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ユキの答え

 ユキはシグレの質問に対して、すぐには答えを出せなかった。


 あなたの方が大事だよ。


 一言そう伝えれば、シグレは満足して機嫌を直したのかもしれない。

 だけど、もう嘘を重ねるのは嫌だった。


 ユキにとっては、シグレと同じくらい、ハヤテもヒサギも必要な存在だ。

 彼らは、ユキを守り、(いたわ)り、願いを叶えるための手助けをしてくれている。


 過去の記憶は(ほとん)ど無いけれど、彼らがユキを大切に想ってくれていることは伝わってくる。

 だからもう嘘はつきたくないし、自分も彼らを大切にしたい。


 誰が特別とかではなく、それぞれが等しく大切な存在なのだと伝えよう。


 そう決意したユキが口を開こうとした時、ヒサギの声が頭の中で響いた。


「ロウゲツ、半妖の(おさ)が選んだ者達の中に、癒しの力を持つ者はいたか?」


 唐突(とうとつ)な問いに、ロウゲツが戸惑(とまど)いながら答える。


「いえ……そのような力を持つ者はいませんでした」


「そうすると、少し不可解(ふかかい)だな。危険を(かえり)みずに銀色のサナギに触れた者がいたとしても、焼け(ただ)れた手の痛みに耐えながら羽化(うか)した蝶の銀粉を集め、持ち帰ることが出来るとは思えない。死んだ方がマシだと思うくらいの苦しみなんだろう?」


 ヒサギの言葉に、ハヤテも同意する。


「確かにそうだな。癒しの術ですぐに治せると分かっていれば耐えられるかもしれないが、そうでなければ難しいはずだ」


 すると、シグレも話に入ってきた。


「そのために複数の者が集められたんじゃないのか? 誰かを犠牲にして銀のサナギに触れさせ、羽化した蝶の銀粉は同行した他の者が持ち帰る。そうすれば可能じゃないか」


(みずか)ら進んで犠牲になる者がいると思うか?」


 ハヤテの疑問を、シグレが鼻で笑い飛ばす。


「力でねじ伏せて、従わせればいいじゃないか」


 彼らの話を聞きながら、ユキは一人静かに考え込んでいた。


 灼熱(しゃくねつ)の炎で熱せられた銀色のサナギ。

 無傷で手に入れるとしたら、どんな方法があるだろう。

 人間の世界に戻って防火服を手に入れる?

 いや、灼熱の炎というくらいだから、きっとそんなものでは太刀打(たちう)ち出来ないだろう。

 なにしろ、ここは妖魔の国なのだ。


 そこで、一つの考えが(ひらめ)いた。


「ねえ、炎の街や火の沼があるってことは、氷の街や沼もあるの?」


 ユキの問いに、ロウゲツが舌打ちをする。


「ロウゲツ、ユキの質問に答えろ」


 ヒサギの命令に、ロウゲツは渋々と口を開いた。


「……氷の果樹園と呼ばれている場所ならありますよ。そこには、地面から生えた樹木みたいな氷が立ち並んでいて、『死の青林檎(あおりんご)』と呼ばれる青白い実をつけるんです」


「死の青林檎? それって、トコヤミ退治に必要な材料の一つよね?」

 ユキが確認すると、ロウゲツは

「そうだよ!」

 と吐き捨てるように言った。


「死の青林檎と呼ばれる所以(ゆえん)は?」

 ヒサギが問い、ロウゲツが躊躇(ためら)いがちに答える。

「……口にしたものは、凍りついて命を落とすからです」


「なるほど。では、火の沼に投げ込んで炎を消すことも出来るかもしれないな」


 ヒサギの言葉にロウゲツは下を向く。


「お前、ひょっとして……火を消す方法を知ってたくせに黙ってたんじゃないのか?」

 シグレが疑いの眼差(まなざ)しを向けると

「だったら何だよ!」

 とロウゲツは大声を出した。


「ああ、そうだよ! 知ってたよ! 何で黙ってたかって?! 危ないからに決まってるだろ! 氷の果樹園には、厄介な妖魔が()みついてる。俺は、危険だと分かっている場所になんか行きたくないんだよ!」


 一気に(まく)し立てると、ロウゲツはバツの悪そうな表情でヒサギの顔色を(うかが)った。


「では、先に氷の果樹園へ向かい、死の青林檎を手に入れよう」


 ヒサギの宣言にシグレとハヤテが(うなず)き、ロウゲツはガックリと項垂(うなだ)れた。

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