弱いけど怖い敵(♂2~4 ♀1~3 計5 被り3)
※ここにある台本は一応残してはいるものの修正とかをしていません。
↓に加筆修正などの調整を加えた台本を置いており、続きもそちらで展開していきます。
http://cobaltvd.web.fc2.com/scriptlist.html
双極シリーズ以外の単発台本などもございますのでお使いいただけると嬉しく思います。
って、この台本は現在修正作業中でした……。
(2013/04/13)
「弱いけど怖い敵──声劇・双極魔術シリーズ第一話」←これタイトルです^^;
調整したけどまだナレ無双気味。
これ以上、削れそうにないしなあ……。
できるだけルビ振ってますが、「読めないよ!」ってのあったら感想にでも書いてください。
(ルビはIEとChromeなら表示されます。火狐は駄目でした)
ちなみに、独擅場は「どくせんじょう」であってます。
独壇場の方が元々は間違いだったらしいです。
今では逆転してますが。
(納得できない方はどうぞググってくださいな^^;)
面白いと思ってくれたら本編を読んで、「ここを台本にして!」とかも感想で受け付けますんで。
本編はこちら。
http://ncode.syosetu.com/n2750w/
(とは言っても、台本にしにくいんですけどね……)
それ以外でも、ファンタジー系でリクエストあれば時間のあるときに作るかもです。
双極~の外伝的エピソードでもいいですし。
ただし、恋愛ものと推理ものは勘弁してください。
※各種ご連絡は上のメニューの感想欄をお使いください。
「弱いけど怖い敵」──声劇・双極魔術シリーズ第一話
登場人物
ルーシャ……♀15歳。業師(盗賊に近い)にして奇術師。
可愛く振る舞おうとするけど気が強い。
マイク……♂♀20歳。山賊の毒使い。弱いけれど厄介な敵。童顔だけど成人男性。
ヴァン……♂17歳。主人公の(はずの)魔術師。ひねたお人好し。台詞少ない。
ノーム……♂?歳。地の精霊。お爺さんの姿。陽気な性格。台詞少ない。
ナレ……♂♀。アクションシーンは誤読してもテンポよくがいいかも。台詞多いです。
(被り推奨)
山賊A……♂28歳。モブ。
山賊B……♂25歳。モブ。
山賊H……♂36歳。モブだけど変態。
・セリフ量の目安
ナレ>ルーシャとマイク>>>ヴァン>ノーム
・配役表
ルーシャ………♀:
マイク………♂♀:
ヴァン…………♂:
ノーム…………♂:
ナレ…………♂♀:
(被り推奨、ヴァンとノームとマイク)
山賊A…………♂:
山賊B…………♂:
山賊H…………♂:
『弱いけど怖い敵』(「双極魔術の迷い人」より)
http://ncode.syosetu.com/n9941w/1/
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<荒野から山賊のアジトまで>
ナレ:魔法の地図を頼りに荒れた山道をルーシャは歩いていた。
遠目にも分かる大人数の足跡。昨日のものだ。
ルーシャ:ちょっと早めに起きちゃって、
寝直したら次に起きたの正午だいぶ過ぎで、
道中で食べようとサンドイッチをキッチンに頼んだら
やたら時間かかって、商売道具を買うつもりで
ホッグを探した頃にはもういなくて、
はあ……街に帰る頃には夕方になりそう……
最悪、城壁登って街に入る必要あるかも……。
ナレ:ほどなく足を止める。前方に岩がある。
その岩の左右から回り込めば洞窟の入口だ。
やっと着いた。
ルーシャM:軽く済ませて早く帰ろう。
ナレ:楽勝だとルーシャはたかをくくっていた。
この時点ではまだ。
<アジト>
ルーシャ:こんにちは。素敵なお宅ですね!
ナレ:明るい口調であいさつしたルーシャを
剣呑な視線で応えた男たちが遠巻きに取り囲んだ。
山賊A:おい、この女を誰か知ってるか?
