表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルセニウス学園の転校生!  作者: ぼんべい
5/23

第五話「キッチンは戦場だ!唸れ包丁、吠えろじゃがいも!白熱、カレー対決!」

 誠「・・・ミクオ、すまない、僕のせいで・・」

 ミクオ「言うな、誠。大丈夫、まだ勝機はある。」

 膝を付きうなだれる誠からミクオは手を離すと毅然と立ち上がる。熱風が渦巻き二人を取り巻く。向こうでは女が勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべながら二人を見下ろす。いや、見下している。その右手に握られている刃が、きらり、と光った。

 女「フフフ。どうやら、勝負はあったみたいね。」

 誠「・・、っく、このままじゃ、ミクオ、お前は・・・」

 ミクオは腕を一つ振り払った。まるで女の宣告と誠の弱音を振り払うかのように。そして言い張る、

 ミクオ「まだだ!まだ終わらない!勝負はこれからだ!」

 誠「ミクオ!」

 女「・・いいわ。かかってきなさい。」

 まるで王者が下っ端の噛み付きに腰を上げたかのように、悠然と女は答えた。

 燃え盛る炎がゆらりと揺れる。風がミクオの服をはためかせる。そしてミクオと女の視線が激突する。


 今ここに最後の決戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。


 ・ ・ ・


 二つの鍋の中でコトコトと小気味よい音を立ててカレーの材料が煮込まれている。ここは家庭科室、そして今は調理実習。私達は班別けされてそれぞれ課題のカレーを作っている、のだけれど。

 皆の班はもちろん一つの鍋でカレーを作っているけれど、私達だけなぜか鍋二つ、そして男女分かれてそれぞれ別々のカレーを作っている。(もちろん、私は男性側だからね!)

 今は煮込みの時間、コンロが弱火を出していて近くの換気扇が勢いよく回っている。その鍋を挟んで私達男組と向こうの女組とで睨み合っているわけ、だけど。

 なんでこうなったかって言うと・・・


 ・ ・ ・


 「はぁ?俺が杏奈と付き合う?」

 はーい、時間をちょっと巻き戻すね♪今はちょうど調理実習が始まる時間、男子も女子も皆でエプロンしめて、似合わねーだの可愛いだのときゃっきゃしてる最中。

 私と同じ班になった女子の一人、桐条きりじょう 杏奈あんなが大鍋を二つどん、どん、と並べると、突如、びし!っと私を指差してこう一言。

 「いいこと、ミクオ。今から私達女子とあなたたち男子とに別れてカレー対決よ。そして、私が勝ったらミクオ、あなたは私と付き合いなさい。」

 えーっと、どこから説明っていうかつっこみっていうか、とにかくまず班の説明からするね(汗

 男三人、女三人、男は私と誠とモブ一人(登場人物は一話に一人、なんだからね!)、女はこの桐条杏奈にその取り巻き二人。

 この桐条、言動とか取り巻きとか見てわかるとーり、お嬢様。そう、鏡花とキャラ被ってるお嬢様。(そういえば最近鏡花出番ないなぁ。ま、いっか。鏡花とはこの後すんごいきわどーい展開待ってるし♪)

 鏡花が天然系お嬢様、某学園軽音部日常アニメのあの人だとすれば、この桐条は某神さまだけが知ってるお話の最初の方に出てきた金髪ツインテのあの人。(わっかるかなぁ、わっかんないよねぇ、ぐぐってね♪)

 台詞と共にびしっ、っと決めちゃって、取り巻き二人もぱちぱちと紙吹雪なんか飛ばしちゃってるけど、杏奈ちゃん、顔真っ赤で、もちっとで噛みそうになってたからね。

 ・・・っていうか、付き合おうとしてる相手、女だからね。

 ・・・っていうか、ロクに話もしてないのに交際希望とか、何考えてるの?

