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47/51

ある夜の事。

本日、47〜51まで連投します。

ご注意ください。


作中時間が大きく飛んでいます。

 叩き続けていたキーボードから手を離し、大きくのびをする。

 うわ……、肩とか肘とかばきばきいったよ。どのくらい作業してたんだろう、と思ってパソコンの時計を確認すると、表示されているのは四時過ぎを示す数字。……もちろん二十四時間表示。

「はちじか~ん(時間)

 思わず半笑いになったのはしかたがないと思う。やっぱり家で作業したら駄目だなぁ……。研究室なら就業時間が過ぎたら警備の見回りが来て、その時に強制終了になるんだけどね。

 これは私を筆頭に、労基法? ナニソレオイシイノ? な研究馬鹿が多いせいで、いくら言われても残業がまったく減らない事に業を煮やした克人兄様が導入したシステム。警備員に見つかったら五分以内に作業を切り上げないと、室内のブレーカーを落とされて強制終了されちゃうんだよね。

 以前、予告なしにブレーカー切られて阿鼻叫喚の騒ぎになったから、強制遮断だけはやめて、と必死に説得(懇願)した結果こうなった。不満を言ったら定時でのタイマー強制遮断になるのがわかってるから、誰も逆らえないうちの職場の神規則だったりするんだよね。

 でも、これで論文は書き上がったし、今日から三日間は仕事から完全に手を離しても大丈夫、っと。……あぁでも、明日は試作品が上がってくるんだよなぁ。

 行きたいなぁ……。でもさすがにこの用事はすっぽかせない。うぅん……。気になる。

 誰かに電話して様子を聞くくらいなら許されるかなぁ、なんて考えながらディスプレイをにらんでしまう。

「……彩香?」

「わひゃっ?!」

 不意にかかった、眠そうな声に思わず妙な声がでたっ! 心臓が口から出るかと思ったよっ?!

 びっくりしたけど、一拍おいてからゆっくりふり返ったら、ベッドと机の間に降ろされた遮光スクリーンの影から克人兄様が現れた。眠たそうにあくびをしながら近寄ってくると、大きな手でゆるく頭をなでてくれた。

「一区切りしたか?」

「あぁ、うん……。一区切りというか……。……書き上げちゃった?」

「……おい」

 少し早めだった夕飯の後、お風呂もすんで、寝るまでの間に少しだけ、書きかけの章だけ書きあげさせて、っておねだりしてパソコンを立ち上げる許可をもらったんだけど、ついそのまま夢中になっちゃったみたいなんだよね。

 正直に白状した私を半眼でにらむ克人兄様。そして、パソコンの時刻表示を見て更に目が細まる。

「今すぐ保存かけて終了しないと、電源ケーブル引っこ抜く」

「すぐやりまっす!」

 寝起きのせいか、少しかすれた声での宣言に慌てて仕上げた論文を保存して、シャットダウンの操作をする。

「ここに遮光スクリーンつけたの失敗だったな。まぶしくて寝られないだろう、って気にしなくなった分、時間忘れやすくなったんじゃないのか?」

「あ、あはは……」

「まぁ、俺が仕事で夜中までやってる事もあるから外すに外せないんだけどな……。次からタイマーかけて作業してくれよ?」

「はぁい」

 苦笑いでのお願いにおとなしくうなずく。……いや、うん。パソコンにタイマーソフト入れておいたんだけど、スピーカー切ったまま作業してたから気づかなかった、っていうのは内緒にしておこう。次からはスマホのアラームにするからっ。膝において作業してればバイブで絶対気づくからっ。

 シャットダウンが完了したのを確認して、ディスプレイの電源を切ろうと手を伸ばしかけたら、後ろから伸びてきた克人兄様の手が先にスイッチを切ってくれた。そして、そのままゆるく腕が体にまきつく。

「体冷えてるぞ。せっかく風呂入ったのに、これじゃあ意味がないだろ」

「ごめんなさい」

「まぁ、彩香が夢中になるとこうなるってのわかってたのに、タイマーかけずに先に寝た俺も悪かったんだけどな。ほら、さっさとベッドに入る」

 言いながら腕をゆるめた克人兄様が、慣れた仕草で椅子ごと私のむきを変えて、反論する間もなくするりと椅子から抱き上げた。

「ちょっ?! もうそんな風に抱っこしてもらえるほど軽くないからっ!」

「まだまだ軽い。彩香はもう少し太らないと駄目だな。また健康診断で引っかかるぞ?」

「体質だから太るの無理なんだもん……」

 苦情をさらりと流されてため息をつく。降ろしてくれるつもりがないのはわかりきってるんで、あきらめて克人兄様の首に腕をまわしてしがみついた。

 そう。あの手術の後、私の身長はずいぶん伸びた。今は百七十弱あるんじゃないかな。手術直後の数年なんて毎年五センチくらい伸びてたけど、まさか、二十才過ぎまで身長伸び続けるとは……。さすがに二十五過ぎたら伸びなくなって一安心したものだ。

 だけど、それでも克人兄様とは二十センチ近く違うんだけども。というか、百九十オーバーとか、克人兄様、日本人の規格から外れてません?

