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伊藤の5月20日⑤

「ここだけ都会みたいだよね。」と河津さんは小さく笑いながらマイボトルの蓋をクルクル開ける。あのときの細い指を思い出す。


3号館も耐震基準の関係でそろそろ建て替えの話が出ていることと、法務部の昔の部長がどうしてもあの建屋から引っ越したくないと言ったため、今もあの場所にあることを教えてくれた。


中村さんは「私はラッキーでした。こんな新しい建物で。」と素直な意見を述べた。

「伊藤くんは大丈夫?ちょっとベテランが多くてクセがあるよね、法務部。中途採用も多いし、久しぶりに新人を取ったって聞いたから気になってたんだ。」いやそんな特に、と言いながら起動の遅いパソコンと仕事の振り方が雑な上司を思い出す。


でもそんなことより、ふかふかのソファーでカフェデートしてるような状況に気持ちが舞い上がる。


会社の悪口を素直にこの人に言っていいものか考え「庶務の山本さんがここまでの道のりを丁寧に教えてくださって」と良い話題を選んだ結果、

「そうだよね、いい人だよね!今、法務か、そうか!」

と河津さんは嬉しそうに笑った。

「山本さんは僕が入社したときに人事で庶務してて、すごくお世話になったから。だいぶ怒られもしたけど。困ったら山本さんに言うといいよ。」

話題選びに成功した伊藤は心の中でガッツポーズをとった。


ピピピと鳴る音がして、ごめんねと河津さんは胸ポケットから内線のPHSを取った。今行く、と電話切ると空になった2つのコップをお盆に載せ、お先に、と脇にマイボトルを抱え席を立った。

お団子のモンスターみたいなキャラクターが描いてあった。


中村さんは「伊藤くん、そんな魑魅魍魎がいる職場にいるの?」と心配そうに、あるいは憐れむように言った。「そんな自覚はないけど、もしかして妖怪がいるのかな。」と答えた。


お疲れ様と言って別れ、15分の道のりを戻る。日差しは傾き、多少涼しく感じられた。


職場に戻ると課長は会議で、山本さんは早めに帰宅、パソコンは相変わらず動きが悪かった。

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