 「えっと、俺は付き合う気ゼロなんだけど。・・勝っても負けても。」

 「何て事言うの!」取り巻きの内一人がしゃしゃり出てご主人様の恥ずかしい胸の内を代弁するとか、どこまでちょーきょうされてんのよ、あなたたち。「杏奈様は、一目あなたを見た時から心奪われ魂奪われ、食事もロクに喉を通らず、最新型ギャラクシぃで盗み撮りしたあなたの笑顔をそれはもういとおしそうにいとぉーしそうに眺めては、ふぅ、と、ため息を漏らしている日々なのよ!」

 杏奈は腕を上げてお喋りな取り巻きにお決まりの一発。私は背筋に寒気と杏奈の気持ちに気圧されて頬に冷や汗一筋。

 「あんたはぐだぐだ喋らなくていいのよ。いい、とにかく、ミクオ。何が何でもこの条件は飲んでもらうわ。」

 ヤバ、隠し撮り突っ込むタイミングが無い(汗

 「いいじゃないか。なぁ、ミクオ?なんてことは無いよ、勝てばいいんだ。」

 意外にも誠が乗ってきたーー!!こいつ、意外とミーハーなんか?

 「お、おう。」

 なんかモブもやるぜ!見たいな感じで私を見てるしwま、いっか。たかがカレー勝負、負けるこた無いでしょう。

 「・・わかった。そのかわり、もし俺たちが勝ったら、二度と俺と付き合おうなんて思うなよ。」

 「ええ、もちろん、いいわよ。」

 あっさりと私の申し出を受ける杏奈。でも、その後に彼女は不敵に笑いながらこう付け足した。

 「だって、私が負けるなんて万に一つも無いんですから。」


 ・ ・ ・


 そしてカレー勝負は始まった!

 んだけど・・・

 「見なさい!秘技、お野菜賽の目、煮物に最適切り!」

 す、すごい!

 杏奈が放り上げたじゃがいも、にんじん、それらが手早く賽の目に切られていく!

 しかも面取り(味が均等に染み込むようにでこぼこしてるのを削って丸くする事ね♪)を的確に施している!あれは煮込みの具材として最もおいしいと言われる形・・・

 ごくり。

 「・・・、お、思ったよりやるじゃないか、あいつ。」

 うまそうな下処理に溢れてきたのか、よだれを袖で拭いながら誠が賞賛を口にする。

 「そして!これが桐条流豚バラ肉余分な脂除去!」

 手早く脂を切り除く。その包丁裁きは一切の無駄が無い。

 でも。

 私はその桐条流豚バラ肉余分な脂除去を見て思った。

 「・・、桐条、てめーの負けだ。」

 「なによ?」

 「いいか、桐条、自分が脂を除去したバラ肉をよく見てみろ。それではカレーの具材としては脂が残り過ぎている!桐条、てめーは早さ、美しさを追求する余り仕上がりにぶれが出たんだ!」

 「・・・ふふふ。」

 しかし、杏奈は私の指摘を受けてなお、笑みを浮かべた。そして答える変わりに火にかけていたヤカンを持ち上げると、おもむろに豚バラ肉にその中のお湯をかけだしたではないか!

 「何!湯引き、だと!?しまった、湯引きは余分な脂を流し、しかも肉の表面に程よく熱を加える事で煮込みによるスープへの肉汁の放出を防ぎ、かつ、焼いた時のように固くなりすぎず具材に出来る高等技術!そこまで計算しての脂の除去だったのか!」

 「さて、ミクオ、あなたにこの私より優れている技術がございまして?」

 一方、男性組はモブがフツーの男子高生らしくフツーに肉を焼いてフツーに野菜を炒めて、そして水を入れて煮込み出す。

 ・・・このままでは、負ける!?

 と、私が思った時。

 「い、イテ、イテテテテ、」

 突然腹を抱えて誠が座り込んだ。

 「どうした、誠!?」

 この状況でさらに誠が戦線離脱するの?一体、何が起こったの?焦る私は駆け寄ると誠に手を置く。

 「い、イテテテ、持病の腸捻転が・・・、ミクオ、すまない、こんな時に・・!」

 え・・・


 こ、こいつ!?勝ち目無いってわかって仮病使いやがったーーーー!!!!


