表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強欲魔女の経済学~銀刻交易連合記~  作者: 彩栗ナオ
忘れ谷と祝福印の少女
26/38

26話~フレアリスの秘策

 

 ノーラたちは、野盗たちが根城にしているという洞窟へとたどり着いた。

 空はすっかり暗く、前方の岩壁の前にはかがり火が焚かれている。


 松明の明かりに照らされた男が一人、こん棒を片手に見張りに立っていた。

 獣のように吊り上がった目、口元の傷――だが緊張感は薄い。あくびをかみ殺し、頭を掻いては辺りを適当に見渡している。


 ノーラたちは小高い草むらに身を潜め、しばらく様子を観察した。


 やがて、見張りの男は面倒くさそうに洞窟の奥へと引っ込んでいった。


「……今なら入れそうだけど、中に何人いるか分からないわね」


 ノーラが低く呟く。


 すると、フレアリスがぱっと顔を輝かせた。


「私に秘策がありますわ!」


「嫌な予感しかしない」

 ミントがぼそっと言う。


 フレアリスは気にせず続けた。


「洞窟の入口に木をくべて火を焚きますの。中にいる連中は煙で燻されて、這い出てくるはずですわ!

 名付けて――ゴキブリほいほい作戦です!」


「……そのネーミングでいいの?」


「嫌なら別のにします? 火の貴婦人による優雅な一掃劇とか!」


「……前者のほうがマシかな」


 ノーラはため息交じりに呟いた。


「洞窟の規模も人数も不明だ。

 計算なしで突っ込むよりは、外に引きずり出した方がいい」


 ソルトが冷静に補足する。


 そのすぐ後ろで、ルチェアが小さく息を呑んだ。


「……中に、まだ人がいる気がします」


「人数は?」


 ノーラが即座に聞き返す。


「分かりません。でも……奥の方。怖がって、動いていない人が……」


 星眼印の直感。

 まだ言葉にしきれないが、確信に近い。


「……分かった。突入は私たちだけ。

 ルチェア、無理しなくていい。後ろでソルトと一緒に」


「いえ……見ておきたいんです」


 震えながらも、ルチェアは首を横に振った。


「この村で、何が起きてるのか」


 ノーラは一瞬だけ迷い、軽く頷いた。


「……離れるなよ」


 人手を分けて枯葉や枝を集め、洞窟前に山盛りにする。

 フレアリスが赤黒いルーンを宙に描くと、魔法陣が淡く光り、掌から揺らめく火が生まれた。


「――熱界焦断バーン・ブレイク。軽めに出力しますわね。大火傷じゃ済まないですから♪」


 掌を地面に突き出すと、火が一気に燃え広がり、洞窟の入口を包む。

 煙は狙い通り、奥へと流れ込んでいった。


 数分後――。


「ゴホッ……ゴホッ! なんだ、煙だ!?」


「くそっ、外だ! 誰かいるぞ!」


 怒声と咳き込みとともに、野盗たちが次々に洞窟から飛び出してくる。


「来るわよ!」


 ノーラが短く告げ、水銀のアクアトラップを発動させた。

 足元から広がる粘着性の水流が、駆け出した男たちの足を絡め取る。


「今だ!」


 前に出たのはジンジャーだった。

 大盾を構え、踏み込む。


「――止まれ」


 低く響く声とともに、盾の一撃が野盗の胸を打ち抜き、地面に叩き伏せる。

 続けてもう一人。力任せではない、確実な制圧。


「な、なんだこいつ……!」


「後ろからだ、囲め!」


 だが――


「お待ちかねですわ。今宵は熱烈歓迎のフルコースですの!」


 フレアリスが両腕を広げ、空中に炎の魔法陣を三枚展開する。


「三連魔火陣――試しの魔火プロービング・フレア!」


 火の矢が軌道を変えながら着弾し、爆音と閃光が敵陣を裂いた。


「目がっ……!」


「熱っ……!」


 混乱の背後から、冷たい波が襲いかかる。


「火を使った後は、水でバランス調整。せーの」


 ノーラの両手から、水柱が蛇のように走り、残る野盗たちをなぎ倒した。


「……残り、数人」


 ジンジャーが周囲を確認する。


「無理だ、逃げろ!」


 洞窟へ引き返そうとした男が転倒した瞬間――


「残念でしたわね。火の貴婦人からは、逃げられませんわ」


 フレアリスの火線が、男のすぐ脇を焼き付ける。


「ひっ……降参だ! 降参する!」


 こうして、ゴキブリほいほい作戦は成功した。


 洞窟の前には、気絶した者、泣きながら縋る者たちが転がっている。


「……少し派手だったけど、まあ上出来ね」


 ノーラが一息つく。


 ルチェアはその光景を黙って見つめていた。


「……本当に、人が物みたいに扱われてたんですね」


「だから、取り戻す」


 ノーラは短く答えた。


 野盗たちを制圧した後、ノーラたちは洞窟の奥へ進む。

 火傷した腕を抱える者、昏倒した者たちを横目に、通路を進む。


 通路端には木箱や樽が配置されており、上にはロウソクの束が雑に置かれていた。



「これはありがたい」


 ノーラは手際よくロウソクをバッグに放り込む。


「……持っていくの?」


 ルチェアが小声で聞く。


「日用品は強いの。どこでも現金になる」


ノーラはすかさず次の獲物を発見する。



「……あ、ドラゴンの鱗!

 これは鍛冶屋が飛びつくわ」


「相変わらずですわね」


 フレアリスが呆れたように言う。


「銀刻の値踏み姫よ。生きてくにはお金が必要でしょ?」


「……それ、自称ですのよね?」


「当然」


 堂々と言い切るノーラに、フレアリスは一瞬だけ言葉を失った。


「戦利品は山分けですのよ」


「分かってる。私は金の扱いはフェアよ」


 ジンジャーが小さく頷いた。


「……金で揉める連中、何度も見てきた。

 だからこそ、最初に線を引けるのは助かる」


 ノーラは肩をすくめる。


「商売も冒険も、信用が一番高い資産だからね」




閲覧いただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