山賊B:こんな上玉、頭かレンダルのどっちかしかいねえだろ。
ルーシャ:おあいにくさま。どっちも会ったことあるけど、
ほとんど会話すらしてないし。
山賊A:……頭に会った? 今何してるか知ってるか?
ルーシャ:教えてあげてもいいけど条件があるの。
山賊B:あん? 条件?
ルーシャ:もう少し質問をちょうだい。まとめて答えるから。
山賊B:ふざけてんのか?
ルーシャ:だって~、街からここまで退屈だったんだもん。
山賊A:じゃあ質問だ。お前誰だ? 何しにきた?
ここをどうやって知った? 誰のさしがねだ?
山賊H:オレも聞きたい。何カップ?
ルーシャ:くっ……あんた、楽には死ねないからね。
山賊H:だぁはは! どーー見たってBないもんなあ!
そりゃぶち切れるよなあ!
ぎゃはは、マニア向けの姉ちゃん! あんた最高だぜ!
ルーシャ:……最初に刺して、最後に殺す……。
山賊A:おーい、そのアホはいいからオレの質問に
答えてくれよ。
ルーシャ:逆順で答えてあげる。ヴァンのさしがね……
知らないだろうけど。
ここは魔法の地図で知ったの。
あたしが来たのはあんたたち始末するため。
あんたたちのリーダーは死体置き場。
そしてあたしは……ルーシャリエ、命を盗む風よ!
山賊B:捕らえるぞ! 頭がどうなったのか、
他の奴らのことも、きっちり聞き出してから殺す!
ルーシャ:捕らえるのは無理~聞き出すのも無理~
殺すのはもっと無理~♪
ナレ:山賊たちは腰に二本ずつ差していた長剣のうち片方を
落とし、残った一本を引き抜いた。
ルーシャM:なんか……やな感じ……こういうときは先手必勝!
ナレ:ルーシャが消えた。
山賊H:いぎゃぁぁぁ!!!
ナレ:絶叫の中、別の三人の首から血液がふき出して倒れた。
次に現れたのは洞窟の天井を支える柱のかなり高い
場所だった。
誰も気づかぬうちに投げナイフを二本、
別々の男たちの足を狙って投げてから、
一番近い小柄な男の近くに飛び降り
ナイフを背後から首元に突きつけた。
ルーシャ:あれ? あんた小さいわね?
マイク:うわぁぁぁぁ!!!
ナレ:それは少年と言ってもいい若者だった。
その肩をルーシャは左手でつかみ、膝裏を蹴って自分は
体ごと後ろに下がると、なすすべもなくあおむけに倒れた。
マイク:た、助けて! 殺さないで!!
ルーシャ:はぁ……命が助かったら、もうまじめに生きなさいよ?
ナレ:しきりに頷く若者を他の山賊たちが苦々しげに見下ろした。
山賊B:一気にかかるぞ!
ナレ:ルーシャめがけ殺到する山賊たち。
八人が同時ではなく、ひとりずつルーシャの目の前を
走り抜けるように斬りつけてきた。
典型的な波状攻撃だ。
三人目までうまく受け流したが、四人目の武器を
かわそうとして軽い怪我を負わされた。
ルーシャM:痛っ! ヴァンの嘘つき!
このどこが一対三なのよ!
ナレ:五人目にはルーシャから突っ込んで行き、
すれ違いつつその首を正確に斬りつけ致命傷を負わせ、
意表をつかれて立ち止まったひとりの心臓を一突きにする。
山賊A:ちぃっ! この作戦は駄目だ。囲むぞ!
ルーシャM:そうしてくれると助かる!
ナレ:ルーシャは少しだけ安心した。
囲まれるならヴァンの言ってた三対一の法則から
外れないはずだ。
ひとりまたひとりと確実に倒していき、
最後まで立っていた男の胸からナイフを抜いた。
ルーシャ:はぁ、はぁ、お待たせしちゃったみたいね。
約束通りあんたの番が来ました……よっ!