 まぁ、そんなわけで身長が低くて困る事はなくなったんだけど、今度は体重が増えないんだよね。毎年の健康診断では痩せすぎで注意されてるんだけど、どうも体質的に太れないみたいで、いまだに体脂肪率は二桁にのるかのらないか、という所を推移してる。お菓子いっぱい食べて運動してなくても太れなかったから、いい加減あきらめたけども。

「ま、彩香はしっかり体も動かしてるから病的に痩せてる感じはしないしいいけどな」

「一通りの護身術くらいは身につけておくものだし、好きな事に夢中になりたかったら健康は前提条件だからねぇ」

 大事な場面で風邪ひいて倒れた、とか嫌だもん。健康には気を配ってます。それに、篠井の次期当主の妹で、久我城当主の妻、なんて立場は狙われやすい。克人兄様が当主の座を引き継いだのは、結婚式にまつわる騒ぎがひと段落した頃だからそろそろ三年はたつのかな? まだまだ久我城のおじ様も元気なんだけど、さっさと責任を押しつけてゆっくり趣味の時間を楽しみたいんだよ、なんて笑ってた。ちなみに雅浩兄様が当主の座を引き継ぐ日取りは半年後と決まってる。明日はその発表もあるんだよね。

 まぁ、そんなこんなで必然的に護身術の訓練はいまだに続いてるし、体力作りも兼ねてる日舞と弓のお稽古も、週一回とはいえ続けてるからね。

 そんな事を考えてる間に、ふわりとベッドに降ろされて、続いてとなりに横になった克人兄様が布団を肩まで引き上げてくれる。なんか、自分で思ってたより冷えていたらしくて、克人兄様が離れたら寒く感じる。つい克人兄様に抱きついたらおかしそうに喉の奥で笑われちゃった。

「どうした? 甘えただな?」

 慌てる様子もなくまわされた手があやすようなリズムで背中を叩く。

「前はベッドで抱きつくと、克人兄様真っ赤になってたのになぁ」

「いつの話だよ?」

 ついもれたつぶやきに、克人兄様が一層おかしげに笑う。

「それ言うなら彩香の兄様呼びだろ。とうとう直らなかったな」

「……努力はしてるんだよ」

 うん、わかってます。結婚してもう四年たつのに、克人兄様、って呼び方が直らないのまずいよね……。でも、社交の場ではさらりと口に出せる、克人さん、って呼び名が、どうしても恥ずかしい。それに、この呼び方が気に入ってるのもあっていまだにプライベートでは、克人兄様、のままなんだよね。

「研究所での俺の好感度上げには役立ってるけどな」

「……っ?! だから、ごめんって何度もっ?!」

 ちょっぴり悪役の入った笑みで言われて、反射でかみつく。うん、私が悪いのはわかってますっ。研究所に克人兄様から電話がかかってきた時、つい癖で兄様呼びしちゃって、同僚にばらしたのはまだわりと記憶に新しい。うちの研究所、研究馬鹿の一癖も二癖もある人が多いから、その後克人兄様が研究所に顔を出す度、誰かしらが、克人兄様が来たよ、って叫んでくれる。たぶん、その度私が真っ赤になるから悪いんだろうけど……っ。

 克人兄様はそんないたずらを苦笑いで、外部の人を連れてる時はやらないでくれよ、と受け流してる。ちょっとだけ、真っ赤になる私を見て楽しんでるんじゃないか、と疑ってるんだけど、原因が私なんで黙っておきます。

「まぁ、背徳的な感じがしてそれはそれでよかったりもするけどな?」

「何言い出しますかやだもう何なのこの人いつの話ですかやだ絶対もう名前呼ばないからっ!」

 声音と笑みの種類でいつの事を言ってるのかわかって、思わず叫んだ私悪くないっ!

「変えたくないんだろ? 俺も彩香に兄様って呼ばれるの気に入ってるからな。ずっと、そのままでいいさ」

 さらりと本心を言い当てられて、思わず息をのむ。

「彩香はいつも、名前に特別な思い入れがあるもんな。だから、彩香が変えたくなるまでこのままがいい。それに、兄様って呼んでてもちゃんと俺の事好きだってのはわかってるからな」

 せっかくいい事言ってくれたのに速攻台無しにされたっ?!

「ほら、そろそろ寝ないと辛いぞ? 明日――もう今日か。今日から三日間は戦争だからな」

「うん。――少しだけでいいから、頭なでてもらっていい?」

 克人兄様の言葉に、嬉しい事のはずなのに、なんだかさびしいような不安なような、複雑な気分になっておねだりする。そうしたら、ひたいに軽いキスがふってきた。

「今晩は篠井に泊まってきな。話つけといたから」

「――うん」

 そのままゆっくりと頭をなでてくれる腕の中で目を伏せると、胸の奥のざわつきは少しずつ遠ざかって、さほどかからずに眠りに引き込まれた。


お読みいただきありがとうございます♪

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