流れ星のような記憶
ロウゲツの話を聞き終えたシグレは、深刻な表情で何やら考え込んでいる。
ユキは、ロウゲツに対して湧き上がる嫌悪感を抑えきれずに、口を開いた。
「何それ……。自分さえ助かれば良いと思ってたくせに、仲間がいなくなったら『寂しい』だなんて……ちょっと勝手過ぎるんじゃない?」
すると、先程までの丁寧な話し方など何処へやら、ロウゲツはユキに対して乱暴に言葉を放った。
「何だと? 偉そうなことを言いやがって。誰だって自分が一番大事に決まってるだろ! お前だって本当は、自分さえ良ければいいって思ってるんじゃないのか?」
そう言われて、ユキは返す言葉が無かった。
ロウゲツの言う通りかもしれないと思ったからだ。
私だって、シグレの気持ちを利用して自分の願いを叶えようとしている。
嘘をついて、騙そうとしている。
自分さえ良ければいいと思っているから、そんなことが出来るのだ。
黙り込むユキの肩に、背後から大きな手がそっと載せられた。
驚いて振り向くと、ハヤテが立っていた。
いつの間にか戻って来ていたようだ。
「ユキに気安く触るなって言ってるだろ!」
ハヤテは、文句を言うシグレを無視してロウゲツの前へと進み出る。
「半妖の長は無事なのか?」
「ああ、そのはずだ。リュウゼンコウを持っているからな」
ロウゲツの返事に、ハヤテが安堵の息を漏らす。
心なしか、シグレの表情も先程よりは和らいで見えた。
どうやら、彼らにとって半妖の長というのは特別な存在のようだ。
「まずは半妖の長に会いに行くか?」
ヒサギの問いに
「いや、半妖の長に会うのは材料を全て揃えてからにしよう」
シグレがキッパリと答える。
ヒサギはロウゲツに向き直り
「では、必要なものをもう一度教えろ」
と命じた。
「はい。『赤い血を流す木の樹液』、『死の青林檎の果汁』、『色の無い花の花弁』、『銀色のサナギから羽化した蝶の銀粉』、それから『空を飛ぶ種の翼』の五つでございます」
ロウゲツが恭しく答えると、ヒサギは続けて質問した。
「どこにあるのかは知っているのか?」
「ええ、まぁ……。知っていることは知っているんですがね、どれもこれも危険な場所にあったり、厄介な妖魔の巣窟に近かったりするんで……行かない方がいいですよ」
「ここから一番近い場所にあるのは?」
「…… 炎の街からほど近い、火の沼に生息する『銀色のサナギ』です。ただ……この蝶は自然に羽化することはありません。灼熱の炎で熱せられた銀色のサナギに、妖力を持つ者が触れなければならないのです」
「すごく熱そう……ヤケドしちゃうんじゃない?」
思わずユキは口を挟んだ。
「熱いなんてもんじゃない。炎の街では、罪を犯した半妖に灼熱のサナギを握らせて罰を与えるんだ。この罰を受けた者は、手が焼け爛れる。その熱さと痛みに耐えきれず、のたうちまわって火の沼に飛び込んじまうこともあるくらいだ。死んだ方がマシだって思うくらいの苦痛らしいぞ」
ユキに向かってそう言うと、ロウゲツは顔を歪めた。
「それじゃあ、その役割はロウゲツにやってもらえばいい」
名案だと言わんばかりにシグレが弾んだ声を出すと、ロウゲツは泣きそうな顔になってヒサギに縋りついた。
「勘弁して下さいよ! 何でもしますから! どうか、それだけは……」
「妖力を持つ者が触れなければならないのだろう? ロウゲツの妖力は奪ってしまったから、回復するまでは無理だ」
「それなら、ハヤテがやりなよ」
意地の悪い笑みを浮かべて、シグレがハヤテの顔を見る。
「分かった。俺がやろう」
顔色一つ変えずに、ハヤテは了承した。
「何言ってるの? 手が焼け爛れちゃうんだよ?!」
ユキは、無茶な提案をしたシグレにも、平然と受け入れるハヤテにも、呆れと憤りの混じった感情を抱いた。
「癒しの術で治すから問題ない」
というヒサギの言葉が、ユキの怒りを倍増させる。
「さっき、シグレから『治せばいいってもんじゃない』って言われたばかりじゃないの!」
そうヒサギに怒鳴ってから、ユキはシグレに向かって思いの丈をぶつけた。
「あなたが私に痛い思いをして欲しくないと思うように、私もハヤテに痛い思いをさせたくない」
シグレが唇を噛み締める。
「どうして? ユキにとってハヤテはそんなに大切な存在?」
そこまで言ってから、悲壮な表情でこう続けた。
「僕よりも?」
一瞬、頭の中で何かが弾けた。
とても大切な何かを、思い出せそうな気がした。
でもそれは本当に一瞬の出来事で、流れ星のように煌めいてから、すぐに消え去ってしまった。