ナレ:最初に腹と両足を刺され、倒れてうめいていた男に
仲間の持っていた剣を振り下ろした。
山賊H:ごぼっ! ……貧乳の……くせ……に……(アドリブ推奨)
ルーシャ:はぁ、はぁ、はぁ、しんど、かった……あ、あれ?
ナレ:ルーシャはよろめいた。右足に違和感がある。
ルーシャ:あー、毒、か……効きが遅くて……助かった……。
マイク:と、思うでしょお姉さん。んくくひひひ。
ナレ:ルーシャは背後に殺気を感じて、前方に倒れて転がった。
背中に鋭い痛みが走ったが、浅い。
回転してぺたりと座り込んだ姿勢になった彼女の手は
落ちていた別の山賊の剣を拾っていて、
後ろに倒れ込みながら正確に投げたつもりだったが
狙いは逸れ、童顔山賊の肩を裂いてその背後の壁に
刺さった。堅く奥歯を噛む。
マイク:毒が回ってきたねぇ。僕の勝ちみたいだね。
へへへ……ああ、僕のことはマイクって呼んで欲しいな。
ナレ:マイクはルーシャの腹に座った。
ルーシャ:ふぐぅ! あ、ぐ……!
マイク:痛いでしょ?
僕の毒はね、動けなくはなるけど内臓とかには
影響しないし、痛みの感覚が弱まることもないんだよ。
すごいでしょ。
ねえお姉ちゃん、僕お腹すいちゃった。
お姉ちゃん美味しそうだね。女の人の肉って大好きなんだ。
薄く切って弱火で焼いて食べるの。
ルーシャ:なかなかいい趣味ね……。
ナレ:嫌な汗が流れるのを感じた。
マイクの邪悪な満面の笑みをにらみつけながら、
ルーシャは気づいた。
ルーシャM:そう……か……あたし……怖いんだ……
助けてよ……ヴァン!!
***
ナレ:しゃき……しゃき……
ルーシャリエはぼんやりした頭でその音を聞いていた。
もし下に視線を向けていたら、たいまつの光を白銀色に
反射しているたくさんのそれが心を痛めただろう。
縛られていた。木の椅子に座った状態で。
そして一房、また一房、長い銀の髪が床に落ちていく。
マイクはふと鋏を動かすのをやめた。
ルーシャの背後からささやきかける。
マイク:お姉ちゃん、僕なんだか体がむずむずしてきたよ。
そろそろ我慢できそうにないや。安心してよ。
お姉ちゃんは少ししか僕の毒が入ってないから、
首から上はちゃんと動くし、全身の感覚もちゃんと
残ってる。そのまま楽しんでね。
ルーシャ:あたしは治まってきたから安心していい。
問題を出すわ、あんたに傷つけた武器は誰のでしょう?
マイク:何それ? 時間稼ぎのふもり?
わういけろもうまてらいっへ、はへ?
ルーシャ:ふうん、量が多いとそうなるんだ。
さて、そろそろあんた、飛びなさい!
ナレ:ルーシャの両手が背後にいるマイクの頭をしっかり掴んだ。
そして持ち前のばねで足から前方に高く飛び上がると、
ひねりを加えながら全体重を利用してマイクをぶん投げた。
動きを取り戻した彼女にとって縄抜けは簡単すぎた。
マイクは三メートル近い高さまで飛んでから落ちた。
マイク:んげぶっ!
ルーシャ:ここからはあたしの独擅場。
まあ、毒だけはほめてあげる。
ナレ:頭から落ちて無様に足を投げ出しているマイク。
その右手がふところから何かを取り出した瞬間、
ルーシャは蹴飛ばした。
ルーシャ:そうよね。自分が作った毒の解毒剤ぐらい
持ってるわよね。
マイク:うう……。
ナレ:ルーシャは床に落ちている無残に切り離された
髪の房を振り返ってため息をつく。
ルーシャ:痛めつけても気が収まりそうにないし、さっさと……
痛っ!?
