26話~フレアリスの秘策
ノーラたちは、野盗たちが根城にしているという洞窟へとたどり着いた。
空はすっかり暗く、前方の岩壁の前にはかがり火が焚かれている。
松明の明かりに照らされた男が一人、こん棒を片手に見張りに立っていた。
獣のように吊り上がった目、口元の傷――だが緊張感は薄い。あくびをかみ殺し、頭を掻いては辺りを適当に見渡している。
ノーラたちは小高い草むらに身を潜め、しばらく様子を観察した。
やがて、見張りの男は面倒くさそうに洞窟の奥へと引っ込んでいった。
「……今なら入れそうだけど、中に何人いるか分からないわね」
ノーラが低く呟く。
すると、フレアリスがぱっと顔を輝かせた。
「私に秘策がありますわ!」
「嫌な予感しかしない」
ミントがぼそっと言う。
フレアリスは気にせず続けた。
「洞窟の入口に木をくべて火を焚きますの。中にいる連中は煙で燻されて、這い出てくるはずですわ!
名付けて――ゴキブリほいほい作戦です!」
「……そのネーミングでいいの?」
「嫌なら別のにします? 火の貴婦人による優雅な一掃劇とか!」
「……前者のほうがマシかな」
ノーラはため息交じりに呟いた。
「洞窟の規模も人数も不明だ。
計算なしで突っ込むよりは、外に引きずり出した方がいい」
ソルトが冷静に補足する。
そのすぐ後ろで、ルチェアが小さく息を呑んだ。
「……中に、まだ人がいる気がします」
「人数は?」
ノーラが即座に聞き返す。
「分かりません。でも……奥の方。怖がって、動いていない人が……」
星眼印の直感。
まだ言葉にしきれないが、確信に近い。
「……分かった。突入は私たちだけ。
ルチェア、無理しなくていい。後ろでソルトと一緒に」
「いえ……見ておきたいんです」
震えながらも、ルチェアは首を横に振った。
「この村で、何が起きてるのか」
ノーラは一瞬だけ迷い、軽く頷いた。
「……離れるなよ」
人手を分けて枯葉や枝を集め、洞窟前に山盛りにする。
フレアリスが赤黒いルーンを宙に描くと、魔法陣が淡く光り、掌から揺らめく火が生まれた。
「――熱界焦断。軽めに出力しますわね。大火傷じゃ済まないですから♪」
掌を地面に突き出すと、火が一気に燃え広がり、洞窟の入口を包む。
煙は狙い通り、奥へと流れ込んでいった。
数分後――。
「ゴホッ……ゴホッ! なんだ、煙だ!?」
「くそっ、外だ! 誰かいるぞ!」
怒声と咳き込みとともに、野盗たちが次々に洞窟から飛び出してくる。
「来るわよ!」
ノーラが短く告げ、水銀の罠を発動させた。
足元から広がる粘着性の水流が、駆け出した男たちの足を絡め取る。
「今だ!」
前に出たのはジンジャーだった。
大盾を構え、踏み込む。
「――止まれ」
低く響く声とともに、盾の一撃が野盗の胸を打ち抜き、地面に叩き伏せる。
続けてもう一人。力任せではない、確実な制圧。
「な、なんだこいつ……!」
「後ろからだ、囲め!」
だが――
「お待ちかねですわ。今宵は熱烈歓迎のフルコースですの!」
フレアリスが両腕を広げ、空中に炎の魔法陣を三枚展開する。
「三連魔火陣――試しの魔火!」
火の矢が軌道を変えながら着弾し、爆音と閃光が敵陣を裂いた。
「目がっ……!」
「熱っ……!」
混乱の背後から、冷たい波が襲いかかる。
「火を使った後は、水でバランス調整。せーの」
ノーラの両手から、水柱が蛇のように走り、残る野盗たちをなぎ倒した。
「……残り、数人」
ジンジャーが周囲を確認する。
「無理だ、逃げろ!」
洞窟へ引き返そうとした男が転倒した瞬間――
「残念でしたわね。火の貴婦人からは、逃げられませんわ」
フレアリスの火線が、男のすぐ脇を焼き付ける。
「ひっ……降参だ! 降参する!」
こうして、ゴキブリほいほい作戦は成功した。
洞窟の前には、気絶した者、泣きながら縋る者たちが転がっている。
「……少し派手だったけど、まあ上出来ね」
ノーラが一息つく。
ルチェアはその光景を黙って見つめていた。
「……本当に、人が物みたいに扱われてたんですね」
「だから、取り戻す」
ノーラは短く答えた。
野盗たちを制圧した後、ノーラたちは洞窟の奥へ進む。
火傷した腕を抱える者、昏倒した者たちを横目に、通路を進む。
通路端には木箱や樽が配置されており、上にはロウソクの束が雑に置かれていた。
「これはありがたい」
ノーラは手際よくロウソクをバッグに放り込む。
「……持っていくの?」
ルチェアが小声で聞く。
「日用品は強いの。どこでも現金になる」
ノーラはすかさず次の獲物を発見する。
「……あ、ドラゴンの鱗!
これは鍛冶屋が飛びつくわ」
「相変わらずですわね」
フレアリスが呆れたように言う。
「銀刻の値踏み姫よ。生きてくにはお金が必要でしょ?」
「……それ、自称ですのよね?」
「当然」
堂々と言い切るノーラに、フレアリスは一瞬だけ言葉を失った。
「戦利品は山分けですのよ」
「分かってる。私は金の扱いはフェアよ」
ジンジャーが小さく頷いた。
「……金で揉める連中、何度も見てきた。
だからこそ、最初に線を引けるのは助かる」
ノーラは肩をすくめる。
「商売も冒険も、信用が一番高い資産だからね」
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