あれこれ検証。
しばらくして雅浩兄様の腕から解放された後、話題を私の話の真偽確認に戻す。
「ええと……。昔の写真見て納得してもらえたって事でいいんだよね?」
本当は桂吾と話してる間から疑ってなんてなかったみたいだけど、念のために確認したら雅浩兄様はうなずいてくれた。
「うん。痣の位置もそうだけど、彩香がさっき話してくれた話もこの調査結果に書いてある内容と一致してるからね。これは間違いなく雄馬さん達から預かって一度も開封しないで保管してたものだって父さんが保証してくれてるし、父さん達と雄馬さん達にまで協力してもらって彩香がまわりをだましてるなんてあり得ないから」
納得できるだけの証拠がやっとそろった、とでも言いたげだけど、本当はもっと前から信じてくれてたよね? わざと嫌な事言って悪役やってくれてた所もあるよね。最初にそうやってきちんと立証した方が後が楽なのは確かだもの。
「ありがとう」
だから、いくつかの意味を込めてお礼を言ったら、いつもの優しい笑顔で頭をなでてくれた。
「それにしても、なんだか不思議だよね。普通生まれ変わりって、立証しようがない状況の事がほとんどなのに、彩香の場合は完璧に立証してあげようって意図があるみたいだ」
「それはそうなんだよね。私もそこは気になってるんだけど……。誰かの意図があるとしても、それこそ立証しようがないよね。生まれ変わりとか操作できるとしたら神様とか悪魔とか宇宙人とか、どんどん科学と相性の悪い方向に進んじゃう。いくつか仮説はあるけど検証のしようもないからねぇ」
苦笑いで答えたら、興味をひかれたのか克人兄様が仕草で続きをうながしてきた。
「よくある方向なら、すべてを把握してる存在がいるって事。神様だのなんだのって言葉を使うとかえってわかりにくくなるけど、ゴルデルの『ソフィーの世界』って本を知ってる? あんな感覚で、この世界を操ってる存在がいる可能性は考慮に値するかな」
「ソフィーの世界?」
「うん。物語調に哲学史をまとめてる本なんだよね。昔ブームになったから図書館行けば借りられると思う。要は、物語の中で登場人物が、自分達は物語の登場人物だと気づいて現実の世界に抜け出す。その事で物語の世界と現実の境界が曖昧になった不思議な感覚のラストなんだけどね」
「エンデの『果てしない物語』に近いのか?」
「あれはだいぶファンタジックだけど、確かに近いね。ただ、エンデの方は世界をつなげてしまう本の作者そのものには言及がなかったはず。だけど、ゴルデルの方は作中物語の登場人物達が作者だと思ってる人間もストーリーの中に出てきて巻き込まれていくし、作者の状況を把握してるんだよね。だから読後の印象がかなり違う」
「エンデはともかくゴルデルのは読んだ事がないからなぁ」
「僕も読んでないや。探してみようかな」
「確か学園の図書館にも所蔵されてたはずだから一度読んでみても面白いかもね。――まぁ、ともかく、そうやってどこかで何者かが状況を把握した上で行く先を操ろうとしている可能性は否定できないって感じかな。この場合、更にいくつかの可能性が考えられるけど」
「どんな可能性なの?」
「たとえば、何者かが設定した目的を達成するために必要な知識を与えられて、予定調和の世界をなぞるためにやっている場合。方向性としては、油と水を混ぜるのに石けん水が必要だってわかった上で石けん水投入するって感じだね。二つ目は、望む結果は決まってるけどどうしたらいいかわからないから、試行錯誤の一環として行われてる場合」
「つまり、油と水を混ぜたいけど何をいれたらいいかわからなくて、いろんな物を投入して試してる、と?」
「うん。それともう一つ。加える要素を変える事でどれだけ状況が変わるか検証するためにいろんな事を試してる場合、かな。可能性が高そうなのはこの三つだと思うんだけど」
「水と油に何をいれたらどんな反応をするか確認するのが目的で、こうなって欲しいって結果は特にないっていう場合、かな?」
「そういう事かな。あのやたらめったらな完成度の乙女ゲームの存在といい、どこかで誰かが糸を引いてるとしてもおかしくない気はするけど、それを私達がこうして把握して検証する事が予定調和なのかイレギュラーなのかまではわからない。予定調和を求められていた場合、あんまり外れた事ばっかりやらかすのは危険かも知れないからね。どう解釈するかによってかなり自由度が違うからなんとも言い切れないのが怖い」
「乙女ゲーム?」
……はっ?! つい、気になっていた事を本気で検証し始めて失言やらかしたっ?! というか兄様達、最初に食いつくのがそことかちょっとどうかと思いますよ?!
