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思い出の代償

 悠斗に出会ったのは中学の頃だった。その頃の俺は今のように周りと馴染めないタイプだった。陰口はもちろん、無表情でつまらないので人はまず寄って来ない。そんな俺に話しかけてきたヤツは、いつも輪の中心にいる悠斗だった。内向的な俺とは性格が正反対すぎた。


「なあなあ、いつも本読んでるけどさ、何読んでんの?」


「え、マ、マンガだけど...」


「あ!それめちゃくちゃおもろいよな!! 特に美心ちゃんが歩南とバトルところ!」


「か、かっこいいよな」


 こんな会話から始まった。次の日も悠斗は俺に話しかけてきた。次の日も、その次の日も。俺は自然と悠斗と過ごすようになった。でも、俺の他に悠斗と話すヤツは次第に減っていった。いつもクラスメイトとの誰とでも楽しく話していたヤツが陰口を言われるようになった。俺と関わったからに違いない。だから一緒にいないほうがいい。そう思って俺は悠斗から避けた。


「おい! なんで避けるんだよ。嫌いなのか?」


「別に...。そーゆーのじゃない」


「なあ。別にお前が俺のこと嫌いでもなんでもいいから。本当のこと言えって」


 俺は黙り込んでしまった。


「あのなぁ。嫌なら嫌って言わないとだろ。俺はお前がどんなこと言っても嫌いにはならない。

なんだ、それとも俺のこと信頼してないのか? 言わないほうが嫌だぜ」


 その言葉で俺の心の何かが消えていった。避けた理由を正直に伝えた。


「なんだ、そういうことだったのか。別に陰口言われてもどうってことねぇし。俺がお前と話し

たいから話してんの。悪いか?」


「でも、他の奴とも話したいんじゃないのか...?」


「いやぁ、実は俺あんまりあいつら好きじゃなかったんだよな。俺の意見を頭ごなしに否定してくるし、周りのこと考えねぇし。そもそも陰口言う時点で最低だよな。だからお前といるんだろ」


 言葉が出なかった。初めて悠斗が友達だと思えた。性格が真逆でどう考えても気が合わないと思っていたから。この時話してから、俺は普通に悠斗と過ごせるようになった。


 そんな中、周りが俺と悠斗を避けたり陰口を言ったりするのとは反対に、俺らに話かけてきたヤツがいた。それが、仁だった。


「僕、君たちと話してみたかったんだよね。それに僕、陰口嫌いだし」


 その時から俺と悠斗と仁で過ごした。アニメ、マンガ、ゲームの話。時には自分の悩みを打ち明けたり、相談に乗ったりした。世界が3色の色彩で彩られていった。


 それが悠斗と仁との出会いだ。だから、学校に馴染めない俺に一番最初に話しかけてくれた悠斗には、本当に感謝していた。


 それなのに、もう、悠斗はトラックにひかれて亡くなってしまった。


 この時、俺は唖然としていた。人が流れるように集まってきて、視界から悠斗の姿が見えなくなっていった。次第に警察や救急車が来て、サイレンの音が頭を打ち付けるぐらい強く鳴った。 薄暗い夕方のなか、パトカーと救急車の真っ赤な光が目にこびりついた。その後、悠斗は病院に搬送されたが、死亡が確認されたらしい。


 ふらふらしつつも、なんとか家に帰った。俺は自分の部屋のベッドに飛び込んだ。何も考えられなかった。俺は悠斗にすごく感謝している。だから「ありがとう」と伝えたかった。それなのに、言えないまま、悠斗は先にあの世へ行ってしまった。もっと早く、伝えておけば。気づけば目から滝のように涙がこぼれていた。泣いて泣いて泣きまくった。声を上げながら、目が赤くなるほど泣いた。


 どれぐらい時間がたったのだろうか。もう夜の9時を過ぎていて重い体を起こして部屋を見渡すと、ドアの近くに紫色に淡く光った球体のようなものが見えた。最初は幻覚かと思ったが、その光はふよふよとドアをすり抜けていった。なんだか「こっちに来て」と言われているようだった。俺は頭より体が先に動き、それをゆっくりと追いかけた。


 気づけば家から出ていて、見たことのない狭い路地のようなところにいた。そこには、追いかけていた光と、長い銀髪で暗い紫色の瞳をした小学4年程の少女がいた。背中には小さい羽がついていて、体は霊のように半透明だった。でもなぜか悪い気配はしなかった。


「何者なんだって反応だね。この魂はワタシに仕えているコ?みたいな感じかな。こんばんは。霞蒼汰クン。大事な芙蓉悠斗クン死んじゃったみたいだね」


 俺はハッと息をのんだ。


「なんで俺と悠斗の名前を知っているんですか」


「うーん、なんとなく?まあ、ワタシは人間ではないですから。それにもう死んでますし」


「死者... なのか。ていうかさっきの、悠斗を生き返らせるってどういうことですか」


「そのまんまの意味ですよ。ただ、その代わりの犠牲や代償が必要です。もし生き返らせたければ、ワタシが今から言う選択肢の中から一つ、選んでいただきます」


「そんなことできるんですか...? 選択肢は?」


「一つ目、芙蓉悠斗クンが生きる代わりにあなた自身が死ぬ。二つ目、藤田仁クンが死ぬ」


「な、なんで...仁は関係ない!」


「いえ、そんなことはありません。あなたにとって、悠斗クンも仁クンも自分の命と同じぐらい大切なヒトでしょう?いや、あなたなら自分より大切なものとでも思っていそうですね」


「悠斗の代わりに誰かが死ぬなんて...。そんなの絶対だめだ。俺は三人で生きたい」


「そうですか。なら、もう一つ選択肢はあります。三つ目、みんな生きていられるけれど、今までの思い出がなくなる。すなわち、三人の脳内から三人で過ごした時間の記憶を消して、なかったことになります」


 俺はためらってしまった。思い出が消える、ということは、悠斗が俺に話しかけてくれたのも、仁が俺達の味方をしてくれたことも、一緒に屋上で弁当見せあって笑い合ったり、家で一緒にアニメやゲームをしてふざけ合ったりしたのも。なにより、日常の何気ない毎日が、すべて消えるのだ。そう考えると、自分の命と同じぐらい大切なものだった。


 俺は答えを決めた。


「――そうですか。さて、覚悟はできましたか?」


「...はい。お願いします」


 謎の少女は紫色の光を手にそっと乗せた後、目を瞑り、優しく抱きしめた。そのとたん、彼女は眩しく光り、あたり一面が照らされた。俺は強く祈って、瞳を閉じた――。


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