なんだか大混乱……。
2014/8/10
ご指摘がたくさんあったので全面改稿しました。
推敲時間が短かったので、誤字脱字探しも含めてお楽しみくださいませ♪
発見報告お待ちしております(笑
さすがに傷がある程度治ってもばっちり手形が残ったほおの腫れがひかない分には通学はまずいだろう、と眉間にしわをよせた篠井の父様に言われて、殴られてから数日——週末を含めて十日ほどは家に引きこもる事が決定してしまいました……。
個人授業の習い事は休まなくてもいいような気もしたけど無理は禁物だからってすべて休む事になった。
確かに腫れて酷い顔だったから休んでかまわないというお墨付きはありがたかった。みんなの前では平気な顔してたけど、ちょっと泣きそうなくらい痛かったしね。
口内炎かんじゃう理屈で傷口かんだ時は本気で泣きかけました……。
雅浩兄様と顔をあわせたくなくて、傷が痛むし自分だけ軟らかい物しか食べられないのはつまらないから、と言って食事を別にしようとしたら、篠井の母様にすごく心配されてあきらめざるを得なかったとかいう一幕があったりなかったり。
いやでも、なんかあそこまで思い切り疑われて他人扱いされた後に、普通の顔して一緒にいるのって苦行だから……。少なくとも私はそこまで根性太くないです……。なまじ雅浩兄様が普段通りの態度なだけにきついんだよね。雅浩兄様だって私が避けてるの気づいてないはずないのに……。もしかして、完全に興味ないから自分が普段通りにしてれば問題なし、とか思われてるのかな? だとしたらかなり切ないですけど……。
そんなこんなで何日かたった今も微妙に逃げ回っているから雅浩兄様とはろくに話もしてない。そういえば、修学旅行とか泊りがけの不在以外でこんなに長くちゃんと話しないの初めてかも。いっそ私も雅浩兄様の事を他人だって割り切ってしまえれば楽になるんだろうけど、私には無理みたい。だって、雅浩兄様と克人兄様は特別だから……。
兄様達がいてくれたから、私は今まで篠井彩香としてがんばって来られたんだもの。
昔——高浜綾だった頃みたいに、極々少数の例外を除いて、まわりはすべからく警戒すべき敵か、敵対しても脅威にならない相手だと思ってしまう方が楽なんだと思う。
疑ってくる相手は敵だと認定して攻撃してしまうのは簡単で、自分から嫌われるようにしむけてしまえば好かれるわけがないんだから嫌われても当たり前だと思える。
そうやって逃げてしまえばいいと思う反面、まだ決定的に嫌われてはないかも、と言う希望が見え隠れすると何もなかったふりをした方がいい気もして……。ついついその時の気分でつっかかってみたりおとなしかったり、すごく挙動不審になってる自覚はある。
こんな風に不安定な感情にふりまわされちゃうのは初めての事で、今さらながらどれだけ雅浩兄様好きだったの? と自分につっこみいれたい。まぁ、私の様子がおかしいからか本当に忙しいのか、雅浩兄様もあんまり私にかまって来なくなってるけどね。一言二言話しかけてはくれるけど、私がけんか売るような失言する前にさらっと会話を終わらせてしまう。それが気にかけてもらえているようで嬉しいような、面倒臭がられる証拠のようで悲しいような……。
こと人間関係に対してやたらと悲観的なのは悪い癖だとわかっている。いい方に考えなくちゃいけないと思えば思うほど不安に陥るというみごとなデススパイラスにはまってる。そう気づいたものの、自分ではどうしようもできなくてずぶずぶと泥沼にはまって行くばかり。
そうやって部屋に引きこもった数日の間、唯一建設的な方向に考えられた問題は、例の逆ハーレムヒロイン・藤野さんをどうするかって事。……半分以上は雅浩兄様の事を考えたくなくて、気をそらすためだったのは否定しないけどね。
出した結論はいたって単純。
藤野さんに退場してもらうために本気を出させてもらう。
むこうだって転生で過去の記憶や知識まで使ってかかってきてるんだから、こっちだってそのくらいしてもいいはず。たぶん、私が彩香としての範囲で受けて立ったのが悪かったんだと思う。篠井彩香にできる事と限ったら兄様達にまとわりついてフラグを折る事と、ちょっかいをかけられた時に対応する程度。