「乙女ゲームって何?」
「……え、ええと……。その、よくあるでしょ? 女性向け恋愛シュミレーションゲームっていうのかな?」
「あぁ、なんか姉貴もスマホでよくやってるな。会話やら課題やらで好感度上げてキャラと親しくなるっていう、主人公視点で進む恋愛小説をゲームにしたみたいなやつ」
「うん、そういうやつ」
早苗姉様すてき! おかげで説明がとっても楽だったかも。
「……普通に何人とも同時進行で恋愛してるとかどうかと思うけどな」
「いやいやいや、ちゃんと一人だけ相手決めてストーリー楽しむのもたくさんあるからね?」
「というか、君もそういうのよくやってるって事だよね? ちょっと驚きかも」
「そんな生ぬるい目で見ないで?! ああいうのってやってないと友達との会話に困るんだからっ! スマホのせいで初等部ではやって大変だったんだからさ……」
お子様向けのむずがゆい乙女ゲームとか、本当どんな拷問ですか……。そう思ったんだけど、一人だけやらないのも問題だし、すごく微妙な気分でやってたんだよね。実はクラスが離れてやらなくてすむようになったのにかなりほっとした。
「いや、それはわかってるよ。彩香、居間でスマホいじりながら眉間にしわよってたもんね。僕が言いたかったのは、資料を読んで想像できる高浜綾の行動から、そういう事に興味持ったのが不思議だったって意味ね」
「あぁ、そういう事? あれは単にジャケット買いしたんだよね。パッケージのイラストに妙に桂吾そっくりなのがいて目をひ、いた……っ」
やっば、こんな情報もらしたら桂吾に何言われるかっ?! 慌てて口を押さえたけど、雅浩兄様はそれはもういい笑顔……。
「なんだかものすごく興味をひかれるね?」
「いや、ほら、あれですよ?! ああいうのは男の人がやっても面白くないからね?!」
「でも興味あるなぁ。この状況にも関わってるんだよね? 参考までにやってみるのも悪くないと思うんだけど」
正論だね、ものすごく正論ですね! でもあれをやるのはどうかと思うよっ。だって、もはや完璧敵認定の藤野さんとべた甘恋愛してる自分が出てくるんだから、悶絶ものだと思います! というか、桂吾にこの話題が届いたら、それはもう楽しそうにディスクのコピー持ってくるのが目に見えるからっ!
あの逆ハーレム脱線裏ルートとか、雅浩兄様がやった後に顔あわせるのめちゃくちゃ気まずいって! 私とか桂吾は同姓同名そっくりでも笑い飛ばせるけど、兄様達はそこまでさばけてなさそうだもんねっ。
「駄目駄目駄目っ! 本当やめて! 雅浩兄様があれやるとか隠してた痛がゆい中二病全開のポエム見つかるくらいの痛さだから本当やめてむしろ一緒にお風呂とかの方がまだ恥ずかしくないからね?!」
「……とんでもない事言わないのっ!」
つい口走った言葉を雅浩兄様が真っ赤になって否定した。
「わかった、もう言わないからそういうとんでもない事言い出さないで」
「本当にやらない? 知らないところで桂吾に聞いたりしない?」
「……約束しなかったら君、何する気なの?」
「裸見られるくらいなら許容範囲です! なんなら今すぐ脱いで裸で抱きつくよっ?!」
「何馬鹿言ってるのっ!!」
思いっきり頭こづかれました。なんでっ?!