ナレ:ルーシャの左足のももに長い鉄串が突き刺さっていた。
マイクが彼女の足元に跪き、串をねじっている。
マイク:僕の毒が一種類だと思ったら大間違い。
これに塗ってあるのは即効性のやつでね。
お姉ちゃんの独擅場は、僕が使わせてもらうよ。
ナレ:視界がぐにゃりとゆがむのを感じた。
そのまま手さえつけずに倒れる。解毒剤の予備はない。
それに対し……マイクはずっと動きが良くなっていた。
服がはちきれそうなほどに筋肉が肥大している。
飲んだのは解毒剤だけではないようだ。
ルーシャ:解毒剤……飲んだのね……いつのまに……?
マイク:ああ、気づかないのもしょうがないよ。
だってさ、あらかじめ飲んでおいたんだもん、
遅効性の解毒剤。
絶望した? もっと顔見せてよ。
お楽しみはこれからなんだからさぁ!
ヴァン:いいや、お楽しみはもう残ってない。
ナレ:マイクは慌てて声のした方、つまり背後を振り返った。
そいつは壁を背に立っていた。
まるで背後の壁が扉です、とでも言うような形で。
マイク:どこから入ってきた? 誰だよお前?
ヴァン:お前に説明してもその頭じゃ理解できないだろ。
後の方だけ答えてやる。お前らの頭のヘインを倒した、
魔術師のヴァン・ディールだ。
ルーシャ:ヴァン……!
ナレ:マイクは親指の爪を噛んだ。
マイク:……頭を? 倒した?
……嘘。嘘だ。頭を倒せる奴なんかいない!
ヴァン:いろいろと説明できることはあるがその気にならんな。
お前相手に魔術を使う必要もない。
ルーシャ、少しだけ待ってな。
ルーシャ:あんたね!
誰のせいであたしがこんな目にあったと思ってんの?
もしかして今、自分が格好いいとか思ってる?
馬鹿じゃないの? 誰があんたの助けなんか……
ヴァン:……おや。助けいらない?
ルーシャ:……まだそこまで言ってない。
ナレ:ふとルーシャは気づく。マイクがやけにおとなしい。
それだけではなく、爪を噛んだ姿勢で完全に
固まっていた。ヴァンの魔術なのは間違いなかった。
ヴァン:ふむ……つまり、オレの助けはちょっとだけ
欲しいけど、決着は自分でつけたいってことか?
ルーシャ:……そう思いたいなら思っていい。
ヴァン:じゃあオレはこいつを渡して使い方教えて、あとは見てる。
死にそうになるまでは何もしない。いいか?
ナレ:ヴァンは爪よりも小さな宝石を取り出して見せた。
それが何なのかルーシャには分からなかったが……
ルーシャ:馬鹿……いい。それで許してあげる。
ヴァン:よし。口に入れてやるから飲みな。手も動かないようだしな。
ルーシャ:んぐ……うぇ……これ飲むような物じゃないでしょ?
ナレ:ヴァンは答えずに自力で動けぬルーシャを運び、
近くの柱にもたれかかるようにして座らせた。
ヴァン:オレの後に続いて同じ台詞を繰り返す。行くぞ。
魔術師ヴァン・ディールの名において、
ルーシャリエ・ブリーズが命ずる。
我は僕を求むものなり。ノームよこたえよ。
ルーシャ:魔術師ヴァン・ディールの名において、
ルーシャリエ・ブリーズが命ずる。
我は僕を求むものなり。ノームよこたえよ
……あ、何か来た。
ヴァン:次だ。我は命ずる、ノームよ来たれ。
ルーシャ:我は命ずる、ノームよ来たれ!
