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10話 ほつれ


「ボロ、この戦争が終わると思うか?」


ジュルジュル


「俺は終わることはないと思う」


ジュルジュル


携帯食のゼリーを啜りながら横に目をやるとユルは中庭を眺めながら淡々と言葉を続けた。


「戦争は終わらない、たとえ終わったといわれてもそれは書面上の一つの章が終わったに過ぎないんだ」


ズ、ズゾゾゾゾ


「偵察にいくと実感するんだよ違う服を着て違う武器を持っているけれど皆家族とか夢があるんだ、それを今から自分が渡す情報によって潰していくのだと思うと自分のしていることが正しいのかわからなくなる」


「ズゾッ…戦場に出る俺たちに戦争の意味なんてないだろ、あるとしたらお偉いさんたちの都合だけだろうな。そもそも潰していくなんて上からの目線でものを言っているという点で見ればお前は傲慢だよ」


「そうだな、すまない・・・」


「なんで謝るんだよ。まぁたしかに人を殺す感触はいいものではないな、だけど俺はお前の言う書面上の一章であっても俺はこの戦争を止めたいと思う」


そういうとユルは嬉しそうな顔をして手を差し出してきた。


「やっぱりボロだな、この戦争を二人で止めよう」


「このやり取り何回目だよ」


俺はユルの手を握り返す。


俺の脚が兵装になって半年が経った。相変わらず戦争が終わる気配はなく、エーシルとの戦闘は激化するばかりだ。


俺達兵装持ちは一番に戦場に投下され戦い続けている。


戦死するものや、戦闘中に排血機構によって増えていく疑似血液に耐えられず死んでいくものがあとを絶たないらしい。数十人いた兵装持ちも気づけば数えられるほどまで減っている。


戦闘ができないほどの大怪我をしたものを次から次へと兵装持ちへと改造し続けた結果だとヒサギは言っていた。


人体に直接兵装を付ける方法は俺を最後にして、技術部長となったヒサギはより人道的で一般兵士も使える外付けの兵装を開発しているそうだ。


俺に施した疑似血液の他に別の人間の血液を中継ぎとして拒絶反応を減らすやり方は軍の上層部からも評価されたが、怪我などの輸血の際、疑似血液だけでなく中継ぎとなる血液の持ち主からも血を抜く必要があるため、時間も人手もかかるという点から採用は断念したらしい。 


やはり俺だけ疑似血液の入れ方や兵装の付け方が違うためなのか、ほかの兵装使い達とは壁を感じるときがある。


俺だけ他のものに比べてある程度生命の安全性は保たれているのだから無理もない。


何も気にせずに話しかけてくるのはユルとディアットくらいだ。


「ボロ〜」


大声で呼ばれ周りから視線が集まる、

目を向けるとヒサギがこちらに向かって手を振っていた。


「帰ってこい!メンテ!」


ユルは俺とヒサギを見比べて笑い始める


「相変わらず仲良しだね君たちは」

 