それ以上の事——たとえば雅浩兄様に藤野さんの噂を教えようとしたり、他の攻略対象といるところに鉢合わせさせようとしたりすると、妙な邪魔が入るんだよね。もしかしたら、ゲームの進行にさほど関わっていなかった篠井彩香が関われる範囲が規制されてるんじゃないかって思いたくなるくらいに。
だからきっと、あの人に直接関わるには篠井彩香としてじゃなく、高浜綾として対応した方がいいんだと思う。
正直、下手に前世の知識と本性を出して周りに知られたら嫌だ、というのがストッパーになってたんだけど……、もういいや。どうせ雅浩兄様には他人扱いされちゃってるんだから、知られて嫌われたとしても同じだろうし。克人兄様にまで嫌われるのは……、たぶんすごく辛いけど、それでも兄様達が逆ハーレム要員にされるよりはずっといい。もしかしたら迷惑だと思われちゃうかもしれないけど、元々逆ハーレムフラグ折りは私のわがままで始めた事だもんね。この際どう思われるかは考えないでいこう。私が勝手にやるんだから迷惑がられたって知らない。
……今だけは、もう二度とやらないつもりだった高浜綾のやり方でやらせててもらう。
そう決めて気持ちを切り替えたら、自分で見ても篠井彩香のする表情じゃなくなっていて、鏡の前で少しだけ笑ってしまった。
————————
文化祭直前の慌ただしさの中、久しぶりに登校した私がまずしたのは高等部のスクールカウンセラーに会う事だった。
攻略対象の一人でもある瀬戸谷桂吾は三十代後半で、篠井や久我城ほどではないもののそれなりの家柄の長男。なぜスクールカウンセラーなんてしてるんだとつっこみをいれたい。まぁ、藤野宮のスクールカウンセラーならさほど忙しくなくて、社交にも手を抜けない跡取りとしては手頃な職場のかもしれないけどね。
私がカウンセリングルームを訪ねると、笑顔で迎え入れてくれる。初めて入るその部屋は、二部屋続きになっているようで、手前の部屋は本棚と教員用の机が置いてあるだけだった。……壁一面が書類であふれかえった本棚、というカオスが発生していたとしても、本棚と机しかない、というのは間違っていない分たちの悪い話だと思う。
「初めましてだね。僕は瀬戸谷桂吾。まず、最初に確認なんだけどドアに鍵をかけてもいいかな?」
「はい?」
思わぬ質問に首をかしげると、柔らかな笑みが返された。
「ここではかなりプライベートな話をするから途中で誰か来たら困るだろう? だから施錠する事が多いんだけど、それを嫌がる子もいるからね。まぁ、隣で話をしている間はドアのチャイムをオンにするからそのドアが開けばすぐわかるし、必須じゃないよ」
言われてみるともっともな理由に、ドアをふり返ると鍵をかける。
「ありがとう。じゃ、こちらにどうぞ」
柔らかな声でうながされ、もうひとつのドアをくぐるとそこはかなり広かった。ゆったりした応接セットが置かれ、ミニキッチンがある。高価そうなオーディオセットとCDラック、観葉植物の鉢はいくつもあり、しゃれたパーテーションでしきられたむこうにはベッドが置いてあるようでカーテンが下げられている。うわ、もしかして天井にあるのスクリーン? もしかして映画まで観られるの?
「驚いただろう?」
おかしそうに確認してきた先生にうなずく。普通、驚くと思う。
「少しでもリラックスして話をしてもらいたいからね。好きな音楽とか、座り心地のいいソファとか、美味しい飲み物とお菓子とか必須だと思うんだよ」
真面目くさった言葉についふき出す。わからないでもないけど、これはやりすぎじゃないかな。
勧められるままソファに座ると好みを確認された後で紅茶とクッキーが出された。
「お代わりはたくさんあるから好きなだけ食べて飲んでね。減らないと次に買ってもらえなくなっちゃうから、協力してくれるかい?」
いたずらの共犯に引き込むような事を言ってからようやく名前を聞かれた。
「中等部一年の篠井彩香です」
「篠井さんっていうと、高等部一年の篠井君の妹さんかな?」
「はい」
ちょっと驚きつつもうなずく。雅浩兄様がここに来るとは思えないし、高等部の生徒をすべて把握してるの?
