これから
幼い頃、両親の離婚を機に祖父母と暮らすことになった主人公。
愛情深い祖父母に育てられ、生粋のおじいちゃん、おばあちゃん子に。
成人後も祖父母の介護のため一緒に暮らしていた。高齢なのもあり体に様々な問題が生じていたが、何とか家族仲良く元気に過ごしていたある日、祖母の体調が悪くなる。
大切な人との別れが訪れてしまうかもしれない中で、主人公が抱えるものとは。
静かな病院。
梅雨が明けずじめじめした空気の中、私は言葉に尽くしがたい不安を抱えて訪れた。
エレベーターに乗り、四階のナースセンターでお見舞いの手続きをして病室に案内される。
扉のを開けるとカーテンがかかっており、中の様子はわからないようになっていた。
「来たよっ!」
不安を押し殺し、カーテンを開ける。
さっと手を上げ、部屋の主に声を掛けながら入っていく。
「あれ、来たの?」
迎え入れてくれる祖母の驚きと嬉さが混じった笑顔。
窓際の洗面台で手を洗い、ベット横のソファーに腰掛ける。
「ばあちゃんに会いたくてきたんだ」
「遠いのに大変だべ?」
片道およそ一時間の道のりを不慣れな運転で来るのは確かに大変だが、大好きな祖母に合うためなら苦ではなかった。
「そんなことないよ」
祖母に気を遣わせないように否定しておく。
自分のことより他人のことを優先してしまう性格なため、こちらが先手を打っておかなければならないのだ。
「今日の体調の方はどう?」
「とくにどうとかはない......かなぁ。少し息苦しい感じだ......うちに帰りてぇなー」
祖母の口には先日までなかったマスクがある。
それは、祖母の命をつなぎとめる酸素マスク。
祖母は現在、リンパ種の闘病生活を送ってる。
事の始まりは昨年の晩秋あたりから謎の高熱が続いたことだった。
半年ほど病状の原因がわからず病院を転々とし検査をしていき、つい数ヶ月前にも一月程の入院生活を乗り越え、自宅療養ができるまで回復していたのだ。
それが先週初めから高熱が出ては治まるといった状態を繰り返し始めた。
週末、通院日があったがいよいよ三日たっても症状が改善しないため、祖母の息子で私の父にお願いして病院に連れて行ってもらった。
検査結果は、薬の影響で治まっていた癌の進行度を図る値が変化しなくなって来ているとのことだった。
「担当医の先生は、今日はいなかったから通院日にしっかり診てもらう」
父の報告を聞き、とりあえずいつも通り面倒をみながら通院日を迎えた。
そして祖母はそのまま入院生活に戻ってしまった。
名目としては、『今の薬では効かないと思われるので、別の薬の用意しますが数日準備にお時間がかかります。その間に悪化する恐れもあるので入院がいいのでは』との提案を受け入院するに至ったそうだ。
自宅には祖父母と孫である私が暮らしており、父は単身赴任のため少し離れたところに暮らしていた。
祖父は慢性の呼吸器不全を患っているため、日常的に介護が必要であるため今回の祖母の入院は想定外であった。
しかし、前回の祖母の入院生活ではとくに問題もなかったため、祖母の回復を祈りながらいつもの日常に戻ると思っていたのである。
だが、現実はかくも残酷であった。
一日、二日と日が経つたびに祖母の身体を癌が蝕み始めたのだ。
入院して一週間もしないうちに肺炎まで引き起こし、酸素マスクなしでは呼吸が難しい状態にまで症状が悪化してしまった。
「じいちゃんとお揃いになっちまったな」
祖父も酸素マスクが必須な生活を送っているので冗談を言ってみる。
「ほんとだわ......わはは」
笑ってくれてはいるが、呼吸すること自体が苦しいのか声に覇気がない。
入院してから電話も含め、毎日会話を少しでも行っていたが日に日に声が出ずらい状態になっている。
基本的に祖母の健康状態のや検査結果は息子である父が連絡をもらっており、父からざっくり説明を受けた程度のことしか私はわかっていない。
父曰く、祖母はもう長くないとのこと。
良くなる可能性もあるが薬の効果であまり効いていないようだ。
その言葉を聞いた日は、これまでの人生で一番涙が止まらなかった一日だっと思う。
不安、心配、切なさ、後悔、様々な感情が渦巻き、過去を振り返った際にふと浮かんでくる祖母との思い出がより私の胸をかき回した。
一晩経ち、落ち着きを取り戻したが刻一刻と病が進んでいる現状は変わらない。
(少しでもばあちゃんに何かしてあげたい)
とは思ったもののこれと言って何か取り柄があるわけでもないし、話し相手になるぐらいしか私にできることはない。
長く生きられないかもしれないけど可能性はある。
祖母もいつも『うちに帰りたい』と言っていた。
ここで悲観して諦めてしまったら必ず後悔するだろう。
だから私はおばあちゃんを笑わせることに努める。それが今の私にできること。
「ねえ、ばあちゃん。昨日はじいちゃんとーー」
