表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

封印の代償

 ユキが目覚めた時には、全てが終わっていた。


 ヒサギがユキの喉に噛みついた後、ハヤテはそのまま暗黒の(ふち)へと向かったが、シグレは半狂乱になってヒサギを亡き者にしようとしたらしい。


 だが、腕輪を身に付けていない状態のシグレではヒサギに太刀打(たちう)ち出来ず、押さえつけられてしまったのだとか。


 ヒサギから事情を聞かされたヒカリは、シグレの代わりにユキの腕輪を(はず)し、冥府(めいふ)の王にも使いを送った。


 ユキの思惑通り、トコヤミはユキの母親の体を離れてユキのところへと呼び寄せられたが、(やかた)に充満するリュウゼンコウの香りを忌避(きひ)して暗黒の淵へと逃げ出したそうだ。


 ひと足先に暗黒の(ふち)へ辿りついていたハヤテが、空飛ぶ種の翼でトコヤミに呑み込まれた者達を救い出した後、トコヤミが暗黒の淵になだれ込むのと入れ替わりに、邪悪な妖魔の討伐に出向いていた妖魔の(おさ)達も撤退した。


 これまでは、いつか共存できる日が来るのではないかという一縷(いちる)の望みをかけて、邪悪な妖魔達を完全に封じることはなかったらしいのだが、トコヤミが人間界にまで侵食した事態を重く見た冥府(めいふ)の王は、邪悪な妖魔どもを殲滅(せんめつ)して暗黒の淵を(ふさ)いだ。



 これらの全てをユキに語って聞かせてくれたのは、シグレの父親だった。


 彼はハルトと名乗り、シグレにそっくりな顔で、干し草の上に横たわるユキに微笑みかけた。


「頑張ったね、お母さんは生きているよ。トコヤミが妖魔の国へ戻る時にお母さんの力も奪っていったみたいで、今は元の人間に戻ってる」


 ハルトの言葉に、ユキは安堵(あんど)の涙を流した。


 それから自分のしでかしたことを思い出し、ヒサギに噛みつかれた喉に触れてみたが、傷跡ひとつない。

 どうやら、ヒサギが癒しの術で治してくれたようだ。


 起き上がって周囲を見回すユキに、ハヤテが木の(わん)に入れた水を持ってきてくれる。


「ここは、妖魔の国へ行く前に立ち寄った島の洞窟の中だ。落ち着いたら、今後のことについて話し合おう」


 そう言うと、ハヤテは洞窟の外へ出ていき、シグレを連れて戻ってきた。


 しかし、シグレは怒ったような顔でユキの顔を見るばかりで、何も言ってくれない。

 きっと、無茶なことをしたユキに腹を立てているのだろう。


「ごめんね」


 ユキが謝ると、シグレは表情を(ゆが)めて涙をこぼした。


「もう二度と……あんなことはしないでくれ」


「分かった。約束する」


 二人のやりとりを見守っていたハルトが

「君も妖魔になって、シグレと一緒にこの島で暮らせば? 俺も昔、人間から妖魔になったんだけど、姿形(すがたかたち)は人間の時のままでいられるし、妖力があると色んなことが出来るようになるから便利だよ」

 と屈託(くったく)のない笑顔をユキに向ける。



 シグレと妖魔の国を巡る間に、ユキの気持ちは大きく変化していた。


 人間でも半妖でも妖魔でも、互いにどうしても分かり合えない相手というのは、存在するのだと思う。

 けれども同時に、どれだけ見た目や能力が異なっていても、寄り添って助け合い、強い絆を結ぶことの出来る相手だって、確かに存在するはずだ。


 だから、妖魔になることも、この島でシグレと暮らすことも、すぐに決められるようなことではないけれど、真剣に考えて答えを出したいと思っている。


 だが今のユキには、その前にやるべきことがあった。


「私、母の死を看取(みと)りたいんです」


 口にしてから、ヒサギならば母の(やまい)を癒せるのだろうか、という考えがよぎる。


 すると

「傷ならば癒せるが、病は癒せない」

 というヒサギの声が頭の中に響いた。


「ヒサギ……どこにいるの?」


 ユキがその姿を探していると、洞窟の奥からヒサギが現れた。


「嫌な役目を押し付けてごめんね。願いを叶えてくれてありがとう。約束は必ず果たすから」


 ユキの言葉に、ヒサギは素知らぬ顔をする。


 だが、シグレは(いぶか)しむように

「何の話だ?」

 とヒサギに詰め寄った。


「シグレ」


 ユキは、意を決して呼びかける。


「私、必ず帰ってくる。だから、お母さんが最期(さいご)を迎える日まで、人間の世界で暮らしたい」


「その言葉を……信じろって言うの?」


 シグレの真っ直ぐな視線が、ユキをとらえる。


「信じて。私は必ず戻ってくる。嘘だと思うなら、ヒサギに確かめて」


 ユキは本気だった。


 妖魔になることも、この島でシグレと一緒に暮らすことも、今はまだ何も決められないけれど、いつか必ずシグレに会うために帰ってくる。

 これは嘘じゃない。本心だ。


 ユキは、ありったけの想いを込めてシグレの目を見つめた。


 想いが通じたのだろうか。


 シグレはふっと肩の力を抜くと

「分かった。信じる」

 と答えた。


 それから杖で空間を切り裂き、ユキの方へと手を差し出す。

 シグレの手を取って切れ目をくぐり抜けると、そこは薄暗い森の中だった。


(あやかし)の森に戻ってきたよ。ユキの力をここに封じた後、母親のところへ帰してあげる。封印の代償は、記憶か寿命だ。僕達のことを忘れるか、寿命を縮めるか。どっちが良い?」


 シグレの問いに、ユキは迷わず答える。


「寿命を縮めて。シグレ達のことは、忘れたくない」


 するとシグレは、ユキに向かって(はじ)けるような笑顔を見せた。


「やっぱりユキは、あの頃と何も変わってないね。昔ユキの力を封印した時にも、同じことを言ってた」


「え……? でも、ハヤテは封印の代償に記憶を奪ったって言ってた気が……」


「そうだよ。あの時もユキは迷わず『寿命』って言ってくれたから、それだけでもう十分だなって思って、僕は寿命じゃなくて記憶をもらったんだ。ユキ、君が僕を忘れても、僕はずっと覚えているし、いつかきっと戻って来てくれるって信じてる」


 シグレは涙声になりながら、ユキに杖の先端を向けた。


「またね」


 杖から光が(ほとばし)る。

 あまりの(まぶ)しさに、ユキは思わず目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