「——なんてね。実は中等部からの連絡事項で篠井さんの話は聞いていたんだ。この前、学園内で誰かに殴られたそうだね?」
あっさりと種明かしをされて、ちょっと笑う。確かに学園内での事だし、報告していてもおかしくない。そんな情報があればスクールカウンセラーなんて立場の人の耳に入らないはずがないだろう。
「今日はその事で相談かな?」
「関わってはいますよ。——ところで先生は高浜綾を覚えてますか?」
真っ正面から切り込むと、ずっと笑顔だった先生——桂吾の表情が変わった。
「——どうしてその名前を?」
驚きを隠せないその様子に、どうやら最初の賭けには勝ったらしいと悟る。
「そりゃ、私が本人であんたに貸した借りを返してもらいに来たからに決まってんでしょうが」
高浜綾の言葉遣いに戻し、笑顔で言い放つと見事なまでに桂吾がかたまった。
————————
自分の部屋でそろえた情報を確認していたらノックの音がした。
「彩香、今いい?」
「大丈夫。入って来てもらっていいかな?」
考えに集中したまま、なかば条件反射で返事をする。
なんかすっきりしないんだよね、この結果。まぁ、逆ハーレムフラグ折るのには影響しないと言えばしないんだから、気にしなければいいだけの話ではあるんだけど……。うぅん……。
ベッドに転がって頭に入れて来た情報を検証していたら、不意にマットレスが沈み込んで体がかしぐ。
「何悩んでるの?」
「……っ?!」
かけられた声に驚いて視線をめぐらせると、きょとんとした雅浩兄様と目があった。
「いつの間にっ?!」
「いつの間にって……。今声かけて入って来たんだよ? 彩香、返事してくれたじゃない」
「……あ、あれ?」
言われて首をかしげる。返事したっけ? ……した、ような? たぶん、した? 雅浩兄様が返事も待たずに入ってくるはずがないし、したはず?
「考え事してた? 邪魔しちゃってごめんね。今大丈夫?」
私を避けていたはずの雅浩兄様の言葉に少し考えてからうなずく。わざわざ夕飯後に私の部屋まで来てくれたっていう事は、篠井の両親の前ではしない方がいい話があるって事なんだろうし。
……変な事言っちゃう前に終わると言いけど。
「何か用事?」
体を起こして雅浩兄様とむかいあうと、少し困ったようなため息が。
「用というか……。最近どうしたの?」
「うん?」
「習い事、ずっとさぼってるよね」
あれ? 習い事は復帰猶予期間じゃなかったっけ? 篠井の母様は全部一度に元に戻さなくていいって言ってくれていたし、文化祭の準備もあるからって理由で半分はお休みしたまま。
……あぁ、でも昨日今日と思ったより遅くなって休んじゃったんだっけ。でも、さぼりって決めつけなくたって……。二日だけだし、前の雅浩兄様ならこんな言い方はしなかった気がする……。
「文化祭の準備があるから」
「嘘つかない」
ばっさり切り捨てる言い方にさすがにむっとした。
「なんで?」
「ここ三日、一度もクラスの展示の準備手伝ってないよね? 柘植さんに聞いたよ。毎日、僕か克人に用事だって授業が終わるなり帰ってるんだってね?」
「……わざわざ確認に行ったの?」
確かに私は準備に参加してないけど、それは担当の仕事が終わったからだし、それ以外の手伝いはむこうが断って来た。それでもと言い出すほどクラスの人達と関わる気がないのは認めるし、褒められた事じゃないのもわかってる。早々に教室を出る口実に兄様達の名前を借りたのは悪かったと思うけど……。
知らないところでそんな風に調べる前に直接聞いてくれたっていいんじゃないのかなぁ?