電話でも話したりもしたが、ここ数日の祖父の状況や家での過ごし方などを冗談も交えながら話した。
また、携帯に入っている祖父母との自宅での写真などを見せながら、思い出話に花を咲かせる。
祖母は、話を聞きながら時々冗談を返して笑わせてくれる。
病院によって細かいルールは違うが、基本的に面会時間は患者に負担をかけないよう長く会えないように設定されている。
話し込んでいるとあっという間に時間がきてしまう。
「もう時間になっちゃったね」
「もうそんなたったのか」
おばあちゃんが時計に視線を向ける。
「あっという間だけどまた来るからね」
「気をつけて帰るんだよ」
再開の約束をして、見送りが好きな祖母が無理して起き上がろうとするのも阻止しながら
カーテンを閉める。最後にチラッとカーテンを開け、目一杯手を振って病室を去る。
やはり、病院の中を歩いていると静かだ。
駐車場がある外に出て、上を見上げると燕が舞っている。
なぜだか、空を自由に舞う鳥の姿がこの時ばかりはうらやましく思えた。
車に乗り込み、祖父が一人で待っているのであろう自宅へ向かう。
「ただいま~」
手洗いを済ませ、祖父のもとに赴く。
「お留守番大丈夫だった?」
うん、とベットで横になっている祖父は目を閉じながら首を縦に振り返事をした。
祖父は基本的に寡黙で、普段はベットに横なっている。
「留守番一人でさせちゃってごめんね。すぐご飯の用意するね」
ご飯の用意を手早く行い、祖父にご飯を食べさせる。
ご飯の後は、お薬を飲ませてまたベットに戻る。日々のルーティンだ。
私は食事を済ませ、後片付けをしてからお風呂に入る。
着替えなどを済ませて二階の自室に戻り、習慣でPCの電源をつける。
だが、祖母が入院して体調が悪化してからは、楽しみのゲームや動画視聴に身が入らず手につかなくなってしまっていた。
携帯も普段はあまり見ないが、泊まり込みで祖母の面倒を見てくれている父からの連絡が来ないか心配で連絡ツールの画面ばかりを見てしまう。
『便りの無いのは良い便り』という言葉があるが、まさにその通りだと思うようになった。
父からの連絡は基本的に祖母の状態が悪化したときに来ることが多いため、むしろ何も連絡が無い方がいいのではと考え始めていた。
次、連絡が来たら果たして祖母はどうなるのだろうーー。
今はただ、不安と一縷の望みに縋り回復を祈ることしかできない。
ぼんやりと過ごしていると明日を意識しなくても、明日は勝手にやってくる。
しかし、明日の命もわからない状態の祖母がいるとこうも明日を迎えることへの恐怖が沸き上がってきてしまう。
睡眠薬を飲み、部屋の明かりを消す。
ベットに横たわり、就寝の準備をする。
はたして、明日は””大事な家族がみないる明日””を迎えることができるのろうかーー。
目を閉じ、私は答えの出ない思考の沼に沈みながら準備に入る。
明日は、なにができるだろう。
みなさん、初めましてamai monoです。
今回が初投稿となります。
拙い文章で煩わしい箇所もあったと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
あとがきで申し訳ないですが、実は主人公について追記するので、よければ内容を踏まえて作品をもう一度読んでいただければと思います。
実は作中の主人公は、祖母の回復を願っている一方で現実問題として好転していない状況。この板挟みにより実は心の片隅では、別れの覚悟もしている部分があります。急な余命宣告にも似た状況下で願望と理性の間で思考がまとまらなくなっているのです。
本当は祖母ともっといたいーー。しかし、そうなると寝たきりの祖父がーー。とやりたいこととできることが噛み合わない環境だとどうしようもない。
そうして時間ができてしまった場合、大切な人との別れを意識した多くの人々は、過去のことを回想するのではないでしょうか。主人公も同様です。
色々書きましたが、これはあくまでこの後書く内容に少しでも共感していただきやすくするためのものになります。
さて、ここからが本当のあとがきになりますね。
今回のお話は、『大切な人との別れ』をテーマに書かせていただきました。
作中では実際に最終的な別れを書いてはいませんが、ここで皆さんに考えてほしかったのが分かれた後の”悲しさ”や”後悔”ではなく、限られた時間で大事な人への”想い”や”行動”だったからです。
多くの人が突然の別れや、不幸を経験されているとは思いますが、人は常に前へ進んでいきます。
これは人の強みではありますが、当時の気持ちなどが薄らいでいってしまう部分もあります。
この作品に触れ『別れ』を経験されている方もいない方にも、これからの日常の中で身近な人への接し方や考え方への変化のきっかけになれればと思います。
長々と話してしまいましたが、今後とも様々な作品を手掛けていく所存ですので応援よろしくお願いします!
それではまた!