「だいたいどういう条件なの。僕をどう思ってるわけ?」
「同じくらい恥ずかしくて嫌な事でわかりやすいたとえだと思っただけだもんっ」
「男相手にそういうのはしゃれにならないから言っちゃ駄目。……次そんな事言い出したら本気にするからね?」
「ちゃんと約束してくれたら二度と言わないもん」
「わかった、約束する。そのゲームに関しては彩香にも瀬戸谷先生にも聞かないし、手に入る事があっても、彩香の許可なしにやったりしない。――これでいい?」
「うん、ありがとう。――変な事言い出してごめんなさい」
まだ赤い顔で、それでもちゃんと約束してくれた雅浩兄様に、いくら何でも酷い条件だった自覚があるんで謝ったら、もういいよ、と頭をなでてくれた。
「彩香にも触れられたくない事はあるだろうからね。――ところで、この約束、克人にもしてもらわなくていいの?」
「あっ!」
「わかってる。念押ししなくても、やらないし内容調べたりしないよ」
笑いをかみ殺しながらの言葉だけど、克人兄様も約束したら絶対守ってくれるもんね。これで安心。
「――で、安心したところ悪いんだけど、これ、どうする?」
言われてさしだされたのは――っ?!
「ぎゃあっ?! 父様なんて奇襲ですかちょっと待ってあり得ないなんなんですか入手済みとかまじ勘弁あり得ない今更やらなくても内容は暗唱できるほど記憶してますから大丈夫です本当もうやめてというか開封済みとかやったんですかやったんですね父様まじですか本当もうやめてわかっててここに養女に出しましたかどんな強心臓ですかっ?!」
思わず頭抱えて叫んだ私は悪くないと思いますっ!
「うん、ごめん、悪かった。見なかった事にしようね。後で他の書類とかと一緒に彩香の部屋に持っていくから、気の済むように処分して」
私の過剰反応に驚いたのか、雅浩兄様が慌てた様子で手にしたディスクケースをひっこめる。
「……一体どんな内容なんだ?」
「聞かないって約束だよっ?!」
「そうなんだけど、そこまで過剰反応されるとなぁ」
過剰反応したくもなるよ。とんだ地雷が出てきたもんだ……。
「まぁ、何年かたっても興味が薄れなかったらその時に、ね?」
あいまいに答えると、何か察したのか克人兄様が苦笑いになった。
「わかった。じゃあ、彩香が大学行く頃になってても覚えてたら教えてもらうかな」
うわ、これは絶対気づかれてる……。
「ところで、瀬戸谷先生が言ってた解離性同一症? だったか? それについてはどういう事なのか聞いていいのか?」
思案しいしいの言葉にちょっと考える。どう説明したらわかりやすいのか、難しいんだよね。でも、せっかく話題変えてくれたんだからありがたくのっておこう。
「うぅん……。まぁ、一般にわかりやすいのは多重人格って言葉の方かな。私が勉強してた頃は違う名称だったけど、それは関係ないからおくとして」
「多重人格?」
「うん。たとえば、事故にあった人がその時の事をまったく覚えてないとか、そういう話聞いた事ない? あとは、怪我した瞬間の記憶だけ抜けてる、とか」
「……そういえば、親父が昔交通事故にあったらしいけど、事故の瞬間から病院で我に返るまでの間の記憶がないとか言ってたなぁ」
「そういうのだね。人間って、過度のストレスがかかると防衛本能だかなんだか、ストレスの元になる記憶を切り離して自分を守ろうとする事があるの。忘れたり、自分の身に起こった事じゃないって否定したり、現れ方は色々だけど。そういう症状のうち、切り離した記憶とか感情が別の人格として表に現れるのが、解離性同一症」
できるだけ簡単にまとめて説明すると、兄様達がなんだか考え込んでしまう。
「わかりにくかった?」
「いや、説明自体はわかった。……ただ、それはつまり、それだけ辛い事があった、って意味だよな? 聞いていいもんか悩んでた」
「話してもらっていいのか悪いのか、ちょっと僕達には判断がつかないかなって思ってただけ」
そろって同じような理由を口にして私を心配してくれている兄様達の優しさが嬉しくて、つい笑みが浮かぶ。本当、兄様達は優しいなぁ。
「そこまで深刻な話じゃないよ? 桂吾も言ってたけど、現象として近いだけで本当に解離性同一症なわけじゃないと思うし」
「そうなの?」
きっぱり否定すると、雅浩兄様が目をまたたいたんで、うなずく。
「桂吾に言われてから考えてたんだけど、少なくとも昔は――高浜綾にはそんな兆候はなかったから。確かに篠井彩香には幼児期にかなりのストレスがかかったけど、記憶をさらった感じ、記憶の解離はないみたいだし」
「記憶をさらったっていつの間に?」
「だから桂吾に言われてた後ずっと?」
「だって、ずっと僕達と話してたよね?」
「話しながらでもそのくらいできるよね?」
何がそんなに不思議なんだろう、と思いつつ聞き返したら、雅浩兄様がかたまっちゃった。……あれ?