ナレ:ルーシャの声に合わせて眼前の石床に直径十五センチほどの
丸い穴が開き、もこもこと土の塊がせり上がってきて、
塊は身長三十センチほどの白い髪とヒゲのふっくらした
老爺に姿を変えた。
ノーム:お呼びにあずかり参上、参上~!
ルーシャ:……これがノーム?
ヴァン:そうだ。ルーシャの命令を何でも聞く地の精霊だ。
魔法を使わせるのがいいだろう。
おすすめは石筍の呪文だな。
ルーシャ:せきじゅんって?
ヴァン:……たけのこでも通じる、かも……。
そろそろ止めておいた奴の時間が動き出すから命令しな。
ルーシャ:分かってる。
ノーム、あいつにたけのこ……な、なに今の!?
あたし何語喋ってた!?
ヴァン:短期契約石の効果で精霊語。あまり気にするな。
ノームとの会話は勝手にその言葉になる。
ノーム:たけのこ?……筍……ああ、石筍でございますね。
では。ホホイのちょい!
ナレ:ノームの近くの地面から石の氷柱状のものが、
とがった部分を上にして瞬時に生えた。
間をおかず、十センチほどずれた場所でも同じように
石筍が突き出し、その現象がマイクにじりじり迫る。
爪を噛んだまま動きを止められていたマイクが動き出し、
石筍に気づいてあとずさりしたが、
それでは遅いと気づくとほぼ同時に足を貫かれていた。
マイク:うぎぃぃぃ!!
ナレ:しりもちをつく。
石筍はまだ止まらずにその足を次々刺していき、
尻にも突き刺さってようやく止まった。
マイク:ぐぅ、なにを……いつのまに……?
ヴァン:ルーシャ、もっとだ。
ルーシャ:ノーム、たけのこまたやって!
ノーム:はいな! あーらよっ!
ナレ:再びあの現象が発生してマイクに近づいてくる。
マイクは慌てて立ち上がり、傷口から勢い良く血が
吹き出したが気にせず、石筍をよけて、
動けないルーシャに向かって走りだした。
ヴァン:今度は沼一歩だ。
ルーシャ:ノーム、沼一歩!
ノーム:ほいさ! ドロドロぽん!
ナレ:マイクの片足が硬い床のはずの場所で十センチほど沈み込んだ。
当然のごとく前方へ顔面から倒れ鼻血が流れだす。
その足に石筍の激痛を感じ、慌てて這い逃れようとしたが、
さらに二本石筍が足を登ってきた。
膝に体重を乗せるようにして腕の力で無理に身を起こした。
石筍が膝頭の皿を割って止まった。
マイク:痛い痛い痛い、いぎぃあああああああああ!!!
ナレ:わめきながら上着を力任せに引きちぎるマイク
その胴には無数の瓶がくくりつけられていた。
幾つかをまとめて指で引きはがす。
そしてひとつを投げつけた。
瓶は床に落ちて割れ、白い粉の煙幕になった。
ヴァン:ルーシャ、倒れ石を!
ルーシャ:ノーム! 倒れ石、急いで!
ノーム:承知! ずずんとよろよろ、どーん!
ナレ:マイクは一瞬で床から生えた直径一メートル弱、
高さが天井に届いていそうな石柱を見上げた。
マイクM:呪文の名前が倒れ石なら、こいつが倒れてくるんだろう?
防ぐのは考えない。攻め続けて僕が先に殺してやる!
ナレ:瓶のふたつを煙の中心付近に投げる。
直後、頭に石柱が勢いよくぶつかってきて押し倒された。
マイク:ぐぇふ!
ナレ:石柱は胴体にものしかかり、瓶が次々割れた。
破片が突き刺さり、そこから染み入った毒が
灼熱のような痛みをもたらした。
石柱と床に挟まれて意識が遠くなり、呼吸も止まる。
だが同時に煙幕の中心で爆発が生まれ、
爆炎と衝撃が動けぬルーシャを襲った。
ヴァン:ルーシャ! 聞こえるか!? 繰り返せ!
