ウェブサーの謎
誰もいない教室で富海を待っていると、五分もすると彼女は息を切らして走ってきた。
「ごめん、待った?」
「デートじゃないんだから・・・で、話って何?」
「ああ、えっとね。ウェブサーのことなんだけど」
何となく、予想はついていた。目を輝かせている富海のことだから、今一番ハマっているものの話だ。昔と何も変わっていない。
「それでね、あのダンジョンの隅の方に隠し通路があってね・・・聞いてる?」
「聞いてるけど、忘れそう」
「その時はチャット送ってね。じゃ、私部活行くね。また夜にチャット送るから」
そう言って、彼女は駆け足で教室を出て行った。
「僕も、部活行こう」
体操服が入ったナップサックとカバンを持って体育館へ向かった。
僕は男子バレーボール部に所属している。
上手いか下手かで言うなら、ものすごく下手だ。
練習しても上手くならないので、レギュラー入りやスタートメンバーも諦めている。
部活仲間とくだらない会話をしながらネットを立てていると、富海も隣のコートでウォーミングアップをしていた。
富海は女子バレーボール部だ。彼女がバレーボールをすると言うので、僕も入部したと言っても過言ではない。
今日も上手く出来ないまま、先輩に罵られたり、慰められたりして、無事に部活は終わった。早く帰ってウェブサーをしたいと言う気持ちが強い。
家に着くなり、僕はウェブサーを開き、チャットをチェックする。メッセージはお知らせなどだけだった。富海からは何も来ていない。
そう思った直後、トノミンと言う人物からチャットが飛んできた。名前を見て分かる通り、田布施 富海からだ。
『家着いた? 私は今家に着いたよ』
内容を読んで、恋人と思われるのも無理はないと、ふと思う。
しかし、彼女はガチガチなゲーマーなのだ。僕など足元に及ばない。
すぐに放課後教えてくれたダンジョンマップが送られてきて、ご丁寧にもそこまでの行き方や敵情報、さらにはアイテムまで添付してきた。
すぐに、マップに示された場所へと向かった。
トノミンナビのおかげで運営からゲーム内で使えるお金を、報酬として貰えた。
しかし、こんなことばかりしていて何も楽しくない。
お金は所詮ゲーム内でしか使えない。現実からは注ぎ込めても、ゲーム世界から現実に出すことは出来ない。
もっと、刺激が欲しい。楽しいことをしたい。
そうは思っても、僕には何もできない。ただの中学生だ。
勉強も特別出来るわけでもなく、運動も得意なわけじゃない。
一般的な、どこにでもいる、ただの平凡な中学生。
そんな中学生が、何者かが作ったゲーム内で未成年同士ワイワイ楽しんでいる。
ん? ということは、僕、名来 玲千がいるこの世界も、誰かが作った世界なのか?
富海にこの考えを、送ってみよう。
『なあ、ウェブサーって、誰が作ったか分からないんだよな?』
『そうだね。知られていないけど、楽しいし良いんじゃないの』
『俺が言いたいのはそう言うことじゃなくて、今俺たちが住んでいる世界も誰が作ったか分からないじゃん? それって、ウェブサーと似てるなと思ってさ』
『ナラレさ、そう言うの何て言うか知ってる? 中二病って言うんだよ? 見ていて気持ち悪くてゾクゾクするし、十年後には今の発言後悔するよ』
何を言っているのかよく分からないが、僕は、ウェブサーの世界観に興味を持ち始めた。
つづく
五月に書いた話ですが、三ヶ月近く放置してたのであらかじめ考えていた話と違う話になりそうです。クオリティが下がるかもしれないですが、よろしければ読んでいただければ幸いです。
次の投稿も未定です。