だから余計な情報公開しないでいいからね?!
ここから新作です。
短編を前提に書いた原稿なので少し説明が多くなってますが、ご容赦くださいませ。
やって来ました、ダンスパーティinサマーフェスティバル! 毎度同じ始まりだとかいうつっこみはいりませんからね?
某乙女ゲームそっくりな世界に転生した私・篠井彩香は、現在メイン攻略対象の高等部一年・篠井雅浩の妹――ただし生物学的にも法的にも無関係。ただの同居人だろなんて無粋な指摘はしないように――兼、雅浩兄様の従兄でやっぱり攻略対象の高等部三年で生徒会長・久我城克人の婚約者――フラグは叩き折ったからただの他人? 一応従妹って事にしておこうかな。未成年の間は篠井の娘って事になってるし。
まぁ、そんな立場にいる。そして今、幼稚舎から大学部まであるこの藤野宮学園を舞台に乙女ゲーム進行中なんだけど、高等部一年のヒロインさんまさかの逆ハーレムルートを選択してくださった。ちょっと待て! とことん他人とはいえ二人とも優しくて大好きな私の兄様ですからそのフラグ叩き折らせていただきますよ!
と、気合を入れて兄様達にまとわりついていたらブラコンとぼっちの疑惑が絶賛増殖中だけど……。大丈夫だから。中等部に上がってそれまで親しかった子達とクラス離れたからって、いじめられたりハブられたりしているわけじゃないですからっ。
とまぁ、そんなこんなで今日は前半山場のイベントなのだ。ここでダンスを踊ると好感度が一気に上がる反面、踊り損ねるとクリスマスイベントがお友達バージョンしか発生しなくなるという重要なもの。兄様達は私の邪魔でイベントが進んでないはずだしここをおさえれば逆ハーレムに組み込まれちゃう可能性が一気に下がる。
ここは是非とも潰しておきたいイベントなんだよね。
二人の兄様達はタキシード、私はパステルオレンジのドレスにした。このパーティ、高等部の生徒会役員男子はタキシードと決まっているんだけど、それ以外のドレスコードがない。これは初等部から大学部まで参加するし、高等部からの外部生は一般家庭の事がほとんどなんで、あんまりドレスコードがうるさいのもどうかって話になるからだろう。一応外部生向きにレンタル業者も入るんだけどね。
ちなみに、このパーティで誰と踊るかは注目されるから、それなりに人気がある生徒は身内としか踊らないなんて防衛策を取ることも多い。雅浩兄様と克人兄様もその口で、身長差的な意味で私が二人と踊れるようになるなり、最初と最後は私と踊っている。うん、虫よけですね。
今年は二人とも生徒会の仕事をしながらだから忙しそうだし、それが少しは救いかなぁ。このパーティ、運営の中心は高等部生徒会だからそれなりに雑用があるんだって。
克人兄様の挨拶から始まって、高等部生徒会長はそのまま一曲目を踊るのが決まりなんで私が駆り出される。
「ずいぶんダンスうまくなったな」
踊りながら少し驚いた様子の克人兄様に褒めてもらえたのが嬉しくてつい顔が笑っちゃう。
「一曲目は生徒会役員しか踊らないから目立つし、克人兄様は生徒会長だもんね。私が下手で克人兄様の評判悪くなっちゃったら嫌だから、一生懸命練習したの。褒めてもらえて嬉しい」
身長差のある克人兄様を見上げてそう言うと、一瞬微妙な表情になった後でいつも通りの優しい笑顔を見せてくれた。
「そっか、ありがとな。でもそんなに無理しなくても彩香は充分踊れるし、心配ないぞ?」
「だって上手に踊りたかったんだもん。私小さいから人より上手なくらいじゃないと格好つかないし、せっかく克人兄様が踊ってくれるのに失敗したくなかったから」
そうなんだよね。私が特別小柄だってわけじゃない……と思いたいんだけど、克人兄様は背が高いから私と並ぶと大人と子供って感じの身長差になっちゃう。だから見た目がアンバランスに見えるし、私を気にして小さめのステップにしてくれるからどうしても小さくまとめてる感じになりやすい。その分を何かで埋めるとしたら、楽しそうにさらっと上手に踊れるようになるのが一番だったからね。余裕の笑顔は練習量でしか作れない、というのが私の持論。
「それに、こういう場で克人兄様と踊れるのこれが最後かもしれないし。これまでで一番上手に踊りたかったの」
褒めてもらえてちょっと浮かれている私の言葉に克人兄様は微苦笑になる。