裏でこそこそかぎまわるとか、そうやって信用できないって態度で示してくれなくていいよ。私の言葉じゃ信じられないから忙しいのにわざわざ中等部まで行ったって事だよね……。
「隠れてこそこそ何をしてるの? 習い事休んでるって、父さん達の耳にも入ってるんだよ? 今日はごまかしておいたけど、理由もわからないんじゃそう何回もかばってあげられない」
顔をしかめての言葉に小さく肩をすくめる。
「信用できなくて調べるくらいなら、篠井の両親の前で問いただしてくれてもいいのに……。でも、かばってくれてありがとう」
理由はわからないけどかばってもらったみたいだし、少しいらつきながらも一応お礼を言うとため息をつかれてしまった。
「……理由、聞いてるんだけど?」
「言っても信じてくれないだろうから黙秘する」
転生がどうのとか、乙女ゲームの逆ハーレムがどうのなんて、普通の神経をしていたら頭を疑われるだけなのに、ただでさえこれだけ疑われた状態で話したらどうなるのか考えたくもないよ。せめて頭がおかしいと思われるのだけは避けたい。そのくらい許されるよね。
そう思って拒否すると、またもやため息をつかれてしまった。しかも、今度はものすごく苦い顔で。
「言いたくないなら無理には聞かないけど……。この前の事が気に入らなくて当て付けでやってるのならやめて欲しいんだけどな。そんなやり方じゃ彩香が損をするだけだよ?」
いかにも私を心配してくれていそうな言葉に思わず眉をよせる。
信じられないって駄目押しした後にそんな事言われたって、どう受け取っていいかわからないよ。
反応をみたいだけ? 篠井に不利になるような事はするなって意味? それとも藤野さんのまわりを調べてるのに気がついて牽制してるの?
結局、どう判断していいかわからなくて首をかしげると、雅浩兄様が頭をかく。
「彩香を殴った相手を聞いた時の事だよ。やり方が気に入らなかったんだよね? あの後から態度がおかしいし、露骨に避けてるじゃないか。怒ってるなら直接言ってくれればいいんだよ」
謝るきっかけすらくれないんだから、とどこか憮然とした言葉が続く。
……謝る? 怒るって私が? 雅浩兄様に? なんだか言われてる事が理解できないのは私のせいなの?
私に関わらないようにしてるのは雅浩兄様の方だよね? 確かにらしくない言動ばっかりだったのは認めるけどさ、その度露骨に顔しかめてため息ついてたよね? その反応って嫌いな相手にするものだよね?
信用できない他人に嫌いたくなる対応されたら普通嫌うよね? どこがどうなったらそんな言葉になるわけですか?
私が謝れって言われるならともかく、なんで雅浩兄様が謝る流れなの?
そもそも表面だけ和解したところで雅浩兄様が私を信じてくれてないのは変わらないんだし、何の意味もないと思うんけど。それで気がすんでくれるならいいの? ……いいの、か、な?
とりあえず混乱した頭がそんな結論を出す。
「別に謝って欲しいなんて思ってなかったけど、じゃあそういう事で……?」
そう思って返事をしたらまたしてもため息が。え、なに? 露骨に眉間にしわ寄せられちゃった……。
……あぁ、なんか失敗したな、とは思ったけど、何をどう言い直せば雅浩兄様の聞きたい言葉になるのかがわからない。
本当、いくら知識を詰め込んだところで肝心な時には役に立たないんだから……。
高浜綾でいた頃は、言葉がきついし人の心理にうといなんて散々言われていたし自覚もある。だから彩香として生活するようになってから必死にそれを矯正して来たけど、やっぱりメッキはメッキでしかないって事なんだろうな……。
なんとなくわかるのは、私の態度が変わったのが気にいらないんだろうって事くらい?
確かにここ何日かの私は、高浜綾だった頃の知識を使ってたし桂吾の前では彩香の態度で話すのも微妙だったからあの頃の態度で接してた。それにあれこれ不安定で細かい事にまで意識がまわらなくて……、もしかして自分で思ってるよりも酷い状態に見えていたのかな?
……意識してなおす事は出来るんだろうけど、でも、本当はこういう事しないで欲しい。こんな風に声をかけてもらったら期待したくなる。まだ少しは信じてもらえるんだろうかとか、多少は気にかけてもらえてるのかとか思っちゃうじゃない。
切り捨てるならばっさりやってくれた方が楽なのに、なんでこんな風に中途半端に心配してみせるんだろう?