「兄様達との会話に彩香の通常出力分をまわして、残りの部分で記憶を検索しただけだよ?」
「……ごめん、ちょっと意味がわからないかも」
「だなぁ」
二人そろって首をかしげなくても……。
「ええと……。桂吾のところで、普段は綾が同じ年だった時の四割減で固定してるって言ったでしょ? なんか回転数自体を落とすの面倒になっちゃったから、ひとまず裏作業にふり分けて相対的に出力下げてたの」
「つまり、パソコンがバックグラウンドでスキャンしつつ作業してる、みたいな感じか?」
「うん。なんかそれで別に問題なさそうだったから」
「……本当、規格外だねぇ」
あきれてるのか感心してるのか、どっちともつかない雅浩兄様の言葉に小さく肩をすくめる。規格外、というのはもう言われ慣れちゃってるもんね。
「今更かもしれないけど、こうやって昔の事を話すのは辛くないのか?」
「地雷話題に触れない限りは別になんともないよ。良くも悪くももう過去の事だって割りきるしかないし、こうやって色々話す事自体がカウンセリングになってるから丁度いいっていうのもあるしね」
「そういうのものなのか?」
「まぁ、やり方は色々あるけど、私の場合は自分できちんと話すのがよさそうかな。話す事で客観化できるし、知られて嫌われたら嫌だとかぐるぐる考えちゃうのも、話して兄様達の反応見ちゃえば解決するもん」
さらりと答えたら、なんだか中途半端な沈黙が。
「そんなに心配しなくても、専門分野じゃなかったとはいえ一応心理学で博士号とってるんだから信用して?」
「うん? 博士号は院卒業以上じゃなかったか?」
「どうだったかなぁ? 私は大学時代に書いた論文が海外の雑誌でかなり評価されて、そっちで要件満たして学位もらったから」
海外で院の卒業試験相当の試験――あの時はペーパーテストと面接と論文だった――に合格して学位をとったから、日本でどうなのかは覚えてないんだよね。
「つまり、英語で専門的な応答ができるくらいの語学力はあるんだ? 英会話のレッスンとか、退屈じゃない?」
「ん? 別にそんな事ないよ? 普段は思い出さないようにしてるから、彩香の知識の範囲のことしかわからないし」
「……身につけた知識ってそうやって出し入れできるものだっけ?」
「これは使わないって決めてふたしちゃえば思い出さないよね?」
「……え?」
「……え?」
なんか会話がかみ合ってない気がするんだけど、なんで?
「ひとまず彩香がだいぶ変わった方法でものを考えてるのはわかった、って感じだな」
苦笑いの克人兄様がフォローになってるんだかなってないんだか微妙な事を言う。
「まぁ、桂吾にも散々、人間じゃなくてパソコンの処理方法に近いとは言われたけどねぇ」
「なるほど。それで回転数とか並列処理とか、パソコン用語っぽい表現なのか」
「うん。桂吾にはそっち方面に例えた方がわかりやすいみたいだったから」
綾がこういう話をするのは桂吾しかいなかったから、基本が桂吾がわかりやすい表現、なんだよね。
「本当、瀬戸谷先生と仲が良かったんだねぇ」
「まわりからは、変人同士気があったらしい、とか言われたけどね」
雅浩兄様の言葉に苦笑いで答えたらそろってふき出す兄様達。酷くない?