「最後って、卒業パーティで踊ってくれるんじゃなかったのか?」
言われて確かにそんなおねだりをしたな、と思い出す。逆ハーレムフラグを折るのには必要不可欠な事なんだけど……。
「でも、克人兄様が他の人と参加したいなら無理して欲しくないかなって。大切な思い出になるだろうし、私のわがままで邪魔していいのかなぁって思うから」
卒業パーティで初恋の相手とダンス、なんて甘酸っぱくていい思い出になりそうだからなぁ……。それに、私を連れてたら世話をしないとって思ってゆっくり友達としゃべったりできなさそうだ。フラグは折りたいけど、私以外と行った方が克人兄様は楽しめるに違いないから悩ましくもある。
「俺は彩香と行きたいんだけど?」
「……本当?」
「もちろん。彩香がさっきみたいに俺と踊れて嬉しいって可愛く笑ってくれるところ、見たいからな」
いたずらっぽく笑った克人兄様はサービスなのか片目をつぶって見せた。
ちょやだ間近でその表情は危険だからさすが攻略対象生で見ると威力が違うねまずい絶対今赤くなってるっ。
たぶん真っ赤な上ほうけた馬鹿面になってるに違いない。ちょっとうつむいて、ダンス中に露骨に顔を背けるのはまずいから甘えてるように見えるよう少しだけ体を近付ける。
「そんな嬉しがらせ言ってからかわないで?」
「……あぁうん。――悪かった」
微妙な間のあく返事に視線を上げると、克人兄様もなんだか赤くなってる。もしや自分で言って自分で照れましたか?
最初の三曲の間に最低一曲は踊るのが各生徒会役員の義務なんで、続いて雅浩兄様と踊った。雅浩兄様はすごくダンスが上手だから全部お任せでもなぜかとても上手に踊れてしまうので気楽。何度もダンスのレッスンに付き合ってくれてるから、慣れてるのもあるしね。無難に踊り終わって壁際で克人兄様と合流する。
「彩香は誰か挨拶に行きたい人はいる?」
「うぅん……、特にいないかな?」
一番の仲良しである柘植さんは最初の数曲だけ見たら帰るって言ってたしね。初等部で仲が良かった子達も来てるだろうけど、違うクラスの――それも初等部からの外部生の癖にエンブレム持ちな私が変に声をかけたら迷惑だろう。他のクラスの友達と仲良くしてるのってクラスメイトからは歓迎されないものだ。それが異分子ならなおの事。
「遠慮しなくても一緒に挨拶してまわるくらいの時間は取れるぞ?」
「本当に大丈夫だから心配しないで?」
二人がかりで言われてもいないものはいない。笑顔で断るとなんだか目配せをかわす兄様達。……またぼっち疑惑じゃないよね?
「親しい子はすぐ帰るって言ってたから、挨拶できないねって話してたの。だからいかないだけ」
「彩香がそう言うならいいけど……」
心配そうな雅浩兄様にいっそぼっちじゃないから大丈夫ですって言ってやろうか、なんて思っていた時だった。
「篠井さん、こんにちは」
「こんにちは、柘植さん。会えないかと思ってたから嬉しい」
救いの天使が現れた! つい満面の笑みで挨拶をすると、柘植さんはおっとりとした笑顔で応えてくれる。
「とても上手に踊ってらしたからすぐわかりましたわ。篠井さんは本当になんでもお上手ですね」
「一杯練習したの。ほめてもらえて嬉しい。ありがとう」
柘植さんはこのおっとりとした雰囲気が死んだ母様に似ていて、ほめてもらえるとすごく嬉しいんだよね。
「お友達かな? 彩香、紹介してくれる?」
「うん。柘植さん、兄の雅浩と、従兄の久我城克人。二人とも高等部の生徒会役員なの。で、彼女は同じクラスの柘植椿さん。雅浩兄様には話した事あるよね?」
「あぁ、いつも良くしてもらってるって言ってたね。柘植さん、彩香の兄の篠井雅浩です。妹と仲良くしてくれてありがとう」
「同じく従兄の久我城です。彩香はけっこう抜けてるところがあるから見張ってやってくれると助かるよ」
「まぁご丁寧にありがとうございます。私、柘植椿と言います。私の方こそ彩香さんに助けてもらってますわ」
挨拶をかわした三人だけど、克人兄様、なんか酷くない? ……わりとおっちょこちょいなのは否定しないけど。
「普段彩香はどんな様子か聞いてもいいかな? あんまり親しい子がいる様子がないから少し心配でね」
ちょ、ここでそれ話題にするのっ?!
