30~戦利品の分配
忘れ谷の宿屋は、夜になると妙に静かだ。
外では風が木々を鳴らしているが、建物の中までは入り込んでこない。
二階の一室。
丸テーブルの上に、布が敷かれ、その上へ戦利品が並べられていく。
銀の燭台、食器一式。
金の懐中時計。
紅玉の短剣。
革袋に詰められた金貨と銀貨。
「……こうして見ると、結構な額だな」
ジンジャーが、腕を組んで唸る。
「盗賊の規模を考えれば、むしろ少ないくらいですわね」
フレアリスは扇子を軽く開き、品定めするように眺めた。
「ですが、質は悪くありませんわ。換金すれば、かなりいきます」
「帳簿にあった分、横流しされてた分を差し引くと……」
ソルトが紙に走り書きをしながら計算する。
「ギルド提出分を除いて、残りを等分。
……一人当たり、銀貨で――」
「はいストップ」
ノーラが、軽く手を挙げた。
「まず前提ね。
これは《ソルト隊》の依頼達成報酬。
私は協力者扱いだから、取り分は控えめでいい」
「いや、それは――」
「いいの?」
ノーラは即答する。
「今回は情報と立場を得た。
それだけで十分、元は取れてる」
ミントが、じっとノーラを見た。
「……そう言う時のノーラって、
だいたい裏で別の儲け握ってるよね」
「失礼ね。別の損得勘定よ」
「同じでしょ」
小さな笑いが起きる。
ノーラは、布の端にまとめて置いてあった石箱を、さりげなく引き寄せた。
「で、問題はこれ」
全員の視線が、そこに集まる。
「……例の石、か」
ソルトの声が低くなる。
「再生魔石……ですね」
「ええ。これだけの代物が、なぜ盗賊のアジトにあったのかは不明だけど」
ノーラは箱を開けない。
触れさせもしない。
「これについては――
今回の分配には含めない」
「つまり?」
ジンジャーが聞く。
「私が預かる。
価値も、扱いも、正体も未確定。
今ここで割るのは、全員にとってリスクが高い」
ミントが、眉をひそめた。
「……売らないの?」
「今はね」
「今はかぁ……」
フレアリスが扇子で口元を隠す。
「独占するつもりですの?」
「違うわ」
ノーラは淡々と言った。
「保管するの。
動かすかどうかは、情報が揃ってから」
ソルトが少し考え、頷く。
「……合理的ではあります。
市場に出した瞬間、足がつく」
「でしょう?」
ノーラは石箱を閉じ、灰のローブの内側へ収めた。
「もし、後で売れる使える危険すぎるって判断したら、
その時はちゃんと話す。
それまでは――」
肩をすくめる。
「私の在庫」
「うわ、言い方」
「商人ですもの」
ジンジャーが苦笑した。
「まあ、ノーラが抱え込む分には、
俺たちが変な責任を負わずに済む」
「それはそれで、重い役回りですわね」
「慣れてるわ」
ノーラは平然としている。
「じゃあ残りを分けよう。
金貨と銀貨は等分。
装飾品は換金してから清算。
短剣は――」
「私ですわね」
フレアリスが即答する。
「使うの?」
「ええ。
使える武器は、使える人間のところにあるべきですもの」
「はいはい。
じゃあその分、後で銀貨調整ね」
分配は淡々と進んだ。
大きな揉め事もなく、数字が決まり、袋が手渡される。
最後に、ノーラが立ち上がる。
「じゃ、今日は解散。
明日は忘れ谷を出るわ。
――いつまでも、ここにいる理由はない」
「次はどこへ?」とソルト。
「さあね」
ノーラは笑った。
「市場が動いてる方。
……金の匂いがする方よ」
その言葉に、誰も反論しなかった。
灰のローブの奥で、
石箱は、静かに脈打っていた
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