「勘弁してくれ…」


周りに見られながらヒサギの方へ早足で向かう。


メンテ用の部屋に入った俺はベットの上に寝かされ義足に機械を繋がれる。


「どうよ最近は異常はない?」


「ない、お前が俺を呼びすぎて周りから冷たい目で見られる以外はなにもない」


「お、まじで?やっぱ私モテるんだなぁ」


「いや悪魔扱いだぞ」


「殺すぞ」


「やめてくれ、……真面目な話、兵装持ちの軍への不満は大きくなってる」


「そっか」


兵装持ちの中では消耗品のように使われていることに不満をもつ者も多くいる。


未だに何も起こっていないのは軍がいなければ改造された化け物である自分たちの居場所などないことを分かっているからだ。


不満はあったが誰もそれを大々的に行動に移すことはなかった。



しかしそれも長くは続かなかった。


煙血のローカッドが兵装持ちを束ねて軍の施設から脱走する事件が起きた。


どこかの街での戦闘任務が終わってすぐだった。


それからは地獄だった。


人々から化け物と非難された兵装持ちはヴァニル国の一般市民たちを虐殺し始め、国は兵装持ちの処分を命令。

 軍は全力をもって対処するとして兵装持ちとの交戦決意。


軍は残った兵装持ちを集め、反逆者たちを殺すように命じた。


そうして兵装持ちたちの共食いが始まった

しかし戦闘はすぐに収まった。すでに限界が近かった兵装持ちたちがすぐに限界値を超え死んでいった。


同じ力を持つもの同士をぶつけて双方が力尽きるまで戦わせる…これも軍の狙いだったのだろう。


そして残った俺達は首謀者である煙血のローカッドの討伐を命令された・・・



「こんなところにローカッド君はいるのかね」


ディアットは歩きながら呟いた。


ディアットとユル、そして俺はローカッドの討伐のため暴動の起きた街の中心地に来ていた。

建物はすべて壊れており周囲は瓦礫にまみれていて人気は全くない。短期間であっても戦闘が激しかったことを物語っていた。


「ひどい有様だな…」


「二人ともちゃんとかつての仲間を殺せそうかい?」


「なんだ、喧嘩か?」


ディアットと2人で軽口を叩いているとユルが足を止めた。


「二人はなんで簡単に仲間を殺せるんだ」


ディアットは当たり前のように


「仕事だからだよ」


と答えた。ユルは俺のほうに目をやる


「…今更だろ、どちらにせよこれが最後になる」


そうして住宅街であったであろう場所を抜け少し開けた場所に出る。


「おぉ…これはなかなか」


ディアットは顔をしかめる、その理由は明らかだった。


目の前には一般市民や派遣されてきたであろう一般兵士の死体の山が血の匂いを漂わせながら静かに佇んでいた。


「ユル、奇襲の準備をしてくれ」


「…わかった」


そう言うとユルの姿が消えた。


俺とディアットが正面から交戦し、隙を見て姿を消すことができるユルが攻撃する算段だ。


「ユル君、彼も難儀だね」


「あいつは優しいからな」


「やめてくれよ私が優しくないみたいな」


「そうだろ」


「ハッ、失礼な。とりあえず今は明日の朝日を浴びれるように祈ろうか」


「そうだな」


突然周囲の血の匂いか濃くなった。

 

「お前らのほうも結構減ったんだな、まったく…軍の思惑通りだな」


苦笑交じりの声が死体の山から聞こえ、死体の山の上に誰かが座っているのが見える。


「やっぱり突発的に決行するのはだめだな。とりあえずは逃げるために君らを退けることに集中かね」


口に独特な形状のマスクをつけ、ふらふらと立ち上がる男、その人物こそ今回の討伐対象である煙血のローカッドだ。


マスクの後ろ側にはコードが垂れ下がっており、俺と同じ素材でできているであろう右腕につながっていた。


ローカッドはそっと死体の山に触れる。

右手が死体に触れた瞬間、死体から血の霧が噴き出した。


「ボロ君、来るよ」


ディアットはハンマーを構える。


「おいおい、逃がしてくれないのか純血さんっ!よおっ!」


目の前の血の霧が晴れローカッドが飛び出して来る。


俺とディアットは横に飛び回避する。


ディアットは着地と同時に体を回転させハンマーを振る。ローカッドはハンマーを掠めるほどの距離で避け、そのままディアットを殴り飛ばした。


「ディアット!」


「構うな!!」


兵装に力を込める。ギュルギュルと音を立てながら人工筋肉が収縮し、力が発散される。


「うぉ!速っ!」


一気に距離を詰め、脚を振り抜くがローカッドは難なく右手で俺の蹴りを止めた。


「でも、さすがに速いだけじゃないでしょ?」


ローカッドは受け止めた状態から脚を掴み、死体の山に向かって俺を投げ飛ばした。


グチャグチャと音を立てながら死体の山が崩れていく目の前は腐りかけの肉と骨で満ちる。


「くそ、最っ悪」


「おいおい死人に向かって失礼だろう」


死体を蹴り上げると正面にローカッドが迫っていた。ローカッドの攻撃を弾き返す。

やはり兵装の付いていない生身の部分の攻撃力は疑似血液で強化されているとは言え普通の兵士とあまり変わらない。


「足癖悪いよ、溶血君」


ローカッドは右手で死体を掬い上げ、血の霧が視界を埋める。息と同時に吸い込んでしまう。


横腹に蹴りを受ける、しかし生身の攻撃だ対したダメージではない


「はっ!お前は手癖が悪いじゃねえか煙血さん…ゴフッ」


急に口の中が血で溢れ視界が歪んだ。



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