「あら、そんな事ありませんわ。隣のクラスの弦巻君なんてとても彩香さんに親切ですもの」
雅浩兄様の発言に慌てた私の耳に信じられない言葉が届いた。
やめて待ってそれ違うからっ。というか、いつもおっとり見守ってくれてたのはその素晴らしい勘違いのおかげだったんですか?! 笑顔でずれた事言って矛先かわしてくれてると思ってたけどまさかの天然でしたっ?!
「隣のクラスの男の子が?」
「はい、それはもう。廊下で会う度、体が弱くて幼稚舎に入れなかったくらいなのだからエンブレムをもらうほど勉強に根を詰めてはよくないですとか、篠井さんのお兄様はとても優秀な方だから目標にして無理をしては駄目だとか、言葉をかけてくださいますもの。ね? 篠井さん?」
何を言ってくださいましたか?!
それはあれですね。受験資格が同じはずの雅浩兄様は幼稚舎から通っているのに私だけ違うのはもらわれっ子だからだろうとか、勉強しかできない癖にとか、勉強を口実して兄様達に媚びるのがみっともないとか、言ってくださったのをオブラートに包んだんですね?! でもたぶん兄様達にはばれてますからっ?!
あまりの事態に硬直している私の右肩に雅浩兄様の手が置かれる。
「それは素晴らしいね。他にもそういう子はいるのかな?」
こ、声がなんだか微妙に低くなってませんか? 雅浩兄様……?
「そうですわねぇ。永沢さんや飯泉さん、後は妹尾君もお優しいですわよね? 篠井さんのプリントがなくなった時など、率先してどこでなくしたのか思い出せるようあれこれ質問してくださいましたし」
それは自分達で私のプリントを隠しておいて、私が持ってこなかったから全員分そろわないときれてくださった時の事ですか?!
おっとり笑顔で爆撃を続ける柘植さんの言葉に、克人兄様の手が私の左肩に置かれた。
なんか横からものすごい圧力感じるっ?! 怖い怖い怖い誰か助けてっ。
「そうか。彩香のまわりはいい友達が多いみたいで安心だな。な、雅浩?」
克人兄様声の裏に黒いオーラがはりついてませんか?!
「本当にそうだね。彩香が話してくれればこんな心配しなくてすんだのにね。教えてくれてありがとう、柘植さんのおかげで安心できたよ」
嘘だ嘘つきがいる本心ならこの魔人オーラなんですか両側から包囲とかやる気満々ですね嫌怖い逃げたいーーっ。
「あぁ、いけない。私、この後用事があってそろそろお暇しなくてはいけないんでした。篠井さん、また教室でお会いしましょうね。お兄様方、失礼いたします」
完璧な作法でお辞儀をする柘植さん。えまさかの言い逃げですかやめて怖いから今兄様達と三人にしないでお願いぃっ。
「お気をつけて。これからも彩香をよろしくね」
「有意義な話をありがとう。またいずれ」
「……ま、またね?」
置いていかないでーっ?!
内心泣きながら歩み去る柘植さんを見送る。彼女が充分遠ざかるのを待っているらしい兄様達の沈黙がものすごく怖いです……。
「さて、今のはどういう事だか説明してくれるよな?」
「これだけ見事に硬直しておいて、なんでもないで通るなんて思ってないよね?」
怖い怖い怖い雅浩兄様わざわざ正面に回り込んで膝ついたりしないでちょゆるく腰に腕を回すとか絶対逃がさないって意思表示なの?!
