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プロローグ



 新連載開始致しました! よろしくお願いいたします。


  

 

(……ここか)


 慣れた様子で全身の気配を消すと、私は英雄の部屋へと足を踏み入れる。英雄――アシュフォードは一人ベランダの前に佇んでいた。部屋の中は灯りがないのに、彼の赤髪だけは月の光から美しく照らされていた。


(なるほど、屋敷の警備は起きているという訳か)


 数多くの暗殺者を返り討ちにしてきたアシュフォードにとって、護衛など必要ないようだ。警備は本人が務めるという情報を事前に耳にしていたが、まさか事実とは驚いた。


 入り口の壁付近で息をひそめると、対象者を間近で観察し始めた。


(こういう時、自分が黒髪でよかったと思う。……夜は目立たないから)


 一つに束ねられた髪は、暗闇に溶け込むほどの暗さだった。しかし、それも正面から見れば前髪しか見えない。ローブによって後ろは全て隠れており、顔も鼻まで布で覆われている。


(それにしても意外だな……英雄と聞いて、もっと屈強なガタイの良い、熊のような男を想像していたんだが……虎くらいか?)


 大男、とまではいかなくとも相手は十分に背の高い人物だった。


「こんな時間に来客とは珍しいな」

「!!」

(驚いた。気配を消していたのにーーいや。観察に夢中になりすぎたか)


 アシュフォードは振り向くこともなく、そう問いかけた。相手は間違いなく暗殺者である私だろう。


「誰の差し金だ? ……まぁ、大方予想はつくがな」


 声色からは感情は全く読み取れず、余裕さえ感じているように見えた。


(……機会は、一度だけ)


 そうわかっていたつもりだが、いざ本番となると場数をこなしてきた私でも緊張が走る。それほどまでに強い相手と対峙してているのだ。


「……貴方の命をいただきに来た」

「そうか。不可能、とだけ伝えておく」


 背中しか見えないというのに、なんとなく彼が笑っているように感じた。


 不可能。それは今まで暗殺依頼を一度も失敗させたことのない、暗殺者ロザクである私にとっては、馴染みの薄い言葉だった。


(…………行こう。最後の仕事だ)


 そう決意すると、足にぐっと力を入れて英雄目掛けて飛び出した。持っていた暗器をアシュフォードの首を狙って投げつける。


「その程度か?」

「……」

(……さすが英雄。身軽だな)


 一つくらいは当たると思ったが、残念なことに全て避けられ、宣戦布告代わりになってしまった。さっと一度距離を取る。

 

 飛び出して姿を現した以上、英雄相手に姿を消すのは難しい。短剣を取り出すと再びアシュフォードへと切りかかった。


 キイィン!!


(……フォーク?)


 アシュフォードは、テーブルの上にに置いてあったフォークで私の短剣を受け止めた。


(暗殺者より暗殺者みたいなことしてるんだが、この英雄)


 面白さに思わず口元が緩んだが、気を引き締めて勢いよくフォークを弾き飛ばした。


「なるほど……少しは腕が立つようだな」

「……」

(……いや、笑うところじゃないだろう)


 少しでも実力者だと認定されるのは嬉しいことだが、それならば是非とも焦りを見せてほしいものだ。


(さすが英雄と呼ばれるだけある)


 噂では、戦争時相手国の軍隊を一つ単独で破壊したとか。


 単純な力比べでは確実に負けるだろう。そう即座に判断できるほど、アシュフォードの気配は警戒すべきものだった。


「だが……」


 ゆっくりと後退するアシュフォード。次の瞬間、壁に掛けてあった剣を手に持った。そして、すぐさま私の方へ勢いよく突っ込んできた。


「その程度では俺は殺せないーー!」

 

 私は表情を変えることなく、その剣を受け止める。やはり英雄と呼ばれるだけあって、酷く重い一振りだ。


 足に力を入れてその一振りを跳ね返すと、恐ろしいことにアシュフォードは嬉しそうに笑った。


「面白い……! すぐに死ぬ貧弱な暗殺者より、余程やりがいがあるな!!」

(殺りがいにしか聞こえん)


 目を光らせるアシュフォードが、本気になったとわかった。心なしか笑っている気がする。その笑みのまま、物凄い力で圧される。受け止めきれずに後退するものの、どうにか力を振り絞って振り払った。


(もしかして英雄は戦闘狂だったのか?)


 戸惑いを感じるほど、アシュフォードは楽しそうだった。そんな人間だったからこそ、戦争に勝って帰れたのだとも思う。実力として不足なし。むしろ押されつつある状況だ。


(けど……これでいい)


 私はアシュフォードの剣に向けて、短剣を握り直した。


(私は、今日ここに死にに来たのだから)




 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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