表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

疾風の丘

 吹き抜ける風が強まる。

 目前に迫った「疾風(しっぷう)の丘」の上には、一本の巨木(きょぼく)(そび)え立っていた。

 葉は一枚もなく、幹から突き出した枝には大きな蜂の巣みたいな球体がぶら下がっている。


「これ以上は近付かない方がいい」


 ロウゲツの言葉に、ヒサギが足を止める。


「なぜだ?」

 ハヤテが問うと、ロウゲツは木を指差しながら

「あの木の枝にぶら下がってるデカくて丸い殻の中には、(おびただ)しい数の『空飛ぶ種』が詰まってる。不用意に近付くと破裂するぞ」

 と答えた。


「でも、近付かなきゃ種は手に入らないじゃない」

 ユキの言葉にロウゲツが(うなず)く。

「そうだ。だから諦めろ」


「ここまで来たのに、諦められるわけないでしょ!」

 ユキが語気を荒げると、ハヤテは

「落ち着け」

 とユキをなだめた後、荷物の中から真紅(しんく)に染まった『色の無い花』の束を取りだして

「たぶん、この花が役立つはずだ。そうだろう?」

 とロウゲツに語りかけた。


 ロウゲツは舌打ちをして横を向いたが、ヒサギに三つの目玉でギロリと睨まれて縮みあがり、ため息をつきながら『空飛ぶ種』を手に入れる方法について話し始めた。


「今は向かい風だが、そのうち追い風になる。その時を見計(みはか)らって、『色の無い花』……今は真っ赤に染まったその花を掲げるんだ。そうすれば、妖力を秘めた花びらが風に飛ばされて種のところまで届く」


 そこで一旦話を区切ると、ロウゲツは大きく息をついた。


「なぁ、もうやめないか? ユキは人間なんだろう? こんなにもか弱い存在を連れてトコヤミ退治に向かうだなんて、正気の沙汰(さた)じゃない」


 ロウゲツは早口でまくしたてると、シグレの方を向いた。


「なぁ、あんたなら俺の言ってることが分かるだろ? あんたは、この娘をずいぶん大切にしてるじゃないか。そんなに大事な存在なら、危険な目に遭わないようにしてやれよ」


 シグレは、ここまで来る道のりの途中で目を覚ましたものの、まだ本調子ではなさそうだ。

 先程までは黙って他の者達のやりとりを見守っていたが、ロウゲツの言葉に反応してようやく口を開いた。


「黙れ。僕に指図(さしず)をするな」


 シグレの殺気立った視線に射抜かれて、ロウゲツは口をつぐむ。


 その時、風向きが変わった。

 すかさずハヤテが真紅の花束を頭上に掲げると、赤い花吹雪(はなふぶき)が『空飛ぶ種』に向かって押し寄せて行く。


 迫る花吹雪の気配を察知したのか、枝からぶら下がっている大きな殻が弾けて、中からブーメランみたいな形をした種が大量に飛び出してきた。


 赤い花吹雪は、まるで意思を持っているかのようにブーメラン状の種を追い、次々とまとわりついて(から)めとり、地面へと落として行く。


「伏せろ! こっちにも来るぞ!」

 ロウゲツが叫ぶ。


 殻から飛び出した種が、花吹雪の隙間を縫ってユキ達の方へも飛んでくる。


 ユキはロウゲツに手を引っ張られて、地面に膝をついた。


 頭上をかすめるブーメラン状の種を、シグレが杖で()ぎ払う。

 ヒサギも後ろ足で立ち上がり、迫り来る種を前足で叩き落としていく。


 ハヤテは真紅の花束を掲げたまま、目を閉じて意識を集中させ、周囲に竜巻を巻き起こした。


 竜巻に呑み込まれて、ユキ達の周りに飛んできた種は全て空へと舞い上がった後、勢いを失ってヒラヒラと落ちてきた。


 気付くと風はやみ、地面に敷き詰められた真紅の花びらの絨毯(じゅうたん)の上には、ブーメランに似た形の『空飛ぶ種』が無数に散らばっている。


 ハヤテがその内の一つを手に取ると、中央にあった目玉のような黒い円形の部分がポロリと(はず)れて、地面に落ちた。


「真ん中の黒いのが種で、その周りの薄っぺらい半透明な部分が『空飛ぶ種の翼』だ。そいつを集めれば、半妖の(おさ)が言ってた五つの品は全部(そろ)う」


 ロウゲツの言葉に、ユキ達は大きな布袋がいっぱいになるまで「空飛ぶ種の翼」を()き集めた。


「次はいよいよ、暗黒の(ふち)だね……」


 小さく呟くユキに、シグレが静かな声で返す。


「その前に、半妖の(おさ)のところへ会いに行こう。真の目的が何なのか、問い(ただ)したい」


 シグレは何だか思い詰めた表情をしていて、ユキは胸が締めつけられるような気持ちになった。





 疾風(しっぷう)の丘を出発してから長い長い距離を経て、ユキ達は岩山の(ふもと)辿(たど)り着いた。


 シグレはユキの手を引いてゴツゴツした岩山へと近付き、何かを探すように岩肌に目を凝らしている。


 しばらく歩き続けていると、ユキの右手に()めた腕輪が(まばゆ)い光を放った。


「ここだ」


 シグレは、ユキの身につけた腕輪を岩肌に押し付け、何やら呪文のようなものを(とな)え始める。

 それに呼応するように腕輪の光は輝きを増し、あまりの(まぶ)しさにユキは目をつぶった。


 次に目を開いた時、ユキの目の前にあったのは岩山ではなく、石造(いしづく)りの荘厳(そうごん)(やかた)だった。


「この中に半妖の(おさ)がいるはずだ。」

 そう口にしながらも、シグレはその場をから足を動かそうとしない。


 以前ヒサギから、半妖の長はシグレの母親だと教えてもらった。

 しかし、シグレは先ほどから浮かない表情をしている。

 気が進まないのだろうか。

 もしそうなら、無理強(むりじ)いはしたくない。

 かと言って一人で半妖の長に会う勇気もないから、ヒサギかハヤテに付いて来てもらって、シグレにはここで待っていてもらおう。


 そう考えて口を開きかけた時、シグレがロウゲツに声をかけた。


「お前の役目はここまでだ。解放してやるから、どこへでも好きなところへ行け」


 突然のことに、ロウゲツはポカンとした顔をしている。


「聞こえなかったのか? 早く行け。半妖の長と顔を合わせたら、お前はきっと罰を受けるぞ。自分勝手な理由で命令に従わず、身を隠していたんだからな」


 シグレに続いて、ヒサギも言葉を重ねる。


「お前はもう自由の身だ。命が惜しければ、今すぐに立ち去れ」


 ロウゲツは背負っていた荷物を地面に投げ出すと、ものすごい速さで走り去っていった。


 シグレは深呼吸を一つしてから

「行こう」

 とユキ達に声をかけ、(やかた)に向かって足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