12 訓練
「んなっ」
ディアットの振り下ろしたハンマーはローカッドにあたる寸前で止まった。いや止められた。
ハンマーの先にはユルがローカッドを守るように立っていた。
「ユルくん、君は自分が何やってるのか分かってんのかなぁ?」
「…」
ユルはディアットを押し返し、そのまま姿を消したかと思うとディアットの背後に回り携帯していた直剣を突き刺した。
「あ、ぐ……っ」
「兵装と同じ鋼材でできた剣です。致命傷は避けましたが、急いで手当てしないと危ないですよ」
「くっ…そが!!ユル!!!」
俺はユルのいる場所まで跳び出す。
しかしユルは攻撃が当たる瞬間姿を消し、背後にあらわれる。
「ごめんボロ、僕はローカッドさんの言うことが間違っているようには聞こえないんだ…」
背中を切っ先が走り抜ける。
「ーーーッ!]
その後ユルはローカッドとともに姿を消した。
俺とディアットは救護隊により回収されたがディアットは回復までに時間がかかるとのことだった。
そして、ユル・スクレヴァット討伐の命令が下された。
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目を開ける、体からは嫌な汗が止まらない。体を起こし窓を見るとまだ月が静かに佇んでいた。
シャワーを浴びて部屋を出る。夜中なのもあって人は少なく、仕事をしているのであろう部屋から光が漏れているだけだ。
階段を登り屋上に上がる。ボロのいる技術開発棟の屋上からは灯りに照らされた本部や他の生活棟が見える。
あれからローカッドは現在に至るまで見つかっていない。
「ユル・スクレヴァットは人工皮膚を変色させ周囲の色に溶け込むことで姿をくらませ、奇襲をしかける隠密型の兵装というコンセプトで改造された。その上光学迷彩を使うことで完全に消えることができる」
振り返るとヒサギが立っていた。
目の下のクマやボサボサの髪から徹夜で作業をしていたのだろう。
「その上体温も変えられるんだ。仕留め損なったとしても仕方ないさ」
「・・・さすがに話は聞いてるか」
「ディアットが直接。一応技術部長だからね、残ってた兵装のデータや発見されたのがユル・スクレヴァット本人の可能性はあるか確認しに来たみたいだよ」
「やっぱりあいつは生きてるのか」
「死体の回収ができてないからね、生きていたとしてもおかしくないだろう。君らと同じ兵装を持ってるし」
ヒサギの言うようにユルの死体は回収できなかった。戦闘の直後にエーシル軍から攻撃を受けた俺はユルとの戦闘で消耗が激しかった事もあり退避をせざるを得なかった。
後日再度訪れた時には死体も何も無い状態だった。
「俺は、エーシルがあいつを助けたのではないかと考えてる」
戦闘の直後攻撃を仕掛けてきたことやユルが消えたこと。
なにより俺達の場所を知っていたことからも最初から手を組んでいた可能性も考えられる。
「それは私も思ったんだけどこちらにいようとあちらにいようと戦争は変わらないはずだから彼の言う戦争の終わりにはつながらないはずだけど」
「俺はあいつの理想がわからなかった」
「まぁ、どちらにしろ本人にあって聞くしかないね」
「そうだな…」
気配を感じて顔を上げると上から何かがこちらに飛んでくるのが見えた。
「ヒサギっ!!」
「うおっ!?」
ヒサギを抱えて横に転がる。
飛来してきたそれは想定したよりもトンッと軽く着地する。
それは先ほどディアットの横に座っていた細身の男、断血のテムノートだった。
「ラヴァット、いやこの場合は二人ともになるのか…」
「うわ、びっくりした。てっきりボロが辛抱たまらんくなって抱きついてきたのかと思った…」
「誰がするかよ」
「いつでも応えてあげるけどね」
ヒサギはウインクしてくるが目元のクマが強調されるだけだ。
寝てくれ。
「それで、なんの用だ」
テムノートは眼鏡を指で上げ眉間にしわを寄せながら口を開いた。
「ディアット様からの伝言を伝えに来たのだ。
明日より兵装機動隊および第一世代兵装の対パラディンに向けた戦闘訓練を開始する」
「えぇ………」
ヒサギはとてつもなく嫌そうな顔をする。
「それ、ガチで殴り合いとかすんの?」
「あぁ、護衛任務に支障を来さない程度にな」
ヒサギはこちらに視線を向ける。
「死なない程度の間違いだろうな」
「まぁそうとも言えるだろう。訓練で死ぬ程度ならばパラディン相手にはそこらの塵にすらなれん」
「いやいや、修復と治療のための人手が足りない。私と助手たちだけじゃ無理だよ。せめて私と同じくらいの腕がもう一人いないと」
「無論、兵装機動隊が地方基地から帰ってくるんだ。それに伴いムラキ技術担当も帰ってくる」
それを聞いてヒサギはため息をつきながら部屋に戻ろうとする。
「なら何とかなるかもね、ボロ頑張って。私は寝るよ疲れた」
バタンと勢いよく屋上の扉が閉められ俺とテムノートの二人になる。
「溶血の、貴様にはもう一つ用があるのだ」
俺のこめかみの位置に向けてテムノートのつま先が迫っていた。
頭を後ろに下げる。
「何のつもりだ」
「ただの検査だ」
そう言ってテムノートは距離を詰める。
何がなんだか分からないが攻撃をかわしたときに床にひびが入ったのを見て、とりあえず攻撃を食らえばただでは済まないことは理解した。
「あぶねぇだろうが!!」
「安心しろ。下にいる人々には被害が出ない程度にしている」
「そういう問題じゃねぇ!!」
俺はフェンスまで走り、眼下にある本部と他の部署のある棟に囲まれた訓練用のグラウンドに向かって跳躍する。
「場所を変える!!」
周囲には砂埃が舞い、着地とともに轟音と衝撃が走り、建物に続々と明かりがともる。
目の前に音もなくテムノートが着地する。
「まったくもっと静かに着地できないのか貴様は」
異常事態と勘違いしたのかグラウンドがライトで照らされ、武装兵が出てきた。
「おいこれどうすんだよ」
「安心しろ話は通してある。彼らは施設への被害を防ぐためにここにいてくれているのだ。感謝しろ」
窓からは目が覚めた兵士たちが顔を覗かせ好奇の視線を覗かせる。
最初からここに来ることは計算されていたようだ。
「我々の力を見るのは彼らにとっても珍しいだろう」
そうしてテムノートはこちらに一歩足を進めた。