五回でも六回でも繰り返せ! 連続して倒れ石だ!
ルーシャ:ゴホゴホゴホッ!
ノーム、倒れ石、どんどんやっちゃって、
マナ使いきるまで!
ノーム:合点!
でも姐さん、おいらは自分の能力で
マナが減ったりやいたしません!
ナレ:ルーシャは違和感を覚えて自分の体を見た。
煙が薄れてきて見えてきた数カ所の肌や服に、
黒い炎がまとわりついているが熱くはない。
だが炎を通して見えるのは、どす黒く変色していく肌だった。
ルーシャ:なんかやられた!
ヴァン、どうしよう、次はどうしたらいい!?
ヴァン:奴の最期を見届けな。終わったら全部治してやるよ。
ルーシャ:ノームはどうする? いくらでも倒れ石とか使えるみたい!
ヴァン:全部お前のマナを借りてやってる。
精霊が直にマナを操ってるから消費量は通常より
ずっと少ないが、これ以上、呪文を使わせるだけのマナは
お前に残っていない。
あれで勝負が決まる。粘ったら奴の勝ち。
ルーシャ:……あたし、負けるの?
ヴァン:勝ちたいんだろ?
ルーシャ:絶対あいつには負けられない!
ヴァン:じゃあ何が何でも勝て。オレもお前に賭ける。
ルーシャ:分かった。ノーム!
ノーム:姐さん、姐さんにはもうマナが……
ルーシャ:一緒に祈って!
ノーム:……へいほー! うんばややかやか!
ナレ:マイクを押し潰した石柱が転がって視界が開けた。
そこにまず一本、それから二、三、四、五、六、七本の石柱が
次々と立ち上がった。
マイクはあざけるように笑った。
マイクM:この攻撃の弱点は、遅さだ。
体を強化している今の僕なら余裕で避けられる!
ナレ:両手を床に踏ん張って起き上がろうとした。
だが、前からそこに生えていた石筍が手のひらを貫いた。
あせったが、構わずその手に体重を込めてあまりの痛みに咆哮をあげた。
マイク:あぎぃぃぃぃぃぁぁぁぁ!!!
マイクM:くそ! 起き上がれない!
でも、あの女は腐食炎で燃え腐らせている。
あいつが死んで、僕はかろうじて生き残る。
絶対食ってやる!
腐っちまった場所も全部、食ってやる!
そうだ、勝つのは……!!!
ナレ:七つの石柱が重なりあい崩れながら降ってきた。
その下敷きになったマイクの意識が途切れがちになる。
連続する衝撃と共に重さが増大してゆき、圧迫が強くなる。
激痛が少しずつ遠くなる……。
ルーシャ:あ、あれ?
ナレ:ルーシャの体のあちこちを焼き腐らせていた
黒炎が急に消えた。
そして変色した場所がかすかに光りながら、
健康な肌の色を取り戻していった。
ルーシャ:ヴァン……あたしは……
ヴァン:終わったよ。全部な。お前の勝ちだ。がんばったな。
ルーシャ:……でもあたし、結局ノーム頼りで……
ヴァン:ノームの強さは召喚した者……今回ならルーシャの
精神的な強さで変化する。あれはお前の戦いだった。
ルーシャ:そっか……ノーム! ノームは?
ヴァン:役目が終わって、疲れたんだろう。帰ったよ。
でもここにも見えない形で存在している。
お礼したいなら言えば聞こえるぞ。
ルーシャ:分かった……ノーム、ありがとう。
ナレ:ノームの陽気な挨拶が聞こえた気がした。
(終)
お疲れさまでした!
もし気に入っていただけましたら、原作小説「双極魔術の迷い人」シリーズもよろしくお願いします。
http://ncode.syosetu.com/s4232a/
原作との微妙な(?)違いを探してみるのもオツかも知れませぬ。