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伊藤の13年前の話②

英語教師は少しふくよかな、穏やかで優しい先生だった。生徒は特に見た目に関してはいじりつつも、器の大きい、どこか間の抜けたところを慕っていた。


伊藤にもたまに話しかけ「そんなこと?」と驚くような英語に関する質問を投げかけた。


日本の教師はバカなのか?と思いつつ、興味を持ち、敬意をもって接してくれる存在は空気みたいな自分に少しずつ色がつき、重みが生まれた。


先生が授業中に伊藤との会話を紹介したことがクラスメイトと話すきっかけにもなった。自分から言うと自慢話になるようなことも、先生の授業の小ネタにしたことで親しみやすいエピソードになる。


先生にどこまで意図があったかわからないが、伊藤が日本の中学生と異なる特別な体験をしていると認め、紹介したことは伊藤にとっても大きな自信につながった。その自信がプライドになり、日本の学生を心の中で少しバカにするような態度につながったのはよくないことだったかもしれないが。


自分を認めてくれる先生ともっと話したい。もっと近づきたい。もっと興味を持ってほしい。


そう思っているだけで思いを伝える方法は1つも思い浮かばないのだった。しかし朗報があった。先生に英語で手紙を書くと返事をくれる、という課題が出されたのだ。


伊藤はドイツで応援していたサッカーチームについて手紙を書いた。が、返事は英語補助のALTの先生が書いていた。騙された気持ちになりながらも、さすがネイティブが書く英語は日本で触れる英語より格段におもしろく、やりとりに夢中になった。


当然大きな変化は訪れなかった。季節だけどんどん移り変わった。教室のストーブをつけるかつけないか、生徒と学校がぐちぐち言い合う冬のあたま。寒いからケチケチ言わず部屋くらい暖めてほしい。


ALTの先生との手紙のやり取りも続いている。次回送る用のクリスマスカードを、そろそろ東急ハンズに買いに行こうと考えながら、鞄の教科書を机に移す。


女子が隣のクラス担任の女性教師の妊娠を噂した。1人、2人と情報を受け取りリレーする。途中から女性教師の相手があの英語教師であるという新たな情報が加わった。


伊藤は混乱した、が、何事もなかったかのように男子生徒の話に加わる。下世話な内容も加わり、吐きそうになった。


その後の英語教師の授業では、まだ内緒だけど、と、ヘラヘラと結婚を報告していた。お祝いの言葉を受けてさらにヘラヘラした。おめでとうの言葉の波に地獄へ行けと混ぜる。


そんなことしても何も変わらないし、変わったら悲しいだけだ、と教科書を眺める。エミリーとケンは楽しそうに笑っていた。


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