 ・ ・ ・


 そして冒頭へ。

 考えるの、考えるのよ、私。

 「言うな、誠。大丈夫、まだ勝機はある。」

 って言っても、向こうは下処理完璧な具材達、一方こっちはモブ煮込み・・どうすれば、どうすれば・・

 「まだだ!まだ終わらない!勝負はこれからだ!」

 きまった!

 じゃない、もう、腕なんか振り払っちゃって、何やってんのよ、わたし!

 って言っても、もう煮込みに入っちゃってる、後はルーを入れるだけ・・・


 ん?ルー?


 「あの、ミクオ君?」

 モブがおずおずと声をかけてくる。杏奈達はもう勝利モードで自分たちの鍋に夢中だ。

 「ルーが半分しか無いんだけど、どうしたらいい?」

 昨日の私と誠の買出しで買って来たのは一班分の材料だけ、でも杏奈が勝負よ!なんて言い出して並べた鍋はそれぞれ一班分の鍋・・・

 「ちょっとちょっと。」

 私はこそこそとモブ君に耳打ちすると、続けてこそこそと鍋に隠れて材料合わせ。


 そして時は来た。

 二つのカレーは出来上がった。

 そしてその二つのカレーは天秤にかけられる。

 私の童貞をかけて。


 ・ ・ ・


 ちゃりん、りん、りん。杏奈の落としたスプーンが床で勢い良く跳ね上がる音が響く。

 「ま、負けたわ・・・」

 がくり。

 膝を付きくずれ落ちた杏奈の敗北宣言がそれに続く。

 一口食べて、勝負は明らかだった。下処理に全力を出し勝利を確信した杏奈達が疑う事無くその半分しかないルーで作ったカレーは、ただのカレー風味の謎いスープだった。これならルーを入れなかった方がおいしいスープになった事だろう。

 それに対して私はケチャップとウスターソースで即席に味を足している。どちらがカレーとしておいしいかは歴然だった。

 ほっ。

 とりあえず胸を撫で下ろす私。

 あ、でも、どんな言いがかり付けてくるかわかんないわよね、試合じゃ勝ったけど、勝負には負けてるわけだし。

 「ミクオ。」

 「お、おう、なんだ。」

 立ち上がった杏奈がしゃべり出す。身構えておこう、どんな言いがかりが来ても負けちゃだめよ、私!

 「・・・負けを認めるわ。」

 あ、あれ?

 「もう、あなたを追いかけない。これでいいんでしょう?」

 「え、あ、ああ。もちろんだ。」

 それだけ言うと杏奈は席に戻り、カレーを食べ始めた。取り巻き二人も不安そうにちらちらと杏奈を見たりするけれど、それに倣う。

 「・・・こっちの、食うか?」

 「ありがとう、頂くわ。」

 「じゃ、そっちのもくれよ。」

 「よろしくて?こんな不味いものでも。」

 「そっかぁ?」

 皿を交換し、私は一口、杏奈のカレーを食べる。

 「味はわるくねーと思うけどな、俺。カレーかどうかはともかく。」

 それを聞いて、杏奈はにっこりと微笑んだ。

 他の四人も私達にあわせるように皿を交換してカレーをわけあった。

 

 私にはまったく意味が分からなかった。

 こんなに好きをぶつける事の意味も、好きの為に努力する事の意味も、こんなにあっさりと引き下がれる事の意味も。

 だから、私は自分が杏奈と同じ「女の子」なのかどうか、少しわからなくなってしまった。

 カレーを食べる為にスプーンを握っている杏奈の指に何枚も巻かれている絆創膏に気づいた時に、私はそう思った。


 次話、「こいばな!~鏡花編~」に続く!


もっとバトルっぽくしたかったけど挫折。もちっと他の方の小説読んで勉強しようとおもいまふ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