「教えてくれるよね?」
あいた手でほおをなでながら少し首をかしげて聞いてくるとかはためには非常に微笑ましいかも知れないけど怖いですからっ!
「正直に言わないと名前の出た四人を生徒会長権限で教員会議に突き出す。その上で久我城と篠井に対する侮辱だと親に伝えるからな」
「それ四人の将来終わらせるフラグ?! たかがぬるいいじめくらいでそこまでしなくていいからっ!」
「……ほう? つまり、いじめを受けてる自覚があったのに黙ってた、と? いい度胸だな?」
ぎゃーっ?! 誘導尋問だったっ?!
「彩香だって、本気で怒った父さんと母さんが連中の家の事業のっとって路頭に迷わせたりするのは見たくないもんね? 僕だって中学生相手に人目が集まる状況で本気で叩き潰すところなんてさらしたくないから、そんな事しなくてすむように協力してくれるよね?」
「せ、説明させてください」
……もう許して……。魔人モードの兄様達にかなうなんて思ってなかったけど怖すぎだから……。私、もうおうち帰りたい……。
涙目の私が肩を落とすと、雅浩兄様の手がなでるのと変わらない優しさでほおを叩いた。
「ねぇ彩香? 僕達は君を責めてるんじゃないから、それだけは間違えないでくれるかい?」
いや、めちゃくちゃ怒られてるとしか思えません。怒ってなくてここまで怖かったらもはや近付けないレベルです。バイ○ハ○ードマークはってさしあげます。
「――わかった、言い方を変えるよ。ちゃんと話してくれたら、これ以上怒ったりしない。だからそんなに怖がらないで?」
困ったような声とともに雅浩兄様の指がこぼれそうだった涙をすくい取る。
「ごめん、ちょっとやりすぎちゃったね。こんなに怖がらせるつもりじゃなかったんだけど……。ちょっと我を忘れたかも」
「だなぁ……。もう怒ってないし、大丈夫だから機嫌なおしてくれないか?」
二人の本当に困った声になんだか余計へこむ。通りすがりざまの嫌味とか、聞こえよがしな陰口とか、別に昔――前世の頃に比べたらぬるすぎでどうでもよかったから全部無視してたし、話したら心配かけると思って黙ってたけど、知らせないと兄様達が困る事でもあったのかもしれない。
「ごめんなさい。こんなに怒られるような事じゃないと思ってたの」
「……っあぁ、やっぱそっちに取ってたか」
克人兄様がため息まじりに髪をかき混ぜる気配に、体がすくむ。
他人にどう思われようがまったく興味がないけど、その反面身近な人に迷惑をかけるのがすごく怖い。色々微妙な立場の私によくしてくれる人は少ないから、その人達に嫌われたらと思うだけでかなり壮絶にへこむのが私の駄目なところだと思う。そんな簡単に嫌われたりしないって信用しなくちゃいけないと思えば思うほど、不安ばかり大きくなっていく。
「ごめん、なさい。話して心配かけるのが嫌だった、から。迷惑かけるつもりじゃなくて……。でも、ごめんない」
泣きそうになりながら謝ると、一拍おいてからまったく痛くない力で額を小突かれた。
「まったく、君って子は……。いい子すぎるのも考えものだからね?」
「泣かなくていいんだよ。俺達の機嫌が悪かったのは彩香のせいじゃない。自分達と彩香にくだらない事してる連中に腹立ててたからだ」
二人の言葉がうまく飲み飲めなくて目をまたたくと、克人兄様も膝をついてうつむいていた私と視線をあわせやすくしてくてた。
「さっきの連中の事は彩香なりに色々考えて、大丈夫だと思ったから一人で解決しようとしてたんだろ?」
「……うん」
だってぬるすぎだし飽きるの待つのが一番楽で早いと思ったわけだし。さすがになんかあれな感じがするから理由は黙秘しておくけども。
「それはわかるんだけどな。俺達としては毎日顔あわせてるのに相談してもらえなかったのが寂しかったんだよ。彩香に頼りにしてもらえてないのかなって感じがしてさ」
「そういうつもりじゃ……」
「もちろん、それもわかってる。だから、彩香を責めてるわけじゃないって雅浩も言っただろ? そうだなぁ。毎日会ってる彩香が困ってたのに気がつきもしないでいて、助けてやる事も相談にのる事も出来なかった自分に腹が立ったってところかな」
「それと、彩香が相談してくれなかったのが少し悔しいかな。きっと彩香は僕達が忙しそうに見えて遠慮してくれたんだろうけど、僕達は彩香のための時間ならいくらでも作れるんだからね?」
二人に代わる代わる言われ、少し考える。
「兄様達は私の問題に巻き込まれたら迷惑じゃない?」
「むしろどんどん巻き込んで欲しいな。彩香は一人でなんでもできる子だけど、僕の妹なんだからもっと頼ってくれなくちゃ」
「俺も同じだよ。今回みたいに後から彩香が困ってたなんて聞くのは嫌だから、もっと甘えてくれないと」
二人がかりで甘えろ頼れと強調された……。もしかして、少しだけなら甘えても大丈夫なのかな?