「彩香?」
変なタイミングで黙り込んだ私をどう思ったのか、雅浩兄様が体を乗り出して顔をのぞきこんできた。
いくら考えても滅入るだけだし、今はとりあえず話を終わらせてしまいたい。無理やり笑みを作る。
「習い事休むの今だけだから、もう少しだけ見逃して?」
「……うん?」
「文化祭終わる頃には区切りつけるから。ちょっと色々考えたくて、瀬戸谷先生のところに行ってるの。心配かけてごめんなさい」
座ったまま軽く頭を下げると、雅浩兄様がなんとも微妙な表情になる。
「瀬戸谷先生って、高等部のカウンセラーの?」
「うん。それほど変わった話するわけじゃないけど」
というか、私の行動が問題になったら桂吾のところに通ってるという話にするって事にしてあるんだ。実際、毎日顔出してるのには変わりないし。
「……石田先生のところには行かなかったんだ?」
石田先生というのは中等部のスクールカウンセラーの先生。五十代のほんわか笑顔が癒し系なおば様です。優しくて楽しい人らしく、休み時間になると石田先生の部屋はわりといつでも生徒がいる。……正直、あんまりこみいった相談ができる雰囲気じゃないと思う。まぁ、その辺を解決するために、カウンセリングルームの在室証明で授業が出席扱いになるって処置があるんだろうけどね。
「授業休んでまでってほどじゃなかったし、瀬戸谷先生と話してみたかったのもあるかな」
高確率で桂吾は高浜綾の後輩だと思ってたから興味はあったんだよね。乙女ゲームやってた時、妙に似てるし同姓同名とかなんなの、って笑ってたんだけど……。
ゲームそっくりな環境に転生した私としては、高浜綾だとばれる危険性を考えなければ話しかけてみたくてしかたない相手だった。
ばらしといて言うな? いいのいいの。問題にしてたのは兄様達だけなんだから。父様と母様には高浜綾として生きた記憶がある事を話したから、篠井の両親はそれらしき情報を知った上で私を預かってくれている可能性が高い。たぶん、私が何も言わないから黙っててくれているだけじゃないかな。
「それって、瀬戸谷先生に興味があったって事?」
「そうなる、のかな?」
「会ってみてどうだった?」
ん? なんか調査されてる?
「ん〜……。思ったより子供かな。ピーマン嫌いとか初等部ですかって話だし」
わざとずれた返事を返したのは、なんでそんな事を聞かれたのかよくわからなかったから。昔、からかい倒した食わず嫌いがそのままだったのには本気で笑ったんだけどね。相変わらずガキだね、と言ったらなんとも言えない表情で、そんな事言うのはあんたくらいですよ、なんて返されたけど。つい思い出して笑ったら、雅浩兄様が苦笑いになる。
「文化祭が終わるまで、だね?」
「うん。そうしたら後はもう習い事休んだりしない」
「わかった。それなら父さん達に何か言われてもうまく話しておくよ。ただし、無理と無茶はしないようにね」
「——うん、気をつける」
これから一戦やらかす予定だけど、というのは黙って笑顔でうなずいた。
「なんかまだ隠してそうだけど、追及はしないでおくね?」
笑顔での返事に思わずかたまる。やだ、なんでばれてるの?
「彩香は隠し事がある時、いい子でいう事聞いてくれるんだけど、返事が一拍あくからね。君の兄様を七年もやってるのは伊達じゃないんだよ?」
言って私の頭をなでる雅浩兄様。そのまま軽く頭を引きよせられて——。
………………え?
「妹相手に何するんですかっ?!」
我に返った瞬間叫ぶと、雅浩兄様が数センチしか離れていない位置でさも楽しそうな笑みを浮かべた。
「僕は他の人と違って簡単に切り捨ててあげないし、切り捨てられてもあげないから覚悟しておくんだね。だいたい見切りつけて欲しいなら、きつい事言う度に泣きそうな顔してたら駄目だよ? 余計守ってあげたくなるだけだってわかってる?」
「ちょっ、何どういう意味わけわかんないし今の何なんのつもりっ?!」
「内緒。自分で考えてごらんよ。その間だけでも僕の事だけで頭一杯にして?」
余裕しゃくしゃくの笑顔で言うと、最後にもう一度私の頭をなでてドアにむかう雅浩兄様。
まさかのやり逃げ?!
「他に好きな人いる癖になんなのっ?!」
「え? なんの事だか?」
思わず素で叫んだつっこみをきれいに受け流して雅浩兄様が部屋を出て行った。残された私といえば、手の甲で雅浩兄様が触れていった場所をこすってベッドに突っ伏す。真っ赤になってるのが自分でわかるほどほてったほおにシーツのひんやりした感触が気持ちいい。
「……なんだったの、今の……?」
お読みいただきありがとうございます♪
雅浩兄様、あんたなにやったの?(笑