだ』

「からかいがいって…」

呆れる俺。

そりゃ、確かに神様からすれば、人間なんておもちゃみたいなものなのかもしれないけど。

『ま、気にすんな。お前も、もう人間じゃないんだからな』

「はぁ!?」

いきなりの爆弾発言に思わず大きな声を上げた。

『当然だろ?世界創造の代理人であるお前が、人間のままな訳がねーだろ。お前がいる場所は世界の種となる神域。そこにいるんだから』

「じゃあ、俺も『神』ってことになるんですか?」

『正確には『神』と人の中間である『神人』になる。と、言っても現時点では人間と何も変わらないけどな。人間との違いは世界創造の権利を持っていることと、不老不死に近い能力があることか』

「いやいや、不老不死って結構な人間との差じゃないですか」

俺は何言ってんだと言わんばかりに、ニャルラトホテプに突っ込んだ。

『そうは言ってもな、死なないだけで滅びはするんだぜ?』

「死と滅びの違いが分からないのですが…?」

『んー、簡単に言うと、死は肉体の消滅、滅びは魂の消滅ってところだな。ま、人間的にはあんまり変わんないか』

「そうですね」

自分というものがなくなるのなら、同じだな。

『また話が逸れちまったな。俺達『神』は、世界創造の代理人として、創造物の一人を指名する。選ばれた者は代表者として、一つの世界を創造、育成する。そうやって無数の代表者達が無数の世界を作り、時に干渉し、時に奪い合い、創造と滅び、合併を幾度も繰り返す』

ニャルラトホテプの言葉は永遠に続く神話のような物語を連想させた。

だか、俺には一つの疑問が浮かんだ。

「あの、ちょっと思ったのですが、『神』々が宇宙とともに生まれたとしたら、昔テレビで見た限りでは、宇宙は百三十七億年前に生まれたらしいんですよ。つまり『神』々も百三十七億年前に生まれたということになりますよね?」

俺の質問に、ニャルラトホテプは呆れた声を出した。

『はぁ?そんなに短い訳ねーじゃん。お前の言う宇宙ってのは地球って星がある宇宙だろ?宇宙ってのは一つじゃないんだせ。物質の存在しない虚無から広がった宇宙だが、宇宙はたくさん生まれたんだよ。それこそ億単位でな。すべての宇宙が同時に生まれたわけでもないし、中には代表者や『神』が何人かで作った宇宙もあるんだ。ちなみにお前がいた世界は宇宙も含めて結構新しい方なんだぜ。古いのになると、億どころかその十乗倍に近い時が経ってると思うぜ』

あまりのスケールに俺は絶句した。

億の十乗って…。俺からすれば、それはもう無限と同じだな。

『ま、深く考えても意味ねーから気にすんな。んで、様々な苦難に耐え、成長を続けた世界は、いつか不滅となり、俺達『神』ですら世界の一部として受け入れられ、永遠に存在し続けるだろう、ってな』

「それが、究極の世界ってやつですか」

『多分な。実際に見たことねーけど』

何て気の長い話なんだろうか。

「…本当にそんな世界ができるんでしょうか?」

『さぁな?そんなの分かんねーよ。けど、俺達にとっては、それが存在意義だから続けるだけだ。ま、その程度のもんだから気楽にやってくれ。お前が作りたい世界を好きなように作ればいい』

ニャルラトホテプは一通り話を終えてホッと一息付いた。

『…これで話は終わりだ。あー疲れた』

「いやいや、まだ世界の創造の仕方とか、食べ物のこととか色々聞いておかないといけないことが…」

俺が慌てて話を続けようとすると、ニャルラトホテプは嫌そうな声を出した。

『えー、もう飽きたんだけど。面倒くせーよ』

「飽きたってあんた、かなり重要なことなんだけど…」

俺は呆れて、ついタメ口になった。

『あー、それそれ。ですます口調とかいいし。堅苦しくて肩がこるんだよな。今のみたいにタメ口でいこうぜ』

「あー、えーと…」

そう言われてもなぁ…。神様相手にタメ口とか気を使うというか。正直尊敬はしていないけど。

どう言葉を返そうかと、返事を濁す俺に、ニャルラトホテプは馴れ馴れしく、というか人懐っこく笑った。

『はははっ、これから俺達、何千、何万年と付き合うことになるんだぜ?気を使う必要なんてあるもんか。だから、タメ口でいこうぜ?』

長っ!…俺ってこれからそんなに生きるのか?

確かに、その間気を使って話続けるのはしんどいな。

「あー、分かった。これからはタメ口でいくヨ」

…若干発音がずれてしまった。タメ口なんて、大人になってからは実家にいた家族ぐらいにしか使っていなかったからな。慣れるまで時間がかかりそうだ。

『おお、よろしくな。つー訳で電話きるぜ。そうそう、分からねーことがあったらパソコンを見るといいぜ。それにだいたいのことは載ってるしさ。…んじゃ、またなー』

「いや、ちょっと待った…!」

ツーっ、ツーっ、ツーっ。

…切られてしまった。

俺はスマフォの通話終了ボタンを押したあと、呆然とした。

世界を作れってこと以外はよく分からなかったな。

とりあえず、世界設定的なことはさておいて、今必要なのはここで生活する方法だよな。

自覚はないけれど、俺は人間じゃなくなったらしい。もしかしたら飲まず食わず眠らずでも行けるのだろうか?

…試して見たいとは思わないな。

えーと、何だっけ?…そうそう、分からないとこはパソコンを見れば分かるとか言ったっけ?

読んで頂いた方、本当にありがとうございます。お疲れ様でした。

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