「まぁ、急に言われても彩香だってどのくらいまで甘えていいか悩むよね」
そう言って小さく笑った雅浩兄様が私のほおをつつく。
「だから、僕達の特別を君にあげるね」
「特別?」
話がよくわからなくなってきた?
「彩香はサマーフェスティバルのジンクス、知ってるか?」
「ええと……。ダンスパーティで一人としか踊らないと、その人の特別な相手になれるっていうやつ?」
乙女ゲームの設定にもあった、なんともコメントしにくいジンクスを口にする。転じて一人としか踊らない事で告白的な意味になったりもするらしい。だからまぁ、兄様達はたまには断りきれなくて踊る事もあるから、必ず私と踊る事で一人としか踊らない状況を避けているわけだ。あんまりしつこい相手は無理に断るよりその他大勢の一人にする方が楽って事らしい。
まぁ、私にとっては、なにそれ? おいしいの? くらいの興味しかない話ですが。ごめんね、恋の話題に忙しいお年頃はもうはるか昔なんだよ。
「という事で、今年は俺も雅浩も彩香としか踊らないから」
いや、別に私はそんなジンクスどうでも……ん? それってヒロインさんとは踊らないって事だよね?!
「本当っ?!」
思わず力いっぱい食いつくと、二人ともちょっと驚いたみたいだけどすぐに微笑ましそうにうなずいてくれた。
「もちろん本当」
「彩香には好きなだけ付き合うから、踊りたかったら言えよ?」
「ありがとうっ。雅浩兄様も克人兄様も大好きっ」
二人の手を片方ずつ握りしめて満面笑顔でお礼を言う。目の端に残ってたらしき涙がこぼれたみたいだけど気にしければオッケー。ダンスフラグ折りに成功した喜びの前には些細な事だ。
……あれ? なんで二人して明後日の方見てるの?
「これはかわいすぎるって」
「……野郎ども、好きな子をいじめる口じゃないだろうな……?」
二人が何か言ってるけど、ダンスの音楽でよく聞こえない。
「どうかしたの?」
首をかしげるとそろって、なんでもないよ、と一言。
「それよりせっかく練習したんだしもう少し踊りたいな。もう一曲付き合ってくれる?」
「じゃ、俺はその間にちょっと裏の様子見て飲み物もらってきとくか」
「克人兄様も後で踊ってね?」
「わかってるって。さ、行ってきな」
立ち上がった克人兄様が髪を雑になでてくれ、やっぱり立ち上がった雅浩が手を差し出してくれた。
約束してくれた以上、二人がヒロインさんと踊る心配はなくなったし、二人とももう怒ってないみたい。ジンクスはどうでもいいけど、ダンス自体は好き。少しくらい楽しんでもいいよね?
「行こう?」
「うんっ」
お読みいただきありがとうございます♪
兄様達、女の子が好きそうな話題を拾ってきたけど微妙に不発したような成功のようなw