「瀬戸谷先生もかなり癖のある人だから言われてもしかたがないだろうな」
「桂吾はわざとまわりひっかき回して遊んでるところがあるからね。でも、根っ子はまっすぐでかわいいよ?」
「かわいいっ?!」
え? なにそんなに驚くところ? 見事なユニゾンで思いっきり聞き返さなくてもいいと思うんだけど。
「一途でこうと決めたら一直線でかわいいよね?」
「……うぅん。顔をあわせるたびに爆弾投げつけてくるような人をかわいいとは思わないかなぁ」
「俺も笑顔で地雷原に誘うような人をかわいいとは言えないな」
「ぶふっ」
二人のコメントについふき出しちゃった。なんかすごく的確な表現で笑っちゃうよ。
「二人とも爆発物扱いなのが興味深いところだね」
とことん危険人物扱いなんだなぁ、と思いつつ笑いをかみ殺す。
「まぁ、話がそれちゃったから戻すね。たぶん、私の態度とか口調は回転数上げた時、今の口調を意識してないと昔の――その速度で思考まわしてた時の標準仕様がでるってだけの話だと思うんだよね」
「本当に?」
「うぅん……。でも、違うとしても今表面化してる人格である私が齟齬なく一連の記憶を持ってるって事は、私が管理人格なのはほぼ確定だから、そう問題にならないと思う。たぶん、綾の事を話して、彩香の意識の中に綾の記憶をうまく連動させていけるようになればひきずられて挙動不審になる事もなくなると思うし」
「……つまり?」
「今までは、綾の記憶は必要最小限以外、極力抑え込んでたの。その方が変な夢見たりする事も減るしね。だから、なんて言うのかな……。ハードディスクを内部的にパーテーションわけしてるみたいな感じで、外見は一人でも彩香と綾がほぼ独立して存在してる、みたいな? 一回データを同期させれば問題なくなりそうかなって思ったんだけど」
「とことんパソコン感覚だな……」
「でもわかりやすいでしょ?」
「まぁそうなんだけどな。そのうち、何かあってもリカバリすれば大丈夫、とか言い出しそうで怖いぞ」
「うぅん……。やろうと思えば初期化はできそうだけど。やってみる?」
「やるなっ!」
「やっちゃ駄目っ!」
冗談のつもりだったのに、ものすごい勢いで駄目だしされた……。
「……やらないよ?」
「本当?」
なんでそこで思いっきり疑わしげなんですか。
「だって、やったら本当になんにも思い出せなくなりそうだから嫌だし」
「うぅん……」
あれ? 納得してもらえない?
「桂吾にいいおもちゃにされそうだからやらないもん」
「なるほど。それもそうだな」
「ちょっ、この理由で納得してくれるの?!」
なんか色々複雑だよ……。兄様達、私と桂吾の事、どう思ってるのか問い詰めてもいいですか?
「ま、まぁ、話を戻そう? 彩香自身は現状にそれ程危険を感じてないんだね?」
ちょっと視線を泳がせながら話題を戻す雅浩兄様。……まぁいいけどね。確かにそっちの方が重要だし。
「ひとまずさしせまった危険はない、と思う。でも、自己判断は危険だし念のためしばらく桂吾のところに通っておくね。桂吾も問題ないって判断したらカウンセリングは終了でいい?」
「そうだね。事情を知ってる瀬戸谷先生にお願いするのが一番だろうし、僕はそれがいいと思うよ」
「彩香の判断を疑うわけじゃないけど、俺もそうしてくれると安心だな」
「じゃあそういう事で、この話題は一旦終了、と。ひとまず急ぎで片付けた方がいい話題はこのくらい?」
「だね」
「彩香、お前お腹空いたんだろ?」
話をまとめにかかったら克人兄様がちょっと意地悪な笑みを浮かべてつっこんでくる。……なんでばれたの?
「いい加減夕飯の時間だし、今日は泣いたり興奮したり忙しかったからな。そろそろ充電が切れる頃だろ」
「……克人兄様、実はエスパー?」
「いや、単なる観察結果だな。彩香はお腹空いてくると小刻みに話たたみたがるし、頭使うとやたらお腹空いたって騒ぐから」
おかしそうに笑われて反論のしようが……。でもまぁ、ばれてるならばれてるでいいか。
「お腹空いたからなんか食べに行こ?」
「そろそろ夕飯の時間だし丁度いいかもね。下行こうか」
兄様達にならって立ち上がってから、ふと克人兄様を見上げる。
「克人兄様、今日は一緒に夕飯食べられる?」
「ああ。今日はこっちに泊まらせてもらう事になってるからな」
「お泊り久しぶりだね。後で、前の続き一緒に見よ?」
「あぁ、そういえばドラマのDVD途中だったな。三人で見るか」
「それなら夜食の用意を頼んだ方がいいね。あれ、見始めるとなかなかやめられないし」
すっかり普段通りに戻った話をしながら部屋を出る。
うん、平和な日常が一番だよね。
お読みいただきありがとうございます♪
参考文献
はてしない物語 上・下(岩波少年文庫 )
ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙(NHK出版)
wikipedia